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第2話 魔王討伐?
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沢山の人達で賑わう休日の大型ショッピングモールに家族全員で買い物に来ていた。
実の子供である僕から見ても、胸焼けするほどラブラブな両親。少しお転婆だがいつも明るくかわいい妹。そんな大切な家族と過ごすいつも通りの時間は長くは続かなかった。
前触れもなく立っていられなくなるほどの大地の揺れが起きたのだ。
急激な揺れに抗うことができず、地面に倒れこんでしまう。周りからは悲鳴や泣き叫ぶ声が響き、先ほどまでの楽しげな雰囲気から一転して阿鼻叫喚の状況となっている。
僕は顔だけでも家族のほうへ向けると、両親は覆いかぶさることで落下物などから妹を守っているのが見えた。
(ダメだ、そこから離れてくれ!)
必死に這いずりながら家族に手を伸ばす。しかしその伸ばした手の先では、家族の頭上に崩れたショッピングモールの瓦礫が降り注いできて……。
「~~~~~ッ!!」
言葉にならない声を発しながら慌てて体を起こす。悪夢と言っても過言ではない光景を見たことで、早鐘のようにうっている心臓を深呼吸することで何とか落ち着かせようとする。先ほどの夢は異世界に召喚される直前に起きた出来事であり、僕の人生の中で最悪の出来事であったといっても過言ではない。
「久々にあの夢を見たな……。もうあれから4年も経つのか」
僕達が勇者として異世界に召喚された日から、すでに4年の月日が経っている。……魔王討伐はまだ果たされていない。
鼓動もある程度落ち着き、ベッドから体を起こしたところでタイミングよく部屋の扉を開いてこの家の主が入ってくる。
「もう目を覚ましておったか。気絶から回復するのが随分早くなってきたの」
「気絶からの回復が早くなるより、そもそも気絶しないようになりたいんですけども……。もう少し加減をしてくださいよ、ニナ師匠」
「わはははは。ちゃんと手加減はしておるぞ。本気を出したらオヌシは消し飛んでしまうからの!」
(笑い事じゃないっす……)
前言撤回。気絶で済んでてよかった。仕切りの布越しで姿は見えていないが、腰に手を当て胸を張ってドヤ顔している師匠の姿が目に浮かぶ。
現在僕は人里から離れた自然豊かな森の中にある小屋で、かれこれ3年程前からニナ師匠に修業をつけてもらっている。
初めは勇者全員で修業をつけてもらっていたのだが、今は僕だけとなっている。なぜ僕だけが未だに修業を続けているのかは、みんなと違って才能がなかったからであろう。
召喚されて最初の1年はフローラ王女からこの世界の常識を学んだり、アーガイト王国の騎士に稽古を付けてもらったり、実戦としてダンジョン攻略に挑むことで訓練を重ねていた。
しかし1年を通しての勇者の成長は王国のお偉いさん方を満足させることができず、僕たちに過密なスケジュールで訓練を行うべきだという声が上がっていた。
実のところ、ここで声を上げたお偉いさん方は訓練と称して、勇者を自らの手駒として活用する思惑があったそうだ。
僕たちへの負担を考え現状維持を訴えるフローラ王女と、勇者のことを都合の良い兵力として見て強制的にでも魔物と戦わせようとする一部の貴族たち。今後の勇者の扱いをめぐった王宮内の権力争いを治めたのが師匠であった。
師匠は王宮でただ一言「1年で魔王討伐ができる実力にしてやるのじゃ」と言い放ち、僕たちを連行して修行をつけてくれることになった。
そして僕以外の4人は師匠の宣言よりも早く、わずか半年でとっても過酷な修業を終えて再び魔王討伐に旅立ったのだ。
片や残された僕は3年経った今でも修業を終えることができておらず、努力を積み重ねても魔王討伐ができる実力に達することができない自分の才能に嫌気がさす。だが少しでも早く皆に合流するためにも腐っている場合ではないと気合を入れなおす。
「失礼しましたニナ師匠、身体も問題なさそうなので修業の続きをお願いします」
「オヌシは本当に修行が好きじゃのう。この超絶可愛い美少女のワシとお喋りを楽しんでもいいのじゃぞ」
「そういう冗談はいいので修業をお願いします」
仕切り布を開けた先で挑発的な笑みを浮かべている師匠は、3年前から同じようなやり取りで僕をおちょくってくる。当初は色々な意味でドギマギしていたが3年の月日で対応にもだいぶ慣れたものだ。
超絶可愛い美少女を自称しているニナ師匠だが、僕の目から見ても確かに師匠は可愛い。人形のような整った顔つき。銀色に輝く艶のあるセミロングの髪。守ってあげたくなる少女のようなボディ。両耳の少し上あたりから生えている立派な角と、機嫌の良い時は左右に振られる腰の後ろから生えている太い尻尾。竜は長命であるが故の見た目と口調のギャップも良い。
そう、ニナ師匠の正体はファンタジー世界では定番の存在である竜であり、変化の魔法で人間の姿に変身しているのである。元が竜であるため可愛い美少女の見た目とは裏腹に、とてつもない強さを持っている。
ちなみに角と尻尾を隠すこともできるらしいのだが、この姿が一番人間受けが良いらしく気に入っているらしい。
「冗談ではないのじゃがなぁ。……いつまでもニナって呼んでくれないし……。しかたない、またを気絶させてオヌシの寝顔を楽しむとするかの!」
途中の言葉は口ごもっていてうまく聞き取れなかったが、最後に不穏な言葉を残し部屋を出ていくニナ師匠。
