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第118話 黒い炎
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僕たちに仕向けられたモンスターを手早く倒し目の前の男との距離を詰めていくが、先ほどのように影からトカゲを呼び出す様子はなかった。もしかすると再度呼び出すのに時間を置かなければならないなどの条件があるのかもしれない。……そう考えることを読んでのブラフという可能性もあるので、相手の様子を見ながら慎重に距離を詰めていく。
「ふん!雑魚を倒しただけで調子に乗るな!」
目の前の男は声に怒りの感情を乗せながら新たな魔法を展開し始める。その怒りは演技には見えず、こちらと駆け引きをしているようには思えない。彼の直情的な性格まで考慮すると先ほどのブラフという考えは捨ててよいだろう。
彼が僕の目の前で展開している魔法は以前に闘技場でみた魔法とほぼ同様の物であった。あの時とは違い魔道具を持っているようには見えないので、恐らく自力で同じような魔法を使用していると思われる。
魔道具ではないと考えた理由は、彼の周りにバリアのようなものが展開されていないことだ。あの決闘から1週間という期間で既存の魔道具を改良することはできないだろう。決闘の時に見た彼の近接戦闘の実力を考えると、洋平君やトラ君の攻撃を完全に防いだあのバリアがなければ接近さえできれば倒すのは容易い。
しかし、彼の周りに浮いている禍々しい黒い火の玉が容易に接近をさせてくれそうにはない。以前の決闘の際に見た彼の炎は赤と青のものがあったが、そのどちらよりも威力は高そうであり、バックラーで弾こうものなら一瞬で消し炭にされてしまいそうである。
「この新しい炎で燃え尽きろ!!」
声と同時に彼の周りに浮かんでいた4つの黒炎がこちらに飛来する。そのうちの2つは軌道からすると後ろの霜月さんを狙っているようだが、前に立っている僕が避けない限りは彼女の元に魔法が到達することはない。
この火の玉は装備で受けるわけにはいかないので、いつものように身体強化の魔法で強化した両手を使って黒炎をはたき落とす。身体強化で強化しても熱を完全に防ぐことは出来ないため炎に触れた箇所から鋭い痛みを感じる。
(この魔法は弾くことにして正解だったな……)
以前のダンジョンや決闘の時のように、弾いた火の玉が周りに被害を及ぼさないよう握りつぶすという選択肢もあったのだが、この黒炎に関しては弾くだけでも手にダメージを負ってしまったので、握りつぶすという選択をとらなかった過去の自分に感謝する。
「なっ!」
霜月さんに向かっていたものを含めて4つ全ての黒炎を弾き落とす。その一部始終を見ていた彼は、驚愕の表情を浮かべて動きを止めているようだ。その隙を逃さず彼との間にある短くない距離を走って一気に詰めていく。
表情というのは思ったよりも情報を多く持っており、彼は顔に焦りや怒りなどの感情がすぐ出てくるため状況を把握しやすい。今の驚きの表情も渾身の魔法があっけなく防がれたことで、次にどのような行動をすれば良いのかわからないという心情がありありと表れている。
それに対して異世界のころから痛みを我慢することに慣れていた僕は、黒炎で負ったダメージを相手に悟らせないために表情に出ないようにしている。これで黒炎が効いていないのではないかと勘違いしてくれれば儲けものである。恐らく彼は知能を持ったモンスターや対人戦闘の経験がなかったり少なかったりするのだろう。そのおかげでこちらが優位に立てたので、ここは素直に感謝しておこう。
そうして何の妨害を受けることもなく攻撃が届く範囲まで近づくことに成功した僕は、右の拳を彼の腹目掛けて叩き込む。彼がこちらに殺意を向けてきたのは、以前のダンジョンや決闘の時と通算して3回目ではあるが、今回は無力化することだけに留めるようにする。……冷静に考えて中等部の生徒や妹、そして霜月さんの前で人を殺すことは止めておこうと考えたのだ。
「がっ……」
拳をもろに喰らってしまった御子柴君は肺の空気を全て吐き出し、力が抜けたかのようにそのまま地面に倒れこむ。気を失っているかまではわからないが、無力化に成功したと言ってもいいだろう。
皆の様子を伺うために後ろを振り向くと、召喚主が倒れたからなのか彼の影から現れたトカゲたちは霧のように霧散し、まるで初めからいなかったかのように跡形もなく消滅していく。
「……終わった?」
「そうだね。……さて、今のうちに御子柴君を縛っておけないかな?魔法も使えないようにできるといいんだけど……」
傍に来ていた霜月さんに御子柴君を縛っておけるようなものがないか尋ねるが、彼女に心当たりはないようで首を横に振っている。自分のポーチの中にもロープのようなものはなくポーションと水、後は鑑定に出していた指輪だけが入っている。
(栗林さん達にロープを持っていないか確認するか)
後ろにいる大勢の内の誰かがロープを持っているだろうと考え、床に転がる御子柴君から意識を外し栗林さんに声をかけようとする。しかし丁度その時、御子柴君は意識を取り戻し、懐から黒い魔石を取り出したところであった。
