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第126話 力任せの一撃
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「……寒っ」
不思議な夢から目を覚ました僕の目の前には、一面氷の世界が広がっていた。そのため周りの空気はひんやりとしており、戦闘によってボロボロになってしまった服では少し肌寒く感じてしまう。しかし、この氷は霜月さんの魔法で発生したものであり、周りの空気を冷やしている要因であると共に彼女が無事であることを示している。そのことを頭で理解したと同時にボロボロであった全身に力が戻ってくるのを感じ始める。
「まだ……終わってない」
自分が気絶してからどの程度の時間が経過したのかはわからないが、霜月さんが黒竜に抗っているおかげで彼女はまだ生きている。後衛のパートナーが戦っているのならば前衛としての役目を果たすために、大切な人が戦っているのであれば自分の欲望を叶えるために、自らも戦いに加わろうという意志が体を動かし始める。
ひとまず傷ついた体を少しでも回復しようと腰のポーチからポーションを取り出そうとするが、あるべきはずの感触が指先から伝わることはなかった。もしかすると栗林さんに矢部先生から受け取った道具袋を渡した際に、間違えて一緒に渡してしまったのかもしれない。あの時は緊急事態であったし、まさか自分がこのような窮地に陥るとは露ほども思っていなかったため、そのような行動をとっていてもおかしくはなかっただろう。
(やっちゃったなぁ……)
ないものは仕方ないということで痛みを我慢しながらも体を起こす。黒竜からもらったダメージが思いの外少ないことに疑問に抱きながらも体の調子を確かめていると、口の端から垂れている液体に気が付き袖で素早く拭う。……恐らく涎を垂らしながら気絶していたのだろう。そんな恥ずかしい姿を誰にも見られないで本当に良かった。
「思ったよりも体は動く……。よし、行こう」
体の調子も確かめ終わり魔力を全身に巡らせ身体強化の魔法を全力全開で使用する。例え魔力が尽きて再度倒れることになったとしても、ひとまずはあの黒竜を倒し霜月さんを守ることを優先する。
戦闘準備を終え、自分の周りを覆っていた氷の膜に魔力で強化した拳を叩きつける。恐らく僕を守る目的を持っていた氷の膜は、その一撃で粉々に砕け散り役目を終えてしまう。視界を遮る氷の壁がなくなったことで僕の視界に飛び込んできたのは、膝をついている霜月さんに黒竜の手が伸びているところであった。
状況を瞬時に把握し走り出したことで、黒竜の手が霜月さんに届く前に体を差し込むことに成功する。
「お待たせ、霜月さん」
「……小鳥遊、君?」
迫りくる黒竜の爪を片手で押さえながら、背後にいる霜月さんを安心させるために振り向きながら声をかける。強力な魔法を使いすぎてしまったのか、魔力切れ寸前で彼女の顔色はあまり良くはなかったが、大きなけがは見られず一安心する。……僕が気絶している間に彼女の綺麗な肌に傷が残ってしまう事態にならなくて良かった。
「小僧。まだ生きておったか」
「なんというか、あの程度でやられるような鍛え方をしてなかったみたいなんだよね」
「他人事のような言い方が気にはなるが……まあよい!それならば次は確実に殺してやろう!」
「やれるものならやってみなよ。今度はこっちも……全力だ!」
黒竜は数々の傷を負わせた憎き敵に狙いを変え殺意を向けてくる。その常人では怯んでしまいそうな殺意を軽く受け流しながら、片手で押さえていた黒竜の爪を蹴り上げる。
「ぬお!?」
身体強化の効果で強化された蹴りにより、爪ごと手を弾かれてしまった黒竜は驚きの声をあげる。そして流れるように懐に潜り込み、その隙だらけの胴体に向けて魔力と体重を乗せた拳を叩きこむ。
