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第86話 大河参謀による事前対策
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「さて、僕たちの相手はいなくなったことだし……ひとまず皆に合流しようか」
「むぅ……少し物足りない」
「まあまあ、援護が来る前に片付いたんだからいいことだよ。予定よりいい働きをしたということだからね」
思った以上に戦闘が早く終わってしまった事を不満に思っているであろう霜月さんを言葉巧みに何とか宥める。僕も分断のために中途半端に体を動かしただけで、戦闘自体はあっさりと終わってしまったことにがっかりしているが、それを表情に出さないように気を付ける。
「連携……見せつけたかった」
そもそも霜月さんは御子柴君の開幕の魔法を防いだり、結果的ではあるが時間稼ぎをする予定の相手を倒したりなど今回のMVPと言えるほどの大活躍をしているので、そこまで不満を持つ必要はないだろう。そう思ったのだがどうやら彼女は僕との連携を先ほどの彼もしくは観客に見せつけたかったようである。これからも決闘をする機会があるとすると手の内をさらすのはあまり良くないと思うのだが、それを踏まえてもダンジョンで練習した連携を披露したかったのだろう。
「まぁ、今は無理でもいずれ機会が訪れると思うよ」
「……それならいい」
問題を先送りにするような希望的観測の説得が効いたのか、少なからず霜月さんの不満が解消されたようだ。僕としてはそのような機会はもう訪れないことを望んでいるのだが、この発言の責任を取らなければならない未来が訪れるような気がしてならない。
そのような嫌な想像を膨らませている横で霜月さんは手に持っている杖と背中に背負っていた杖を持ち替える。そして手に持った杖に魔力を流し込み、僕たちを囲う炎の壁に向かって水球を放ち包囲の一部に穴をあける。
「……いこ?」
先導してくれる霜月さんと共に先ほどの魔法で空けた穴を通り抜け、炎の壁で分断されていた後続組と合流を果たす。後続組の10人程は霜月さんが持っていたものと同じ形の杖を手にしており、僕たちを分断している炎の壁に向かって水球を放つことで消火活動に励んでいる。おそらく先ほど彼女が僕と合流した際も今のように彼らが助力をしてくれたのだろう。
「みんな、頑張ってる」
「そうだね。……僕は手伝えないからどうしようかな?」
霜月さんも持っているこの杖は魔法訓練場に配備されている魔法訓練用の魔道具であり、このような状況に備えて拝借してきていたのだ。この勝手に借りてきた杖を魔力に自信のある人が持つことで炎の壁を消しながらスムーズに合流を図ったというわけである。
なぜこのような展開になることが予想出来ていたのかというと、僕たちは事前に御子柴君がこの炎の壁の魔法を使うことを知っていたためである。……そう、入学式の日に亀井君達を騙してダンジョン内で置き去りにしたのは御子柴君達であったのだ。そしてこの魔法で僕たちを分断してくるという予測を立て、魔力を流すことで水の魔法が使用できる魔道具を利用するという対策を練っていたのであった。
当然この作戦を立案したのはトラ君であり、現状は彼の予想通りの展開を辿っていると言える。相手の分断の策を事前の準備で無効化しつつ、こちらの数の利を活かした各個撃破で確実に相手の戦力を削っている。唯一の予想通りになっていないことがあるとすれば、僕たちがふたりだけで相手をあっさりと倒してしまった事だけなのではないだろうか。
個人的な事情で魔道具を使用できない僕は今の戦況では特にやることがなく、気分は完全に観戦モードに入っていて後方で全体の戦況を見渡している。
「初めに少し遅れたのはなんで?」
「うん?普通に出遅れただけだよ」
「……ふ~ん」
隣で同じく観戦に入っている霜月さんは決闘開始時に僕がワンテンポ遅らせてから相手に接近を仕掛けたところを見ていたようで、なぜそのような事をしたのか質問をしてくる。決闘前の彼女の緊張をほぐすためとはいえフォローをすると口にした手前、最初の火の玉を防げなかったときのために残ったのだが、彼女を信用していなかったとも捉えかれかねないので適当に誤魔化す。……しかし続く彼女の反応を見る限りではバレていそうだ。
「霜月さんはもう行かなくていいの?」
「うん。私もここにいる……パーティーだから」
話題を反らすために皆の手伝いをしに行かないのか霜月さんに尋ねるが、どうやらパーティーメンバーである僕がここにいる限り彼女もここを動く気はないらしい。正直魔法が使えて魔力が豊富な彼女であれば、炎の壁の消火や後方から援護が出来るので僕とは違い十分戦力になるはずである。
……冷静に考えるとそんな彼女をこんな場所に留めていておいて良いわけはないのだが、決闘開始時から大活躍をしていたので少しぐらい休んでいてもバチは当たらないだろうと勝手に判断する。
(僕が動けばついてくるみたいだし、皆が危なくなったら助けに行けばいいかな)
相手で一番戦力がある御子柴君をトラ君達が上手く抑えているため、戦況は少しづつこちらの有利に傾き始めている。霜月さんというFクラスの最大戦力を巻き込んでしまっていることは申し訳なく思うが、危なくなってきたら手を貸すつもりで当初の予定通り皆の頑張りに任せて後ろで見学を始めることにした。
