【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番

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第21話 ゲオルグの頼み事

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 食堂に時計の音が鳴り響くと多くの人が席を立った。

「あ、時間だ。先に行く」

 ゲオルグが他の人と同じように食器を持って立ち上がった。

「また後でね!!」

 私も食べ終わっていたが、もうすぐギルベルト様が食べ終わりそうだったのでギルベルト様の分も一緒に片付けることにしたので席に残ったのだ。

 そしてしばらくしてギルベルト様も食事を終えた。
 私が片付けようとするとギルベルト様が先に立ち上がり、私の分の食器も持ってくれた。

「え? そんな私が片付けます!!」

 ギルベルト様は、にこにこと笑うと「気にしないで下さい」と言い、結局私の食器も片付けてくれた。
 私はギルベルト様の後ろに着いて行くと、リーゼたちも付いて来た。

「ごちそうさま」

「あ。辺境伯様、ありがとうございます」

 ジルがにこりと笑って受け取った。
 ギルベルト様が先に歩いて行ったので、私はジルに聞いてみることにした。

「あの……食材ってどこで買っているの?」

 ジルは少し考えた後に言った。

「ん~~基本的には町の人が毎日運んでくれているからなぁ~~買うって感じじゃないな……」

「そう……」

 どうやら、食材は届けてもらっているようだ。
 もしも商人が売りに来ていたら買おうと思っていたので少し残念に思った。

「どうした? 今の量じゃ、足りないか?」

 不安そうなジルに私は慌てて言った。

「いえ、違うの。私たちの分だけでも朝食を作ろと思ったの。砦の食堂と朝は時間が合わないって聞いたから……」

 ジルが「あ~~まぁな。砦の朝は早いからな~~リーゼちゃんたちにはつらいんだよな……」と少し考えた後に、にっこり笑った。
 
「夕食で余った食材でよければ夕食の準備が終わった後に、パンと一緒に分けるからさ。夕食を取りに来るゲオルグか、クルスに渡しておくよ」

「いいの?」

 私が尋ねるとジルは片目を閉じながら言った。

「ああ。もちろん!!」

「ありがとう!! じゃあ、また明日のお昼ご飯で!!」

 私は急ぎ足でギルベルト様たちを追った。

「ライラさん、何かありましたか?」

 少し遅れて行った私を心配して、ギルベルト様が声をかけてくれた。

「大したことではないのですが……簡単ですが朝食を作ろうと思いまして、材料の相談をしていました。もしよかったら皆様も召し上がって下さい」

 するとギルベルト様と、クルスとリーゼが立ち止まった。

「朝食?」
「朝ごはん?」
「パンだけじゃないごはん?」

 そして三人はキラキラした瞳で私を見た。

「いいの?」

 クルスが嬉しそうに言った。

「うん」

 するとリーゼに抱きつかれて笑顔で「ありがとう」と言われた。
 やはり二人ともパンだけはつらかったのだろう。
 そしてギルベルト様が言った。

「ありがとうございます。でも無理はしないで下さい」
 
 私は「はい」と答えたのだった。





 そして午後から、私はギルベルト様と二人で書類仕事をした。

「ギルベルト様。明日の午後に印を届けてくれるそうです」

「え!? もう出来たのですか?」

 私はにっこりと笑いながら言った。

「はい。印がなければ仕事が進みませんので、宰相閣下からお預かりしている書状を使いましたら最速で仕上げて下さいました」

 ギルベルト様は驚きながら「凄いですね……」と言った。

「ええ。あちらも切羽詰まっていますから……」

 そう言うと、ギルベルト様は「すみません」と言って書類に目を移したのだった。
 その後、日暮れまでには絶対にあと数日中に提出すべき最重要書類が終わった。
 まだまた書類は多いので油断はできない。
 だが、悠長なことを言っていはいられない。
 
 私は最重要書類が完成したタイミングでギルベルト様に砦の守りのことを切り出そうとした。するとノックもなくリーゼが部屋に入って来た。

「二人とも、ご飯よ」

 私はしゃがんでリーゼを見ながら言った。

「呼びに来てくれてありがとう。でもね……淑女がノックをせずに部屋に入ると、礼儀知らずと言って他の貴族に侮られてしまうわ」

 リーゼがしゅんとしながら言った。

「ノック……つい忘れちゃうの……」

「うん。だから少しずつ、忘れていたら教えるから出来るようになろうね」

「……うん」

 私はそう言って立ち上がるとリーゼを見ながら言った。

「じゃあ、行こうか。今日のご飯は何かな~~」

 リーゼが笑顔で言った。

「今日はね、美味しそうなお肉だったわ!!」

「そう、楽しみね」

 私がリーゼと手を繋いで歩いていると、ギルベルト様が隣を歩きながら言った。

「ライラさん、ありがとうございます」

 私はなぜお礼を言われたのかわからずに、「何がですか?」と尋ねた。
 ギルベルト様は、困ったように笑うと「なかなか貴族の作法まで教える時間がないので助かります」と言った。
 その後、食堂に行くとクルスが興奮したように言った。

