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第117話 純粋な殺意
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「こんなところで何してるの?」
僕が皆を代表して出口前の広間でひとり佇んでいる御子柴君に声をかける。ダンジョンで行方不明になっていた人物が迷宮崩壊が起きているという緊急事態の中、たった一人で出口前で待機している。どう考えても怪しさしかない状況ではあるが、彼を素通りして地上に出ることは出来ないので最大限の警戒をしながら前に足を進める。
「……やぁっっと来たかぁ!お前たちを待ってたんだよ、糞外部生!!」
こちらを認識した御子柴君は顔に狂気的とも言える笑みを浮かべ、僕たちを歓迎するかのように両手を広げる。以前と比べてこちらを見下しているような口調は変わりないが、視線にこもっていた憎しみや怒りの感情は感じられず、本当に同一人物なのか怪しいところである。
僕たちを待っていたと言っているが御子柴君とは到底仲が良いとは言えないため、この後は一緒に地上に出ようなどという話にはならないだろう。そうなるとダンジョン内で僕と霜月さんを待っていたということは、ここでひと悶着起こすつもりだと受け取っても良さそうだ。
「ちょっと今は忙しいからダンジョンを出てからにしない?決闘でもなんでも付き合うよ」
「決闘?そんなままごとのようなもので満足できるのか!?……いいや!俺はお前を、そこの女を殺したいんだよ!そのためにここにいるんだ!」
僕たちの確執のために後ろにいる妹たちを巻き込むわけにはいかず、ひとまず皆の身の安全を確保するためにダンジョンの外に出ようと提案をする。しかし御子柴君の返事はノーであり、さらに僕たちの命を奪うつもりであると高らかに宣言する。
その言葉が広間中に響き渡り、この場の緊張感が急激に高まっていく。後ろにいる中等部の生徒たちも急な殺害予告に動揺しているだろう。そんな空気の中、栗林さんが前に歩み出て御子柴君を諭すように声をかける。
「……それは流石に聞き流せないぞ、御子柴」
「なんだ、生徒会長さんもそちらにいらっしゃったんですね。てっきり今頃は狼や他のモンスターの群れに食べられてると思いましたよ」
「……ご生憎様。私たちはピンピンしてるさ」
説得と言えるほどの言葉ではなかったが、御子柴君は栗林さんにも嫌味を交えて返事をする。しかしその内容からすると、どうやら彼は今のダンジョンの状況や彼女たちが3階層でモンスターの群れに襲われていたことを知っていたようであった。栗林さんもそのことを察したのか穏便に説得することを諦めたようだ。
「この場で戦うというのなら私はこちらに着くことになるが……いいのか?」
「いいぜぇ!どうせそのつもりだったからなぁ!」
このやり取りを最後に穏便に済むはずであった言葉による説得は終わりを告げる。相手にそのつもりがなかったので仕方ないことではあるが、後は武力で相手を制圧するしかないだろう。
交渉の決裂を察した中等部の生徒も彼をどうにかしないと地上に出られないと考えたのか、次々に戦闘準備を始める。このような大人数で御子柴君を囲んで叩くわけにはいかないので、戦闘の余波を受けないように後ろで守りを固めておいてもらいたいところだ。
「なんだよ、全員やる気満々じゃねーか。……それじゃあ俺が新たに手に入れた力を見せてやるよぉ!!」
叫びに似た声をあげた御子柴君の影がまるで意思を持っているかのように動き始め、地面から飛び出して立体的な形を持ち始める。そしてその影が複数に分裂し、それぞれがトカゲのような形状を形作り始める。それは本日何度も目にする機会があったトカゲ型モンスターそのものであった。
「さあ、いけ!!生意気な外部生も鼻につく生徒会長も群れることしかできない後ろの雑魚共も……ダンジョンを荒らす奴を全員焼き殺せ!!」
「不味い!皆パーティー毎に散開して対応しろ!固まるとまとめてやられるぞ!」
