123 / 135
第123話 黒竜の本気
しおりを挟む
遂に本気になった黒竜が始めに行った行動は直前に殺意を向けたこちらに攻撃をすることではなく、腰を抜かしたまま這いずって逃げ回っていた御子柴君を捕まえることであった。
「貴様に貸し与えた力、返してもらうぞ」
「や、やめろぉぉ!た、たすけ……」
折れた爪先で御子柴君を器用に摘み取った黒竜は、何とか抵抗をしようと暴れまわる彼をそのまま口の中に放り込んでしまう。……そんなばっちい物を食べたらお腹を壊してしまいそうだが、もしかすると竜の耐性があれば大丈夫なのかもしれない。
御子柴君は今わの際にこちらに助けを求めていたのだが、こちらには何ともすることが出来ず黒竜に飲み込まれてしまった。彼にはまだまだ聞きたいことが山ほどあったのだが、その機会が訪れることはもうないかもしれない。
「ゆくぞ!小僧!!」
御子柴君をその身に取り込んだ黒竜の影が意思を持ったように動き始めこちらに向かって伸びてくる。そして突如その影が立体的な棘の形に変化し、地面からこちらを一突きにする軌道で襲い掛かってくる。それは先ほど御子柴君が影からトカゲを召喚していた魔法に似ていたのだが、その危険度は段違いであった。
「くっ……」
先ほどのように巨体を利用した物理的な攻撃ではなく魔法による攻撃になんとかバックラーを横から差し込み、弾いた衝撃を利用して体を横に倒し何とか回避をする。油断をしていたわけではないが突然の魔法に反応が遅れてしまったのは事実であり、相手の攻撃パターンが増えてしまった事で気をつけなければいけないことが増えてしまった。
影を弾いたはずのバックラーには金属を叩いた時のような感触が残っており、まともに受けてしまえば盾ごと体を貫かれてしまうということが容易に想像できてしまう。恐らくだが自分が装備している鉄製の胸当てもさほど役に立たないだろう。
(大丈夫。まともに喰らったら終わりという点では何も変わってない。むしろ弾けるだけマシだと考えるべきだ)
危うく命を落とすところであった新たな攻撃に焦り出す気持ちを無理やり抑えこむ。攻撃の初動が見え辛いという点を除いてしまえば、盾で弾くことが出来るだけ巨体を利用した攻撃よりはマシであると結論付けることにした。しかし、この魔法によって一つだけ深刻な問題が発生している。それはこちらから黒竜を攻撃することが出来なくなってしまった事だ。
黒竜の魔法は自身の影を操り立体化することで様々な効果を発揮するものだと思われるが、先ほどは影を伸ばし立体化させることでこちらを攻撃してきた。その影が黒竜の足元には山ほどあり、接近戦を仕掛けようものなら四方八方から体を貫かれてしまうことだろう。
こうなってしまうと遠距離からの攻撃手段がない僕はひたすら相手の攻撃を避けることしかできず、今までに負わせたダメージで黒竜が力尽きることを祈るしかない。
「小僧、よくぞ今の攻撃を防いだな。……しかし、我の魔法はその程度では終わらないぞ!」
その言葉と共にこちらに伸びてくる影の密度が増していき、同時に複数の形を持った影が襲い掛かってくる。こちらに向かってくる影から距離をとるようにして何とかそれらを躱していく。こちらに攻撃を回避されながらも黒竜が操る影はこちらを取り囲むように動いており、本命がこちらを影で囲い込むことかもしれないという可能性まで考慮して逃げ回っていく。
この行動を黒竜が出血で力尽きるまで続ける。時間がこちらに味方している前提の作戦であったのだが……どうやら相手のほうが一枚上手だったようだ。
こちらに向けていた影の動きが急に止まり、次の瞬間には黒竜の下に戻っていく。その影はそのまま黒竜の体に吸い込まれていき、黒竜の魔力が急激に高まっていく。
「ククク。時間を必要としていたのはこちらも同じよ。これを放つには少々のタメが必要でな!」
どうやら時間を稼ごうとするこちらの考えを読んだうえで、それを利用するように大技の準備をしていたようだ。先ほどの影を操る魔法はその大技を放つまでの時間稼ぎが目的であったようで、まんまとそれに乗ってしまったということになる。
黒竜は高まった魔力と共に大きく息を吸い込んでいく。その動作から次の攻撃を正確に予測した僕は身体強化を全力で使用して走り出す。
「逃げようとも遅いわ!!喰らえ!黒竜の咆哮!!」
黒竜の口からブレスが放たれる。それは先ほど取り込んだ影を濃縮したかのような真っ黒な熱線であり、触れてしまえば存在ごと消滅してしまうのではないかと思うほどの恐ろしさを秘めている。そのブレスがこちらに届く前に何とか霜月さんの元にたどり着いた僕は、彼女を抱えながらなんとかブレスの範囲外に逃れる。
(間に合ってよかった!やっぱり竜というのは大雑把な性格だな!)
