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第58話 魔石の需要
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「妹ちゃんの友達が言うとおりで、学園がそんな簡単にダンジョンの権利を明け渡すことはないから大丈夫だよ」
昼休みに地図のお礼の件も兼ねて隠岐さんのもとを訪れ、昨日からずっと心配になっていたダンジョンの管理母体の話をすると、すみれちゃんが予想していた通りになるであろうとの言葉を貰う。
「そうですか、自分がやったことが裏目に出なくて良かったですよ」
「君が沢山の魔石を持って来ていた理由が未探索のエリアを見つけていたからとはね……今更だけど独占はしなくて良かったの?」
「今の1階層の状況を変えるために始めたことだったので。これで僕たちFクラスや他の初心者パーティーが助かるのならそれで良いんですよ」
実際には妹たちの試験を助けるためという別の目的も存在していたが、それをこの場で話す必要はないだろう。
「いや~それにしても君はよく新しいエリアを見つけられたね。他の生徒の話では見た目は完全に行き止まりだったって聞いたけど?」
「それに関しては本当に偶然、偶々、運が良かっただけですよ」
実際には何故か僕の目には壁などは映っていなかったため簡単に未探索エリアを発見することが出来たのだが、それを他人に隠しておきたい僕はこれでもかと偶然であることを強調する。いくら僕の表情を読み取れる隠岐さんであったとしても、このようなふざけたような態度からでは秘密がバレることはないはずだ。
「え~教えてくれてもいいのに……まあいいか。魔石の買取が増えたことでこっちも助かってることだし」
「買取の量が増えると助かるんですか?」
「それはもちろん。今は何処もかしこも魔石不足だからね。スライムのしょぼい魔石だとしてもあるに越したことはないんだよ」
どうやら魔素を利用したインフラや魔道具の研究開発などにより魔石の用途は幅広いようで、魔素の量が少ないスライムの魔石であったとしても需要はあるようだ。
この学園ダンジョンから産出されて購買で買取をしたアイテムや魔石の所有権は、学園を運営している企業団体にあるらしい。そこから国と取引をして売却をするか、それともそのまま企業団体で利用をするかの流れになるらしいが、魔石は出来るだけ研究に回したいので魔石の買取量が増えるのは喜ばしいことのようだ。
「……もしかしてですけど、隠岐さんはただの購買の店員ではないんですか?」
「僕は企業団体から派遣されてる職員だよ。あれ?言ってなかったっけ?」
「たぶん、初耳ですね」
ただの購買の店員にしては学園や学園ダンジョンの管理母体である企業団体の内部事情に詳しすぎると思ってはいたが、隠岐さんはその企業団体の職員であったようだ。さきほどのダンジョンの権利の件も企業団体の内部を知っているが故の発言であったのだろう。
もしかすると以前デバイスを修理してくれたツテというのも企業団体の人であり、悪魔型モンスターの魔石と角を買い取ってくれたのも企業団体なのかもしれない。……そう考えると隠岐さんは木っ端職員ではなく、ある程度の地位にいると考えられる。
「ほら、もうすぐ午後の授業が始まっちゃうよ。学生は勉学に励まないとね」
「あれ?もうそんな時間?すいません隠岐さん、失礼します!」
隠岐さんに指摘され時計を確認すると、3つの針が示しているのは午後の授業にギリギリ間に合うかどうかの時間であった。本来聞こえるはずの予鈴が聞こえなかったことで防音性能を示して見せた買取所のブースを慌てて飛び出し、走らないギリギリの速度で教室へ向かうのであった。
「それじゃあ霜月さん。今日はよろしくね」
「うん。よろしく」
ロッカールームで探索用の装備に着替えた後、学園ダンジョン前の広場で霜月さんと合流をする。今日はパーティー結成後初のダンジョン探索となっており、入場申請をする際のパーティー欄に霜月さんの名前を記入した時には少し感動してしまったほどだ。
合流を果たした霜月さんは白いローブで身を包んでおり両手で木製の杖を抱えていた。ローブにはフードもついているため回復魔法が得意そうな見た目であるが、彼女は氷魔法を使用するので何かしらのギャップを感じてしまう。……しかし、でかい鈍器をもって殴り掛かるよりはいくぶんかマシだろう。
「そのローブは購買で買ったの?」
「ううん、前から家にあったから持ってきた。……似合う?」
「うん。サイズもピッタリだし似合ってるよ」
「……ちょっとずれてる気がする」
ダンジョンに入った後に彼女の着ていたローブはレンタル品で見た記憶がなかったので購入をしたものかと確認をとってみたのだが、どうやら家にあった物を持ってきたらしい。たまたまあったものにしては上質なローブのように見えるため、前々から冒険者になった際のために準備をしていたのだろう。全体的にだぶついていることもなく彼女の体にフィットしているように見えるのだが、彼女の少し不満気な表情と言葉を聞いた感じではジャストフィットというわけではなさそうである。
「さあ!今日はスライムと戦闘して連携の確認をします!……というわけで早速だけどモンスターを探しに行こうか」
「わかった」
気を取り直すように声を張ることで先ほどの微妙な空気を取り払う。今日はパーティーの連携を練習するためにダンジョンに来たのに、このような雑談でつまずくわけにはいかない。と言ってもまずはモンスターを見つけなければ話にならないため、少し考えた後に元々は未探索であったエリアに向けて足を進めることにした。
(上位クラスの連中がまだ狩場を独占しているかもしれないし、無駄足になる可能性もあるからなぁ……)
上位クラスの嫌がらせが未だに続いている可能性を考慮して、狩場の候補が多い新エリアであれば問題なく戦闘訓練を行えるだろうと判断する。考え事をしていて皆には見えている壁のことを失念していたが、霜月さんは何のリアクションもなく通り抜けたので僕が壁のことを思い出すことはなかったのであった。
