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第133話 噂話と突飛な考え
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体感ではそんなに時は経っていないが、実際には4日ぶりとなる学園は特に変わった様子もなくいつも通りであった。この光景からすると迷宮崩壊が起きたとは到底思えず、学園が実行した箝口令はある程度の効果を発揮しているのだろう。
昨夜自宅に帰った際に妹に聞いた話では、ダンジョンにいた中等部の全員も僕と同じように書類に署名をさせられたようで、あの日の出来事を話すことは出来なくなったらしい。しかし、当事者同士であれば問題ないであろうということで、僕が意識を失っていた間のことを妹から教えてもらった。
どうやら僕たちが黒竜と戦ったあの広間は、以前3階層でCクラスのパーティーが宝箱を発見した部屋の奥に存在していた空間だったらしい。それを何故妹が知っていたのかというと、僕たちを助けに来たのが妹たちであったからだ。
どうやら僕たちが御子柴君の手によって転移させられた後、妹は持ち前の勘で僕たちが3階層にいると判断したらしく地上に出ずに引き返そうとしたらしい。妹とすみれちゃんの2人だけを行かせるわけにも行かず栗林さんが有志を募った結果、生徒会のメンバー全員が協力をしてくれたようだ。……栗林さんには力ずくでもいいので妹を止めて欲しかったというのは贅沢だろうか。
そんなこんなで妹たちと生徒会のメンバーでダンジョンの3階層まで引き返し、例の部屋の隠し扉を開いた先で僕と霜月さんを発見して全員で帰還を果たしたようだ。そのような無謀とも言える行動をした瑠璃を叱ろうとも考えたが、そもそも自分も瑠璃を助けるためにダンジョンに突入した事を思い出し何も言えなくなってしまったのだ。
正直に言って妹の勘というものが予知めいていて恐ろしく感じるのだが、その勘のおかげで助かったのも事実なので昨夜は感謝を伝え沢山甘やかしておいた。……どちらかというと帰宅した際に泣きじゃくる瑠璃をなだめるほうが大変であった。
そうして自分が気絶していて知りえなかった情報を妹から教えてもらったのだが、このことを学園内、ましてやFクラスで話すことは絶対に出来ない。なぜなら彼らは教室の中で待機をさせられていて、学園ダンジョンで何が起きていたかの全容を知るものはいないからである。
「よお、優人。お前持病で倒れてたって聞いたけどもう大丈夫なのか?」
「……あぁ、うん。とりあえずはもう大丈夫かな」
「そりゃ良かった。しかし、健康そうなのに急に倒れるような持病を持ってたんだな」
「あはは……滅多に発症はしないんだけどね」
朝一でこちらに声をかけてくる洋平君の話に合わせて曖昧に返事をしておく。もちろん僕は3日間も学校を休むような持病を持ち合わせてはいないのだが、迷宮崩壊真っ只中のダンジョンに入り怪我を負ったという事実を隠ぺいするための方便である。どうやら学園は入学式前に僕が入院していたことを把握していたようで、それを利用する形に落とし込んだらしい。
純粋にこちらを心配してくれる洋平君を騙しているようで気が引けてしまうのだが、学園との契約を破るわけにはいかないので学園が決めた設定に従い無難に話を受け流すことで、余計な追及を受けることなくこの話題を終わらせることに成功する。
「そう言えば聞いたか?なんだか最近は学園ダンジョンで出てくるモンスターの数が減ってるらしいぜ」
「へぇ~。そんなことがあるんだ」
「ああ。俺たちも一昨日ダンジョンに潜った際にそんな感じがしてたんだけどな……周りに聞いてみたら皆そうだって言ってたんだよな。……それに」
気を使ってくれているのか、僕が休んでいる間の学園ダンジョンの事情を話してくれている洋平君はそこで言葉を区切り、こちらに耳打ちをするように話を続ける。
「噂によると大量のモンスターが一度に倒されたことで、ダンジョンのモンスターを生み出すエネルギーのようなものが足りてないんじゃないかって言われてるらしいぞ。このままだと学園ダンジョンからモンスターが居なくなるってさ」
「……そんな話は聞いたことないし、あまりにも突飛すぎるから流石に作り話じゃない?」
「やっぱりか、俺もそう思うんだよな」
そう言って洋平君は笑顔で答える。その様子からすると彼は先ほどの噂を微塵も信じてはいないようであった。しかし、この噂話はあながち間違いとは言えないかもしれない。
異世界のダンジョンの内部には必ずダンジョンコアという、言うなればダンジョンの素が存在していた。このダンジョンコアが魔素を利用することでモンスターを召喚したり、トラップや宝箱を設置したりするのである。
学園ダンジョンにもダンジョンコアが存在していて、例えば迷宮崩壊のように階層を問わず大量のモンスターを消滅させてしまった場合、魔素が足りずに一時的にモンスターの数が減ってしまうこともあり得るだろう。
しかしそうなると先日の迷宮崩壊は、魔素に余裕があるダンジョンコアがモンスターが溢れださせたのではなく、誰かが意図的にモンスターをダンジョン外に追い出したということになるだろう。
(いや、それこそあり得ないか)
