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第93話 決闘の狙い
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「ところで……なんで僕たち、霜月さんの実力を確認する必要があったんだろう?」
先ほどまでの話で学園のトップである十傑のひとりが主に霜月さんの実力を計るため、今回の決闘を裏で操っていたかもしれないということは理解した。しかし、わざわざ御子柴君をけしかけてまで確認する必要があったのかは疑問が残り、気が付けば言葉にしていた。
学園側に多少の無茶を通すことが出来るのであれば教員に授業中の様子を報告してもらったり、自分の目で直接確認したいのであれば週2回行っている放課後の訓練を監視すればよい。さらに言うとデバイスの機能にあるプロフィールを活用すれば最低限の能力の確認はできるはずであり、それらの簡単な手段を捨ててまで彼女の力を確認する目的は何なのだろうか。
「……青田買い?」
隣に座っている霜月さんがいつもの表情で首を傾げながら自らの考えを口にする。彼女の言う通り将来が有望である生徒を探し出して自分のパーティーに勧誘するという線はありそうである。
大抵の人は上位ランクの人からパーティーに誘われた場合に断ることはしないだろう。なぜなら自分より経験や実力のある人たちが周りを固めて、都合よく言えば護衛をしてくれている状態でダンジョン探索が出来るのである。しかも僕たちFクラスは冒険者となって日が浅いため現在組んでいるパーティーにそこまで思い入れはない人も多く、パーティーを抜ける負担も少ないだろう。
もしくは将来ライバルとなりそうな相手を早めに潰すために実力を確認しようとしたのかもしれない。自分より強くなりそうな相手であれば成長される前に徹底的に潰してしまったほうが効率が良い……異世界で僕たちがやられた事と同じである。
(あの時は何とか返り討ちにしたんだっけか。……また考えが少し物騒になって来てるな。気をつけないと)
かつて異世界で経験した事件と結末を思い出しながら、先ほどの決闘の時のように自分の思考が物騒になり始めていることに気が付く。戦闘時の興奮の影響なのかはわからないが、この世界ではこのような思考になるのは危険であるため注意しなければならないだろう。
「……もしかすると近いかもしれないな。兄君達は高等部や学園の状況をどこまで理解している?」
「いや?全然」
「……兄君。以前から学園に不信を抱いていたのであれば少しくらいは調べても良かったのではないか?」
「……面目ない」
以前からFクラスに対する学園側の扱いが酷いと気づいていたのにも関わらず、何の調査もしていないことに対して危機感が足りないと栗林さんに叱られてしまう。年下の女の子に叱られてしまうのは何とも情けない気持ちになるが、忙しくて時間がとれなかったからということにして気分を切り替えようとする。
「……外部生が導入された話?」
「そう、そこから派生する話だな。……どうやら霜月さんは知っていたようだぞ?」
どうやらこの場で危機感が足りていないのは僕だけのようだ。栗林さんの追求の視線から逃れるように自慢げにしている霜月さんの反対側に顔を反らす。……これからは時間が取れなかったという言い訳を使用しないように気をつけよう。
「……まあいい。高等部1年生に外部生を入れるという制度は冒険者の入り口を広くするため、という名目で2年前から導入されたのだが本当の目的は内部生の意識改革なんだ」
「意識改革?」
「そうだ。自分達より実力の劣る外部生を先達として助ける……そのような殊勝なものではなく、力のないものを利用して搾取しろ、実力差を見せつけろ、君たちは選ばれし優れた人間なんだ。……このように口にするのも汚らわしい選民思想を植え付けようとしているのさ」
栗林さんが悲しそうな表情で語る話を聞いてあまりのことに言葉を失ってしまう。あくまでも教育機関のひとつであるこの学園で、いまだ未成熟な子供に対してそのような教育を施していることに理解が追い付かなかった。