昼休みに地図のお礼の件も兼ねて隠岐さんのもとを訪れ、昨日からずっと心配になっていたダンジョンの管理母体の話をすると、すみれちゃんが予想していた通りになるであろうとの言葉を貰う。
「そうですか、自分がやったことが裏目に出なくて良かったですよ」
「君が沢山の魔石を持って来ていた理由が未探索のエリアを見つけていたからとはね……今更だけど独占はしなくて良かったの?」
「今の1階層の状況を変えるために始めたことだったので。これで僕たちFクラスや他の初心者パーティーが助かるのならそれで良いんですよ」
実際には妹たちの試験を助けるためという別の目的も存在していたが、それをこの場で話す必要はないだろう。
「いや~それにしても君はよく新しいエリアを見つけられたね。他の生徒の話では見た目は完全に行き止まりだったって聞いたけど?」
「それに関しては本当に偶然、偶々、運が良かっただけですよ」
実際には何故か僕の目には壁などは映っていなかったため簡単に未探索エリアを発見することが出来たのだが、それを他人に隠しておきたい僕はこれでもかと偶然であることを強調する。いくら僕の表情を読み取れる隠岐さんであったとしても、このようなふざけたような態度からでは秘密がバレることはないはずだ。
「え~教えてくれてもいいのに……まあいいか。魔石の買取が増えたことでこっちも助かってることだし」
「買取の量が増えると助かるんですか?」
「それはもちろん。今は何処もかしこも魔石不足だからね。スライムのしょぼい魔石だとしてもあるに越したことはないんだよ」
どうやら魔素を利用したインフラや魔道具の研究開発などにより魔石の用途は幅広いようで、魔素の量が少ないスライムの魔石であったとしても需要はあるようだ。
この学園ダンジョンから産出されて購買で買取をしたアイテムや魔石の所有権は、学園を運営している企業団体にあるらしい。そこから国と取引をして売却をするか、それともそのまま企業団体で利用をするかの流れになるらしいが、魔石は出来るだけ研究に回したいので魔石の買取量が増えるのは喜ばしいことのようだ。
「……もしかしてですけど、隠岐さんはただの購買の店員ではないんですか?」
「僕は企業団体から派遣されてる職員だよ。あれ?言ってなかったっけ?」
「たぶん、初耳ですね」
ただの購買の店員にしては学園や学園ダンジョンの管理母体である企業団体の内部事情に詳しすぎると思ってはいたが、隠岐さんはその企業団体の職員であったようだ。さきほどのダンジョンの権利の件も企業団体の内部を知っているが故の発言であったのだろう。
もしかすると以前デバイスを修理してくれたツテというのも企業団体の人であり、悪魔型モンスターの魔石と角を買い取ってくれたのも企業団体なのかもしれない。……そう考えると隠岐さんは木っ端職員ではなく、ある程度の地位にいると考えられる。
「ほら、もうすぐ午後の授業が始まっちゃうよ。学生は勉学に励まないとね」
「あれ?もうそんな時間?すいません隠岐さん、失礼します!」
隠岐さんに指摘され時計を確認すると、3つの針が示しているのは午後の授業にギリギリ間に合うかどうかの時間であった。本来聞こえるはずの予鈴が聞こえなかったことで防音性能を示して見せた買取所のブースを慌てて飛び出し、走らないギリギリの速度で教室へ向かうのであった。
「それじゃあ霜月さん。今日はよろしくね」
「うん。よろしく」
ロッカールームで探索用の装備に着替えた後、学園ダンジョン前の広場で霜月さんと合流をする。今日はパーティー結成後初のダンジョン探索となっており、入場申請をする際のパーティー欄に霜月さんの名前を記入した時には少し感動してしまったほどだ。
合流を果たした霜月さんは白いローブで身を包んでおり両手で木製の杖を抱えていた。ローブにはフードもついているため回復魔法が得意そうな見た目であるが、彼女は氷魔法を使用するので何かしらのギャップを感じてしまう。……しかし、でかい鈍器をもって殴り掛かるよりはいくぶんかマシだろう。
「そのローブは購買で買ったの?」
「ううん、前から家にあったから持ってきた。……似合う?」
「うん。サイズもピッタリだし似合ってるよ」
「……ちょっとずれてる気がする」
ダンジョンに入った後に彼女の着ていたローブはレンタル品で見た記憶がなかったので購入をしたものかと確認をとってみたのだが、どうやら家にあった物を持ってきたらしい。たまたまあったものにしては上質なローブのように見えるため、前々から冒険者になった際のために準備をしていたのだろう。全体的にだぶついていることもなく彼女の体にフィットしているように見えるのだが、彼女の少し不満気な表情と言葉を聞いた感じではジャストフィットというわけではなさそうである。
「さあ!今日はスライムと戦闘して連携の確認をします!……というわけで早速だけどモンスターを探しに行こうか」
「わかった」
気を取り直すように声を張ることで先ほどの微妙な空気を取り払う。今日はパーティーの連携を練習するためにダンジョンに来たのに、このような雑談でつまずくわけにはいかない。と言ってもまずはモンスターを見つけなければ話にならないため、少し考えた後に元々は未探索であったエリアに向けて足を進めることにした。
(上位クラスの連中がまだ狩場を独占しているかもしれないし、無駄足になる可能性もあるからなぁ……)
上位クラスの嫌がらせが未だに続いている可能性を考慮して、狩場の候補が多い新エリアであれば問題なく戦闘訓練を行えるだろうと判断する。考え事をしていて皆には見えている壁のことを失念していたが、霜月さんは何のリアクションもなく通り抜けたので僕が壁のことを思い出すことはなかったのであった。
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