異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第3話 晩餐会にて

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 王宮にある広いホールのあちこちに設置されているテーブルには豪華な料理と酒が並び、正装をした貴族であろう人たちが飲み物を片手に談笑をしている。

 今夜はアーガイト王国で魔王討伐を祝う晩餐会が開催されている。

 晩餐会のメインイベントは魔王討伐を成し遂げた勇者達への勲章授与のようで、偉業を成した彼らを一目見ようと国中の貴族が集まっているようだ。

 ニナ師匠に文字通り首根っこをつかまれて晩餐会に連れてこられた僕は、魔王討伐に関与していないため、どちらかというとお客さん寄りの立場として、ホールの端っこでジュースを飲みながら晩餐会を見学している。

 僕を力づくで攫って行ったニナ師匠は「野暮用があるから席を外すのじゃ」と言い残していなくなってしまったため、何もやることがなくボーっとしているとホール内に大きい声が響く。

「国王陛下、並びに第1王女殿下のご入場です!」

 ホールの奥側にある大きな扉が開き、豪華なマントを身にまとった国王とみられる初老の男性と、赤色の派手なドレスを着ている気の強そうな女性が現れ、ホール内の貴族の人たちが一斉に跪く。

 どうやら、今ホールに入ってきた2人がアーガイト王国の王様と第1王女であるようだ。僕は王族の人とはフローラ王女としか関わったことがないため、初めて顔を拝見した。

 2人があらかじめ設置されていたホール全体が見渡せる壇上の席に上がり、ホールにいる全員を見据えた王様が口を開く。

「皆の者、楽にするが良い。本日は悲願であった魔王討伐を祝う場だ。存分に楽しんでくれ」

 その言葉を聞いた貴族たちは姿勢を楽にし、各々料理や酒を楽しみ始めた。

 僕は頭を下げていないが特にとがめられる事もなかったため、もしかしたら優しい王様なのかもしれないなどと考えつつテーブルにある料理をつまんでいく。

 王族の入場から10分ほど時間が経った頃、王様と王女のもとに騎士が向かい何かを報告しているのが見える。

「皆の者、魔王討伐を成しとげた勇者の準備ができたようじゃ。盛大に迎えてやってくれ」

 ホールの入り口側の扉が開き、魔王討伐を遂げた4人の勇者が入ってくる。

 先頭でホールに入ってきたのは、爽やかそうなイケメンこと赤井智也あかいともやさんだ。身に付けている銀の鎧と白のマントを見ると聖騎士と言えるような風貌だ。心なしかホールにいる令嬢は頬を赤くして色めきだっているように思える。

 赤井さんに続いて女性2人が横に並んで同時に入ってくる。ポニーテールが似合っている橋本藍はしもとあいさんとおっとりしている様子の榊原真白さかきばらましろさんだ。

 スレンダーな体系の橋本さんは紫色を基調としたドレスを、身体の主張が少し激しい榊原さんは白色を基調としたドレスを着こなしていて2人の美しさに目が奪われる。

 そして最後にホールに入ってきたのは、眼鏡をかけていて目つきが鋭い青山健人あおやまけんとさんだ。魔導士のローブを身にまとい鋭い視線で回りを一瞥している。目つきが鋭く怖そうに見える彼だが、優しく気遣いができる人で最年少の僕は大分気を使ってもらっていた。

 今も周りを鋭く一瞥しているのは、女性陣に対して下品な視線を向けている無作法な貴族に対して、青山さんがにらみを利かせているようであった。

 ホールに入場してきた4人の姿は3年前よりも逞しく、または美しくなっていて、懐かしさと何故か寂しさが込み上げてきていた。

(皆は見た目も良いから絵になるなぁ。……僕はあの場にいなくてよかったのかも)

 まるでおとぎ話の一幕であるかのような、王様自らの手で一人一人に勲章が授与されていく様子をみながら、僕はそのような自虐的な感想を胸中に抱く。

 勲章の授与もつつがなく終わり、晩餐会のメインイベントが終わる。皆の姿も見れたことだし会場を後にしようとしたところでホール内に王女の声が響く。

「お父様、勇者様に勲章とは別に褒美を授けるのはいかがでしょう?……そうね、この場にいる誰とでも婚約を結ぶことができる権利を差し上げるというのはどうでしょうか!」

「おおっ!それは素晴らしい案だ。しかし聡明で美しいセイディをトモヤ殿とケント殿で取り合うことになってしまわんか?」

「大丈夫ですわ、お父様。わたくしは2人とも平等に愛することができますもの」

 セイディという名前らしい第1王女が赤井さんと青山さんにうっとりとした視線でアピールを行い、周りにいる貴族たちも同調して婿、嫁候補として名乗りを上げることで場が盛り上がっていく。

 そんな混沌とした空間を一線離れた場所から見ている僕からは皆の表情を伺うことはできないが、困惑をしている様子もみられない。

 第1王女の提案は王族であるから仕方ないのか上から目線であったし、果たしてそれが褒美になっているのかもわからない。王族や貴族と庶民の価値観の違いというやつなのかな。

「それが褒美と言われるのでしたら、謹んで辞退させていただきます。……別にいらないので」

 赤井さんが代表して答えた内容に皆は同意してうなずいている。断られるなどとは露ほども思ってもいなかったのか王様と王女は唖然とした表情を浮かべ、周りの貴族達もにべもない断り文句を聞き静かになってしまった。

 一部始終を見ていた僕は、本音を隠し切れず言葉にしてしまった赤井さんと王女の唖然とした表情が笑いのツボに入ってしまい、堪えきれずに口から笑いが漏れてしまった。

 静まり返っていたホール内では、僕の失笑はそれなりの音が出ていたようで、この場にいるほとんどの視線がこちらに向けられる。変に注目されてしまいどうしようかと考えていたところ、ものすごい速さで紫色の影が飛び込んできた。

「優人、久しぶり~!」

「橋本さん、お久しぶりです。元気そうでよかったです」

 飛び込んできた影の正体である橋本さんは僕を両手で抱き上げその場で回転し始める。遊園地のアトラクションなど目ではないほどの勢いで回転しているため先ほどの食事が出てきそうである。

 動きづらそうなドレスでの先ほどのスピードと現在の回転のパワー、どうやら彼女は3年会わない間にまたパワフルになったようだ。

 食事をリバースする前に人力アトラクションを十分楽しみ終えたのか、僕を地面に降ろしたあと頭を撫でまわしてくる橋本さん。彼女はこのように僕を弟のように扱ってくる。……ペットのような扱いではないと信じたい。

 橋本さんが僕と戯れている間にそばに来ていた皆とも再会を喜び合っていたところで、慌てた様子の王様がまくしたてるように声を荒げる。

「ほ、褒美がいらないだと!王族や貴族の一員となれるのだぞ!庶民にとってはこれとない誉れなのだぞ!」

「俺たちは元の世界へと帰りますので名誉や地位は必要ありません」

「ま、待て。貴様ら!後悔することになるぞ!」

 赤井さんが堂々と別れの挨拶を告げ、僕たちを率いてホールを後にする。閉じられた扉の向こうからは怒りのこもった罵声が聞こえたような気がした。
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