先ほどの立ち位置では霜月さんもブレスに巻き込まれるのではないかと瞬時に考え慌てて走り出したのだが、後少しでも遅れていたら間に合わなかっただろう。御子柴君のように丸呑みにしようとしている彼女を巻き込む攻撃をした大雑把な竜を睨みつけようとするが、ブレスを放ったはずの黒竜の姿はそこにはなかった。
「これで終わりだ!」
先ほど放たれたブレスの影から黒竜が突然姿を現す。それは僕たちの目と鼻の先であり、黒竜はこちらに向かって尻尾を振り回してくる。想像の埒外の出来事にこの攻撃は躱しきれないと判断した僕は、抱えていた霜月さんを攻撃の当たらない場所に投げ飛ばす。
「だめぇ!」
(後でまた怒られちゃうかもな……)
前回と違いキャッチしてくれる人はおらず地面に投げ出された霜月さんを見ていたところで黒竜の尻尾が直撃する。全身に物凄い衝撃が走り抜けた後、壁に打ち付けられたところで僕は意識を失ってしまった。
「貴様に貸し与えた力、返してもらうぞ」
「や、やめろぉぉ!た、たすけ……」
折れた爪先で御子柴君を器用に摘み取った黒竜は、何とか抵抗をしようと暴れまわる彼をそのまま口の中に放り込んでしまう。……そんなばっちい物を食べたらお腹を壊してしまいそうだが、もしかすると竜の耐性があれば大丈夫なのかもしれない。
御子柴君は今わの際にこちらに助けを求めていたのだが、こちらには何ともすることが出来ず黒竜に飲み込まれてしまった。彼にはまだまだ聞きたいことが山ほどあったのだが、その機会が訪れることはもうないかもしれない。
「ゆくぞ!小僧!!」
御子柴君をその身に取り込んだ黒竜の影が意思を持ったように動き始めこちらに向かって伸びてくる。そして突如その影が立体的な棘の形に変化し、地面からこちらを一突きにする軌道で襲い掛かってくる。それは先ほど御子柴君が影からトカゲを召喚していた魔法に似ていたのだが、その危険度は段違いであった。
「くっ……」
先ほどのように巨体を利用した物理的な攻撃ではなく魔法による攻撃になんとかバックラーを横から差し込み、弾いた衝撃を利用して体を横に倒し何とか回避をする。油断をしていたわけではないが突然の魔法に反応が遅れてしまったのは事実であり、相手の攻撃パターンが増えてしまった事で気をつけなければいけないことが増えてしまった。
影を弾いたはずのバックラーには金属を叩いた時のような感触が残っており、まともに受けてしまえば盾ごと体を貫かれてしまうということが容易に想像できてしまう。恐らくだが自分が装備している鉄製の胸当てもさほど役に立たないだろう。
(大丈夫。まともに喰らったら終わりという点では何も変わってない。むしろ弾けるだけマシだと考えるべきだ)
危うく命を落とすところであった新たな攻撃に焦り出す気持ちを無理やり抑えこむ。攻撃の初動が見え辛いという点を除いてしまえば、盾で弾くことが出来るだけ巨体を利用した攻撃よりはマシであると結論付けることにした。しかし、この魔法によって一つだけ深刻な問題が発生している。それはこちらから黒竜を攻撃することが出来なくなってしまった事だ。
黒竜の魔法は自身の影を操り立体化することで様々な効果を発揮するものだと思われるが、先ほどは影を伸ばし立体化させることでこちらを攻撃してきた。その影が黒竜の足元には山ほどあり、接近戦を仕掛けようものなら四方八方から体を貫かれてしまうことだろう。
こうなってしまうと遠距離からの攻撃手段がない僕はひたすら相手の攻撃を避けることしかできず、今までに負わせたダメージで黒竜が力尽きることを祈るしかない。
「小僧、よくぞ今の攻撃を防いだな。……しかし、我の魔法はその程度では終わらないぞ!」
その言葉と共にこちらに伸びてくる影の密度が増していき、同時に複数の形を持った影が襲い掛かってくる。こちらに向かってくる影から距離をとるようにして何とかそれらを躱していく。こちらに攻撃を回避されながらも黒竜が操る影はこちらを取り囲むように動いており、本命がこちらを影で囲い込むことかもしれないという可能性まで考慮して逃げ回っていく。
この行動を黒竜が出血で力尽きるまで続ける。時間がこちらに味方している前提の作戦であったのだが……どうやら相手のほうが一枚上手だったようだ。
こちらに向けていた影の動きが急に止まり、次の瞬間には黒竜の下に戻っていく。その影はそのまま黒竜の体に吸い込まれていき、黒竜の魔力が急激に高まっていく。
「ククク。時間を必要としていたのはこちらも同じよ。これを放つには少々のタメが必要でな!」
どうやら時間を稼ごうとするこちらの考えを読んだうえで、それを利用するように大技の準備をしていたようだ。先ほどの影を操る魔法はその大技を放つまでの時間稼ぎが目的であったようで、まんまとそれに乗ってしまったということになる。
黒竜は高まった魔力と共に大きく息を吸い込んでいく。その動作から次の攻撃を正確に予測した僕は身体強化を全力で使用して走り出す。
「逃げようとも遅いわ!!喰らえ!黒竜の咆哮!!」
黒竜の口からブレスが放たれる。それは先ほど取り込んだ影を濃縮したかのような真っ黒な熱線であり、触れてしまえば存在ごと消滅してしまうのではないかと思うほどの恐ろしさを秘めている。そのブレスがこちらに届く前に何とか霜月さんの元にたどり着いた僕は、彼女を抱えながらなんとかブレスの範囲外に逃れる。
(間に合ってよかった!やっぱり竜というのは大雑把な性格だな!)
