異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

文字の大きさ
6 / 135

第6話 元の世界への帰還

しおりを挟む
 フローラ王女に案内されたどり着いた儀式の部屋は、僕たちがこの世界に召喚された4年前のあの日から何一つ変わっていなかった。

 あの日から待ち望んでいた元の世界への帰還がついに叶えられる時が来たのだ。

(家族のお墓とかどうなってるのかな?……そもそも4年も行方不明になってる僕も死亡扱いになってるかな?)

 元の世界への帰還が目前に迫ってきたことで、これからのことを考えてしまい胸に不安がよぎる。中卒でも働ける場所を探さないといけないし、そもそも僕の帰る家があるのかもわからない。

「勇者の皆様、準備ができましたので、こちらの陣の上にいらしてください」

 そんなことを考えているうちに儀式の最終準備ができたようでフローラ王女が声をかけてくる。

「……これで俺たちが会えるのも最後になるんだな」

 部屋の中央に描かれている魔法陣の上に移動している最中に赤井さんが感慨深そうにつぶやく。

 実は僕たちは5人とも地球の日本から召喚されているのだが、歴史や時事などに細かい違いがあった。そのことから僕たちはいわゆるパラレルワールドの日本からそれぞれ召喚されたのであろうという結論に落ち着いた。

 なので皆が帰る世界もバラバラとなり、一緒にいられるものこれが最後になるというわけである。

「そうですね~。みなさんとは折角仲良くなれたのに、お別れになるのは寂しいですね~」

「4年間一緒に苦労を分け合った仲だからな、生涯の友になれたといっても過言ではなかったな」

「本当に残念だわ。元の世界の高校でもこんなに仲良くなれた友達は少なかったのに。……優人だけでも同じ世界に連れていけないかしら?」

「僕も皆さんと会えなくなってしまうのは残念です」

 赤井さんの言葉に感化されたのか他の皆も口々に別れを惜しむような言葉を告げる。……橋本さんだけ最後に不穏なことをつぶやいた気がするが聞かなかったことにしておく。何年も一緒に旅をしていたことで出来上がった皆の絆は固いようだ。

 僕も皆のことをかけがえのない友人だと思っているが、1年近くしか一緒に過ごすことができなかった。そのため皆と同じ空気感を出してよいのか悩んでいたが、気が付けば自分の本心を告げていた。

 やはり僕も皆と一緒にこの世界で魔王討伐の旅をしたかった。そういう思いがあったことを今更ながらに自覚する。師匠と過ごした日々も楽しい毎日であったが、欲を言えば異世界を皆で見て回ってみたかった。

「勇者の皆様、準備はよろしいですか?」

「「「「「はい」」」」」

「それでは儀式を始めさせていただきます」

 フローラ王女は僕たち5人の返事を聞くと、魔法陣の前で膝をつき胸の前で両の手を組み祈り始める。少し時間が経つと魔法陣が光を放ち始め、光が僕たちを包み込んでいく。

 この世界に来た時と同じであればもうすぐ転移が始まる。転移をする前にこの世界でお世話になったもう1人に感謝を述べる。

「ニナ師匠、長い間大変お世話になりました。これからもお肉だけでなく野菜をバランスよく食べてくださいね。それに面倒臭がらないで寝る前にはしっかり歯を磨いて下さい。あとは……」

