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第103話 生き残るための囮
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まずはこちらに向かってくるモンスターを左手に取り付けたバックラーで思いっきり殴り飛ばす。良い感じに他の固体を巻き込んだことで出来た隙を使って、囮を引き受けようとした男子をこちらに引き寄せ円陣に参加させる。
「絶対に霜月さんを守り切ってね」
円陣を構成する皆に何があっても霜月さんを守るように伝える。……もしそれが出来なければ皆は全滅するのだが、そこまでは伝える必要も暇もない。
「そ、それはいいが、アンタはどうするんだ?」
いきなり大魔法の準備を始めた霜月さんに驚いたのか、明らかに動揺している男子から質問をされる。その様子は先ほど囮を引き受けた人物とは到底思えず、あの時の覚悟めいたものはすっかり霧散していた。
「僕はモンスターを引き付ける!」
そう宣言をしながら円陣を離れ狼の群れに飛び込んでいく。それを見た狼達は自ら孤立して群れに飛び込んできた愚かな人間に狙いを定め続々と集まってくる。
この窮地を脱するために霜月さんが魔法を準備するまでの一分を何とか稼ぐ必要があるのだが、今の防御陣形のままでは他の人達がこの数を相手に制限時間を耐えることが出来ない。そこで誰かが群れの大半を引き付ける必要があり、その役目を僕が引き受けたのだ。
先ほどの会話から霜月さんは、誰も犠牲にしないで生き残るという自分の我儘で僕に過酷な役目を押し付けてしまったと考えていそうである。……ならばその心配が杞憂であったと後から笑ってもらうため、余計な責任を感じさせないように、怪我ひとつ負うことなく時間を稼ぎ切ってみせる!
身体強化を発動させながら群れに突っ込んだ僕は、まず始めに群れを率いているボス狼に向けて右手に持っていたメイスを思いっきりぶん投げる。突然の攻撃に反応が遅れたのか、メイスは避けられることなくボス狼の鼻先を打ち付けた。
攻撃を受けたボス狼は先ほどまでの消耗していく僕たちをあざ笑っていたような表情から一変し、敵意を含んだ瞳をこちらに向け軽く一吠えする。それに反応した狼の大半がこちらに注目したことから、恐らく先ほどの一吠えの意味は「そいつを殺せ」といったところだろう。
右手のメイスを失いはしたが、良い感じに群れの大半を引き付けることには成功する。これで皆に向かう狼の数は減り時間内を耐えきれるはずだ。……あとは自分がこの数を相手に時間を稼ぐだけで良い。
正面から飛びかかってくる狼を半身になって躱し、飛び出す際に拾っておいた白銀のナイフを右手に持ち替え、すれ違いざまに足を斬りつける。傷を負わせた狼をそのまま蹴っ飛ばすことで後方の別の狼に牽制を入れ、今度は左右からほぼ同時に飛び掛かってくる狼を半歩後ろに下がってやり過ごす。攻撃を躱されたことで互いにぶつかりそうになって動きを止めている2体の目を、左右の手に握った白と黒のナイフで斬りつけながらその間を通り抜ける。
こちらに向かってくる相手を適度に無力化しながら戦い続ける。とどめを刺すほどの余裕がないということもあるが、後方からの攻撃にはどうしても反応が遅れてしまうため、無力化した狼を一時的な壁として利用することで攻撃が来る方向を限定させているのだ。
「……すげぇ」
後方から何やら声が聞こえてくるが、周りの狼の動きを把握するのに忙しいため反応している余裕はない。狼たちがこちらに飛び掛かってくるのを一旦辞めてじりじりと距離を詰めてきているところから、そろそろ総攻撃が来る予感がする。
(こういう時にナイフで牽制を入れたいんだけど……流石に投げるわけにはいかないよな)