先ほどの立ち位置では霜月さんもブレスに巻き込まれるのではないかと瞬時に考え慌てて走り出したのだが、後少しでも遅れていたら間に合わなかっただろう。御子柴君のように丸呑みにしようとしている彼女を巻き込む攻撃をした大雑把な竜を睨みつけようとするが、ブレスを放ったはずの黒竜の姿はそこにはなかった。
「これで終わりだ!」
先ほど放たれたブレスの影から黒竜が突然姿を現す。それは僕たちの目と鼻の先であり、黒竜はこちらに向かって尻尾を振り回してくる。想像の埒外の出来事にこの攻撃は躱しきれないと判断した僕は、抱えていた霜月さんを攻撃の当たらない場所に投げ飛ばす。
「だめぇ!」
(後でまた怒られちゃうかもな……)
前回と違いキャッチしてくれる人はおらず地面に投げ出された霜月さんを見ていたところで黒竜の尻尾が直撃する。全身に物凄い衝撃が走り抜けた後、壁に打ち付けられたところで僕は意識を失ってしまった。
27
あなたにおすすめの小説
平凡志望なのにスキル【一日一回ガチャ】がSSS級アイテムばかり排出するせいで、学園最強のクール美少女に勘違いされて溺愛される日々が始まった
久遠翠
ファンタジー
平凡こそが至高。そう信じて生きる高校生・神谷湊に発現したスキルは【1日1回ガチャ】。出てくるのは地味なアイテムばかり…と思いきや、時々混じるSSS級の神アイテムが、彼の平凡な日常を木っ端微塵に破壊していく!
ひょんなことから、クラス一の美少女で高嶺の花・月島凛の窮地を救ってしまった湊。正体を隠したはずが、ガチャで手に入れたトンデモアイテムのせいで、次々とボロが出てしまう。
「あなた、一体何者なの…?」
クールな彼女からの疑いと興味は、やがて熱烈なアプローチへと変わり…!?
平凡を愛する男と、彼を最強だと勘違いしたクール美少女、そして秘密を抱えた世話焼き幼馴染が織りなす、勘違い満載の学園ダンジョン・ラブコメ、ここに開幕!
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!
ユーリ
ファンタジー
気がつくと、見知らぬ部屋のベッドの上で、状況が理解できず混乱していた僕は、鏡の前に立って、あることを思い出した。
ここはリュカとして生きてきた異世界で、僕は“落ちこぼれ貴族の息子”だった。しかも最悪なことに、さっき行われた絶対失敗出来ない召喚の儀で、僕だけが失敗した。
そのせいで、貴族としての評価は確実に地に落ちる。けれど、両親は超が付くほど過保護だから、家から追い出される心配は……たぶん無い。
問題は一つ。
兄様との関係が、どうしようもなく悪い。
僕は両親に甘やかされ、勉強もサボり放題。その積み重ねのせいで、兄様との距離は遠く、話しかけるだけで気まずい空気に。
このまま兄様が家督を継いだら、屋敷から追い出されるかもしれない!
追い出されないように兄様との関係を改善し、いざ追い出されても生きていけるように勉強して強くなる!……のはずが、勉強をサボっていたせいで、一般常識すら分からないところからのスタートだった。
それでも、兄様との距離を縮めようと努力しているのに、なかなか縮まらない! むしろ避けられてる気さえする!!
それでもめげずに、今日も兄様との関係修復、頑張ります!
5/9から小説になろうでも掲載中
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
【完結】モンスターに好かれるテイマーの僕は、チュトラリーになる!
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
15歳になった男子は、冒険者になる。それが当たり前の世界。だがクテュールは、冒険者になるつもりはなかった。男だけど裁縫が好きで、道具屋とかに勤めたいと思っていた。
クテュールは、15歳になる前日に、幼馴染のエジンに稽古すると連れ出され殺されかけた!いや、偶然魔物の上に落ち助かったのだ!それが『レッドアイの森』のボス、キュイだった!
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる