異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第90話 高等部生徒会長

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 御子柴君を取り押さえた男性は彼を引き渡しをした後、ゆっくりと歩いてこちらに向かってくる。男性に敵意は見られないが、僕の周りにいた亀井君たちは少し警戒した様子を見せている。

「助けに入るのが遅れてすまんな」

「いえ、ありがとうございます。えっと……」

「ああ、俺としたことが名乗るのを忘れていたな。高等部生徒会長を務める桐生きりゅうだ。よろしくな、小鳥遊優人」

 目の前の男性が誰かわからず困っていることを察してくれた桐生さんは自己紹介をしてくれる。今まで関わりがなかったので高等部にも生徒会があることを初めて知ったが、よくよく考えれば当然のことであろう。……それよりも初めて会うはずの桐生さんがなぜ僕の名前を知っているのだろうか?

「さて、先ほどの魔法で怪我はしていないか?」

「あ、大丈夫……だと思います。……えっと、霜月さん?」

「…………」

 怪我を心配してくれている桐生さんに右手が無事であることを証明しようとするが、ここでようやく先ほどから右手を握っていたのが霜月さんであることを認識する。ひとまず手を放してもらおうと声をかけるが、彼女は何の反応も返さず俯いてしまっているため表情も読み取れない。

「ふむ。まあ怪我のほうは大丈夫そうだな。もし問題がありそうであれば医務室に行くといい。……そんな必要はなさそうだがな」

「そうさせてもらいます……」

 霜月さんが手を放してくれなかったので少し気まずい雰囲気になってしまったが、怪我は特に問題がないということで話が落ち着いた。実際に身体強化エンハンスの魔法を使用していたので前回のダンジョン同様、大した怪我はないはずである。

「会長。御子柴はどうしますか?」

「お前のほうで学園に引き渡しておけ。……このような状況では流石にあいつ等も擁護は出来ないだろう」

「了解です」

 生徒会のメンバーと思われる細身の男子が御子柴君の扱いを確認しに来る。このような衆人環視の場で魔法を放ってしまった彼を学園が庇うことはないようで、最悪の場合は退学扱いになるようである。……逆に言えばこのような場でなければ学園は黙認するということを知ってしまい、少なからずショックを受けてしまう。きっとこれには御子柴君がAクラスで僕たちがFクラスということが大いに関係しているのだろう。

「そうそう、小鳥遊には俺の……妹が世話になっているようだな。これからもよろしく頼む」

 用事が済んだ桐生さんは去り際に僕にお礼を告げてくる。しかし僕の知り合いに桐生という苗字の人物はおらず、全くと言って心当たりはなかった。……もしかすると以前の『小鳥遊優人』の知り合いなのかもしれないため、少し調べる必要があるかもしれない。

「……小鳥遊は良くあんな普通に話せたな。俺なんかオーラ?みたいなものに圧倒されて動けなかったぜ」

「たしかに、圧みたいなものがあったね……」

「私も……ほら、手が震えてる……」

 桐生さんが立ち去ると周りの皆が一度息を吐き出す。どうやら皆が動かなかったのは桐生さんを警戒していたわけではなく、彼が発している圧のようなものに委縮してしまっていたからのようで、洋平君の言葉にトラ君と雀野さんが賛同している。

(以前栗林さんのところで教えてもらった威圧みたいなものか?……でもあの時に感じた敵意のようなものはなかったよな)

 皆が桐生さんから感じた圧は中等部生徒会室で僕が受けた威圧と同じものかと考えたが、あの時のような敵意を彼からは感じられなかった。そのため上級生との会話に皆が緊張してしまったのだろう、ということで頭を切り替える。僕が彼との会話で固くならなかったのは、それ以上に緊張することが起きていたからだろう。

「……霜月さん。そろそろ……」

「……うん」

 時間を置いて声をかけたところでようやく彼女が掴んでいた手を放してくれ、皆の前で手を握っていた緊張から解放される。しかし同時に先ほどまで感じていた安心感のようなものも無くなってしまい、惜しいことをしてしまったと思ってしまう。

「霜月、何かあったのか?」

「……なんか小鳥遊君が、どこかに行っちゃう気がして」

「?よくわからんけどお前らはいつも一緒にいるし、優人は勝手に霜月から離れるようなやつじゃないだろ」

「お前は……。わからないなら適当な事を言うな」

 洋平君が霜月さんの様子を心配して声をかけるが、彼女も自分の行動に明確な意思があったわけではないらしく返答はイマイチ要領を得なかった。……亀井君が苦言を呈している彼の言葉から察するに、僕と霜月さんはセットのような扱いを受けているようで、仲良し3人組にそれを言われることは少し納得がいかない。

「まぁ、何はともあれ決闘は勝利で終わったわけだし、今日はこれで解散しようよ」

「そうだね。それじゃあ僕は皆にも解散を伝えてくるよ。小鳥遊君は一応医務室に寄って行ってくんだよ」

 この決闘騒ぎの後に訓練もダンジョン探索もする気は起きなかったので、解散を提案するとトラ君も同意してくれる。しかし彼が去り際に医務室に向かうよう釘を刺してきたため、そのまま帰るわけにはいかなくなってしまった。

「私も付き添う」

 当然のようについてくる霜月さんと一緒に医務室へ向かうことにする。普通に考えればこういうところが僕と彼女がセットのように扱われる要因なのだが、何の意識もしていない僕がそれに気づくことはなかった。

 決着後にひと悶着がありはしたが、こうして本当の意味でFクラスの決闘は終わりを告げた。……しかしそれはFクラスの安寧を約束するものではなかった。

「……思った以上に厄介そうだな。利用できるなら便利そうだけど……どうしよっかな」

 決闘の一部始終を見ていた彼は想像以上の力を持っている外部生に警戒心を抱きながらも、自分の計画にどのように利用するかを画策していく。その策謀に誰も気づくことは出来ず、Fクラスは更に深く策略の渦に飲み込まれていくのであった。
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