25 / 57
第21話 ゲオルグの頼み事
しおりを挟む食堂に時計の音が鳴り響くと多くの人が席を立った。
「あ、時間だ。先に行く」
ゲオルグが他の人と同じように食器を持って立ち上がった。
「また後でね!!」
私も食べ終わっていたが、もうすぐギルベルト様が食べ終わりそうだったのでギルベルト様の分も一緒に片付けることにしたので席に残ったのだ。
そしてしばらくしてギルベルト様も食事を終えた。
私が片付けようとするとギルベルト様が先に立ち上がり、私の分の食器も持ってくれた。
「え? そんな私が片付けます!!」
ギルベルト様は、にこにこと笑うと「気にしないで下さい」と言い、結局私の食器も片付けてくれた。
私はギルベルト様の後ろに着いて行くと、リーゼたちも付いて来た。
「ごちそうさま」
「あ。辺境伯様、ありがとうございます」
ジルがにこりと笑って受け取った。
ギルベルト様が先に歩いて行ったので、私はジルに聞いてみることにした。
「あの……食材ってどこで買っているの?」
ジルは少し考えた後に言った。
「ん~~基本的には町の人が毎日運んでくれているからなぁ~~買うって感じじゃないな……」
「そう……」
どうやら、食材は届けてもらっているようだ。
もしも商人が売りに来ていたら買おうと思っていたので少し残念に思った。
「どうした? 今の量じゃ、足りないか?」
不安そうなジルに私は慌てて言った。
「いえ、違うの。私たちの分だけでも朝食を作ろと思ったの。砦の食堂と朝は時間が合わないって聞いたから……」
ジルが「あ~~まぁな。砦の朝は早いからな~~リーゼちゃんたちにはつらいんだよな……」と少し考えた後に、にっこり笑った。
「夕食で余った食材でよければ夕食の準備が終わった後に、パンと一緒に分けるからさ。夕食を取りに来るゲオルグか、クルスに渡しておくよ」
「いいの?」
私が尋ねるとジルは片目を閉じながら言った。
「ああ。もちろん!!」
「ありがとう!! じゃあ、また明日のお昼ご飯で!!」
私は急ぎ足でギルベルト様たちを追った。
「ライラさん、何かありましたか?」
少し遅れて行った私を心配して、ギルベルト様が声をかけてくれた。
「大したことではないのですが……簡単ですが朝食を作ろうと思いまして、材料の相談をしていました。もしよかったら皆様も召し上がって下さい」
するとギルベルト様と、クルスとリーゼが立ち止まった。
「朝食?」
「朝ごはん?」
「パンだけじゃないごはん?」
そして三人はキラキラした瞳で私を見た。
「いいの?」
クルスが嬉しそうに言った。
「うん」
するとリーゼに抱きつかれて笑顔で「ありがとう」と言われた。
やはり二人ともパンだけはつらかったのだろう。
そしてギルベルト様が言った。
「ありがとうございます。でも無理はしないで下さい」
私は「はい」と答えたのだった。
◇
そして午後から、私はギルベルト様と二人で書類仕事をした。
「ギルベルト様。明日の午後に印を届けてくれるそうです」
「え!? もう出来たのですか?」
私はにっこりと笑いながら言った。
「はい。印がなければ仕事が進みませんので、宰相閣下からお預かりしている書状を使いましたら最速で仕上げて下さいました」
ギルベルト様は驚きながら「凄いですね……」と言った。
「ええ。あちらも切羽詰まっていますから……」
そう言うと、ギルベルト様は「すみません」と言って書類に目を移したのだった。
その後、日暮れまでには絶対にあと数日中に提出すべき最重要書類が終わった。
まだまた書類は多いので油断はできない。
だが、悠長なことを言っていはいられない。
私は最重要書類が完成したタイミングでギルベルト様に砦の守りのことを切り出そうとした。するとノックもなくリーゼが部屋に入って来た。
「二人とも、ご飯よ」
私はしゃがんでリーゼを見ながら言った。
「呼びに来てくれてありがとう。でもね……淑女がノックをせずに部屋に入ると、礼儀知らずと言って他の貴族に侮られてしまうわ」
リーゼがしゅんとしながら言った。
「ノック……つい忘れちゃうの……」
