異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第25話 Fクラス3大派閥結成?

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 学園ダンジョンの初探索を終えた次の日、いつも通り妹の瑠璃と一緒に学園に登校する。

 昨夜店員さんに言われた言葉を自分なりに整理したところ、僕は霜月さんとパーティーを組みたいんだという結論に至った。

 異世界でできなかった冒険をこの世界で……などと考えていたが、大前提として勇者の皆と一緒に。という思いがあったのだろう。……簡単に言うとひとりは寂しいよねってことである。

 しかし、昨日は一日を通して彼女に避けられていたような気がしており、どのようにして接触をしたものか悩んでいると意外なところから救いの手が差し伸べられた。

「美銀さんに避けられてる?……おにぃ、何か失礼な事した?」

「わからない。……けど、心当たりはないんだよなぁ」

「ふ~ん……。じゃあ私がお昼休みにお話しできるようにセッティングしてあげるね!」

 霜月さんのことを妹に相談してみると、妹は彼女と出会った初日に連絡先を交換していたようで連絡をとれるようだ。なぜ同級生の自分より妹のほうが先に連絡先を交換できているのかは、あまり深く考えないほうが良いだろう。

 正直に言ってしまうと、同級生の女子と話をするのに妹の力を借りなければならないというのは非常に情けないような気がする。……ここは兄としての威厳を保つためにも大丈夫であると答えるべきだろう。

「美銀さん、お昼に食堂に来てくれるって!ご飯食べながらお話しよ!」

「……わ、わかった。連絡とってくれてありがとな」

 妹は僕が考えていたものの数秒で霜月さんに連絡を取り、お昼に食堂で会う約束を取り付けていた。正に電光石火の早業である。よくよく考えると霜月さんも返事をするのが早いな。

 威厳だなんだと考えていたが、折角妹が準備してくれた状況なので有効活用させてもらおう。プライド?そんなもの犬にでも食わせておけばいい。

 妹とお昼に食堂で会う約束をして校門で別れる。Fクラスの教室前に着くと何やら教室内が騒がしいような気がする。こっそりと教室に入ると、どうやらクラスメイト達が口論をしているようであった。

「だから内部生の連中に対抗するには、俺たちも何処かの狩場を抑えるべきだ!昨日も効率が悪すぎて少しの成果しか得られなかったんだぞ!」

「それでこっちも他の狩場を独占するような真似をしてしまうと、余計なトラブルを生むからやめたほうがいいと思うよ」

「それじゃあどうするんだよ!このまま昨日のような状況が続けば半年後には俺たち全員もれなく退学だぞ!」

「だからといって無暗に敵を作る行為はよくないよ。Fクラス皆で協力をするというのは賛成だけどね」

「いっそのことFクラス全員で協力して狩場を独占しているパーティーを追い出すってのはどうかな?」

「それはやめとけ。俺みたいな怪我で済まなくなるぞ……」

 聞こえてきた話の内容から察するに、彼・彼女らは昨日ダンジョンに潜り上位クラスのパーティーがいうところの洗礼を浴びたのであろう。初日から想定内の探索の成果が得られなかった不満から、今日からの対策を話し合っているようである。

 Fクラスも上位クラスのパーティーを倣っての狩場の独占をしようと主張する独占派。余計な敵を作らないように行動に気をつけながらもFクラス全体で協力していこうと主張する穏健派。無謀にも狩場を独占している上位クラスのパーティーをFクラス全員で倒そうという撃退派。どうやら大きく分けると派閥はこの3つに分かれているようだ。

 僕としては独占派と撃退派は論外であると考える。独占派は狩場を独占しているFクラスを他のパーティーが敵とみなした場合のデメリットが大きすぎる。最悪の場合は上位クラスのパーティーに行くはずの不平不満がこちらに向かってくる可能性が高い。そうなるとFクラスは孤立してしまうだろう。

 過激派の意見はそれで連中を追い払えるならそもそも苦労していないだろうという話だ。相手との力量差を考えられていない絵空事であり、亀井君の言う通り彼のような怪我で済まない可能性も出てくる。

 そして穏健派は結局のところFクラス全体で協力をしていこうと意識付けをするのみで、実質的には現状維持となるためそれが一番丸いのではと思っている。

 そんなことを考えながらも、僕は討論または口論に参加するつもりはないので、皆の討論の内容を耳に入れつつも席に座りデバイスを取り出す。本日のダンジョン入場申請は霜月さんとパーティーの話の結果次第なので後回しである。

「ねぇ、たしか君も昨日ダンジョンに潜っていたよね?君はどう思う?」

 デバイスを操作している僕に先ほどの討論で穏健派の代表と思われる男子が話しかけてくる。彼は周りから『たいが』や『こたろう』と呼ばれていたので『たいがこたろう』という名前なのだろう。……きっと中学生時代のあだ名はトラだろう。

 発言をすることで巻き込まれたくないと思っていたが、何故か彼は僕が昨日ダンジョンに潜っていたことを把握しているため、とぼけて話を流すことは難しそうだ。

「今はダンジョンに潜るのは控えて、訓練に集中するのがいいんじゃないかな?」

 少し考えてから訓練を優先するべきだという意見を口にする。これは実際に僕の本音であり、現状でできる最善の行動だと考えていた。

 昨日の戦闘訓練の授業で見たFクラスの面々は、魔法も武器の素振りも満足にできていなかった。しかし亀井君たちのように、複数人で連携をとることが出来れば素手でも倒せるのがスライムなので、ダンジョンで実戦を経て経験を積んでいけば大丈夫だと僕は思っていたのだ。

 これらの問題は実際にそういうことを判断したり戦闘技術を教える教員がいないため起きている。昨日の戦闘訓練も訓練所の使用方法を教えた後はほぼ自由時間であった。僕が彼らに口出しするわけにもいかないのでどうしようもない。まずは訓練の指導をしてくれる人を探すところから始めないといけないのかもしれない。

 というわけで本音を告げるが、この発言には一つ大きな問題がある。それはこの発言をした手前、自分だけが訓練に参加せずダンジョンに潜るのがためらわれることだ。というより絶対に巻き込まれるだろう。

 今の僕は一刻も早く1階層の地図を完成させたいので、僕の意見は採用されずに一笑に付して流してくれるとありがたい。

「……確かに、訓練をする時間を増やすのも悪くないね。いい意見をありがとう」

 トラ君は僕の言葉に納得したような反応をみせて、お礼を言って立ち去っていく。……放課後にクラス皆で訓練することを強硬されないといいなぁ。そんなことを思いながらデバイスを操作して用事を済ませる。

 結局彼らの熱い討論は朝のHRホームルームが始まるまで続くのであった。
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