「ねぇ、ライラさん。ジルから大量の食材貰ったんだ!! これで朝ごはん作ってくれる??」

「ええ……でも大量の食材?」

 私は「こっちこっち」と言うクルスについてキッチンに向かった。

「わぁ……凄い……何食分なの……」

 キッチンには大量の食材が置いてあった。
 これならスープだけではなく、色々できそうだ。元々朝ごはんはしっかりと食べる生活をしていたので、朝ごはんがきちんと食べられるのは嬉しい。すると、ゲオルグが食堂に入って来た。

「お風呂沸かしたぞ。食事にしよう!!」

 そしてみんなが食卓に揃って手を合わせた。

「いただきます!!」

 そして夕食はみんなで話をしながら楽しい食事の時間を過ごした。





 食事が終わるとギルベルト様は砦に戻り、クルスはお風呂に入った。
 そして私は、今日の片付け当番だというゲオルグと一緒に食器を片付けていた。
 ゲオルグが洗ったお皿を私が水ですすいでいると、ゲオルグが口を開いた。

「洗濯や掃除だけじゃなくて、朝ごはんまで……ありがとう」

 ゲオルグは耳まで真っ赤にしながらお礼を言った。
 私は嬉しくなって笑顔で言った。

「ふふふ、どういたしまして」

 そしてゲオルグが食器洗いを終えて今後はお皿を拭きながら言った。

「俺、もうすぐ15になる」

「そうなんだ。じゃあ、もうすぐプレダンスだね」

「……ああ」

 この国では16歳で社交界デビューとなる。
 ちなみに16歳で結婚も出来るので、貴族令嬢は16歳で学園を辞める人も多い。
 だが、その前に同世代の人たちだけのプレダンスというイベントがある。
 いわばお見合いイベントだ。
 15歳までに死ぬほどダンスの練習をして、プレダンスと社交界デビューで恥をかかないようにするのだ。

(ダンスの練習、大変だったな……懐かしい……)

 私はお皿のすすぎが終わって、ゲオルグが拭いたお皿を片付けながら尋ねた。

「ねぇ、ゲオルグはダンスの練習してる?」

 ゲオルグは少し考えた後で言った。

「……全くしていない。むしろしたことがない。砦のみんなには『ダンスだけは絶対に死ぬほど練習しろ』って言われるけど……」

 私はピタリと止まって、ゲオルグを見ながら真剣に言った。

「え? ダンスは絶対に練習した方がいいと思う。本当に……本当に、踊れないと恥をかくから……」

 乗馬や剣術など貴族令息にとって必要は教養はあるが、ダンスは絶対に外せない。
 むしろダンスによって意中の令嬢と結婚できるか決まると言っても過言ではない。

 プレダンスで恋人になり、社交界デビューと同時に結婚というのは本当に本当によくある話どころか、結婚の王道だ。
 私は女官になりたかったのでプレダンスも社交界デビューも、誘われたら踊ったが積極的だったわけではない。
 おかげで今は仕事に追われ、特に恋人もいない。
 
(あの時、もう少しアピールしておけば違ったのかな……)

 思わず遠くを見つめているとゲオルグが呟くように言った。

「みんな男ばかりだから練習相手がいない。女性パート踊れないっていうし……」

 そう言われて気が付いた。
 そうだ。
 ダンスは異性と踊るのが一般的だ。
 だが……ここは辺境伯領の砦。
 先ほど食堂を見たが、女性は……私しかいなかった。

(あ……そうか……)

 私がようやく状況に気付いた時、ゲオルグが私を見ながら言った。

「ダンス教えてくれないか?」

 女性がいない。
 しかも……もうすぐ15歳……それなのに、ダンス未経験……

 まずい。これはかなり、まずい!! 
 貴族令息としてかなりピンチだ。

 私はゲオルグを見ながら言った。

「私もあまり上手い方ではないけれど……私でよかったら……」

 ゲオルグはほっとしたように言った。

「助かる。じゃあ、今日から夕食の後に少しだけダンスの練習に付き合ってくれるか?」

 私は「うん」と頷いた。



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