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第130話 裏で行われていた魔族との取引
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ダンジョン内で優人たちが黒竜を倒し終えたのと同じ頃、学園内では2人の男女が密会をしていた。一人はこの部屋の主である冒険者育成学園の学園長である男、そしてもう一人は頭からはねじれた角、腰からは尻尾を生やしている魔族の女であった。
「今回は弱めのモンスターだけにしたのだけれど、これで証明されたかしら?」
「なるほど。貴女の言う通り迷宮崩壊を意図的に起こせることはこれで証明されたわけだな。……しかし何が目的だ?」
「うふふ、そんなに警戒しないで頂戴。私は隣人として貴方と良い関係を築きたいと思って交渉に来たのよ」
「……もし交渉に来ただけであるならば武力は必要ないと思うが?」
「あら、おかしなことを言うのね。あなた達人間だって最大限の成果を得るために武力をちらつかせて交渉することなんて普通にやるでしょう?」
「……」
男はその言葉を聞いて口を噤みながらも、目の前の魔族に対する警戒を一層強める。少なくとも男の目の前にいる魔族の女は人間というものを良く理解しており、ダンジョンで時々現れる言葉を理解しているモンスター程度とも比べ物にならないほどの知性を備えているらしい。
(いきなり部屋の中に現れた時は驚いたが……今のところはこちらに害を加えるつもりはないようだな)
目の前にいる魔族の女は前触れもなく執務中である男の部屋に現れた。もちろん扉を開いて入室してきたわけではなく床から急に湧き上がってきたのだ。突然の侵入者に男は慌てて応戦する構えを取ったのだが、意外にも魔族の女は柔らかい物腰で挨拶を交わしてきたのだ。
「ごきげんよう。私はアウモデウスと申します。この度はこの学園の長である貴方に良い話をお持ちしました」
そう言葉にした後、空中にモニターのようなものを投影し学園ダンジョンからモンスターが溢れている迷宮崩壊の映像を見せられ、ひとまず応戦することを取りやめる。事前に対策をとることが出来ると思われていた迷宮崩壊が、人為的に起こせるという事実を確認することのほうが優先度が高いと判断したのだ。
迷宮崩壊を意図的に起こせるという脅威もあり、目の前の魔族の実力は未知数で正直に言うと穏便に帰ってもらいたいところではあるが、ここまで会話が成立する魔族が持ちこんできた話というものが気になるのも事実である。最悪話を聞くだけ聞いて帰ってもらおうと考えていたが、魔族の女から続いて見せられた映像を見たことで考えが変わってしまう。
「これは……」
「私たちは貴方の本当の目的を叶える手伝いが出来るわ」
魔族の女が提示してきたものは正に男が求めていたものであり、この冒険者育成学園の学園長を務めている目的ともいえるものであった。
(これが私の……いや、俺の物になる?そうなれば今までの努力が実を結ぶ……)
「どうかしら?」
目の前にいる魔族の女は男の心の内を見透かしたかのように微笑みかけてくる。どのようにして誰にも話していないはずである男の目的を調べ上げたのかはわからないが、取引として提示されたものは喉から手が出るほど欲しいものであった。
「……わかった。話を聞かせてもらおうか」
結局自分の目的に必要なものを優先することにした男は交渉のテーブルに着くことにした。そのことに満足そうな様子をしている魔族の女は取引の詳細を話しはじめる。
「そうね、まずは……」
こうして迷宮崩壊の裏側で学園長である男と魔王軍幹部である魔族がそれぞれの目的を果たすため、取引という名の密談が始まった。
「良い取引が出来て良かったわ。何かあったらそれで連絡を頂戴」
「承知した。今後とも良い関係を築いていこう」
「うふふ、そうね。……それではご機嫌よう」
男との交渉を終え、行きと同じように魔法を使用してダンジョン内に転移をする。アスモデウスは目立つような恰好をしていたが、この魔法を使用することで学園にいた人間やダンジョン前にいた人間に見つかることもなく移動が出来ていたのだ。
「ひとまずはこれでいいわね。……アイツらが思いの外粘るから私だけこんな役回りをしなきゃいけないのはストレスが溜まるわね~。たまには私も暴れたいわ」
アスモデウスはそうぼやきながらも、自分以外の仲間が交渉のようなことが出来るとは微塵も思ってはいない。それゆえに適材適所と割り切って我慢をしてはいるのだが、それはそれとしてフラストレーションが溜まっているのも事実なのだ。
「……さて、ダンジョンの様子でも確認しようかしら」
結局溜まったストレスを吐き出す方法が思いつかずダンジョンの様子を確認していく。交渉をスムーズに行うため、多くの人間をダンジョンに釘付けにする目的で意図的に起こした迷宮崩壊ではあるが、ダンジョンの被害がどの程度出ているのかを正確に把握しなければ今後のことに関わってくるのだ。
「……ジルニトラが倒されている?」
ダンジョンの状況を魔法で確認していると匿っていた竜、ジルニトラが消滅してることに気が付く。アイツとの戦いで傷を負ってはいたがその力は本物であり、有象無象が倒せるような存在ではないはずであった。
急いで原因を探っているアスモデウスの目に入ったのは、ジルニトラを休ませていた部屋で女が男に膝枕をしている姿であった。