「制度が導入される前であった現在の高等部3年生や私が生徒会長になってからの中等部は幾分かマシになったが、高等部1、2年生はそのような思想に染まっているものが大半だ。そして奴らは学内ランキング1位に君臨する……桐生先輩を引きずり降ろそうと躍起になっているのさ」
「それは……なんで?」
あまりにもショックで言葉が出ない僕の代わりに霜月さんが質問を引き継いでくれる。それに対する栗林さんの答えは単純で恐ろしいものであった。
「彼が学園の方針に対立する立場をとっているからだな。従わないのであれば危険分子として学園は排除したいのだろう」
「……つまり十傑の誰かが学園と結託をして桐生さんを退学にさせようとしているってこと?」
「そうなるな。もしかすると裏で糸を引いていた人物は今回の決闘でFクラスの実力者を見極めて、桐生先輩を引きずり下ろすための都合の良い手駒にしようと考えていたのかもしれないな」
どうやら僕たちは学内の勢力争いに巻き込まれようとしていたようだ。いや、むしろ未だ渦中に取り込まれていて、ここから激化してくる可能性もあるだろう。今回はこの程度で済んだが、これからも注意を払わないといけないのかもしれない。
「……ところで桐生さんが狙われているのだとしたら、学園の方針に逆らう様に行動してる栗林さんは大丈夫なの?」
「私には頼りになる仲間が大勢いるから大丈夫だ。もちろん兄君と霜月さんも勘定に入れさせてもらっているよ」
話を整理しているうちに入学式の日からFクラスに気を配ってくれている栗林さんの安全が心配になったのだが、どうやら周りにいる仲間が守ってくれているようだ。確かに生徒会のメンバーは彼女を慕っていたので心強い味方なのだろう。……しかし狙われていることを否定されなかったことが少し気になってしまう。
いつまでも医務室にいるわけにはいかないので、一通り話が終わったこともありここらで解散をする。
今回の話で決闘を裏で操っていた人物がいたこと、その人物は霜月さんを中心にFクラスの実力を確認する目的であったこと、その人物は十傑のメンバーであることが高いことなど様々な情報を得ることが出来た。しかしこれで終わりではなく、これからも高等部の勢力争いに巻き込まれてしまうのはほぼ確定だろう。
平穏な学園生活と冒険者生活はまだまだ先になりそうだと思い、ふたりに気づかれないように静かにため息を吐いた。
先ほどまでの話で学園のトップである十傑のひとりが主に霜月さんの実力を計るため、今回の決闘を裏で操っていたかもしれないということは理解した。しかし、わざわざ御子柴君をけしかけてまで確認する必要があったのかは疑問が残り、気が付けば言葉にしていた。
学園側に多少の無茶を通すことが出来るのであれば教員に授業中の様子を報告してもらったり、自分の目で直接確認したいのであれば週2回行っている放課後の訓練を監視すればよい。さらに言うとデバイスの機能にあるプロフィールを活用すれば最低限の能力の確認はできるはずであり、それらの簡単な手段を捨ててまで彼女の力を確認する目的は何なのだろうか。
「……青田買い?」
隣に座っている霜月さんがいつもの表情で首を傾げながら自らの考えを口にする。彼女の言う通り将来が有望である生徒を探し出して自分のパーティーに勧誘するという線はありそうである。
大抵の人は上位ランクの人からパーティーに誘われた場合に断ることはしないだろう。なぜなら自分より経験や実力のある人たちが周りを固めて、都合よく言えば護衛をしてくれている状態でダンジョン探索が出来るのである。しかも僕たちFクラスは冒険者となって日が浅いため現在組んでいるパーティーにそこまで思い入れはない人も多く、パーティーを抜ける負担も少ないだろう。
もしくは将来ライバルとなりそうな相手を早めに潰すために実力を確認しようとしたのかもしれない。自分より強くなりそうな相手であれば成長される前に徹底的に潰してしまったほうが効率が良い……異世界で僕たちがやられた事と同じである。
(あの時は何とか返り討ちにしたんだっけか。……また考えが少し物騒になって来てるな。気をつけないと)
かつて異世界で経験した事件と結末を思い出しながら、先ほどの決闘の時のように自分の思考が物騒になり始めていることに気が付く。戦闘時の興奮の影響なのかはわからないが、この世界ではこのような思考になるのは危険であるため注意しなければならないだろう。
