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第134話 再び隠し扉の先へ
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「霜月さん。あの時は急に倒れちゃってごめんね」
「……ううん、小鳥遊君が無事でよかった」
放課後にはいつものようにパートナーの霜月さんと学園ダンジョンに潜る。しかし、今は黒竜との戦闘で負った怪我や大量に消費した魔力の影響がないかの確認を兼ねて、1階層を探索しているところである。
箝口令のおかけで教室の中では霜月さんにお礼や謝罪をすることは出来なかったが、ダンジョンの中では問題ないだろうと判断してあの時の話をしながら通路を歩く。もちろん周りに人がいないことはしっかりと確認済みである。
どうやら霜月さんの話によると、僕が倒れてからそこまで時を置かずに妹たちはあの広間に辿り着いたようで、手分けして僕と御子柴君を運ぶ手伝いをしてくれたらしい。そして地上に帰還した後に僕と御子柴君は学園によって病院に搬送されたようだ。……実際には病院ではなく謎の研究所のような場所に連れられていたのだが、それをわざわざ伝えて霜月さんに余計な心配をかける必要はないだろう。
既に妹から話を聞いていたのでほぼ同じ内容を話されるが、黒竜を倒すのが少し遅れていた場合は妹たちにあの一撃が見られていたということが判明し、そうならなかったことに安堵する。
霜月さんはこちらに気を使っているのかあの時の事を追及してはこないが、これが妹となると話が変わってくる。自分が目覚める前から優人と一緒に過ごしていた妹には変な言い訳などは通用しないのだ。……同一人物ではあるが本当の兄ではない。そのような事を口にする機会が訪れないことを願うばかりである。
「嫌味な人はまだ目覚めないって……トラ君が言ってた。だから、小鳥遊君が元気で本当によかった」
「そうなんだ……ってトラ君ってもしかして大河君のこと?」
「うん。……前に小鳥遊君が言ってたよ?」
「……本人の前では絶対に言わないでね」
「??……わかった」
霜月さんが口にした話題の内容よりも『トラ君』という単語のほうが気になってしまい、話を途中で中断させてしまう。心当たりはないのだが、どうやら僕は彼女のいる前で大河君の呼び名として使っているその単語を口にしていたようだ。しかしその呼び名は僕が心の中で勝手に使用しているだけなので、本人の前では口にしないようにお願いをしておく。……これで僕が勝手に呼び名を決めている失礼な奴ということが本人に伝わることはないだろう。
「……あ!でも他の人に言っちゃった」
「誰に!?」
「瑠璃ちゃんとすみれちゃん……」
口止めをする以前に霜月さんがトラ君という呼び名を口にしていたと聞き慌てて確認するが、彼女から出てきた名前が妹とその親友のすみれちゃんだとわかり一安心する。なぜならばトラ君と妹たちは関わりがないので、実質ノーダメージのようなものだからだ。
「……それと雛子ちゃん」
「……そっかぁ」
しかし続く霜月さんの言葉に思考が一瞬固まり、理解した時には頭を抱えたくなってしまう。恐らく彼女が口にした雛子ちゃんというのはトラ君とパーティーを組んでいる雀野さんの事だろう。妹たちとは比較にならないほどトラ君と関わる雀野さんがこの事を知っているということは、既に大河君の耳に入っていると言っても過言ではないだろう。
よりにもよって……と考えてしまうが、元をたどれば自分が油断して口にした発言がいけないので、致命傷で済んで良かったと割り切ることにする。
(……今度大河君には謝っておくことにしよう)
本人にはいずれ謝罪をすると心のメモに書き込んでおき、自分のミスを忘れるかのようにこの話題を頭の中から放り捨て、本題を詳しく聞いていく。
「それで……御子柴君はまだ目覚めてないんだ?」
「うん。大きい病院で診てもらってるみたいだけど、魔力が全くなくなってて目覚めないんだって」
霜月さんがトラ君から聞いた限りでは、病院に運ばれた御子柴君は魔力が全く回復せず、その影響によって眠ったままになっているようである。魔力が少なくなると気絶することからそのような推測がされたのであろう。しかし、異世界でも魔力が回復しないという症状は聞いたことがないので、きっとあの黒竜が原因の一端であることは間違いないだろう。
原因と思われる黒竜はもう倒してしまったので、こうなると彼を助ける手段を探すのは難しいのかもしれない。おなじ竜である師匠ならば何か知っているかもしれないので、夢であう機会があったらその時に聞いてみるのもいいかもしれない。
ちなみに霜月さんの中で御子柴君=嫌味な人という構図になっていることはスルーしておく。彼の行動はそのようなイメージを持たれてもおかしくはないからだ。
そうこうしているうちに今回の目的地としていたとある部屋にたどり着く。その部屋は僕が腰に着けている漆黒のナイフを手に入れた場所であった。
僕たちはそのまま部屋の奥に向かい、前に偶然見つけた隠し扉の前に移動する。隣に霜月さんと顔を合わせ互いの準備が終わっていることを確認した後に、壁の仕掛けを動かし隠し扉が開いていく。
「……おぉ~」
「よし、それじゃあ行こうか」
壁となっていた箇所がスライドして開いていくのを興味深そうに見ていた霜月さんに声をかけ、彼女より先に奥の空間に足を踏み入れていく。こうして僕は隠し扉の先にある謎の空間に再度足を踏み入れるのであった。
