【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

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第33話 福音

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 玄関の隙間からは見たことのある長身の男性の姿が見えた。

「あれは宰相閣下!?」

「ええ。そのようですね」

 ギルベルト様と一緒に、玄関に向かうと扉を開けた途端ドスの聞いた声が突き刺さった。

「コラァ~~ルート!! お前、こんなことになってるならさっさと泣きつけよ!! 大臣連中を黙らせて、陛下を脅してドラゴンで来ることになっただろうが!!」

(宰相閣下がご立腹!? しかも、ルート? 誰のこと??)

 私が首を傾けていると、宰相閣下の後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。

「ライラ~~久しぶりだね~~報告ありがとう。すでに防壁修理は議会を通したよ」

 そして顔を見せたのは、宰相閣下の秘書をしている私の兄だった。

「お兄様!! え? もう議会を通して下さったの??」

 私が声を上げると宰相閣下が私の頭を撫でまわした。

「うん。半日で通したよ」

(あんな大事業を半日!? 一体どんな方法を使ったの!?)

 何が行われたのか震えていると、宰相閣下が私を撫で回しながら言った。

「ライラ、本っっっ当に、お手柄だったな!! ポンコツ辺境伯を手助けしてくれて礼を言う。俺たちは『嘆願書』がないと動けないからな!!」

 そして宰相閣下は、ギルベルト様をギロリと睨んだ。すると兄がギルベルト様を見て笑っていない顔で言った。

「本当にね、ルート。ライラに何かあったら、命はないところでしたよ♪ まさか……指一本、傷などつけていないでしょうね!?」

(ギルベルト様が魔力不足で倒れて、口移しで魔力を移したというのは黙っていた方がよさそうね……)

「ライラさん、ケガはない??」

 ギルベルト様が凄い勢いで私を見た。

「はい、そんなことよりも、宰相閣下……いつまでも私の頭を撫でまわすのは止めて下さい。ところで皆様はお知り合いだったのですか?」

 私は宰相閣下の手から逃れながら尋ねた。

「そうだよ。同じ学院の同級生だよ。本来なら、ルートは陛下の護衛になるはずだったからよく一緒に実習をしていたんだ」

「え? 陛下の護衛ってことは……近衛騎士!?」

「うん。辺境伯領に行く前は近衛騎士隊長だったよ。陛下もルードには早く戻ってきてほしいみたいだけどね」

「ギルベルト様が……近衛騎士隊長……」

 近衛騎士隊長は、この国でもトップクラス実力者だ。魔法と剣両方に特化したスーパーエリートが選ばれる。

(なるほど、この状況でここまで持ちこたえたのは一重にギルベルト様の常人離れした能力のおかげだったのね)

 宰相閣下がギルベルト様に向かって指を肩に着けながら言った。

「全く、ルートが辺境伯に就任して負傷者の報告が大きく減っているので、てっきり上手くやっているとみんなで喜んでいたのに! お前が一人で背負い込んでたのか!! このたわけ者!!」

 ギルベルト様が頭を下げた。

「それは本当にすみません。なんだか、現状維持だけで精一杯で……」

 すると兄が冷めた目を言った。

「元、近衛騎士の我が国の最高峰の癒しの水魔法を使える魔法剣士を料理人にして、毎日、あなた一人で倒れるまで魔法障壁維持して……どこが現状維持なのですか!!」

(料理人って……もしかしてジルってそんな凄い人だったの!?)

 私は次々に明らかになる新事実に目を丸くした。

「とにかく、我々も防壁の確認を行う。案内しろ、ルード」

「はい」

「ライラ、行ってくる」

「いってらっしゃい、お兄様」

 立場としては辺境伯の方が宰相閣下よりも上なはずだが、きっと学生のころの関係のままなのだろう。
 ギルベルト様は私を見て「すみません。書類の続きはまた今度」と言って宰相閣下と兄と共に去って行った。

「今の誰?」

 クルスとリーゼが柱の影から出て来た。

「宰相閣下と言って、陛下の補佐をされている方よ。そしてもう一人は私のお兄様」

「ライラのお兄さん?」

 クルスが不思議そうに言った。するとリーゼがボソリと言った。

「なんていうか、上手く言えないけど……似てるけど、似てないわね……」

「ん? 似てるけど似ていない??」

 するとクルスがうなずいた。

「うん。腹黒そう……」

(それは……否定できないかもしれない……それで似てるけど似てない)

 そういえば昔から「お兄様は似てるけど似てないわ」とか「うわ! あいつがピュアならこんな感じか? このまま育てよ」などと言われたことを思い出した。

 私は「さぁ、二人とも何してたの。さっきの続きしてて」と言ったのだった。
 
 

 
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