「お前たちも……道連れだ!」
御子柴君の手に握られた魔石が砕かれその場に濃い闇が広がっていき、彼の近くにいた僕と霜月さんはなすすべもなくその闇に飲み込まれてしまったのであった。
「ふん!雑魚を倒しただけで調子に乗るな!」
目の前の男は声に怒りの感情を乗せながら新たな魔法を展開し始める。その怒りは演技には見えず、こちらと駆け引きをしているようには思えない。彼の直情的な性格まで考慮すると先ほどのブラフという考えは捨ててよいだろう。
彼が僕の目の前で展開している魔法は以前に闘技場でみた魔法とほぼ同様の物であった。あの時とは違い魔道具を持っているようには見えないので、恐らく自力で同じような魔法を使用していると思われる。
魔道具ではないと考えた理由は、彼の周りにバリアのようなものが展開されていないことだ。あの決闘から1週間という期間で既存の魔道具を改良することはできないだろう。決闘の時に見た彼の近接戦闘の実力を考えると、洋平君やトラ君の攻撃を完全に防いだあのバリアがなければ接近さえできれば倒すのは容易い。
しかし、彼の周りに浮いている禍々しい黒い火の玉が容易に接近をさせてくれそうにはない。以前の決闘の際に見た彼の炎は赤と青のものがあったが、そのどちらよりも威力は高そうであり、バックラーで弾こうものなら一瞬で消し炭にされてしまいそうである。
「この新しい炎で燃え尽きろ!!」
声と同時に彼の周りに浮かんでいた4つの黒炎がこちらに飛来する。そのうちの2つは軌道からすると後ろの霜月さんを狙っているようだが、前に立っている僕が避けない限りは彼女の元に魔法が到達することはない。
この火の玉は装備で受けるわけにはいかないので、いつものように身体強化の魔法で強化した両手を使って黒炎をはたき落とす。身体強化で強化しても熱を完全に防ぐことは出来ないため炎に触れた箇所から鋭い痛みを感じる。
(この魔法は弾くことにして正解だったな……)
以前のダンジョンや決闘の時のように、弾いた火の玉が周りに被害を及ぼさないよう握りつぶすという選択肢もあったのだが、この黒炎に関しては弾くだけでも手にダメージを負ってしまったので、握りつぶすという選択をとらなかった過去の自分に感謝する。
「なっ!」
霜月さんに向かっていたものを含めて4つ全ての黒炎を弾き落とす。その一部始終を見ていた彼は、驚愕の表情を浮かべて動きを止めているようだ。その隙を逃さず彼との間にある短くない距離を走って一気に詰めていく。
表情というのは思ったよりも情報を多く持っており、彼は顔に焦りや怒りなどの感情がすぐ出てくるため状況を把握しやすい。今の驚きの表情も渾身の魔法があっけなく防がれたことで、次にどのような行動をすれば良いのかわからないという心情がありありと表れている。
それに対して異世界のころから痛みを我慢することに慣れていた僕は、黒炎で負ったダメージを相手に悟らせないために表情に出ないようにしている。これで黒炎が効いていないのではないかと勘違いしてくれれば儲けものである。恐らく彼は知能を持ったモンスターや対人戦闘の経験がなかったり少なかったりするのだろう。そのおかげでこちらが優位に立てたので、ここは素直に感謝しておこう。
そうして何の妨害を受けることもなく攻撃が届く範囲まで近づくことに成功した僕は、右の拳を彼の腹目掛けて叩き込む。彼がこちらに殺意を向けてきたのは、以前のダンジョンや決闘の時と通算して3回目ではあるが、今回は無力化することだけに留めるようにする。……冷静に考えて中等部の生徒や妹、そして霜月さんの前で人を殺すことは止めておこうと考えたのだ。
「がっ……」
拳をもろに喰らってしまった御子柴君は肺の空気を全て吐き出し、力が抜けたかのようにそのまま地面に倒れこむ。気を失っているかまではわからないが、無力化に成功したと言ってもいいだろう。
皆の様子を伺うために後ろを振り向くと、召喚主が倒れたからなのか彼の影から現れたトカゲたちは霧のように霧散し、まるで初めからいなかったかのように跡形もなく消滅していく。
「……終わった?」
「そうだね。……さて、今のうちに御子柴君を縛っておけないかな?魔法も使えないようにできるといいんだけど……」
傍に来ていた霜月さんに御子柴君を縛っておけるようなものがないか尋ねるが、彼女に心当たりはないようで首を横に振っている。自分のポーチの中にもロープのようなものはなくポーションと水、後は鑑定に出していた指輪だけが入っている。
(栗林さん達にロープを持っていないか確認するか)
後ろにいる大勢の内の誰かがロープを持っているだろうと考え、床に転がる御子柴君から意識を外し栗林さんに声をかけようとする。しかし丁度その時、御子柴君は意識を取り戻し、懐から黒い魔石を取り出したところであった。
「お前たちも……道連れだ!」
御子柴君の手に握られた魔石が砕かれその場に濃い闇が広がっていき、彼の近くにいた僕と霜月さんはなすすべもなくその闇に飲み込まれてしまったのであった。
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