「……ううん、小鳥遊君が無事でよかった」
放課後にはいつものようにパートナーの霜月さんと学園ダンジョンに潜る。しかし、今は黒竜との戦闘で負った怪我や大量に消費した魔力の影響がないかの確認を兼ねて、1階層を探索しているところである。
箝口令のおかけで教室の中では霜月さんにお礼や謝罪をすることは出来なかったが、ダンジョンの中では問題ないだろうと判断してあの時の話をしながら通路を歩く。もちろん周りに人がいないことはしっかりと確認済みである。
どうやら霜月さんの話によると、僕が倒れてからそこまで時を置かずに妹たちはあの広間に辿り着いたようで、手分けして僕と御子柴君を運ぶ手伝いをしてくれたらしい。そして地上に帰還した後に僕と御子柴君は学園によって病院に搬送されたようだ。……実際には病院ではなく謎の研究所のような場所に連れられていたのだが、それをわざわざ伝えて霜月さんに余計な心配をかける必要はないだろう。
既に妹から話を聞いていたのでほぼ同じ内容を話されるが、黒竜を倒すのが少し遅れていた場合は妹たちにあの一撃が見られていたということが判明し、そうならなかったことに安堵する。
霜月さんはこちらに気を使っているのかあの時の事を追及してはこないが、これが妹となると話が変わってくる。自分が目覚める前から優人と一緒に過ごしていた妹には変な言い訳などは通用しないのだ。……同一人物ではあるが本当の兄ではない。そのような事を口にする機会が訪れないことを願うばかりである。
「嫌味な人はまだ目覚めないって……トラ君が言ってた。だから、小鳥遊君が元気で本当によかった」
「そうなんだ……ってトラ君ってもしかして大河君のこと?」
「うん。……前に小鳥遊君が言ってたよ?」
「……本人の前では絶対に言わないでね」
「??……わかった」
霜月さんが口にした話題の内容よりも『トラ君』という単語のほうが気になってしまい、話を途中で中断させてしまう。心当たりはないのだが、どうやら僕は彼女のいる前で大河君の呼び名として使っているその単語を口にしていたようだ。しかしその呼び名は僕が心の中で勝手に使用しているだけなので、本人の前では口にしないようにお願いをしておく。……これで僕が勝手に呼び名を決めている失礼な奴ということが本人に伝わることはないだろう。
「……あ!でも他の人に言っちゃった」
「誰に!?」
「瑠璃ちゃんとすみれちゃん……」
口止めをする以前に霜月さんがトラ君という呼び名を口にしていたと聞き慌てて確認するが、彼女から出てきた名前が妹とその親友のすみれちゃんだとわかり一安心する。なぜならばトラ君と妹たちは関わりがないので、実質ノーダメージのようなものだからだ。
「……それと雛子ちゃん」
「……そっかぁ」
しかし続く霜月さんの言葉に思考が一瞬固まり、理解した時には頭を抱えたくなってしまう。恐らく彼女が口にした雛子ちゃんというのはトラ君とパーティーを組んでいる雀野さんの事だろう。妹たちとは比較にならないほどトラ君と関わる雀野さんがこの事を知っているということは、既に大河君の耳に入っていると言っても過言ではないだろう。
よりにもよって……と考えてしまうが、元をたどれば自分が油断して口にした発言がいけないので、致命傷で済んで良かったと割り切ることにする。
(……今度大河君には謝っておくことにしよう)
本人にはいずれ謝罪をすると心のメモに書き込んでおき、自分のミスを忘れるかのようにこの話題を頭の中から放り捨て、本題を詳しく聞いていく。
「それで……御子柴君はまだ目覚めてないんだ?」
「うん。大きい病院で診てもらってるみたいだけど、魔力が全くなくなってて目覚めないんだって」
霜月さんがトラ君から聞いた限りでは、病院に運ばれた御子柴君は魔力が全く回復せず、その影響によって眠ったままになっているようである。魔力が少なくなると気絶することからそのような推測がされたのであろう。しかし、異世界でも魔力が回復しないという症状は聞いたことがないので、きっとあの黒竜が原因の一端であることは間違いないだろう。
原因と思われる黒竜はもう倒してしまったので、こうなると彼を助ける手段を探すのは難しいのかもしれない。おなじ竜である師匠ならば何か知っているかもしれないので、夢であう機会があったらその時に聞いてみるのもいいかもしれない。
ちなみに霜月さんの中で御子柴君=嫌味な人という構図になっていることはスルーしておく。彼の行動はそのようなイメージを持たれてもおかしくはないからだ。
そうこうしているうちに今回の目的地としていたとある部屋にたどり着く。その部屋は僕が腰に着けている漆黒のナイフを手に入れた場所であった。
僕たちはそのまま部屋の奥に向かい、前に偶然見つけた隠し扉の前に移動する。隣に霜月さんと顔を合わせ互いの準備が終わっていることを確認した後に、壁の仕掛けを動かし隠し扉が開いていく。
「……おぉ~」
「よし、それじゃあ行こうか」
壁となっていた箇所がスライドして開いていくのを興味深そうに見ていた霜月さんに声をかけ、彼女より先に奥の空間に足を踏み入れていく。こうして僕は隠し扉の先にある謎の空間に再度足を踏み入れるのであった。
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