115 / 136
第115話 ポーチに入る大量の救援物資
しおりを挟む
「おにぃ!」
「お兄さん!」
こちらに武器を構えている前衛陣の警戒を解くために何とかコミュニケーションをとっていると、彼らの間を抜けて妹とすみれちゃんが飛び込んでくる。僕の背後では未だに霜月さんの魔法が猛威を振るっているため、ふたりをその場で何とか受け止める。……一歩も後ろに退くわけにはいかなかったので身体強化は使用済みだ。
「……とりあえず、無事でよかった」
胸に抱きとめたふたりの温もりを感じながら、今日一番の安堵の想いが息と共に体から吐き出される。同時に自分の体から力が抜けていくのを感じ、気にしないようにしてはいたが焦りと緊張を感じていたのだと実感する。
入口を固めている前衛陣たちは、その様子を見て警戒が解けたのか少しずつ武器を下ろしていく。その際に「なんだ、小鳥遊の身内か」「それならあの登場の仕方も納得だな」「だな。普通の人間は壁を走らないからな」等の言葉が聞こえ、妹が同級生たちにどのように思われているのかが心配になってくる。
「先輩!?どうしてここに?」
「瑠璃たちを助けに来たんだよ」
「……お言葉ですが、お二人だけでですか?」
「まぁ……そうだね」
「あ!いや、落胆をしたというわけではなく……むしろ良くお二人だけでここまで来れたなと」
こちらに気が付いた顔見知りとも言えなくもない木嶋君が部屋から出てこちらに声をかけてくる。このような危険地帯に僕たちがいることに驚いているようだが、兄というものは妹のためならばこのくらいの危険は気にならないものなのだ。……霜月さんはその例に当てはまらないので深く考えてはいけない。
救援に来たのが冒険者になってまだ1ヵ月のルーキーであるうえ、ふたりだけということに良くない印象を持たれるとは思ったが、どうやら木嶋君は僕と霜月さんだけでここまで来られたことに感心していただけのようだ。
「おにぃと美銀さんは凄いんだから!」
「いや、先輩がすごいのは知ってたけど……お仲間のあの人もなんだなって」
木嶋君の言葉に対して何故か妹が自慢げに返答をする。このふたりは過去のわだかまりから仲が悪いものだと思っていたが、今の会話を見た限りではそのようには見えなかったため、きっとどこかで仲直りをしたのだろう。
模擬戦をしたことがある木嶋君は僕の実力をある程度は把握していたようだが、一緒に飛び込んできた霜月さんの魔法を目の当たりにして理解が追い付いていないのだろう。実際に彼女の魔法の実力は銅級冒険者の枠組みなど軽く超えているので、その気持ちもわからなくはない。
こうして僕が顔見知りであり救援に来たことを木嶋君に説明してもらい部屋の中に入れさせてもらう。先ほど壁から内部を少しだけ覗かせてもらったが、皆が少なからず怪我を負っていて酷いものは動くのも辛そうにして地面に横たわっていた。このような怪我を負っている人を連れてダンジョンの入口を目指すのは現実的ではないので、栗林さん達はこの場で籠城戦をすることにしたのだろう。
「兄君と霜月さん。来てくれて助かった。……しかし、ご覧のとおり私たちはここから動くことが出来ないんだ」
部屋内の惨状を見回していると栗林さんがこちらに声をかけてくる。隣に特にけがをしていない霜月さんがいることから、どうやら彼女はうまく霜月さんをキャッチしてくれたようである。……しかし霜月さんは不機嫌そうなオーラをこちらに向けてきているため、最後に彼女を投げてしまったのは失敗だったのかもしれない。
「それなんだけど……これを使って」
霜月さんの追求の視線に耐え切れず早々に話を切り替えるため、ここまで持ち運んできた唯一の荷物をポーチから取り出そうと試みる。未だに妹が腕にしがみついたままのため少し時間が掛かったが、何とか腰のポーチからダンジョン突入前に受け取った袋を取り出す。
「……これは?」
「Fクラス担任の矢部先生から渡された袋。見た目は小さいけど不思議なことに中身はたくさん入ってるから大丈夫」
矢部先生から受け取った袋は自分のポーチに入るほどの小さいものであったが、中には常識で考えるとあり得ないほどのポーションが入っていた。どうやらこの袋の中は空間が拡張されているみたいであった。言い換えてしまえばダンジョンも空間が拡張されているようなものなので、きっと同じような原理なのだろう。
「随分と珍しいものを預かってきたのだな……」
「やっぱりこういうものって珍しいの?」
「ああ。ダンジョン産というだけでも価値が高い上に、このようなアイテムは滅多に出てこないからな……しかし、今はありがたく使わせてもらうとしよう!」
アイテムを大量に運べるという点で珍しいものだとは思っていたが、栗林さんの説明を聞いて思っていた以上に珍しく価値があると理解する。異世界での経験から必要なものだけを持って冒険することに慣れていたのですぐに実感がわかなかったが、様々なトラブルに対して対策を取れるアイテムを持ち運べるのは確かに良いことだろう。……現に今大量のポーションを運ぶという実例が目の前に存在しているところだ。
栗林さんは僕の手から預かった袋を受け取り、部屋内の怪我人や魔力切れの仲間にポーションを配っていく。モンスターの警戒は木嶋君達が担当してくれるようなので、残された僕らも休憩をさせてもらおうと適当な場所に腰を落ち着ける。
「……投げるなんて酷い」
腰を落ち着けたところで最初に口を開いたのは不機嫌そうな霜月さんであり、やはり先ほどのお姫様抱っこからの栗林さんへのパスがお気に召さなかったようである。
霜月さんに何とか機嫌を直してもらうために弁明を続け、結局のところ僕の気が休まる時はこないのであった。
「お兄さん!」
こちらに武器を構えている前衛陣の警戒を解くために何とかコミュニケーションをとっていると、彼らの間を抜けて妹とすみれちゃんが飛び込んでくる。僕の背後では未だに霜月さんの魔法が猛威を振るっているため、ふたりをその場で何とか受け止める。……一歩も後ろに退くわけにはいかなかったので身体強化は使用済みだ。