「うん。だから少しずつ、忘れていたら教えるから出来るようになろうね」
「……うん」
私はそう言って立ち上がるとリーゼを見ながら言った。
「じゃあ、行こうか。今日のご飯は何かな~~」
リーゼが笑顔で言った。
「今日はね、美味しそうなお肉だったわ!!」
「そう、楽しみね」
私がリーゼと手を繋いで歩いていると、ギルベルト様が隣を歩きながら言った。
「ライラさん、ありがとうございます」
私はなぜお礼を言われたのかわからずに、「何がですか?」と尋ねた。
ギルベルト様は、困ったように笑うと「なかなか貴族の作法まで教える時間がないので助かります」と言った。
その後、食堂に行くとクルスが興奮したように言った。
「ねぇ、ライラさん。ジルから大量の食材貰ったんだ!! これで朝ごはん作ってくれる??」
「ええ……でも大量の食材?」
私は「こっちこっち」と言うクルスについてキッチンに向かった。
「わぁ……凄い……何食分なの……」
キッチンには大量の食材が置いてあった。
これならスープだけではなく、色々できそうだ。元々朝ごはんはしっかりと食べる生活をしていたので、朝ごはんがきちんと食べられるのは嬉しい。すると、ゲオルグが食堂に入って来た。
「お風呂沸かしたぞ。食事にしよう!!」
そしてみんなが食卓に揃って手を合わせた。
「いただきます!!」
そして夕食はみんなで話をしながら楽しい食事の時間を過ごした。
◇
食事が終わるとギルベルト様は砦に戻り、クルスはお風呂に入った。
そして私は、今日の片付け当番だというゲオルグと一緒に食器を片付けていた。
ゲオルグが洗ったお皿を私が水ですすいでいると、ゲオルグが口を開いた。
「洗濯や掃除だけじゃなくて、朝ごはんまで……ありがとう」
ゲオルグは耳まで真っ赤にしながらお礼を言った。
私は嬉しくなって笑顔で言った。
「ふふふ、どういたしまして」
そしてゲオルグが食器洗いを終えて今後はお皿を拭きながら言った。
「俺、もうすぐ15になる」
「そうなんだ。じゃあ、もうすぐプレダンスだね」
「……ああ」
この国では16歳で社交界デビューとなる。
ちなみに16歳で結婚も出来るので、貴族令嬢は16歳で学園を辞める人も多い。
だが、その前に同世代の人たちだけのプレダンスというイベントがある。
いわばお見合いイベントだ。
15歳までに死ぬほどダンスの練習をして、プレダンスと社交界デビューで恥をかかないようにするのだ。
(ダンスの練習、大変だったな……懐かしい……)
私はお皿のすすぎが終わって、ゲオルグが拭いたお皿を片付けながら尋ねた。
「ねぇ、ゲオルグはダンスの練習してる?」
ゲオルグは少し考えた後で言った。
「……全くしていない。むしろしたことがない。砦のみんなには『ダンスだけは絶対に死ぬほど練習しろ』って言われるけど……」
私はピタリと止まって、ゲオルグを見ながら真剣に言った。
「え? ダンスは絶対に練習した方がいいと思う。本当に……本当に、踊れないと恥をかくから……」
乗馬や剣術など貴族令息にとって必要は教養はあるが、ダンスは絶対に外せない。
むしろダンスによって意中の令嬢と結婚できるか決まると言っても過言ではない。
プレダンスで恋人になり、社交界デビューと同時に結婚というのは本当に本当によくある話どころか、結婚の王道だ。
私は女官になりたかったのでプレダンスも社交界デビューも、誘われたら踊ったが積極的だったわけではない。
おかげで今は仕事に追われ、特に恋人もいない。
(あの時、もう少しアピールしておけば違ったのかな……)
思わず遠くを見つめているとゲオルグが呟くように言った。
「みんな男ばかりだから練習相手がいない。女性パート踊れないっていうし……」
そう言われて気が付いた。
そうだ。
ダンスは異性と踊るのが一般的だ。
だが……ここは辺境伯領の砦。
先ほど食堂を見たが、女性は……私しかいなかった。
(あ……そうか……)
私がようやく状況に気付いた時、ゲオルグが私を見ながら言った。
「ダンス教えてくれないか?」
女性がいない。
しかも……もうすぐ15歳……それなのに、ダンス未経験……
まずい。これはかなり、まずい!!
