異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第28話 訓練の理由

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 霜月さんは深刻そうな雰囲気を出しながら、ひとりで魔法の訓連をすることに決めた出来事を語り始めた。

「昨日、ダンジョンでパーティーを組んでいた男の子に魔法を当てちゃった……無念」

 その後に続く言葉はなく、今ので彼女の長い話は終わったようだ。……長い?いやいや、考えてみると確かにいつもより多く喋っていた気がしてきた。

 どうやら霜月さんはパーティーを組んでいた男子に魔法を当ててしまい、それを反省して魔法の精度を上げる練習をするつもりのようだ。

 彼女が故意的に人に魔法を撃つとは思えないので、モンスターに向かって撃った魔法がパーティーメンバーに当たってしまった。というところであろうか。

「それって、パーティー内での連携不足という面もあるんじゃないかな?」

「……連携?」

 昨日のことを思い出したのか、しょんぼりしている霜月さんに励ましの意味も込めて自分の考えを話していく。

「そう連携不足。例えば前衛の合図があるまで魔法を撃たないとか、魔法を撃つ際は射線を開けてもらうとかを事前にパーティー内で打ち合わせておくんだよ」

「確かに、前衛の人を避けてモンスターだけに魔法を当てるのは、かなり技量がいると思います」

「私たちはふたりとも遠距離主体だから、あまり気にしてないけどね!」

 僕の考えを後押しするように妹とすみれちゃんも自分の意見を告げて補足をしてくれる。

 実際に複数人で戦闘をしている時に皆の後ろから魔法を撃つと、余程腕に自信のある人でないと間にいるパーティーを巻き込んでしまう。ゲームのように味方には魔法が当たらない、とはならないのだ。……リアリティを追及して魔法が味方も巻き込むゲームもありはするが。

 つまり味方を巻き込まないように魔法を撃つには、パーティー内である程度の決まり事を決めておいたうえで連携を磨いていく必要があるのだ。そして連携をとれるようにするためには地道に経験を重ねていくほかない。

 その経験は実戦でも訓練でも構わないと思う。実戦であれば実際の戦闘で連携の質を上げることができるし、訓練を積んで魔法の精度を上げることで連携の幅を広げることもできる。どちらでもプラス方向に働くのは間違いないからだ。

「つまり何が言いたいかというと、パーティー全体の問題であって霜月さんだけのせいじゃないって言いたかったんだよね」

「そうだよ!……美銀さん!私も今日から一緒に魔法の練習していい?一緒に頑張ろう!」

「私も参加していいですか?一緒に魔法の練習頑張りましょう」

「うん。……みんな、ありがとう」

 表情の変化が乏しい霜月さんであるが、僕たちの言葉を聞いて少しは元気が出てきたようであった。

 そのまま女性陣は今日の訓練予定を話し始める。僕は魔法が撃てないし訓練に参加しないので会話に参加が出来ずに手持ち無沙汰になってしまった。

 特にやることもないのでポケットからスマホを取り出しネットニュースを確認していると、それに気づいた霜月さんもスマホを取り出して声をかけてくる。

「連絡先、交換しよ?」

「確かに、これからパーティー内で連絡できないと不便だね。連絡先を交換しておこう」

「……初めての連絡先?」

「ん?そうだね、学園の人でスマホの連絡先を交換したのは霜月さんが初めてだね」

「あの、私も交換いいですか?」

「私だけ仲間外れ~」

「瑠璃はもうみんなの連絡先持ってるだろ……」

 そうして僕、霜月さん、すみれちゃんの3人で連絡先を交換しあい、僕のスマホには学園の人では初となる霜月さんとすみれちゃんの連絡先が登録された。



「それじゃあ美銀さん、また放課後!」

「うん。またね」

 連絡先を交換した後も霜月さんの魔法訓練計画は進んだ。霜月さんも妹の元気に引っ張られたのか、すっかり元気を取り戻したようでかなりご機嫌のように見える。

 そのままふたりで教室に戻り扉を開けると、ほとんどのクラスメイトがおり教室内で会議をしていた。

「ちょうどよかった、小鳥遊君と霜月さんも放課後の訓練に参加しないかい?」

 教壇からこちらに声をかけてきたのは、今朝の討論で穏健派代表と思われていた『たいがこたろう』ことトラ君だ。今朝の段階では君呼びであったので、いつの間にか名前を調べたのだろう。

