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第92話 裏で糸を引いている人物
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僕たち3人しかいない医務室で栗林さんが今回の決闘を不審に思った点を話しはじめる。
「まず、今回の決闘は申請されてから決行までの期間が短すぎる」
「それは僕も思ってたけど……普通はどれくらい時間が空くものなの?」
「過去の例を挙げるとするならば……最短でも3日は間がとられていたな」
僕たちは御子柴君に決闘を申し込まれたその日に決闘を行ったのだが、本来であればある程度の準備期間が設けられるらしい。これは決闘をする当人たちが準備する時間でもあるのだが、学園側が決闘場の整備をする時間でもあるらしい。僕も申し込まれてから実際に決闘を行うまですごい勢いで話が進むものだと思っていたのだが、どうやら今回のことがイレギュラーでその日のうちに決闘が行われるのは前代未聞であるようだ。
しかしこれだけでは御子柴君の裏に今回の決闘を仕組んだ黒幕がいるというにはまだ早いだろう。実際に学園から僕たちFクラスが受けている対応を考えると、これぐらいの嫌がらせに近い行為は平気でやってきそうである。
「当然それだけではないぞ。今回の決闘は時間がとれていなかったにも関わらず、互いに随分と準備が良かったのではないか?」
「う~ん。そうはいっても僕たちはありあわせの物で戦ったけどね」
御子柴君の魔道具については何とも言えないが、今朝決闘を申し込まれて時間がなかった僕たちが行った準備と言っても魔法訓練場から魔道具を拝借してきたぐらいのものだ。……そういえば皆はちゃんと魔道具を返却してくれたかな。
「準備とはなにも装備だけの事じゃないさ。例えば兄君達は相手の戦闘スタイルや個人の戦力を事前に把握していて対策を立てていたように見えたが……その元になった情報だって準備に入るとは思わないかい?」
栗林さんの言葉を聞いてすぐに言葉を返せず考え込んでしまう。確かに僕たちは決闘を申し込まれてからそれなりの時間を使って対策を話し合ったので、相手の情報を調べる時間などはなかった。本来であれば対策を立てるためには事前に相手の情報を知っておく必要があるのも関わらずにだ。
何故そのようなことがまかり通ったのかというと、Fクラスには御子柴君たちの情報を事細かに把握している人物がいて、その人物を中心に作戦会議を行ったからである。しかしその人物が裏で糸を引いていたとは考えづらい。
「確かにトラ……大河君が持っていた情報は詳しすぎるとは思ってたけど……」
「別に情報を持っていた人物が怪しいと言っているわけではないよ。ただ……誰かが彼に意図的に情報を流していたのだとしたら?」
「それは……何のために?」
「ここからは私の推測でしかないが……兄君たちの実力を計るためだったのではないかと思っている。情報を与え対策を取らせることで、御子柴たちとの実力差を少しでも埋めようとしたのではないか?」
栗林さんの推測には一定の説得力があり否定することは出来ない。なぜならば事前の情報がなければ僕たちのほとんどは御子柴君の最初の魔法でやられていたからである。それを防ぐか回避できるように情報を与えて、その後の戦闘で実力を確認するという考えは的を得ているのかもしれない。
情報の出処に関してははぐらかされそうではあるが、いずれトラ君に確認しようと心のノートにメモをしておき、続く彼女の推測に耳を傾ける。
「そしておそらくだが、そいつの目的は……霜月さん、あなたの実力を見定めることだと思う」
「……私?」
「ああ。今年の外部生で魔力が多い人物がいるという噂は中等部でも聞こえるほどで、それの人物が誰でどの程度魔力があるのかを実際に確かめようとしたのではないだろうか」
どうやら霜月さんの魔力が多いことは噂になっていたようで、中等部にも広まっているらしい。魔法の授業中にひとりだけ休憩を入れずに魔法を撃ち続けていたこともあったので、それを見た誰かが噂を流してしまったのかもしれない。……中等部に噂が流れているようだが、瑠璃とすみれちゃんはそのような真似はしないため無関係だろう。
そして裏で糸を引いていたと思われる人物は今回の決闘を見て、霜月さんの存在を確認したはずである。しかも御子柴君の魔法を防ぎきるほどの魔法を使えることが把握されてしまっている。決闘の後半は僕と見学をして戦闘をしていないので、魔力がどれほどあるのかは把握されていないだろうが、その人物にとって最低限の目的を達成できていると言っても過言ではないだろう。
その人物の策略によって当て馬にされ、学内ポイントを失ってしまった御子柴君を少し不憫に思ってしまうが、決闘を仕掛けてきたのは彼なので自業自得なのだろう。
「そして前述の準備期間の話も合わせて、このような事を実行出来る人物は限られる」
「その人物というのは?」
「まずは校長。しかし彼は御子柴を焚きつけることは出来ない上に切り捨てるとは思えないので可能性は低い。次は十傑の内の誰か。こちらは学園側にも多少の無理を通せる上にプライドだけが高い御子柴を簡単に焚きつけられる。……まあ後者であるだろうな」
恐らく御子柴君のことが嫌いである栗林さんの予想では、今回の決闘騒ぎの裏で糸を引いていたのは十傑の誰かという可能性が高いようだ。なぜそのような学園のトップ集団の人物から目をつけられることになっているのかはわからないが、これからも霜月さんと一緒に行動をするならば十分気をつけなければならないだろう。