「あ~よいよい、オヌシはワシの母親か。そんなに心配せずとも大丈夫じゃから安心せい」

 確かに色々と余計な気遣いをしすぎたかもしれない。周りのみんなも苦笑している。でも師匠は大雑把なところがあるから心配してしまうのも仕方がないというものだ。

「すいません師匠。……それでは、これからもお元気で」

「オヌシも、……いや、ユウトもあちらの世界で達者での」

 そう告げた師匠の少し寂しげな笑顔を最後に僕の視界は白い光に包まれた。



 自分をまとっていた光が消え、気が付くと僕は白い空間にいた。見覚えのない空間にあたりを見渡していると目の前に白いドレスをまとった金髪の女性が突如現れた。

「初めまして、異世界の勇者よ。私はあなたたちをイシュタルの地へと転移させた女神です」

 なんと目の前に現れた女性は、僕たちに加護を与えて異世界に転移させた神様であるようだ。

 いきなり神様と2人の空間に連れてこられ、緊張して身構えている僕に女神様は微笑みを浮かべながら声をかけてくる。

「まずは私の世界の者たちに代わり、魔王討伐を成していただき感謝いたします。少しお話をしたいだけですので、そんなに身構えないでください」

「……僕は魔王討伐に関しては何もできていませんけども」

「ですが他の方はあなたを含む5人全員の成果だと仰っていました」

 どうやら僕以外の4人とはお話をしたあとのようであり、皆は僕のことも仲間と思ってくれていたようで少しほっとする。

「では気を取り直して……。あなた方には魔王討伐の報酬としてできる範囲で願いを叶えましょう」

 願いと聞いて一番に思いついたのは元の世界にいた家族の存在である。できる範囲というものが気にはなるがダメもとで言ってみるのもいいだろう。

「……僕の願いは4年前に亡くなってしまった家族を生き返らせることです」

「申し訳ないけれど、私の力ではあなたの世界で亡くなった人の生命をどうにかすることはできません」

「そうですか……。そうなると他ですぐに思いつくものはないですね」

「まだ時間はありますのでゆっくり考えてくださって結構です」

 想定はしていたが、やはり家族を生き返らせることはできないようだ。女神さまの返答を聞いたときに思った以上にショックを受けなかったのは、4年という月日で家族の死について心の整理ができていたのであろう。

 そう考えると召喚された直後に元の世界に帰れなかったのは逆に良かったのかもしれない。あの時の僕は少し自棄になっていたので、元の世界に帰ったところで何をしていたのかわからない。そのようなことを考えていると女神さまが意外な事実を明らかにしてきた。

「あなたがすぐに元の世界に帰れなかったのは、第1王女が召喚陣に組み込んだ呪いが原因です。本来ならばあの場ですぐに帰還することはできました」

「呪い?なぜそのようなものを第1王女が使ったんですか?」

「そもそも元の世界に帰すつもりはなかったのでしょう。それでも第2王女が呪いを解析・解呪したからその計画も無駄になってしまったようです」

 女神様が教えてくれた新事実に動揺が隠せない。しかし皆で晩餐会を抜け出した直後に王様や第1王女側の人間が僕たちを探しに来なかったのは、そもそも帰還ができないと高を括っていたと考えると辻褄があう。どうりでフローラ王女の部屋で何時間もゆったりとお茶ができたわけだ。

 そのフローラ王女も僕たちにかけられた呪いの解析を1人でひっそりと行っていたようである。もっとしっかりとお礼を言っておくべきであった。

「それなら私が伝えておいてあげましょう。これは願いとは別でサービスにしてあげますね」

「ありがとうございます。とても感謝しているとお伝えください」

 当然のように僕の考えを読んでいることはこの際無視して、神様を使いっ走りにするのに少し抵抗があるが、僕にはほかに取れる手段がないのでお願いしてしまおう。

 そう話をしているうちに考えがまとまったので、女神さまに願いを告げる。

「女神様、僕の願いは僕を召喚された当時、4年前の召喚された時間に戻してもらうことです」

「召喚された4年前に帰還する。願いはこれでよろしいですね?」

「はい、それでお願いします」

 せめて家族を自分の手で供養をしようと考え、あの当時に戻ることを願いとする。これで本当の意味で家族の死を受け入れられるような気がする。

「わかりました。それでは転送をします」

 女神様の手が振られると僕の体が淡い光に包まれる。これは転送が始まる前兆なのだろうと思い目を閉じる。

「元の世界に帰った後、そこまで苦労しないように少しサービスをしておきますね」

 最後に女神さまの声が聞こえた気がしたが、その言葉の意味を理解する前に僕は意識を手放した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった

久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく! ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。 「あなた、一体何者なの…?」 クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!? 平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-

すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン] 何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?… たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。 ※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける 縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は…… ゆっくりしていってね!!! ※ 現在書き直し慣行中!!!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

元・異世界一般人(Lv.1)、現代にて全ステータスカンストで転生したので、好き放題やらせていただきます

夏見ナイ
ファンタジー
剣と魔法の異世界で、何の才能もなくモンスターに殺された青年エルヴィン。死の間際に抱いたのは、無力感と後悔。「もし違う人生だったら――」その願いが通じたのか、彼は現代日本の大富豪の息子・神崎蓮(16)として転生を果たす。しかも、前世の記憶と共に授かったのは、容姿端麗、頭脳明晰、運動万能……ありとあらゆる才能がカンストした【全ステータスMAX】のチート能力だった! 超名門・帝聖学園に入学した蓮は、学業、スポーツ、果ては株や起業まで、その完璧すぎる才能で周囲を圧倒し、美少女たちの注目も一身に集めていく。 前世でLv.1だった男が、現代社会を舞台に繰り広げる、痛快無双サクセスストーリー! 今度こそ、最高に「好き放題」な人生を掴み取る!

落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!

ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。 ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。 そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。 問題は一つ。 兄様との関係が、どうしようもなく悪い。 僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。 このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない! 追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。 それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!! それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります! 5/9から小説になろうでも掲載中

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

処理中です...