貴族令息としてかなりピンチだ。
私はゲオルグを見ながら言った。
「私もあまり上手い方ではないけれど……私でよかったら……」
ゲオルグはほっとしたように言った。
「助かる。じゃあ、今日から夕食の後に少しだけダンスの練習に付き合ってくれるか?」
私は「うん」と頷いた。
676
あなたにおすすめの小説
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さくら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
『婚約なんて予定にないんですが!? 転生モブの私に公爵様が迫ってくる』
ヤオサカ
恋愛
この物語は完結しました。
現代で過労死した原田あかりは、愛読していた恋愛小説の世界に転生し、主人公の美しい姉を引き立てる“妹モブ”ティナ・ミルフォードとして生まれ変わる。今度こそ静かに暮らそうと決めた彼女だったが、絵の才能が公爵家嫡男ジークハルトの目に留まり、婚約を申し込まれてしまう。のんびり人生を望むティナと、穏やかに心を寄せるジーク――絵と愛が織りなす、やがて幸せな結婚へとつながる転生ラブストーリー。
王宮地味女官、只者じゃねぇ
宵森みなと
恋愛
地味で目立たず、ただ真面目に働く王宮の女官・エミリア。
しかし彼女の正体は――剣術・魔法・語学すべてに長けた首席卒業の才女にして、実はとんでもない美貌と魔性を秘めた、“自覚なしギャップ系”最強女官だった!?
王女付き女官に任命されたその日から、運命が少しずつ動き出す。
訛りだらけのマーレン語で王女に爆笑を起こし、夜会では仮面を外した瞬間、貴族たちを騒然とさせ――
さらには北方マーレン国から訪れた黒髪の第二王子をも、一瞬で虜にしてしまう。
「おら、案内させてもらいますけんの」
その一言が、国を揺らすとは、誰が想像しただろうか。
王女リリアは言う。「エミリアがいなければ、私は生きていけぬ」
副長カイルは焦る。「このまま、他国に連れて行かれてたまるか」
ジークは葛藤する。「自分だけを見てほしいのに、届かない」
そしてレオンハルト王子は心を決める。「妻に望むなら、彼女以外はいない」
けれど――当の本人は今日も地味眼鏡で事務作業中。
王族たちの心を翻弄するのは、無自覚最強の“訛り女官”。
訛って笑いを取り、仮面で魅了し、剣で守る――
これは、彼女の“本当の顔”が王宮を変えていく、壮麗な恋と成長の物語。
★この物語は、「枯れ専モブ令嬢」の5年前のお話です。クラリスが活躍する前で、少し若いイザークとライナルトがちょっと出ます。
婚約者は冷酷宰相様。地味令嬢の私が政略結婚で嫁いだら、なぜか激甘溺愛が待っていました
春夜夢
恋愛
私はずっと「誰にも注目されない地味令嬢」だった。
名門とはいえ没落しかけの伯爵家の次女。
姉は美貌と才覚に恵まれ、私はただの飾り物のような存在。
――そんな私に突然、王宮から「婚約命令」が下った。
相手は、王の右腕にして恐れられる冷酷宰相・ルシアス=ディエンツ公爵。
40を目前にしながら独身を貫き、感情を一切表に出さない男。
(……なぜ私が?)
けれど、その婚約は国を揺るがす「ある計画」の始まりだった。
【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました
成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。
天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。
学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。
地味だと婚約破棄されましたが、私の作る"お弁当"が、冷徹公爵様やもふもふ聖獣たちの胃袋を掴んだようです〜隣国の冷徹公爵様に拾われ幸せ!〜
咲月ねむと
恋愛
伯爵令嬢のエリアーナは、婚約者である王太子から「地味でつまらない」と、大勢の前で婚約破棄を言い渡されてしまう。
全てを失い途方に暮れる彼女を拾ったのは、隣国からやって来た『氷の悪魔』と恐れられる冷徹公爵ヴィンセントだった。
「お前から、腹の減る匂いがする」
空腹で倒れかけていた彼に、前世の記憶を頼りに作ったささやかな料理を渡したのが、彼女の運命を変えるきっかけとなる。
公爵領で待っていたのは、気難しい最強の聖獣フェンリルや、屈強な騎士団。しかし彼らは皆、エリアーナの作る温かく美味しい「お弁当」の虜になってしまう!
これは、地味だと虐げられた令嬢が、愛情たっぷりのお弁当で人々の胃袋と心を掴み、最高の幸せを手に入れる、お腹も心も満たされる、ほっこり甘いシンデレラストーリー。
元婚約者への、美味しいざまぁもあります。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる