【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

文字の大きさ
4 / 57

第3話 新しい職場へ

しおりを挟む



 女の子は「わかりました」と言って、あっさりと辺境伯様から離れると、廊下の端に寄った。

(何……その絶妙な距離?)

 部屋から数歩離れた廊下の端。
 私の危険センサーが『あの子の側に居た方がいい』と言っている。

「こちらが執務室です。どうぞ……」

 私はどちらかというと、女の子寄りの場所に立って「恐れ入ります」と答えた。
 そして辺境伯様が扉を開けて中に入ると、ガタガタバタバタ、ガシャ―ンという、とても執務室に入った時に聞こえる音ではない音が聞こえた。

「お父様!! 大丈夫ですか!?」

 女の子の方が先に動いたので、私も慌てて女の子を追いかけて扉の前に立って唖然とした。

(うわ~~~~)

 目の前には書類や資料の海と言っても過言ではない壮大な風景が見えた。
 そして私はこの光景を見た瞬間に悟った。

(うん。この状況で……仕事、終わるわけないよね……)

「あなた、早くお父様を助けなさいよ!!」

 女の子に睨まれて、ようやく意識を戻すと、書類の海の下に男性の足だけが見えていた。

――本日、二度目の事件だ。

 私は荷物を廊下に置くと全体を見渡して、雪崩に関係しない場所に当たりを付けた。

「私がなんとかしますので、本当に下がっていた方がいいですよ? 危ないので」

 私の瞳が本気だったから、女の子が一瞬たじろいで私を見た。

「そう。じゃあ、頼んだわよ!! お兄様たちも今は忙しいの!! あなたにここは任せたわ!!」

 そう言って女の子は階段を降りて行った。

(ああ、なるほど……あの子……こういう時の見張りだったんだ……)

 私は女の子が付いて来た理由に納得した後に、先ほどの女の子の気になる言葉を思い出した。

(お兄様たち? 他にもご兄弟がいらっしゃるのかな??)

 私は首を傾けながら雪崩を起こした書類を次々に廊下に運び出した。
 そして執務室前の廊下にズラリと書類が整列した頃……
 
「ああ。助けて頂いてありがとうございます」

 ようやく辺境伯様は無事に書類の海から救出され、照れた笑顔でお礼を言ってくれたのだった。
 そんな伯爵様の顔を見た後に、私は汚れた窓のから見える空を見ながら目を細めた。

(……室長……書類お届けするの、遅くなりそうです……)

 ちなみに、辺境伯様と一緒に埋もれた私の荷物は……無事だった。
 私は辺境伯様を無事に救出した後に彼に向かって言った。

「辺境伯様、先に書類整理をしませんか?」

 すると辺境伯様は困ったように言った。

「私のことはギルベルトと呼んで下さい。まだその呼び方に慣れないので……そして……整理……したいのは山々なのですが、わからないことがある度に過去の書類を探して……ということを繰り返していたら……よくわからなくなりまして……」
 
(うん、そうだろうと思った!!)

 私はほとんど表情の抜け落ちた顔で言った。

「手伝いますので、一緒に整理しましょう。この状態では……仕事になりません」

「そうですね……ありがとうございます」

 ギルベルト様は私よりもずっと身分は上だが、とても謙虚だった。
 
(なんだか……憎めないな……)

「それではまずは、全ての書類を廊下に出しましょう」

「はい」

 私はまずは到着した日に、全ての書類を廊下に出すという結構な重労働な仕事をしたのだった。





「これで全部ですね!」

 私たちは二人で全ての書類を廊下に出すという作業を終えた。

「うわ~~凄い量だな……」

 ギルベルト様が書類の山を眺めながら言った。
 すると、誰かが階段を上ってくる音が聞こえた。私が階段に視線を向けると、先ほどの女の子よりも少し大きい男の子が薪を持って階段を上って来た。もしかしたら、彼が先ほどの女の子が言っていたお兄様なのかもしれない。
 そして、廊下を見ながら言った。

「うわっ!! 書類の山!! 何これ……」

 そこまで言って、こちらを見て目が合った。そして、驚いたように目を見開いた後に声をあげた。

「え? 夜這い!?」

 私はあまりにもこの場に相応しくない言葉が飛び出したので、一瞬何を言われたのかわからなかった。

(ヨバイ? え……と、ヨバイ? ……あっ!! 夜這い!?)

 そしてようやく言葉の意味を理解して困惑した。すると隣で、辺境伯様が困ったように言った。

「ん~~まだ夜じゃないよ?」

「そういう問題ですか!? こんな小さな子がどうしてそんな言葉を!?」

 私が戸惑っていると、男の子が答えてくれた。

「砦のみんなが言ってるよ」

 砦に多くに騎士や兵士がいる。そういう話になることもあるだろう。だが……

(教育上よくない……)
 
 私は急いで自己紹介をすることにした。



 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さくら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』

ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。 現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。

王宮地味女官、只者じゃねぇ

宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。 しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!? 王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。 訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ―― さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。 「おら、案内させてもらいますけんの」 その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。 王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」 副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」 ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」 そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」 けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。 王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。 訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る―― これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。 ★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。

婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました

春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。 名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。 姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。 ――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。 相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。 40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。 (……なぜ私が?) けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜

咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。 全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。 ​「お前から、腹の減る匂いがする」 ​空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。 ​公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう! ​これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。 元婚約者への、美味しいざまぁもあります。

ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。

みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。 死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。 母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。 無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。 王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え? 「ファビアン様に死期が迫ってる!」 王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ? 慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。 不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。 幸せな結末を、ぜひご確認ください!! (※本編はヒロイン視点、全5話完結) (※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします) ※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。

処理中です...