隣に座る霜月さんの表情はいつもと変わらないが、この表情が不安に変わらないように僕はこっそりと気合を入れなおすのであった。
「まず、今回の決闘は申請されてから決行までの期間が短すぎる」
「それは僕も思ってたけど……普通はどれくらい時間が空くものなの?」
「過去の例を挙げるとするならば……最短でも3日は間がとられていたな」
僕たちは御子柴君に決闘を申し込まれたその日に決闘を行ったのだが、本来であればある程度の準備期間が設けられるらしい。これは決闘をする当人たちが準備する時間でもあるのだが、学園側が決闘場の整備をする時間でもあるらしい。僕も申し込まれてから実際に決闘を行うまですごい勢いで話が進むものだと思っていたのだが、どうやら今回のことがイレギュラーでその日のうちに決闘が行われるのは前代未聞であるようだ。
しかしこれだけでは御子柴君の裏に今回の決闘を仕組んだ黒幕がいるというにはまだ早いだろう。実際に学園から僕たちFクラスが受けている対応を考えると、これぐらいの嫌がらせに近い行為は平気でやってきそうである。
「当然それだけではないぞ。今回の決闘は時間がとれていなかったにも関わらず、互いに随分と準備が良かったのではないか?」
「う~ん。そうはいっても僕たちはありあわせの物で戦ったけどね」
御子柴君の魔道具については何とも言えないが、今朝決闘を申し込まれて時間がなかった僕たちが行った準備と言っても魔法訓練場から魔道具を拝借してきたぐらいのものだ。……そういえば皆はちゃんと魔道具を返却してくれたかな。
「準備とはなにも装備だけの事じゃないさ。例えば兄君達は相手の戦闘スタイルや個人の戦力を事前に把握していて対策を立てていたように見えたが……その元になった情報だって準備に入るとは思わないかい?」
栗林さんの言葉を聞いてすぐに言葉を返せず考え込んでしまう。確かに僕たちは決闘を申し込まれてからそれなりの時間を使って対策を話し合ったので、相手の情報を調べる時間などはなかった。本来であれば対策を立てるためには事前に相手の情報を知っておく必要があるのも関わらずにだ。
何故そのようなことがまかり通ったのかというと、Fクラスには御子柴君たちの情報を事細かに把握している人物がいて、その人物を中心に作戦会議を行ったからである。しかしその人物が裏で糸を引いていたとは考えづらい。
「確かにトラ……大河君が持っていた情報は詳しすぎるとは思ってたけど……」
「別に情報を持っていた人物が怪しいと言っているわけではないよ。ただ……誰かが彼に意図的に情報を流していたのだとしたら?」
「それは……何のために?」
「ここからは私の推測でしかないが……兄君たちの実力を計るためだったのではないかと思っている。情報を与え対策を取らせることで、御子柴たちとの実力差を少しでも埋めようとしたのではないか?」
栗林さんの推測には一定の説得力があり否定することは出来ない。なぜならば事前の情報がなければ僕たちのほとんどは御子柴君の最初の魔法でやられていたからである。それを防ぐか回避できるように情報を与えて、その後の戦闘で実力を確認するという考えは的を得ているのかもしれない。
情報の出処に関してははぐらかされそうではあるが、いずれトラ君に確認しようと心のノートにメモをしておき、続く彼女の推測に耳を傾ける。
「そしておそらくだが、そいつの目的は……霜月さん、あなたの実力を見定めることだと思う」
「……私?」
「ああ。今年の外部生で魔力が多い人物がいるという噂は中等部でも聞こえるほどで、それの人物が誰でどの程度魔力があるのかを実際に確かめようとしたのではないだろうか」
どうやら霜月さんの魔力が多いことは噂になっていたようで、中等部にも広まっているらしい。魔法の授業中にひとりだけ休憩を入れずに魔法を撃ち続けていたこともあったので、それを見た誰かが噂を流してしまったのかもしれない。……中等部に噂が流れているようだが、瑠璃とすみれちゃんはそのような真似はしないため無関係だろう。
そして裏で糸を引いていたと思われる人物は今回の決闘を見て、霜月さんの存在を確認したはずである。しかも御子柴君の魔法を防ぎきるほどの魔法を使えることが把握されてしまっている。決闘の後半は僕と見学をして戦闘をしていないので、魔力がどれほどあるのかは把握されていないだろうが、その人物にとって最低限の目的を達成できていると言っても過言ではないだろう。
その人物の策略によって当て馬にされ、学内ポイントを失ってしまった御子柴君を少し不憫に思ってしまうが、決闘を仕掛けてきたのは彼なので自業自得なのだろう。
「そして前述の準備期間の話も合わせて、このような事を実行出来る人物は限られる」
「その人物というのは?」
「まずは校長。しかし彼は御子柴を焚きつけることは出来ない上に切り捨てるとは思えないので可能性は低い。次は十傑の内の誰か。こちらは学園側にも多少の無理を通せる上にプライドだけが高い御子柴を簡単に焚きつけられる。……まあ後者であるだろうな」
恐らく御子柴君のことが嫌いである栗林さんの予想では、今回の決闘騒ぎの裏で糸を引いていたのは十傑の誰かという可能性が高いようだ。なぜそのような学園のトップ集団の人物から目をつけられることになっているのかはわからないが、これからも霜月さんと一緒に行動をするならば十分気をつけなければならないだろう。
隣に座る霜月さんの表情はいつもと変わらないが、この表情が不安に変わらないように僕はこっそりと気合を入れなおすのであった。
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