異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第95話 常識とはどのように学ぶのか?

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 ささやかながらも決闘の勝利と昇級試験合格を祝う祝勝会を終え自室へと戻る。いつもは僕の部屋に遊びに来る妹は、鉄級冒険者となったことで覚える必要のある注意事項に目を通すために自室で集中をしているので、久しぶりにひとりの時間がとれる。

 いい機会なので会話で毎度ボロが出そうになる常識について学ぼうと机に向かってみるが、そこで重大な問題に直面してしまう。

「常識ってどうやって調べればいいんだ……」

 いざ常識を学ぼうとしてみるも学校で習う科目のように教科書があるわけでもなく、人によって受け取り方が違うふんわりとした概念のようなものをどのように学べばよいのかわからず、頭を悩ませてしまう。

 実際にこういうものは人と関わっていくうえで学んでいくものが多いため、ひとりで勉強するという考えは間違っているのかもしれない。しかし身近な人にバレないうちに常識をある程度学ばなければいけないため、妹たちや霜月さんなどに聞くわけにもいかない。……もしかして詰んでいるのでは?

 ひとまずネットで常識について検索をしてみるが、僕が求めているようなものは現れず、これといってしっくりくるものはなかった。そこでとあることを思いついた僕はひとつのサイトを開いてみることにした。

「意外と投稿している人が多いんだな」

 以前聞いたことがある『冒険者チャンネル』という主にダンジョン配信者が動画を投稿しているサイトを確認する。冒険者の常識は冒険者から学ぶのが良いだろうと考えたのだが、想像以上の動画の数にダンジョン配信をしている冒険者が多いのだと驚きを覚える。動画再生数に応じて収入が得られるようなので、きっと小遣い稼ぎ気分で配信をしている人が多いのだろう。

 ここにある膨大な配信者の中から実力を自慢する系やエンタメ全振り系をまず除外して、ある程度解説をしてくれているような動画を探していく。先の動画を除外したのは常識を学ぶために動画を見るという目的と合わないと判断したからだ。

 解説を主な目的としている動画は一応存在していたのだが、やはり内容が地味寄りになってしまうためか再生数はイマイチであった。これは一般人がダンジョン探索の配信をエンタメとして消化しているという証拠となるだろう。

「瑠璃はどんな配信者になるんだろう……」

 兄としての贔屓もあるだろうが、妹は可愛い上に魔法が派手なので配信動画には華があるだろう。そうなると解説動画よりはテンポが良いエンタメ系の動画のほうがあっているような気がする。しかし人気が出て変な輩が寄り付いてくるのは許せないため、あまり人気が出るような配信はしないでほしいとも考えてしまうジレンマである。

 おじさんが延々と語りながらダンジョン探索をしている動画を見ながら妹が将来配信する動画のスタイルを想像していると、デバイスに連絡が入っていることに気が付く。そういえば今朝謎の人物からのメッセージを確認して以来デバイスをチェックした記憶はなく、もしかすると誰かから急ぎの連絡が来ていたかもしれないと思い慌てて端末を確認する。

 そこには『決闘では本気を出すな』『勝利おめでとう。しかし最後のは危なかったのではないか?』『無視をするな、こちらの忠告を聞いているのか?』『もしや……メッセージを見ていないのか?』『あの、無視しないで』というメッセージが届いていた。……最初と最後で大分色味が違うが全部同じ人物からの連絡である。

 昨夜に怪しいメッセージを送ってきた謎の人物に元々返事をするつもりはなかったのだが、1日反応がなかっただけでこの様な反応をみせられてしまい、少し悪いことをしてしまった気分になってしまう。だからといって今は謎の人物に連絡をすることはせず、このメッセージも見なかったことにしてデバイスから動画に視線を戻す。

 先ほどのメッセージの内容からして学園での決闘の結末などを把握していると考えられるため、謎の人物は学園内の人間であることが確定する。すると今朝言っていた鉄砲玉とは御子柴君の事であったのだろう。……登校中に警戒をしていた自分が恥ずかしい。

「ということは……僕の秘密というのは学園内でのことになるかな」

 今までの事をまとめると、謎の人物が言っていた僕の秘密とは十中八九学園内でのことであると考えられ、そこで秘密となりえるのはダンジョン関連以外にはないだろう。地図を作成する際に未探索エリアに向かう時は人に見られているような気配を感じた覚えはなかったのだが、もしかすると誰かに付けられていた可能性もある。

 そうなると握られている秘密というのは、地図の作成と公開をしたこと。僕が見つけた隠し扉と強敵の存在。妹と見つけた隠し扉と別階層へ続く階段。このうちのどれかになるだろう。

 地図に関してはばらされてしまってもいいのだが、隠し扉については周知の事実になってしまうとかなり困ってしまう。なぜなら最悪の場合、1階層にスライムとは比較にならないほどの強さをもつモンスターが現れることになるかもしれないからである。

 幸いなことに、今のところは謎の人物から秘密を暴露するなどの脅しを受けているわけではないので問題はないのだが、いつ気が変わるかもわからないのであまり機嫌を損ねないように立ち回りには気を配らないといけないのかもしれない。

「そうなると何か返事をしないといけないのかなぁ……でも正直に言って面倒なんだよなぁ」

 謎の人物への返事をするかどうかを葛藤していたため、折角見ていた解説動画の内容はいまいち頭の中に入ってはこなかった。
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