 実際にデバイスの機能でプロフィールがあり、調べることは簡単ではあるがマメな人である。……こっちは勝手にあだ名で呼んでいるのが申し訳ない。

「訓練っていうのは?」

「今朝小鳥遊君が言っていたように、今はダンジョンに潜るよりも先に自力の底上げが必要だと思うんだ。だから放課後に訓練場を借りてFクラス全員で訓練をしようと思うんだけど、どうかな?」

 そう言いながらFクラスを全体を見渡してクラスの総意であるように証明をしてくるトラ君。どうやら彼は3大派閥をまとめ上げ、訓練を行う方向に舵をきったようだ。

(やっぱりこうなっちゃったか。断ったとしてクラス内で浮くのは嫌だし……そもそも発案者の僕が断るのはよくないか)

 訓練を提案した責任とクラスへの協調性を考慮すると断るわけにはいかず、ひとまず今日だけでも参加して様子を見ようと思ったところで、僕より先に霜月さんが返事をする。

「私は先約がある。だから、無理」

 彼女は放課後に妹たちと魔法の訓練をする約束をしていたのできっぱりと断った。……どちらかといえば僕もそっちに参加したかったものだ。

「はっ!別にお前は参加しなくていいぜ。昨日みたいに魔法を当てられたりしたら困るからな!」

 そう周りにも聞こえるような大きい声を響かせたのは、僕に霜月さんをパーティーに誘うとから邪魔をするなと牽制してきた男子であった。どうやら彼女が魔法を当ててしまったのは彼のようだ。

 彼の言葉を聞いたクラスメイトは霜月さんに奇異の視線を向けてくる。僕はその視線から彼女をかばうように一歩前に出てトラ君に訓練についての返事をする。

「それじゃあ僕も霜月さんとパーティーを組んでいるから訓練には参加しないよ。なんか思ったより居心地も悪そうだし」

「なんだと、てめぇ!」

 霜月さんを一方的に悪者にしようとしている彼に対して、少し嫌味を含ませながら訓練の件を断る。すると彼は僕の言葉に反応して席を立ちあがり、こちらに向かってくる。

 そんなに激昂するとは思っていなかったが、こちらも霜月さんの嫌味を言われて少し腹が立っているため受けて立とうと待ち構えていると、僕たちの間に人影が潜り込んでくる。

「まてまて、こんなところで揉めるな!たける!お前はFクラスで協力をすることに同意したんだからクラスメイトに喧嘩を売るな!」

「……っち。わかったよ亀井」

「それで小鳥遊、だっけ?猛も悪かったけど、そっちも挑発するような真似をしないでくれ」

「別に挑発したつもりは……あ~ごめん」

 間に入ってきた亀井君は猛という名前らしい彼を一喝。こちらにも苦言を呈して両成敗ということで仲裁をしてきた。ちなみに僕は挑発したつもりはないと言おうと思ったが、彼に余計なことを言うなという念を込められた視線を向けられたため、言葉を途中で飲み込み謝罪をしておいた。

「そうか。もし気が変わったら気軽に声をかけてね」

 そして最後に教壇に立っているトラ君が話をまとめたことで、一旦この話は終わりになった。僕は放課後の訓練に参加せずにダンジョンに潜れることが決まって胸をなでおろす。

 自分の席に向かう背中に小さく感謝の言葉が投げかけられたが、教室の喧騒にかき消されてしまい僕の耳に届くことはなかった。
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