影から出てきたトカゲたちがこちらに襲い掛かってくる。栗林さんは急いで中等部の生徒にパーティー毎に戦闘をするように指示を出す。確かにこの広い空間であれば、それぞれのパーティーでばらけたほうが周りを巻き込まない上に戦いやすいだろう。
影から生まれたトカゲは1種類だけではないようで、よく見ると体格が良いものや尻尾に棘のようなものが生えている固体が紛れ込んでいる。その内の2体が僕と霜月さんに向かって正面から突っ込んでくる。
「栗林さんはあっちの援護をお願いしていいかな?」
「兄君……わかった。十分気をつけるんだぞ」
後方にいる妹たちが心配なので隣にいる栗林さんに援護に向かってもらう。彼女が居れば複数のトカゲに襲われようとも戦線が瓦解することはないだろう。
僕たちに向かって来ているのは体格が良く外皮が殻のようになっていて、鈍重だが見るからにタフで防御力が高そうに見える。恐らく霜月さんの魔法に対抗するために防御を高めてきたのだろう。コイツ相手には僕の武器であるメイスとナイフもあまり効果がなさそうなので、もしかしたらそこまで考えていたのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながら霜月さんに向かっているトカゲの前に自ら体を割り込ませる。僕の狙い通りに目の前のトカゲは突進をこちらに切り替えてきたので、それを紙一重でかわし、すれ違いざまに尻尾を両手で掴み取る。身体強化も利用してトカゲの突進の勢いを全て受け止め、そのままこちらに突っ込んでくるもう1体のトカゲに両手で掴んでいるそれを勢いよく叩きつける。
別の固体だが外皮の殻は同じ強度だったのだろう、叩きつけられた勢いで2体の殻は砕け散り少なくないダメージを負ったトカゲは動きを鈍くする。そこにすかさず先端を鋭くした氷柱が飛来し、殻のなくなった2体のトカゲを貫き消滅させてしまう。
「な、なんだと?」
あっという間の出来事に目の前にいる男は驚いている様子だが、大事な人の命を奪おうとする輩に手加減をするつもりは毛頭ない。そしてこのくだらない争いを終わらせるため、目の前の敵に向かって歩を進めるのであった。
僕が皆を代表して出口前の広間でひとり佇んでいる御子柴君に声をかける。ダンジョンで行方不明になっていた人物が迷宮崩壊が起きているという緊急事態の中、たった一人で出口前で待機している。どう考えても怪しさしかない状況ではあるが、彼を素通りして地上に出ることは出来ないので最大限の警戒をしながら前に足を進める。
「……やぁっっと来たかぁ!お前たちを待ってたんだよ、糞外部生!!」
こちらを認識した御子柴君は顔に狂気的とも言える笑みを浮かべ、僕たちを歓迎するかのように両手を広げる。以前と比べてこちらを見下しているような口調は変わりないが、視線にこもっていた憎しみや怒りの感情は感じられず、本当に同一人物なのか怪しいところである。
僕たちを待っていたと言っているが御子柴君とは到底仲が良いとは言えないため、この後は一緒に地上に出ようなどという話にはならないだろう。そうなるとダンジョン内で僕と霜月さんを待っていたということは、ここでひと悶着起こすつもりだと受け取っても良さそうだ。
「ちょっと今は忙しいからダンジョンを出てからにしない?決闘でもなんでも付き合うよ」
「決闘?そんなままごとのようなもので満足できるのか!?……いいや!俺はお前を、そこの女を殺したいんだよ!そのためにここにいるんだ!」
僕たちの確執のために後ろにいる妹たちを巻き込むわけにはいかず、ひとまず皆の身の安全を確保するためにダンジョンの外に出ようと提案をする。しかし御子柴君の返事はノーであり、さらに僕たちの命を奪うつもりであると高らかに宣言する。
その言葉が広間中に響き渡り、この場の緊張感が急激に高まっていく。後ろにいる中等部の生徒たちも急な殺害予告に動揺しているだろう。そんな空気の中、栗林さんが前に歩み出て御子柴君を諭すように声をかける。
「……それは流石に聞き流せないぞ、御子柴」