普段であればこういう睨み合いの状況は投擲武器で荒らして崩すのだが、相手を比較的楽に無力化できる装備を失ってしまうため、両手に握っているナイフを投げるわけにはいかない。現状一番優先することは相手を引きつけながら時間を稼ぐことなので、睨み合いとこの後に続く総攻撃も甘んじて受け入れる必要があるだろう。
予想していた瞬間は思いの外すぐに訪れ、僕を囲むようにしていた狼たちが一斉に襲い掛かってくる。元々は一匹狼の集まりなので厳密にいえば攻撃のタイミングはずれているので付け入る隙はあるのだが、今の装備ではこの場で全ての攻撃に対応することは出来ない。
そう判断した僕はこの後に訪れるであろう苦労を心の中で覚悟し、狼の一斉攻撃を包囲ごと飛び越えることで回避する。そのついでに空中で体を反転させ、皆の近くにいる狼に向けて左右のナイフを投擲することで少しでも数を減らしておく。
そうしてボス狼の前に着地し、そのままの勢いで突撃していく。ボス狼はいきなり接近してきた僕を迎撃するために素早く右前足の爪を繰り出してくるが、爪と地面のわずかな隙間を足から滑り込むことで何とか回避する。目と鼻の先まで近づいたことで、こちらをそのままかみ砕こうと開かれた口から犬歯をつかみ取り、すぐさま背負い投げの要領でその巨体を地面に叩きつける。
「小鳥遊!」
亀井君の声がするほうに視線を向けると彼ら円陣の頭上に巨大な氷塊が浮いている。おそらく時間が経ったことで霜月さんの魔法の準備が完了したのだろう。
「大丈夫だからそのまま撃って!」
「……砕け散れ。クリスタルショット」
ボス固体の元まで来たことにより皆と合流する時間はないと判断した僕は、霜月さんにこちらを気にせずに魔法を撃つように指示を出す。その言葉を聞いた彼女はすぐさま魔法を発動させ、宙に浮いた氷塊が砕け辺りに氷の雨を降らせる。
このままでは魔法に巻き込まれてしまうので霜月さんの澄んだ声がこちらまで届いたことに疑問を挟む余地はなく、先ほどの衝撃で折れてしまった牙を投げ捨て、空いた両手で暴れるボス狼を持ち上げることでその巨体を氷から守る盾として利用する。
「やっぱりこうなるよね。……お願いだから魔法が終わるまで消えないでよ」
先ほど覚悟を済ませた時にした予想通りの展開になり、霜月さんの魔法から僕を守ってくれているボス狼が途中で光の粒にならないように願うのであった。
「絶対に霜月さんを守り切ってね」
円陣を構成する皆に何があっても霜月さんを守るように伝える。……もしそれが出来なければ皆は全滅するのだが、そこまでは伝える必要も暇もない。
「そ、それはいいが、アンタはどうするんだ?」
いきなり大魔法の準備を始めた霜月さんに驚いたのか、明らかに動揺している男子から質問をされる。その様子は先ほど囮を引き受けた人物とは到底思えず、あの時の覚悟めいたものはすっかり霧散していた。
「僕はモンスターを引き付ける!」
そう宣言をしながら円陣を離れ狼の群れに飛び込んでいく。それを見た狼達は自ら孤立して群れに飛び込んできた愚かな人間に狙いを定め続々と集まってくる。
この窮地を脱するために霜月さんが魔法を準備するまでの一分を何とか稼ぐ必要があるのだが、今の防御陣形のままでは他の人達がこの数を相手に制限時間を耐えることが出来ない。そこで誰かが群れの大半を引き付ける必要があり、その役目を僕が引き受けたのだ。
先ほどの会話から霜月さんは、誰も犠牲にしないで生き残るという自分の我儘で僕に過酷な役目を押し付けてしまったと考えていそうである。……ならばその心配が杞憂であったと後から笑ってもらうため、余計な責任を感じさせないように、怪我ひとつ負うことなく時間を稼ぎ切ってみせる!
