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第8話 終わってなかった一日
しおりを挟む部屋に戻ると部屋の窓から、少し離れた場所に砦が見えた。
砦は夜空に白く浮き上がって見えて、幻想的な光景だった。
(とても白く浮かび上がって見えるわ……)
この部屋の窓からは横からの砦が見え、まるで絵画のようだった。
私は、ぼんやりと絵画のようなこの風景を見ながら、今日のことを振り返っていた。
馬で駆けて砦に着いて、騎士に案内されると辺境伯が倒れていた。
さらに溜まりに溜まった政務に、書類で埋もれている執務室。
使用人が誰もいない広いお屋敷と、辺境伯様の養子になったという3人のこどもたち……
怒涛の一日と言ってもいいかもしれない。
「私……大丈夫かな……」
私はこれからのこと考えながら、ぼんやりと外を眺めていた。
月明かりが優しく辺りを照らし、レンガ道が闇夜に浮き上がっていた。
もしかして、レンガの中には何か光を集めるガラスのような成分が含まれているのかもしれない。
そんなことを思っていた時だった。
レンガ道を歩く、銀色の髪の人が見えた。
月の光に照らされて……とても……きれいだ。
(あ、あれは……ギルベルト様だわ……)
私がギルベルト様を見ていると、突然ギルベルト様がバタリと倒れた。
「ええええ!?」
私の目の前で突然倒れてしまったギルベルト様を見て私は思わず前のめりで窓に近づいた。
初めて会った時にように倒れてしまったのかと思って私は急いで、部屋を駆け出してギルベルト様の元に走った。
廊下を通り過ぎ、階段を軽快に駆け降りた。
「どうした?」
すると、二階の階段に近い部屋からゲオルグが顔を出した。
私は階段の上を見上げながら「ギルベルト様が倒れたかも」と言った。
「またか!? 俺も行く」
するとゲオルグも私についてきてくれた。
そしてエントランスから外に飛び出した。
外に出ると、二人共おもいっきり走った。そして、少し走ったところに、座り込んでいるギルベルト様がいた。
(座ってる……倒れているわけじゃなかったんだ……)
少しだけほっとして近づくと、ギルベルト様が驚いた顔でこちらを見た。
「二人共、どうしたのですか?」
私はギルベルト様を見ながら答えた。
「私の部屋からギルベルト様が倒れたのが見えたので助けに来ました」
「……助けに……」
私を見て心底驚いた顔をしたギルベルト様に向かって、ゲオルグがギルベルト様の前に座り込みながら言った。
「はぁ~~、どうしたのはこっちのセリフ。ギルベルトさんこそ、どうしたんだよ?」
ギルベルト様が照れたように言った。
「すみません。つまずいてしまって……足が痛くて」
ギルベルト様の説明を聞いたゲオルグが眉を寄せながら言った。
「寝不足でふらふらしながら歩いてるから……ケガするんだよ……無理……するなよ」
ゲオルグの心配が伝わってくる。
とても切なそうで……私まで胸が痛くなった。
「すみません……心配かけて」
ギルベルト様がゲオルグを見ながら言った。
風がとても冷たい。
私はとにかく暖かい部屋に移動することにした。
「とりあえず、屋敷に戻りましょう。肩をお貸しします」
「俺が反対側を持つ」
私とゲオルグが支えようとするとギルベルト様が慌てて言った。
「そんな、私の不注意で二人の手をわずらわせるわけには……」
遠慮するギルベルト様に向かって私は微笑みながら言った。
「では、私が背負いましょうか? こう見えて鍛えていますので」
ギルベルト様は黙った後に、「肩をお借りいたします」と言って私たちの肩を借りて屋敷に戻ったのだった。
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