「なんだ、生徒会長さんもそちらにいらっしゃったんですね。てっきり今頃は狼や他のモンスターの群れに食べられてると思いましたよ」
「……ご生憎様。私たちはピンピンしてるさ」
説得と言えるほどの言葉ではなかったが、御子柴君は栗林さんにも嫌味を交えて返事をする。しかしその内容からすると、どうやら彼は今のダンジョンの状況や彼女たちが3階層でモンスターの群れに襲われていたことを知っていたようであった。栗林さんもそのことを察したのか穏便に説得することを諦めたようだ。
「この場で戦うというのなら私はこちらに着くことになるが……いいのか?」
「いいぜぇ!どうせそのつもりだったからなぁ!」
このやり取りを最後に穏便に済むはずであった言葉による説得は終わりを告げる。相手にそのつもりがなかったので仕方ないことではあるが、後は武力で相手を制圧するしかないだろう。
交渉の決裂を察した中等部の生徒も彼をどうにかしないと地上に出られないと考えたのか、次々に戦闘準備を始める。このような大人数で御子柴君を囲んで叩くわけにはいかないので、戦闘の余波を受けないように後ろで守りを固めておいてもらいたいところだ。
「なんだよ、全員やる気満々じゃねーか。……それじゃあ俺が新たに手に入れた力を見せてやるよぉ!!」
叫びに似た声をあげた御子柴君の影がまるで意思を持っているかのように動き始め、地面から飛び出して立体的な形を持ち始める。そしてその影が複数に分裂し、それぞれがトカゲのような形状を形作り始める。それは本日何度も目にする機会があったトカゲ型モンスターそのものであった。
「さあ、いけ!!生意気な外部生も鼻につく生徒会長も群れることしかできない後ろの雑魚共も……ダンジョンを荒らす奴を全員焼き殺せ!!」
「不味い!皆パーティー毎に散開して対応しろ!固まるとまとめてやられるぞ!」
影から出てきたトカゲたちがこちらに襲い掛かってくる。栗林さんは急いで中等部の生徒にパーティー毎に戦闘をするように指示を出す。確かにこの広い空間であれば、それぞれのパーティーでばらけたほうが周りを巻き込まない上に戦いやすいだろう。
影から生まれたトカゲは1種類だけではないようで、よく見ると体格が良いものや尻尾に棘のようなものが生えている固体が紛れ込んでいる。その内の2体が僕と霜月さんに向かって正面から突っ込んでくる。
「栗林さんはあっちの援護をお願いしていいかな?」
「兄君……わかった。十分気をつけるんだぞ」
後方にいる妹たちが心配なので隣にいる栗林さんに援護に向かってもらう。彼女が居れば複数のトカゲに襲われようとも戦線が瓦解することはないだろう。
僕たちに向かって来ているのは体格が良く外皮が殻のようになっていて、鈍重だが見るからにタフで防御力が高そうに見える。恐らく霜月さんの魔法に対抗するために防御を高めてきたのだろう。コイツ相手には僕の武器であるメイスとナイフもあまり効果がなさそうなので、もしかしたらそこまで考えていたのかもしれない。
そんなことを頭の片隅で考えながら霜月さんに向かっているトカゲの前に自ら体を割り込ませる。僕の狙い通りに目の前のトカゲは突進をこちらに切り替えてきたので、それを紙一重でかわし、すれ違いざまに尻尾を両手で掴み取る。身体強化も利用してトカゲの突進の勢いを全て受け止め、そのままこちらに突っ込んでくるもう1体のトカゲに両手で掴んでいるそれを勢いよく叩きつける。
別の固体だが外皮の殻は同じ強度だったのだろう、叩きつけられた勢いで2体の殻は砕け散り少なくないダメージを負ったトカゲは動きを鈍くする。そこにすかさず先端を鋭くした氷柱が飛来し、殻のなくなった2体のトカゲを貫き消滅させてしまう。
「な、なんだと?」
あっという間の出来事に目の前にいる男は驚いている様子だが、大事な人の命を奪おうとする輩に手加減をするつもりは毛頭ない。そしてこのくだらない争いを終わらせるため、目の前の敵に向かって歩を進めるのであった。
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