異世界でも聞いたことがない事象に自分の推測こそ突飛なものであると判断し、今回のことは偶々起きた事故のようなものであると結論付けて、これ以上深く考えるのを止めるのであった。
昨夜自宅に帰った際に妹に聞いた話では、ダンジョンにいた中等部の全員も僕と同じように書類に署名をさせられたようで、あの日の出来事を話すことは出来なくなったらしい。しかし、当事者同士であれば問題ないであろうということで、僕が意識を失っていた間のことを妹から教えてもらった。
どうやら僕たちが黒竜と戦ったあの広間は、以前3階層でCクラスのパーティーが宝箱を発見した部屋の奥に存在していた空間だったらしい。それを何故妹が知っていたのかというと、僕たちを助けに来たのが妹たちであったからだ。
どうやら僕たちが御子柴君の手によって転移させられた後、妹は持ち前の勘で僕たちが3階層にいると判断したらしく地上に出ずに引き返そうとしたらしい。妹とすみれちゃんの2人だけを行かせるわけにも行かず栗林さんが有志を募った結果、生徒会のメンバー全員が協力をしてくれたようだ。……栗林さんには力ずくでもいいので妹を止めて欲しかったというのは贅沢だろうか。
そんなこんなで妹たちと生徒会のメンバーでダンジョンの3階層まで引き返し、例の部屋の隠し扉を開いた先で僕と霜月さんを発見して全員で帰還を果たしたようだ。そのような無謀とも言える行動をした瑠璃を叱ろうとも考えたが、そもそも自分も瑠璃を助けるためにダンジョンに突入した事を思い出し何も言えなくなってしまったのだ。
正直に言って妹の勘というものが予知めいていて恐ろしく感じるのだが、その勘のおかげで助かったのも事実なので昨夜は感謝を伝え沢山甘やかしておいた。……どちらかというと帰宅した際に泣きじゃくる瑠璃をなだめるほうが大変であった。
そうして自分が気絶していて知りえなかった情報を妹から教えてもらったのだが、このことを学園内、ましてやFクラスで話すことは絶対に出来ない。なぜなら彼らは教室の中で待機をさせられていて、学園ダンジョンで何が起きていたかの全容を知るものはいないからである。
「よお、優人。お前持病で倒れてたって聞いたけどもう大丈夫なのか?」
「……あぁ、うん。とりあえずはもう大丈夫かな」
「そりゃ良かった。しかし、健康そうなのに急に倒れるような持病を持ってたんだな」
「あはは……滅多に発症はしないんだけどね」
朝一でこちらに声をかけてくる洋平君の話に合わせて曖昧に返事をしておく。もちろん僕は3日間も学校を休むような持病を持ち合わせてはいないのだが、迷宮崩壊真っ只中のダンジョンに入り怪我を負ったという事実を隠ぺいするための方便である。どうやら学園は入学式前に僕が入院していたことを把握していたようで、それを利用する形に落とし込んだらしい。
純粋にこちらを心配してくれる洋平君を騙しているようで気が引けてしまうのだが、学園との契約を破るわけにはいかないので学園が決めた設定に従い無難に話を受け流すことで、余計な追及を受けることなくこの話題を終わらせることに成功する。
「そう言えば聞いたか?なんだか最近は学園ダンジョンで出てくるモンスターの数が減ってるらしいぜ」
「へぇ~。そんなことがあるんだ」
「ああ。俺たちも一昨日ダンジョンに潜った際にそんな感じがしてたんだけどな……周りに聞いてみたら皆そうだって言ってたんだよな。……それに」
気を使ってくれているのか、僕が休んでいる間の学園ダンジョンの事情を話してくれている洋平君はそこで言葉を区切り、こちらに耳打ちをするように話を続ける。
「噂によると大量のモンスターが一度に倒されたことで、ダンジョンのモンスターを生み出すエネルギーのようなものが足りてないんじゃないかって言われてるらしいぞ。このままだと学園ダンジョンからモンスターが居なくなるってさ」
「……そんな話は聞いたことないし、あまりにも突飛すぎるから流石に作り話じゃない?」
「やっぱりか、俺もそう思うんだよな」
そう言って洋平君は笑顔で答える。その様子からすると彼は先ほどの噂を微塵も信じてはいないようであった。しかし、この噂話はあながち間違いとは言えないかもしれない。
異世界のダンジョンの内部には必ずダンジョンコアという、言うなればダンジョンの素が存在していた。このダンジョンコアが魔素を利用することでモンスターを召喚したり、トラップや宝箱を設置したりするのである。
学園ダンジョンにもダンジョンコアが存在していて、例えば迷宮崩壊のように階層を問わず大量のモンスターを消滅させてしまった場合、魔素が足りずに一時的にモンスターの数が減ってしまうこともあり得るだろう。
しかしそうなると先日の迷宮崩壊は、魔素に余裕があるダンジョンコアがモンスターが溢れださせたのではなく、誰かが意図的にモンスターをダンジョン外に追い出したということになるだろう。
(いや、それこそあり得ないか)
異世界でも聞いたことがない事象に自分の推測こそ突飛なものであると判断し、今回のことは偶々起きた事故のようなものであると結論付けて、これ以上深く考えるのを止めるのであった。
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