「ぐおぉぉ!!」
その全力を乗せた一撃は圧倒的な体格差をものともせずに黒竜を派手に吹き飛ばす。鱗によって阻まれてしまったため大したダメージは入っていないだろうが、先ほどのようなナイフを使って細かくダメージを与えていた戦い方とはまるで違う、力任せの攻撃に反応は出来なかったようだ。
「霜月さん怪我はない?今度は僕に任せて後ろで少し休んでて欲しいけど……」
黒竜を吹き飛ばしたことで作られた距離を活かして霜月さんの状況を確認しておく。僕が気絶している間に奮闘してくれた彼女には後ろで休んでいてもらいたいのだが、彼女の意思を尊重したいという思いもある。
「けがはない。……でも魔力を吸い取られた」
霜月さんの説明によると黒竜の使用していた影の魔法は、相手の魔法を取り込むことでその魔法に込められていた魔力を吸収することが出来るようだ。彼女がそのことに気が尽きた時には強力な魔法を取り込まれた後のようで、黒竜の魔力は相当回復していると考えて良いだろう。
それにしても黒竜の魔法は攻守の両方で優れている魔法のようだ。どのような形にでも変えられる影での攻撃と、相手の魔法を無効化しながら自分の魔力に変換する盾としても使用が出来る弱点の少ない魔法と言っても良いだろう。……流石は竜が使う魔法といったところだろうか。
「……ごめん。結局なにも出来なかった」
「そんなことないよ。霜月さんが頑張ったおかげで僕も生きてるし、霜月さん自身も生きてる。それ以上のことはないよ」
意気消沈している様子の霜月さんに自分が思っていることを隠さずに告げる。実際に彼女の頑張りがなければ彼女は今頃黒竜の腹の中であり、僕は動けないところを肉塊にされていただろう。……何故か彼女は頬を赤く染めているが、頑張りを褒められたことが恥ずかしかったのだろうか?
「大丈夫。後は僕に任せてよ」
霜月さんの頑張りを無駄にしないために。そして大切なものを守り抜くために。今度こそ必ず倒すという覚悟を決めて、暗闇の奥にいる黒竜との最後の戦いに挑むのであった。
不思議な夢から目を覚ました僕の目の前には、一面氷の世界が広がっていた。そのため周りの空気はひんやりとしており、戦闘によってボロボロになってしまった服では少し肌寒く感じてしまう。しかし、この氷は霜月さんの魔法で発生したものであり、周りの空気を冷やしている要因であると共に彼女が無事であることを示している。そのことを頭で理解したと同時にボロボロであった全身に力が戻ってくるのを感じ始める。
「まだ……終わってない」
自分が気絶してからどの程度の時間が経過したのかはわからないが、霜月さんが黒竜に抗っているおかげで彼女はまだ生きている。後衛のパートナーが戦っているのならば前衛としての役目を果たすために、大切な人が戦っているのであれば自分の欲望を叶えるために、自らも戦いに加わろうという意志が体を動かし始める。
ひとまず傷ついた体を少しでも回復しようと腰のポーチからポーションを取り出そうとするが、あるべきはずの感触が指先から伝わることはなかった。もしかすると栗林さんに矢部先生から受け取った道具袋を渡した際に、間違えて一緒に渡してしまったのかもしれない。あの時は緊急事態であったし、まさか自分がこのような窮地に陥るとは露ほども思っていなかったため、そのような行動をとっていてもおかしくはなかっただろう。
(やっちゃったなぁ……)
ないものは仕方ないということで痛みを我慢しながらも体を起こす。黒竜からもらったダメージが思いの外少ないことに疑問に抱きながらも体の調子を確かめていると、口の端から垂れている液体に気が付き袖で素早く拭う。……恐らく涎を垂らしながら気絶していたのだろう。そんな恥ずかしい姿を誰にも見られないで本当に良かった。
「思ったよりも体は動く……。よし、行こう」
