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第112話 探索スピードと体力と安全
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ダンジョンに突入し、こちらに向かってくるモンスターを蹴散らしながら3階層を目指していく。今回は先を急いでいるため索敵などに気を配っている余裕はなく、随分と行き当たりばったりなダンジョン探索となってしまっている。
「霜月さん。体力は大丈夫そう?」
「うん。まだ大丈夫」
通路を駆け抜けながらも後ろにいる霜月さんの調子を確認するのを忘れない。いつもは適度に休憩をとっているので問題にはならないのだが、彼女は元々体力が少ないのでスピードを上げすぎると無茶をして倒れてしまいかねない。……今も口では問題ないと言ってはいるが表情は少し辛そうなので、そろそろ休憩を挟む頃合いだろう。
「よし。それじゃあキリの良い2階層前で少し休もう。矢部先生から受け取った袋の中身とか指輪の鑑定結果なんかも気になるし」
「……わかった」
霜月さんが大丈夫と言ってきた手前それを否定して休憩をとるわけにはいかず、ひとまず先ほど矢部先生と隠岐さんから受け取った品の確認する時間が欲しいという理由を設けることにした。きっと彼女もそんなものはただの建前であることに気が付いているだろうが、何とか受け入れてくれたようだ。
ほどなくして2階層に続く階段前の広間にたどり着き、そこに留まっていたモンスターと戦闘に入る。スライムやビッグラットに混じって今までにダンジョンで戦った事のない蜘蛛やトカゲのようなモンスターがいるが、霜月さんの魔法や身体強化を使った状態でのメイスやナイフで素早く片付けていく。
30秒程度で戦闘を終えて広間の中央で休憩を取り始める。ここでならモンスターに奇襲される恐れもなく、最悪の場合は逃げ道も確保できる。
霜月さんは少しでも早く体力を回復させるため、地面に座り込んで休み始める。そんな彼女に僕のポーチの中に常備している水を取り出して渡しておく。
「これ、飲んでいいよ」
「ありがと……」
僕の手からペットボトルを両手で受け取る霜月さんはどこか悔しそうにしている気がする。もしかすると自分の体力がないことで足を引っ張ってしまっていると考えているのかもしれない。……僕の勘違いであるのなら良いのだが、そうでなかった時のことを考えると、この問題はここで解決しておいたほうが良いだろう。
「体力がなくて足を引っ張ってると思ってる?」
「……少し」
「言っておくと、そんなことはないからね。霜月さんのおかげで戦闘が手早く終わるから僕も無駄な体力を使わなくて済んでるし、もし霜月さんが居なかったらここに来るまでもっと時間が掛かってたんじゃないかな」
「…………」
とんでもない勘違いをしている霜月さんを説得するため、彼女がいることで助かっていることを説明していく。彼女からはあまり良い反応は得られなかったが、少しでも僕の想いが届いていることを信じるしかないだろう。
もし僕1人でダンジョンに潜っていたとしたら、モンスターとまともに戦うことをせずに駆け抜けていくつもりであったので、今より早くここまで速くたどり着くことが出来たであろう。しかし、3階層まで走り抜けることは出来ないので何処かで休息はとらなければいけない。その時にモンスターに囲まれていたら、まともに戦うこともできずにやられてしまっていただろう。
つまり霜月さんがいることで僕の頭の中に彼女の安全を考える余地が生まれ、冷静な行動が出来ていると言っても過言ではないということだ。
霜月さんが付いてきてくれると知った時の本心は心の奥底に仕舞いながら、彼女がかつての僕のようにならぬよう、様子には気をつけようと考えるのであった。
「よし、それじゃあ行こうか」
「……うん」
3階層前の広間で最後の休息を終える。目の前の階段を下りて3階層に入ってしまえば、妹たちを見つけるまでまともな休憩をとる余裕はないだろう。
ここに来るまでは普段の探索とあまり変わらない速度でたどり着くことが出来た。階層間の最短ルートを通ったということもあるが、モンスターとの戦闘回数を考えれば十分に速いペースと言えるだろう。霜月さんも初めの休憩を終えてからも普段と同じ様子であったので、先ほどの心配は僕の杞憂となりそうだ。
ここまでは順調と言える結果となっているが、ここから先は次の階層に行く階段のように目的地がわかっている探索ではなく、広い階層のどこかにいるパーティーを探し出すという運任せな捜索を行わなければならない。こういう時に人手が十分であれば人海戦術で階層をしらみつぶしに出来るのだが、今回は僕と霜月さんのふたりだけであるうえに手分けをするわけにもいかない。……自分はあまり運が良いほうではないので、妹の運の良さに期待するとしよう。
考え始めると悪いイメージしか出てこないため、ひとまず考えるのを止めて3階層に足を踏み入れる。やはり迷宮崩壊が起きている影響からなのか、昨日と比べて空気が重い気がして体が鈍くなる感覚がする。
ひとまず深呼吸を一つすることで、その重い空気を体内に取り入れて体を慣らしていく。行為の成果が表れたのか先ほどと比べると随分と体が軽くなった気がしてくる。