身体強化を発動させながら群れに突っ込んだ僕は、まず始めに群れを率いているボス狼に向けて右手に持っていたメイスを思いっきりぶん投げる。突然の攻撃に反応が遅れたのか、メイスは避けられることなくボス狼の鼻先を打ち付けた。
攻撃を受けたボス狼は先ほどまでの消耗していく僕たちをあざ笑っていたような表情から一変し、敵意を含んだ瞳をこちらに向け軽く一吠えする。それに反応した狼の大半がこちらに注目したことから、恐らく先ほどの一吠えの意味は「そいつを殺せ」といったところだろう。
右手のメイスを失いはしたが、良い感じに群れの大半を引き付けることには成功する。これで皆に向かう狼の数は減り時間内を耐えきれるはずだ。……あとは自分がこの数を相手に時間を稼ぐだけで良い。
正面から飛びかかってくる狼を半身になって躱し、飛び出す際に拾っておいた白銀のナイフを右手に持ち替え、すれ違いざまに足を斬りつける。傷を負わせた狼をそのまま蹴っ飛ばすことで後方の別の狼に牽制を入れ、今度は左右からほぼ同時に飛び掛かってくる狼を半歩後ろに下がってやり過ごす。攻撃を躱されたことで互いにぶつかりそうになって動きを止めている2体の目を、左右の手に握った白と黒のナイフで斬りつけながらその間を通り抜ける。
こちらに向かってくる相手を適度に無力化しながら戦い続ける。とどめを刺すほどの余裕がないということもあるが、後方からの攻撃にはどうしても反応が遅れてしまうため、無力化した狼を一時的な壁として利用することで攻撃が来る方向を限定させているのだ。
「……すげぇ」
後方から何やら声が聞こえてくるが、周りの狼の動きを把握するのに忙しいため反応している余裕はない。狼たちがこちらに飛び掛かってくるのを一旦辞めてじりじりと距離を詰めてきているところから、そろそろ総攻撃が来る予感がする。
(こういう時にナイフで牽制を入れたいんだけど……流石に投げるわけにはいかないよな)
普段であればこういう睨み合いの状況は投擲武器で荒らして崩すのだが、相手を比較的楽に無力化できる装備を失ってしまうため、両手に握っているナイフを投げるわけにはいかない。現状一番優先することは相手を引きつけながら時間を稼ぐことなので、睨み合いとこの後に続く総攻撃も甘んじて受け入れる必要があるだろう。
予想していた瞬間は思いの外すぐに訪れ、僕を囲むようにしていた狼たちが一斉に襲い掛かってくる。元々は一匹狼の集まりなので厳密にいえば攻撃のタイミングはずれているので付け入る隙はあるのだが、今の装備ではこの場で全ての攻撃に対応することは出来ない。
そう判断した僕はこの後に訪れるであろう苦労を心の中で覚悟し、狼の一斉攻撃を包囲ごと飛び越えることで回避する。そのついでに空中で体を反転させ、皆の近くにいる狼に向けて左右のナイフを投擲することで少しでも数を減らしておく。
そうしてボス狼の前に着地し、そのままの勢いで突撃していく。ボス狼はいきなり接近してきた僕を迎撃するために素早く右前足の爪を繰り出してくるが、爪と地面のわずかな隙間を足から滑り込むことで何とか回避する。目と鼻の先まで近づいたことで、こちらをそのままかみ砕こうと開かれた口から犬歯をつかみ取り、すぐさま背負い投げの要領でその巨体を地面に叩きつける。
「小鳥遊!」
亀井君の声がするほうに視線を向けると彼ら円陣の頭上に巨大な氷塊が浮いている。おそらく時間が経ったことで霜月さんの魔法の準備が完了したのだろう。
「大丈夫だからそのまま撃って!」
「……砕け散れ。クリスタルショット」
ボス固体の元まで来たことにより皆と合流する時間はないと判断した僕は、霜月さんにこちらを気にせずに魔法を撃つように指示を出す。その言葉を聞いた彼女はすぐさま魔法を発動させ、宙に浮いた氷塊が砕け辺りに氷の雨を降らせる。
このままでは魔法に巻き込まれてしまうので霜月さんの澄んだ声がこちらまで届いたことに疑問を挟む余地はなく、先ほどの衝撃で折れてしまった牙を投げ捨て、空いた両手で暴れるボス狼を持ち上げることでその巨体を氷から守る盾として利用する。
「やっぱりこうなるよね。……お願いだから魔法が終わるまで消えないでよ」
先ほど覚悟を済ませた時にした予想通りの展開になり、霜月さんの魔法から僕を守ってくれているボス狼が途中で光の粒にならないように願うのであった。
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