異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第39話 前向きな検討は断り文句?

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「もう良い時間だし今日はここらで切り上げようかな」

 あの後も悪魔を倒した一撃を再現しようと考えられることは全て試してみたのだが、特に成果を得ることは出来ずに終わってしまった。こうなるとあの時の要因は謎の液体であることが濃厚となり、恐ろしいポーションがあったものだと思ってしまう。

 しかし地図作成のほうは順調に進み大体7割程度は完成していた。これも装備を整えたおかげでモンスターの処理が手早く済むようになったからである。この調子ならばあと1、2回の探索で地図を完成させられるかもしれないが、明日からは週末となるので完成は来週までお預けになるだろう。

「あと少し。ってなると何とかして早く終わらせたくなっちゃうよなぁ。休日も学園開いてないかな?」

 明日から週末となり授業がないため学園は休みとなっている。そのため学園ダンジョン以外を探索することができない銅級冒険者は必然的に休息日になると思うのだが、どうにかして学園ダンジョンに入る方法はないのか考え始める。いつもであれば休めるときは休むと決断するはずであるが、今はそれほどまでに地図を完成させたい欲が高まっているのだ。

「こういうのに詳しそうな人……栗林さんか隠岐さんあたりに聞いてみるかな」

 中等部生徒会長である栗林さんは学園のルールに詳しいはずなので確実に情報を得られるであろう。後で訓練の日程を確認するついでに話を聞いてみるのも手だ。次の候補は僕の取引相手となっている隠岐さんだ。彼も何故か学園の事情に詳しいのと、僕の隠している情報がある程度バレているので相談がしやすい。いきなり学園が休みである土日にダンジョン探索をしたいと相談しても、また何か面白いことをやってくれるのかなと考えて喜んで情報をくれるだろう。

「買取所でドロップ品を換金するときに隠岐さんと出会ったら聞いてみるか。ダメだったら栗林さんに確認をとればいいし」



「休日も学園のダンジョンは入場できるよ」

「へぇ~そうなんですね」

 買取所のブースでたまたま担当になった隠岐さんに先ほどの件を確認すると簡単に答えが返ってくる。ひとまず休日も学園ダンジョンは解放されているようなので、明日の予定がダンジョンで地図作成に決まる。

「ただ休日は一般の冒険者にも開放されるからいつもより人が多い可能性もあるよ」

「学生だけじゃなくて一般の冒険者も来るんですか?……鉄級以上の冒険者が何をしに?」

「そうだね……純粋にダンジョンを探索する人もいるし、学生の指導をする人もいる。あとは依頼されて学生のをする人たちもいるようだね」

 どうやら休日の学園ダンジョンは学生だけでなく一般の冒険者にも開放をされるようで平日とは違った環境になるようだ。ここでいうというのは代わりに戦闘をしてくれる代行のようなものだろうか。結局試験の際に実力が足りなければ等級は上がらないので微妙な感じがするのは気のせいだろうか。

 そして先ほどの話に出ていたように一般の冒険者に指導してもらえるのであればFクラスのメンバーも巻き込んで依頼をしてみたいのだが、あいにくそのような依頼をできるツテを持ってはいないので諦めるしかない。

(そもそも休日もをしている連中がいるのかを確認しないとダメか)

 Fクラスの経験や稼ぎのために休日に探索を行うことを推奨してみようと考えたが、狩場を独占している連中が休日にはいないとは断言できないため考え直す。一般の冒険者の目がある状況で力ずくな狩場の独占をするとは思えないが、これは自分の中の常識であり大半の冒険者にとってはその光景が普通の可能性もある。現代の冒険者事情に詳しくないため、明日自分の目で見て確かめてみよう。

「まあ、人が多くなったとしても君には関係なさそうだけどね。今日もソロでスライムの魔石を20個……どうやってるのか聞いてもいい?」

「……そこは秘密ということで」

「そうかぁ~。……それじゃあいずれ聞かせてくれると信じて今は待つとしようかな」

「前向きに検討させていただきます」

「……それは遠回しな断り文句だよね?」

 隠岐さんには取引でお世話になっているが未探索領域の話をまだするわけにはいかない。……なぜならあと少しで地図が完成するからだ。どうせ地図を匿名で出す際に相談することになるので、見せるのなら未完成のものより完成品のほうが良いに決まっている。

 情報を探ろうとしてくる隠岐さんに下手なことは言えないため、余計なことは言わないように気をつけながら魔石の換金手続きを終えてお金を受けとる。

「手続き終わったよ。いつも通り冒険者ポイントのほうは付けてないけど本当にいいの?」

「はい、今はまだランキングを上げて目立ちたくはないので……」

「ふ~ん。じゃあその目立たなくなる日が来るのを楽しみにしておこうかな」

「……はい」

 隠岐さんの表情を見た限りでは、おそらく彼は今の僕の発言で近い将来に1階層の状況が変わる出来事が起きると確信しただろう。余計なことを言わないように気を付けていたはずであったがこの有様である。……もう今すぐ地図のことを隠岐さんに話しても変わらないんじゃないかな。

「そうそう、魔石を持ち帰るのは面倒だったので、今日も買取の担当が隠岐さんで助かりました」

「……え?」

 何とかして話題を変えようと隠岐さんが買取担当で運が良かったと口にしてみたのだが、彼は何を言われたのかよくわかっていない反応を返してくる。

「……それは偶然じゃなくて僕が調整してるんだよ。取引をしたからにはこっちのほうが君にとっても都合がいいでしょ?」

「……運が良いだけだと思ってました」

「まあ、直接言ったわけじゃないけど……気づかないとは思わなかったな」

「失礼しました」

 今日も買取の担当が隠岐さんになり運が良いと思っていたが、どのような方法かはわからないが彼のほうで調整を行っていたようだ。実際のところダンジョンでのドロップ品を何も気にせずにすべて売却できるため、この気遣いは大助かりである。

「僕も出来る限り君のサポートをするから、今度も面白い戦闘記録をよろしくね」

「……前向きに検討させていただきます」

 隠岐さんの直接的なおねだりに対して、今度は同じ言葉を断り文句として口にするのであった。
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