「……とりあえず、無事でよかった」
胸に抱きとめたふたりの温もりを感じながら、今日一番の安堵の想いが息と共に体から吐き出される。同時に自分の体から力が抜けていくのを感じ、気にしないようにしてはいたが焦りと緊張を感じていたのだと実感する。
入口を固めている前衛陣たちは、その様子を見て警戒が解けたのか少しずつ武器を下ろしていく。その際に「なんだ、小鳥遊の身内か」「それならあの登場の仕方も納得だな」「だな。普通の人間は壁を走らないからな」等の言葉が聞こえ、妹が同級生たちにどのように思われているのかが心配になってくる。
「先輩!?どうしてここに?」
「瑠璃たちを助けに来たんだよ」
「……お言葉ですが、お二人だけでですか?」
「まぁ……そうだね」
「あ!いや、落胆をしたというわけではなく……むしろ良くお二人だけでここまで来れたなと」
こちらに気が付いた顔見知りとも言えなくもない木嶋君が部屋から出てこちらに声をかけてくる。このような危険地帯に僕たちがいることに驚いているようだが、兄というものは妹のためならばこのくらいの危険は気にならないものなのだ。……霜月さんはその例に当てはまらないので深く考えてはいけない。
救援に来たのが冒険者になってまだ1ヵ月のルーキーであるうえ、ふたりだけということに良くない印象を持たれるとは思ったが、どうやら木嶋君は僕と霜月さんだけでここまで来られたことに感心していただけのようだ。
「おにぃと美銀さんは凄いんだから!」
「いや、先輩がすごいのは知ってたけど……お仲間のあの人もなんだなって」
木嶋君の言葉に対して何故か妹が自慢げに返答をする。このふたりは過去のわだかまりから仲が悪いものだと思っていたが、今の会話を見た限りではそのようには見えなかったため、きっとどこかで仲直りをしたのだろう。
模擬戦をしたことがある木嶋君は僕の実力をある程度は把握していたようだが、一緒に飛び込んできた霜月さんの魔法を目の当たりにして理解が追い付いていないのだろう。実際に彼女の魔法の実力は銅級冒険者の枠組みなど軽く超えているので、その気持ちもわからなくはない。
こうして僕が顔見知りであり救援に来たことを木嶋君に説明してもらい部屋の中に入れさせてもらう。先ほど壁から内部を少しだけ覗かせてもらったが、皆が少なからず怪我を負っていて酷いものは動くのも辛そうにして地面に横たわっていた。このような怪我を負っている人を連れてダンジョンの入口を目指すのは現実的ではないので、栗林さん達はこの場で籠城戦をすることにしたのだろう。
「兄君と霜月さん。来てくれて助かった。……しかし、ご覧のとおり私たちはここから動くことが出来ないんだ」
部屋内の惨状を見回していると栗林さんがこちらに声をかけてくる。隣に特にけがをしていない霜月さんがいることから、どうやら彼女はうまく霜月さんをキャッチしてくれたようである。……しかし霜月さんは不機嫌そうなオーラをこちらに向けてきているため、最後に彼女を投げてしまったのは失敗だったのかもしれない。
「それなんだけど……これを使って」
霜月さんの追求の視線に耐え切れず早々に話を切り替えるため、ここまで持ち運んできた唯一の荷物をポーチから取り出そうと試みる。未だに妹が腕にしがみついたままのため少し時間が掛かったが、何とか腰のポーチからダンジョン突入前に受け取った袋を取り出す。
「……これは?」
「Fクラス担任の矢部先生から渡された袋。見た目は小さいけど不思議なことに中身はたくさん入ってるから大丈夫」
矢部先生から受け取った袋は自分のポーチに入るほどの小さいものであったが、中には常識で考えるとあり得ないほどのポーションが入っていた。どうやらこの袋の中は空間が拡張されているみたいであった。言い換えてしまえばダンジョンも空間が拡張されているようなものなので、きっと同じような原理なのだろう。
「随分と珍しいものを預かってきたのだな……」
「やっぱりこういうものって珍しいの?」
「ああ。ダンジョン産というだけでも価値が高い上に、このようなアイテムは滅多に出てこないからな……しかし、今はありがたく使わせてもらうとしよう!」
アイテムを大量に運べるという点で珍しいものだとは思っていたが、栗林さんの説明を聞いて思っていた以上に珍しく価値があると理解する。異世界での経験から必要なものだけを持って冒険することに慣れていたのですぐに実感がわかなかったが、様々なトラブルに対して対策を取れるアイテムを持ち運べるのは確かに良いことだろう。……現に今大量のポーションを運ぶという実例が目の前に存在しているところだ。
栗林さんは僕の手から預かった袋を受け取り、部屋内の怪我人や魔力切れの仲間にポーションを配っていく。モンスターの警戒は木嶋君達が担当してくれるようなので、残された僕らも休憩をさせてもらおうと適当な場所に腰を落ち着ける。
「……投げるなんて酷い」
腰を落ち着けたところで最初に口を開いたのは不機嫌そうな霜月さんであり、やはり先ほどのお姫様抱っこからの栗林さんへのパスがお気に召さなかったようである。
霜月さんに何とか機嫌を直してもらうために弁明を続け、結局のところ僕の気が休まる時はこないのであった。
27
あなたにおすすめの小説
平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった
久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく!
ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。
「あなた、一体何者なの…?」
クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!?
平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる