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第91話 隠しておくべき情報
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「勝利おめでとう」
「……どうして栗林さんがここにいるのかな?」
「もちろん、兄君の怪我の具合を確認するために決まってるじゃないか」
「そんなに心配してもらうほど大した怪我はしてないけど?」
御子柴君の魔法を受けた右手の怪我は大したことないのだが皆に念を押されてしまったので、とりあえず医務室を訪れるとそこには何故か栗林さんが待っていた。
僕の怪我について知っている彼女は最後まで決闘場にいたことになるので、どうやら僕たちより早く医務室に向かっていたようだ。しかし怪我の具合を確認するだけであれば、わざわざ待ち伏せのような真似をせずともあの場で済ませてしまっても良かったのではないだろうか。
「ふむ……さては兄君、なぜ私がこのような回りくどいことをしているのか見当がついていないな?」
「まぁ……そうだね」
恐らく栗林さんが何故二度手間のようなことをしたのか疑問に思っていたことが僕の態度や表情に出ていたのだろう、彼女は優しく問いかけるように質問をしてくる。そして僕が理解をしていないことを確認すると、一緒に医務室に入ってきた霜月さんには聞こえないように小声で会話を続けてくる。
「……確認なんだが、彼女には兄君の魔法のことを話しても大丈夫なのかい?」
「なるほど。もちろん霜月さんには話しても問題ないよ」
「そうか。それでは彼女も含めて説明をしてしまおう」
どうやら彼女の謎の行動は僕が使用する身体強化の魔法と関係があるようで、僕の少し後ろを付いてきた霜月さんに知られても良いのか確認を取ってくる。以前道場で口にした他言しないという約束を果たそうとしての行動だと理解し、律儀にも約束を守ろうとしてくれている彼女に感心する。……そして続く彼女の説明を聞いて僕は頭を抱えそうになった。
栗林さんの話によると、どうやら先ほど僕が受け止めた青い火の玉は御子柴君の奥の手であったようで、何の対策もしていなければ鉄製の防具でさえ溶かしてしまう代物であったらしい。そんな魔法を素手で受け止めたうえに無傷であったということをあの場で確認すると、僕の力のことを多くの観客前で晒してしまうことになる恐れがあったようだ。
そこで栗林さんは僕が医務室で治療を受けたということにするため、先回りをして教諭の人に席を外してもらい情報が漏れないように気を配ってくれたようだ。
正直彼の魔法がそこまで強力なものだとは思っていなかったので気が回らなかったが、もしあの場で無傷であることがバレてしまったら秘密を探ろうとする輩が出てきたかもしれない。これ以上僕のことを探ってくる人が増えるのは勘弁なので彼女の気遣いに感謝をする。
「そういう事だったのか……。ありがとう栗林さん。正直助かる」
「なに、兄君には世話になっているからな。しかし……本当に怪我はないのだな」
栗林さんは特に傷一つ見当たらない僕の手を確認しながら感心したようにつぶやく。今回は不意打ちではあったが魔法を使用するまでの十分な猶予があったため、木嶋君の時のような火傷を負わずに済んだ。話を聞いた限りでは御子柴君の魔法のほうが威力が高そうではあるが、修行の際に受けていた師匠が手加減を加えたそれと比べても大したことはないだろう。
「それにしても、僕が医務室に来ることがよくわかったね」
「ん?私の伝言を聞いて来たわけではないのか?」
「そうだね。高等部生徒会長の桐生さんに勧められたのがきっかけになるかな」
僕が医務室を訪れることの発端となったのは、あの時声をかけてきた桐生さんが医務室の存在を口にしたからである。その後の皆の後押しがなかったら来ることはなかったのだが、栗林さんの伝言というものには心当たりはない。
「そうか……。どうやら行き違いがあったようだが結果は変わらなかったので良しとしよう」
少し考える素振りを見せた栗林さんだが、結果的に僕が医務室を訪れここで治療を受けたという体裁を守ることが出来たので、それで納得をしたようだ。
しかし今思い返してみると僕は桐生さんとの会話で怪我は大したことはないと口にしており、あの場にいた亀井君達もその言葉を聞いていただろう。口ぶりから怪我をしていないことに気づいていそうであったので桐生さんは諦めるしかないのだが、亀井君達に関しては何かしら誤魔化す手段を考えないといけないかもしれない。……幸い霜月さんが手を握ってくれていたおかげで彼らに怪我を直接見られたわけではないため、大分無理はあるが僕がやせ我慢をしていただけということで押し通すことにしよう。
ふと隣にいる霜月さんに視線を向けると、少し残念そうにしている気配を感じとる。しかし、彼女がそのような反応をしてしまうようなことに心当たりはなく、頭をフル回転させていると栗林さんが神妙な面持ちで口を開く。
「今回の決闘の件をこちらで出来るだけ調べたのだが、不審な点がいくつかあった。もしかすると御子柴も嵌められたのかもしれない」
「え?どういうこと?」
「つまり今回の決闘は御子柴の裏にいる誰かが、何らかの目的を果たすために仕組んだものである可能性が高い……ということになる」
彼女の口から出てきた意外な言葉を聞き困惑をしてしまう。決闘を仕掛けてきた御子柴君も実は被害者であったのだろうか?
そして栗林さんが独自の情報網で調べた情報とそこから導き出される推測に、霜月さんと共に耳を傾けるのであった。
「……どうして栗林さんがここにいるのかな?」
「もちろん、兄君の怪我の具合を確認するために決まってるじゃないか」
「そんなに心配してもらうほど大した怪我はしてないけど?」
御子柴君の魔法を受けた右手の怪我は大したことないのだが皆に念を押されてしまったので、とりあえず医務室を訪れるとそこには何故か栗林さんが待っていた。
僕の怪我について知っている彼女は最後まで決闘場にいたことになるので、どうやら僕たちより早く医務室に向かっていたようだ。しかし怪我の具合を確認するだけであれば、わざわざ待ち伏せのような真似をせずともあの場で済ませてしまっても良かったのではないだろうか。
「ふむ……さては兄君、なぜ私がこのような回りくどいことをしているのか見当がついていないな?」
「まぁ……そうだね」
恐らく栗林さんが何故二度手間のようなことをしたのか疑問に思っていたことが僕の態度や表情に出ていたのだろう、彼女は優しく問いかけるように質問をしてくる。そして僕が理解をしていないことを確認すると、一緒に医務室に入ってきた霜月さんには聞こえないように小声で会話を続けてくる。
「……確認なんだが、彼女には兄君の魔法のことを話しても大丈夫なのかい?」
「なるほど。もちろん霜月さんには話しても問題ないよ」
「そうか。それでは彼女も含めて説明をしてしまおう」
どうやら彼女の謎の行動は僕が使用する身体強化の魔法と関係があるようで、僕の少し後ろを付いてきた霜月さんに知られても良いのか確認を取ってくる。以前道場で口にした他言しないという約束を果たそうとしての行動だと理解し、律儀にも約束を守ろうとしてくれている彼女に感心する。……そして続く彼女の説明を聞いて僕は頭を抱えそうになった。
栗林さんの話によると、どうやら先ほど僕が受け止めた青い火の玉は御子柴君の奥の手であったようで、何の対策もしていなければ鉄製の防具でさえ溶かしてしまう代物であったらしい。そんな魔法を素手で受け止めたうえに無傷であったということをあの場で確認すると、僕の力のことを多くの観客前で晒してしまうことになる恐れがあったようだ。
そこで栗林さんは僕が医務室で治療を受けたということにするため、先回りをして教諭の人に席を外してもらい情報が漏れないように気を配ってくれたようだ。
正直彼の魔法がそこまで強力なものだとは思っていなかったので気が回らなかったが、もしあの場で無傷であることがバレてしまったら秘密を探ろうとする輩が出てきたかもしれない。これ以上僕のことを探ってくる人が増えるのは勘弁なので彼女の気遣いに感謝をする。
「そういう事だったのか……。ありがとう栗林さん。正直助かる」
「なに、兄君には世話になっているからな。しかし……本当に怪我はないのだな」
栗林さんは特に傷一つ見当たらない僕の手を確認しながら感心したようにつぶやく。今回は不意打ちではあったが魔法を使用するまでの十分な猶予があったため、木嶋君の時のような火傷を負わずに済んだ。話を聞いた限りでは御子柴君の魔法のほうが威力が高そうではあるが、修行の際に受けていた師匠が手加減を加えたそれと比べても大したことはないだろう。
「それにしても、僕が医務室に来ることがよくわかったね」
「ん?私の伝言を聞いて来たわけではないのか?」
「そうだね。高等部生徒会長の桐生さんに勧められたのがきっかけになるかな」
僕が医務室を訪れることの発端となったのは、あの時声をかけてきた桐生さんが医務室の存在を口にしたからである。その後の皆の後押しがなかったら来ることはなかったのだが、栗林さんの伝言というものには心当たりはない。
「そうか……。どうやら行き違いがあったようだが結果は変わらなかったので良しとしよう」
少し考える素振りを見せた栗林さんだが、結果的に僕が医務室を訪れここで治療を受けたという体裁を守ることが出来たので、それで納得をしたようだ。
しかし今思い返してみると僕は桐生さんとの会話で怪我は大したことはないと口にしており、あの場にいた亀井君達もその言葉を聞いていただろう。口ぶりから怪我をしていないことに気づいていそうであったので桐生さんは諦めるしかないのだが、亀井君達に関しては何かしら誤魔化す手段を考えないといけないかもしれない。……幸い霜月さんが手を握ってくれていたおかげで彼らに怪我を直接見られたわけではないため、大分無理はあるが僕がやせ我慢をしていただけということで押し通すことにしよう。
ふと隣にいる霜月さんに視線を向けると、少し残念そうにしている気配を感じとる。しかし、彼女がそのような反応をしてしまうようなことに心当たりはなく、頭をフル回転させていると栗林さんが神妙な面持ちで口を開く。
「今回の決闘の件をこちらで出来るだけ調べたのだが、不審な点がいくつかあった。もしかすると御子柴も嵌められたのかもしれない」
「え?どういうこと?」
「つまり今回の決闘は御子柴の裏にいる誰かが、何らかの目的を果たすために仕組んだものである可能性が高い……ということになる」
彼女の口から出てきた意外な言葉を聞き困惑をしてしまう。決闘を仕掛けてきた御子柴君も実は被害者であったのだろうか?
そして栗林さんが独自の情報網で調べた情報とそこから導き出される推測に、霜月さんと共に耳を傾けるのであった。
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