「むぅ……少し物足りない」
「まあまあ、援護が来る前に片付いたんだからいいことだよ。予定よりいい働きをしたということだからね」
思った以上に戦闘が早く終わってしまった事を不満に思っているであろう霜月さんを言葉巧みに何とか宥める。僕も分断のために中途半端に体を動かしただけで、戦闘自体はあっさりと終わってしまったことにがっかりしているが、それを表情に出さないように気を付ける。
「連携……見せつけたかった」
そもそも霜月さんは御子柴君の開幕の魔法を防いだり、結果的ではあるが時間稼ぎをする予定の相手を倒したりなど今回のMVPと言えるほどの大活躍をしているので、そこまで不満を持つ必要はないだろう。そう思ったのだがどうやら彼女は僕との連携を先ほどの彼もしくは観客に見せつけたかったようである。これからも決闘をする機会があるとすると手の内をさらすのはあまり良くないと思うのだが、それを踏まえてもダンジョンで練習した連携を披露したかったのだろう。
「まぁ、今は無理でもいずれ機会が訪れると思うよ」
「……それならいい」
問題を先送りにするような希望的観測の説得が効いたのか、少なからず霜月さんの不満が解消されたようだ。僕としてはそのような機会はもう訪れないことを望んでいるのだが、この発言の責任を取らなければならない未来が訪れるような気がしてならない。
そのような嫌な想像を膨らませている横で霜月さんは手に持っている杖と背中に背負っていた杖を持ち替える。そして手に持った杖に魔力を流し込み、僕たちを囲う炎の壁に向かって水球を放ち包囲の一部に穴をあける。
「……いこ?」
先導してくれる霜月さんと共に先ほどの魔法で空けた穴を通り抜け、炎の壁で分断されていた後続組と合流を果たす。後続組の10人程は霜月さんが持っていたものと同じ形の杖を手にしており、僕たちを分断している炎の壁に向かって水球を放つことで消火活動に励んでいる。おそらく先ほど彼女が僕と合流した際も今のように彼らが助力をしてくれたのだろう。
「みんな、頑張ってる」
「そうだね。……僕は手伝えないからどうしようかな?」
霜月さんも持っているこの杖は魔法訓練場に配備されている魔法訓練用の魔道具であり、このような状況に備えて拝借してきていたのだ。この勝手に借りてきた杖を魔力に自信のある人が持つことで炎の壁を消しながらスムーズに合流を図ったというわけである。
なぜこのような展開になることが予想出来ていたのかというと、僕たちは事前に御子柴君がこの炎の壁の魔法を使うことを知っていたためである。……そう、入学式の日に亀井君達を騙してダンジョン内で置き去りにしたのは御子柴君達であったのだ。そしてこの魔法で僕たちを分断してくるという予測を立て、魔力を流すことで水の魔法が使用できる魔道具を利用するという対策を練っていたのであった。
当然この作戦を立案したのはトラ君であり、現状は彼の予想通りの展開を辿っていると言える。相手の分断の策を事前の準備で無効化しつつ、こちらの数の利を活かした各個撃破で確実に相手の戦力を削っている。唯一の予想通りになっていないことがあるとすれば、僕たちがふたりだけで相手をあっさりと倒してしまった事だけなのではないだろうか。
個人的な事情で魔道具を使用できない僕は今の戦況では特にやることがなく、気分は完全に観戦モードに入っていて後方で全体の戦況を見渡している。
「初めに少し遅れたのはなんで?」
「うん?普通に出遅れただけだよ」
「……ふ~ん」
隣で同じく観戦に入っている霜月さんは決闘開始時に僕がワンテンポ遅らせてから相手に接近を仕掛けたところを見ていたようで、なぜそのような事をしたのか質問をしてくる。決闘前の彼女の緊張をほぐすためとはいえフォローをすると口にした手前、最初の火の玉を防げなかったときのために残ったのだが、彼女を信用していなかったとも捉えかれかねないので適当に誤魔化す。……しかし続く彼女の反応を見る限りではバレていそうだ。
「霜月さんはもう行かなくていいの?」
「うん。私もここにいる……パーティーだから」
話題を反らすために皆の手伝いをしに行かないのか霜月さんに尋ねるが、どうやらパーティーメンバーである僕がここにいる限り彼女もここを動く気はないらしい。正直魔法が使えて魔力が豊富な彼女であれば、炎の壁の消火や後方から援護が出来るので僕とは違い十分戦力になるはずである。
……冷静に考えるとそんな彼女をこんな場所に留めていておいて良いわけはないのだが、決闘開始時から大活躍をしていたので少しぐらい休んでいてもバチは当たらないだろうと勝手に判断する。
(僕が動けばついてくるみたいだし、皆が危なくなったら助けに行けばいいかな)
相手で一番戦力がある御子柴君をトラ君達が上手く抑えているため、戦況は少しづつこちらの有利に傾き始めている。霜月さんというFクラスの最大戦力を巻き込んでしまっていることは申し訳なく思うが、危なくなってきたら手を貸すつもりで当初の予定通り皆の頑張りに任せて後ろで見学を始めることにした。
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