「……なによ、コイツは……」
アスモデウスは魔法で投影した映像に映る仲睦まじい様子の男女二人に対して、憎悪の視線を向けるのであった。
「今回は弱めのモンスターだけにしたのだけれど、これで証明されたかしら?」
「なるほど。貴女の言う通り迷宮崩壊を意図的に起こせることはこれで証明されたわけだな。……しかし何が目的だ?」
「うふふ、そんなに警戒しないで頂戴。私は隣人として貴方と良い関係を築きたいと思って交渉に来たのよ」
「……もし交渉に来ただけであるならば武力は必要ないと思うが?」
「あら、おかしなことを言うのね。あなた達人間だって最大限の成果を得るために武力をちらつかせて交渉することなんて普通にやるでしょう?」
「……」
男はその言葉を聞いて口を噤みながらも、目の前の魔族に対する警戒を一層強める。少なくとも男の目の前にいる魔族の女は人間というものを良く理解しており、ダンジョンで時々現れる言葉を理解しているモンスター程度とも比べ物にならないほどの知性を備えているらしい。
(いきなり部屋の中に現れた時は驚いたが……今のところはこちらに害を加えるつもりはないようだな)
目の前にいる魔族の女は前触れもなく執務中である男の部屋に現れた。もちろん扉を開いて入室してきたわけではなく床から急に湧き上がってきたのだ。突然の侵入者に男は慌てて応戦する構えを取ったのだが、意外にも魔族の女は柔らかい物腰で挨拶を交わしてきたのだ。
「ごきげんよう。私はアウモデウスと申します。この度はこの学園の長である貴方に良い話をお持ちしました」
そう言葉にした後、空中にモニターのようなものを投影し学園ダンジョンからモンスターが溢れている迷宮崩壊の映像を見せられ、ひとまず応戦することを取りやめる。事前に対策をとることが出来ると思われていた迷宮崩壊が、人為的に起こせるという事実を確認することのほうが優先度が高いと判断したのだ。
迷宮崩壊を意図的に起こせるという脅威もあり、目の前の魔族の実力は未知数で正直に言うと穏便に帰ってもらいたいところではあるが、ここまで会話が成立する魔族が持ちこんできた話というものが気になるのも事実である。最悪話を聞くだけ聞いて帰ってもらおうと考えていたが、魔族の女から続いて見せられた映像を見たことで考えが変わってしまう。
「これは……」
「私たちは貴方の本当の目的を叶える手伝いが出来るわ」
魔族の女が提示してきたものは正に男が求めていたものであり、この冒険者育成学園の学園長を務めている目的ともいえるものであった。
(これが私の……いや、俺の物になる?そうなれば今までの努力が実を結ぶ……)
「どうかしら?」
目の前にいる魔族の女は男の心の内を見透かしたかのように微笑みかけてくる。どのようにして誰にも話していないはずである男の目的を調べ上げたのかはわからないが、取引として提示されたものは喉から手が出るほど欲しいものであった。
「……わかった。話を聞かせてもらおうか」
結局自分の目的に必要なものを優先することにした男は交渉のテーブルに着くことにした。そのことに満足そうな様子をしている魔族の女は取引の詳細を話しはじめる。
「そうね、まずは……」
こうして迷宮崩壊の裏側で学園長である男と魔王軍幹部である魔族がそれぞれの目的を果たすため、取引という名の密談が始まった。
「良い取引が出来て良かったわ。何かあったらそれで連絡を頂戴」
「承知した。今後とも良い関係を築いていこう」
「うふふ、そうね。……それではご機嫌よう」
男との交渉を終え、行きと同じように魔法を使用してダンジョン内に転移をする。アスモデウスは目立つような恰好をしていたが、この魔法を使用することで学園にいた人間やダンジョン前にいた人間に見つかることもなく移動が出来ていたのだ。
「ひとまずはこれでいいわね。……アイツらが思いの外粘るから私だけこんな役回りをしなきゃいけないのはストレスが溜まるわね~。たまには私も暴れたいわ」
アスモデウスはそうぼやきながらも、自分以外の仲間が交渉のようなことが出来るとは微塵も思ってはいない。それゆえに適材適所と割り切って我慢をしてはいるのだが、それはそれとしてフラストレーションが溜まっているのも事実なのだ。
「……さて、ダンジョンの様子でも確認しようかしら」
結局溜まったストレスを吐き出す方法が思いつかずダンジョンの様子を確認していく。交渉をスムーズに行うため、多くの人間をダンジョンに釘付けにする目的で意図的に起こした迷宮崩壊ではあるが、ダンジョンの被害がどの程度出ているのかを正確に把握しなければ今後のことに関わってくるのだ。
「……ジルニトラが倒されている?」
ダンジョンの状況を魔法で確認していると匿っていた竜、ジルニトラが消滅してることに気が付く。アイツとの戦いで傷を負ってはいたがその力は本物であり、有象無象が倒せるような存在ではないはずであった。
急いで原因を探っているアスモデウスの目に入ったのは、ジルニトラを休ませていた部屋で女が男に膝枕をしている姿であった。
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アスモデウスは魔法で投影した映像に映る仲睦まじい様子の男女二人に対して、憎悪の視線を向けるのであった。
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