「……もしかすると近いかもしれないな。兄君達は高等部や学園の状況をどこまで理解している?」
「いや?全然」
「……兄君。以前から学園に不信を抱いていたのであれば少しくらいは調べても良かったのではないか?」
「……面目ない」
以前からFクラスに対する学園側の扱いが酷いと気づいていたのにも関わらず、何の調査もしていないことに対して危機感が足りないと栗林さんに叱られてしまう。年下の女の子に叱られてしまうのは何とも情けない気持ちになるが、忙しくて時間がとれなかったからということにして気分を切り替えようとする。
「……外部生が導入された話?」
「そう、そこから派生する話だな。……どうやら霜月さんは知っていたようだぞ?」
どうやらこの場で危機感が足りていないのは僕だけのようだ。栗林さんの追求の視線から逃れるように自慢げにしている霜月さんの反対側に顔を反らす。……これからは時間が取れなかったという言い訳を使用しないように気をつけよう。
「……まあいい。高等部1年生に外部生を入れるという制度は冒険者の入り口を広くするため、という名目で2年前から導入されたのだが本当の目的は内部生の意識改革なんだ」
「意識改革?」
「そうだ。自分達より実力の劣る外部生を先達として助ける……そのような殊勝なものではなく、力のないものを利用して搾取しろ、実力差を見せつけろ、君たちは選ばれし優れた人間なんだ。……このように口にするのも汚らわしい選民思想を植え付けようとしているのさ」
栗林さんが悲しそうな表情で語る話を聞いてあまりのことに言葉を失ってしまう。あくまでも教育機関のひとつであるこの学園で、いまだ未成熟な子供に対してそのような教育を施していることに理解が追い付かなかった。
「制度が導入される前であった現在の高等部3年生や私が生徒会長になってからの中等部は幾分かマシになったが、高等部1、2年生はそのような思想に染まっているものが大半だ。そして奴らは学内ランキング1位に君臨する……桐生先輩を引きずり降ろそうと躍起になっているのさ」
「それは……なんで?」
あまりにもショックで言葉が出ない僕の代わりに霜月さんが質問を引き継いでくれる。それに対する栗林さんの答えは単純で恐ろしいものであった。
「彼が学園の方針に対立する立場をとっているからだな。従わないのであれば危険分子として学園は排除したいのだろう」
「……つまり十傑の誰かが学園と結託をして桐生さんを退学にさせようとしているってこと?」
「そうなるな。もしかすると裏で糸を引いていた人物は今回の決闘でFクラスの実力者を見極めて、桐生先輩を引きずり下ろすための都合の良い手駒にしようと考えていたのかもしれないな」
どうやら僕たちは学内の勢力争いに巻き込まれようとしていたようだ。いや、むしろ未だ渦中に取り込まれていて、ここから激化してくる可能性もあるだろう。今回はこの程度で済んだが、これからも注意を払わないといけないのかもしれない。
「……ところで桐生さんが狙われているのだとしたら、学園の方針に逆らう様に行動してる栗林さんは大丈夫なの?」
「私には頼りになる仲間が大勢いるから大丈夫だ。もちろん兄君と霜月さんも勘定に入れさせてもらっているよ」
話を整理しているうちに入学式の日からFクラスに気を配ってくれている栗林さんの安全が心配になったのだが、どうやら周りにいる仲間が守ってくれているようだ。確かに生徒会のメンバーは彼女を慕っていたので心強い味方なのだろう。……しかし狙われていることを否定されなかったことが少し気になってしまう。
いつまでも医務室にいるわけにはいかないので、一通り話が終わったこともありここらで解散をする。
今回の話で決闘を裏で操っていた人物がいたこと、その人物は霜月さんを中心にFクラスの実力を確認する目的であったこと、その人物は十傑のメンバーであることが高いことなど様々な情報を得ることが出来た。しかしこれで終わりではなく、これからも高等部の勢力争いに巻き込まれてしまうのはほぼ確定だろう。
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