体の調子も確かめ終わり魔力を全身に巡らせ身体強化の魔法を全力全開で使用する。例え魔力が尽きて再度倒れることになったとしても、ひとまずはあの黒竜を倒し霜月さんを守ることを優先する。
戦闘準備を終え、自分の周りを覆っていた氷の膜に魔力で強化した拳を叩きつける。恐らく僕を守る目的を持っていた氷の膜は、その一撃で粉々に砕け散り役目を終えてしまう。視界を遮る氷の壁がなくなったことで僕の視界に飛び込んできたのは、膝をついている霜月さんに黒竜の手が伸びているところであった。
状況を瞬時に把握し走り出したことで、黒竜の手が霜月さんに届く前に体を差し込むことに成功する。
「お待たせ、霜月さん」
「……小鳥遊、君?」
迫りくる黒竜の爪を片手で押さえながら、背後にいる霜月さんを安心させるために振り向きながら声をかける。強力な魔法を使いすぎてしまったのか、魔力切れ寸前で彼女の顔色はあまり良くはなかったが、大きなけがは見られず一安心する。……僕が気絶している間に彼女の綺麗な肌に傷が残ってしまう事態にならなくて良かった。
「小僧。まだ生きておったか」
「なんというか、あの程度でやられるような鍛え方をしてなかったみたいなんだよね」
「他人事のような言い方が気にはなるが……まあよい!それならば次は確実に殺してやろう!」
「やれるものならやってみなよ。今度はこっちも……全力だ!」
黒竜は数々の傷を負わせた憎き敵に狙いを変え殺意を向けてくる。その常人では怯んでしまいそうな殺意を軽く受け流しながら、片手で押さえていた黒竜の爪を蹴り上げる。
「ぬお!?」
身体強化の効果で強化された蹴りにより、爪ごと手を弾かれてしまった黒竜は驚きの声をあげる。そして流れるように懐に潜り込み、その隙だらけの胴体に向けて魔力と体重を乗せた拳を叩きこむ。
「ぐおぉぉ!!」
その全力を乗せた一撃は圧倒的な体格差をものともせずに黒竜を派手に吹き飛ばす。鱗によって阻まれてしまったため大したダメージは入っていないだろうが、先ほどのようなナイフを使って細かくダメージを与えていた戦い方とはまるで違う、力任せの攻撃に反応は出来なかったようだ。
「霜月さん怪我はない?今度は僕に任せて後ろで少し休んでて欲しいけど……」
黒竜を吹き飛ばしたことで作られた距離を活かして霜月さんの状況を確認しておく。僕が気絶している間に奮闘してくれた彼女には後ろで休んでいてもらいたいのだが、彼女の意思を尊重したいという思いもある。
「けがはない。……でも魔力を吸い取られた」
霜月さんの説明によると黒竜の使用していた影の魔法は、相手の魔法を取り込むことでその魔法に込められていた魔力を吸収することが出来るようだ。彼女がそのことに気が尽きた時には強力な魔法を取り込まれた後のようで、黒竜の魔力は相当回復していると考えて良いだろう。
それにしても黒竜の魔法は攻守の両方で優れている魔法のようだ。どのような形にでも変えられる影での攻撃と、相手の魔法を無効化しながら自分の魔力に変換する盾としても使用が出来る弱点の少ない魔法と言っても良いだろう。……流石は竜が使う魔法といったところだろうか。
「……ごめん。結局なにも出来なかった」
「そんなことないよ。霜月さんが頑張ったおかげで僕も生きてるし、霜月さん自身も生きてる。それ以上のことはないよ」
意気消沈している様子の霜月さんに自分が思っていることを隠さずに告げる。実際に彼女の頑張りがなければ彼女は今頃黒竜の腹の中であり、僕は動けないところを肉塊にされていただろう。……何故か彼女は頬を赤く染めているが、頑張りを褒められたことが恥ずかしかったのだろうか?
「大丈夫。後は僕に任せてよ」
霜月さんの頑張りを無駄にしないために。そして大切なものを守り抜くために。今度こそ必ず倒すという覚悟を決めて、暗闇の奥にいる黒竜との最後の戦いに挑むのであった。
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