隣にいる霜月さんも僕の行動を真似て空気を体内に取り入れている。息を吸って吐いているだけなのに随分と可愛くみえてしまう動きを見終えた後、妹たちを救助するためにふたり揃って通路に向かって駆け出した。
「霜月さん。体力は大丈夫そう?」
「うん。まだ大丈夫」
通路を駆け抜けながらも後ろにいる霜月さんの調子を確認するのを忘れない。いつもは適度に休憩をとっているので問題にはならないのだが、彼女は元々体力が少ないのでスピードを上げすぎると無茶をして倒れてしまいかねない。……今も口では問題ないと言ってはいるが表情は少し辛そうなので、そろそろ休憩を挟む頃合いだろう。
「よし。それじゃあキリの良い2階層前で少し休もう。矢部先生から受け取った袋の中身とか指輪の鑑定結果なんかも気になるし」
「……わかった」
霜月さんが大丈夫と言ってきた手前それを否定して休憩をとるわけにはいかず、ひとまず先ほど矢部先生と隠岐さんから受け取った品の確認する時間が欲しいという理由を設けることにした。きっと彼女もそんなものはただの建前であることに気が付いているだろうが、何とか受け入れてくれたようだ。
ほどなくして2階層に続く階段前の広間にたどり着き、そこに留まっていたモンスターと戦闘に入る。スライムやビッグラットに混じって今までにダンジョンで戦った事のない蜘蛛やトカゲのようなモンスターがいるが、霜月さんの魔法や身体強化を使った状態でのメイスやナイフで素早く片付けていく。
30秒程度で戦闘を終えて広間の中央で休憩を取り始める。ここでならモンスターに奇襲される恐れもなく、最悪の場合は逃げ道も確保できる。
霜月さんは少しでも早く体力を回復させるため、地面に座り込んで休み始める。そんな彼女に僕のポーチの中に常備している水を取り出して渡しておく。
「これ、飲んでいいよ」
「ありがと……」
僕の手からペットボトルを両手で受け取る霜月さんはどこか悔しそうにしている気がする。もしかすると自分の体力がないことで足を引っ張ってしまっていると考えているのかもしれない。……僕の勘違いであるのなら良いのだが、そうでなかった時のことを考えると、この問題はここで解決しておいたほうが良いだろう。
「体力がなくて足を引っ張ってると思ってる?」
「……少し」
「言っておくと、そんなことはないからね。霜月さんのおかげで戦闘が手早く終わるから僕も無駄な体力を使わなくて済んでるし、もし霜月さんが居なかったらここに来るまでもっと時間が掛かってたんじゃないかな」
「…………」
とんでもない勘違いをしている霜月さんを説得するため、彼女がいることで助かっていることを説明していく。彼女からはあまり良い反応は得られなかったが、少しでも僕の想いが届いていることを信じるしかないだろう。
もし僕1人でダンジョンに潜っていたとしたら、モンスターとまともに戦うことをせずに駆け抜けていくつもりであったので、今より早くここまで速くたどり着くことが出来たであろう。しかし、3階層まで走り抜けることは出来ないので何処かで休息はとらなければいけない。その時にモンスターに囲まれていたら、まともに戦うこともできずにやられてしまっていただろう。
つまり霜月さんがいることで僕の頭の中に彼女の安全を考える余地が生まれ、冷静な行動が出来ていると言っても過言ではないということだ。
霜月さんが付いてきてくれると知った時の本心は心の奥底に仕舞いながら、彼女がかつての僕のようにならぬよう、様子には気をつけようと考えるのであった。
「よし、それじゃあ行こうか」
「……うん」
3階層前の広間で最後の休息を終える。目の前の階段を下りて3階層に入ってしまえば、妹たちを見つけるまでまともな休憩をとる余裕はないだろう。
ここに来るまでは普段の探索とあまり変わらない速度でたどり着くことが出来た。階層間の最短ルートを通ったということもあるが、モンスターとの戦闘回数を考えれば十分に速いペースと言えるだろう。霜月さんも初めの休憩を終えてからも普段と同じ様子であったので、先ほどの心配は僕の杞憂となりそうだ。
ここまでは順調と言える結果となっているが、ここから先は次の階層に行く階段のように目的地がわかっている探索ではなく、広い階層のどこかにいるパーティーを探し出すという運任せな捜索を行わなければならない。こういう時に人手が十分であれば人海戦術で階層をしらみつぶしに出来るのだが、今回は僕と霜月さんのふたりだけであるうえに手分けをするわけにもいかない。……自分はあまり運が良いほうではないので、妹の運の良さに期待するとしよう。
考え始めると悪いイメージしか出てこないため、ひとまず考えるのを止めて3階層に足を踏み入れる。やはり迷宮崩壊が起きている影響からなのか、昨日と比べて空気が重い気がして体が鈍くなる感覚がする。
ひとまず深呼吸を一つすることで、その重い空気を体内に取り入れて体を慣らしていく。行為の成果が表れたのか先ほどと比べると随分と体が軽くなった気がしてくる。
隣にいる霜月さんも僕の行動を真似て空気を体内に取り入れている。息を吸って吐いているだけなのに随分と可愛くみえてしまう動きを見終えた後、妹たちを救助するためにふたり揃って通路に向かって駆け出した。
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