異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第30話 宝箱と罠<解除失敗編>

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 2日目の学園ダンジョン探索を始める。今日は昨日のようにダンジョンへの入場待ちの列がなかったため、スムーズにダンジョンに入場することが出来た。

(Fクラスも半分以上の人数が今日のダンジョン探索を諦めているし、他のパーティーも似たり寄ったりなのかな)

 きっと他の初心者パーティーも洗礼を受けたことで、ダンジョン探索を様子見しているのかもしれない。実際に1階層は昨日とは違って人の気配はほとんどなく静寂に包まれていた。

 上位クラスのパーティーは何を目的に洗礼という行為を行っているのだろうか。嫌がらせと言えばそれまでだが、僕はそれ以外にも何か理由があるのではないかと考えてしまっている。

(初心者パーティーや外部生を退学させるのが目的?……彼らのメリットがないよなぁ。そもそも1階層にいる冒険者が増えても減っても彼らには関係ないと思うんだけどな)

 初心者パーティーを締め上げることで彼らが得られるメリットは特に思いつかずに、昨日の続きとなる未探索の区画の前にたどり着いてしまう。

「ここから先は探索に集中しないとだな。初心者パーティーに嫌がらせをする目的は、また今度余裕があるときに考えよう」

 今日の探索も昨日とやることはほぼ変わらず、地道に地図作成を進めていくつもりである。しかし今回はスライムを見かけたとしても感知範囲に入らない限りは、わざわざ戦闘をしないことにしている。

 これは昨日の探索の成果で装備のレンタル代が数日分は稼げたので少し余裕があることと、昨日のように大量の魔石を買取所に持ち込まないようにするための対策である。

 買取所で店員さんに指摘されたように、ソロでダンジョンに潜っている僕がパーティーを組んでいる人達よりも多くの魔石を持ち込んでしまった事は、他の人と違う何かをやっているということを自ら証明しているようなものであった。

 昨日の店員さんは大丈夫そうだが他の職員が買取を担当した際に、魔石を多く持ち込んだ僕の情報を他の冒険者パーティーに話してしまうかもしれない。

 その場合に稼ぎの情報を得るために尾行や脅しなどをしてくるパーティーが出てくる可能性があり、店員さんはそうならないようにうまくやったほうがいいとアドバイスをくれたのだ。

 正直僕のところに直接来る被害ならば尾行でも脅しでも気にしないが、学園内で一緒にいるところを見られている妹たちや霜月さんに飛び火する可能性があるので対策に気を遣うことにしたのだ。

 魔石は買取所に持ち込む分を調整して余りを保管しておいてもいいのだが、余った魔石を買取所に持ち込むタイミングやアリバイ作りを考えるのが面倒そうなのでやめた。

 それなら戦闘に使う時間を探索と地図作成に使うほうがお得だろう。そういうわけで今日は無駄な戦闘はしない方針で探索を進めている。

 無駄な戦闘を避けた成果もあってか昨日よりも早いペースで地図が埋まっていき、何個目かの部屋ルームで珍しいものを見つける。

「お~宝箱だ。なかなか見かけるものではないはずだけど、今日はツイてるのかもしれないな」

 モンスターが見当たらない部屋ルームの真ん中には宝箱が鎮座していた。見た目は木製のようだが実際はダンジョンが魔素マナで作ったものとなっていて、宝箱を開けて中身を取り出すか、宝箱を破壊すると消えるようになっている。

 異世界で焚き火用の木切れがなかった際に橋本さんが宝箱を利用しようと提案し、宝箱の一部を破壊したらそのまま中身ごと消えてしまった事を思い出す。

(あの時の橋本さんの落ち込みようは酷かったな。元気になるまで2日ぐらいかかったっけ)

 異世界での懐かしい記憶を思い返しながら部屋ルームに入り、宝箱の周りをぐるっと一周して周囲に怪しいものがないことを確認する。

(ひとまず宝箱の周りに罠はなし。……問題は宝箱の中に仕掛けてある場合なんだけど、僕には見分けられないし……どうしようかな)

 ダンジョンに生成される宝箱には罠が仕掛けられていることがある。宝箱を開けた瞬間に石が飛んできたりガスが噴き出てきたり、宝箱に擬態しているミミックというモンスターなども存在する。

 宝箱の周りに仕掛けられている罠は見ためで気づくことが容易なのだが、宝箱の内側に仕掛けられている罠は見分けるのと解除に技術や技能が必要となる。異世界では青山さんが魔法で罠の有無の判別と解除を行っていたのだが、魔法が使えない僕に同じことは出来ない。

 購買には罠の解除用のキットが売られていたのを確認はしていたのだが、その時はお金に余裕がなかったのと宝箱を見つけられるとは思っていなかったため購入はしていない。

 ひとまず地図に宝箱の情報を記入しておき目の前にある実物をどうするか考える。宝箱の中身は珍しいものが入っていることもあるためできることなら中身を確認しておきたい。……罠が仕掛けられていた時のリスクと珍しいものが手に入るかもしれないという物欲を天秤にかけて少しの間を考える。

(低難度のダンジョン1階でそこまで危険な罠はないはず。……となると罠があったとしても開けていいかな)

 基本的に宝箱の罠やトラップなどはダンジョンの難易度と比例すると言われている。1階層で見かけたことのあるモンスターはスライム、トラップは昨日みつけた謎のタライのみであり、宝箱に仕掛けられている罠も大したものではないであろうと予想できる。

 罠がないもしくはあったとしても大した罠でないのなら、宝箱を開けて中身のアイテムを手に入れたほうがお得であると判断して結局宝箱を開けることにする。

 一応石つぶてやガスの罠だった時にすぐさま宝箱の前から離脱できるように行儀が悪いが足で宝箱を蹴り開ける。予想に反して宝箱の中から石やガスが出てることはなかったが、代わりに部屋ルームの中に警報音が鳴り響いた。

「あ~……このパターンの罠はすっかり頭から抜けてたな」

 そうぼやきながらも右手にクラブを準備して部屋ルームの入り口を振り返る。そこには魔法陣からスライムが5体ほど出現ポップした光景が広がっていた。

 この罠は警報アラームと呼ばれていて宝箱を開けた途端に警報音が鳴り響き、部屋ルームの入り口をモンスターが塞いで戦闘を余儀なくしてくる罠だ。さらに運が悪いと警報音を察知したモンスターが部屋ルームの外から追加で集まってきて大変なことになってしまう。

 幸いなことに学園ダンジョンの1階層には通路を徘徊しているモンスターは少ないため、これ以上のスライムの追加はないと考えてよいだろう。

「今日は戦闘を控えめで行きたいと思ってたのに、最初の戦闘が5匹同時というのはなかなかにしんどいなぁ」

 そう独り言ちながらも戦闘準備を整え、5体のスライムとの戦闘を始めたのであった。
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