次こそは気絶をしないで修業を乗り越えられるように気合を入れて、僕はニナ師匠を追うように部屋を出て行った。
「……見たことがある天井だ」
気が付くと、いつも目にしているなじみのある天井が見える。どうやらまた修行中に気絶をさせられてしまったようだ。
あの後はいつものように広場で基礎的な魔力の訓練をしたあとに、師匠との組手を始めた。この組手は技と駆け引きの特訓となっているが、いつもニナ師匠の攻撃を僕がさばききれずに気絶してしまうのであった。
(最後の一撃は反応できなかったな……。師匠から一本とれるようになるのはいつになることやら)
また気絶してしまったことを嘆きつつ窓の外を見ると空は茜色に染まって来ていたため、本日の修行は終わりであると判断する。
夕食はいつも僕が準備しているため、ベッドから体を起こしキッチンに向かうため部屋の扉を開けると悩んでいる様子の師匠が部屋の前に立っていた。
「うわっ!ニナ師匠、こんなところで何してるんですか?」
「……オヌシに話さなければならないことがあるんじゃが、どう伝えればいいのかと思っての」
いつもと違ったまじめな雰囲気の師匠を前に、これからの話は大事な話であることを理解する。
もしかしたら、いまだに修業の芽が出ない僕に匙を投げてしまうのかもしれない。そう言われても取り乱さないように覚悟を決めて返事をする。
「ニナ師匠。何を言われても僕は大丈夫です」
「そ、そうかの。……うむわかった。実はの……」
しかし続く師匠の言葉は僕が予想だにしていないものだった。
「勇者が魔王を討伐したみたいじゃ」
「……えっ?」
こうして僕の異世界での魔王討伐の旅は終わりを迎えるのであった。
実の子供である僕から見ても、胸焼けするほどラブラブな両親。少しお転婆だがいつも明るくかわいい妹。そんな大切な家族と過ごすいつも通りの時間は長くは続かなかった。
前触れもなく立っていられなくなるほどの大地の揺れが起きたのだ。
急激な揺れに抗うことができず、地面に倒れこんでしまう。周りからは悲鳴や泣き叫ぶ声が響き、先ほどまでの楽しげな雰囲気から一転して阿鼻叫喚の状況となっている。
僕は顔だけでも家族のほうへ向けると、両親は覆いかぶさることで落下物などから妹を守っているのが見えた。
(ダメだ、そこから離れてくれ!)
必死に這いずりながら家族に手を伸ばす。しかしその伸ばした手の先では、家族の頭上に崩れたショッピングモールの瓦礫が降り注いできて……。
「~~~~~ッ!!」
言葉にならない声を発しながら慌てて体を起こす。悪夢と言っても過言ではない光景を見たことで、早鐘のようにうっている心臓を深呼吸することで何とか落ち着かせようとする。先ほどの夢は異世界に召喚される直前に起きた出来事であり、僕の人生の中で最悪の出来事であったといっても過言ではない。
「久々にあの夢を見たな……。もうあれから4年も経つのか」
僕達が勇者として異世界に召喚された日から、すでに4年の月日が経っている。……魔王討伐はまだ果たされていない。
鼓動もある程度落ち着き、ベッドから体を起こしたところでタイミングよく部屋の扉を開いてこの家の主が入ってくる。
「もう目を覚ましておったか。気絶から回復するのが随分早くなってきたの」
「気絶からの回復が早くなるより、そもそも気絶しないようになりたいんですけども……。もう少し加減をしてくださいよ、ニナ師匠」
「わはははは。ちゃんと手加減はしておるぞ。本気を出したらオヌシは消し飛んでしまうからの!」
(笑い事じゃないっす……)
前言撤回。気絶で済んでてよかった。仕切りの布越しで姿は見えていないが、腰に手を当て胸を張ってドヤ顔している師匠の姿が目に浮かぶ。
現在僕は人里から離れた自然豊かな森の中にある小屋で、かれこれ3年程前からニナ師匠に修業をつけてもらっている。
初めは勇者全員で修業をつけてもらっていたのだが、今は僕だけとなっている。なぜ僕だけが未だに修業を続けているのかは、みんなと違って才能がなかったからであろう。
召喚されて最初の1年はフローラ王女からこの世界の常識を学んだり、アーガイト王国の騎士に稽古を付けてもらったり、実戦としてダンジョン攻略に挑むことで訓練を重ねていた。
しかし1年を通しての勇者の成長は王国のお偉いさん方を満足させることができず、僕たちに過密なスケジュールで訓練を行うべきだという声が上がっていた。
実のところ、ここで声を上げたお偉いさん方は訓練と称して、勇者を自らの手駒として活用する思惑があったそうだ。
僕たちへの負担を考え現状維持を訴えるフローラ王女と、勇者のことを都合の良い兵力として見て強制的にでも魔物と戦わせようとする一部の貴族たち。今後の勇者の扱いをめぐった王宮内の権力争いを治めたのが師匠であった。
師匠は王宮でただ一言「1年で魔王討伐ができる実力にしてやるのじゃ」と言い放ち、僕たちを連行して修行をつけてくれることになった。
そして僕以外の4人は師匠の宣言よりも早く、わずか半年でとっても過酷な修業を終えて再び魔王討伐に旅立ったのだ。
片や残された僕は3年経った今でも修業を終えることができておらず、努力を積み重ねても魔王討伐ができる実力に達することができない自分の才能に嫌気がさす。だが少しでも早く皆に合流するためにも腐っている場合ではないと気合を入れなおす。
「失礼しましたニナ師匠、身体も問題なさそうなので修業の続きをお願いします」
「オヌシは本当に修行が好きじゃのう。この超絶可愛い美少女のワシとお喋りを楽しんでもいいのじゃぞ」
「そういう冗談はいいので修業をお願いします」
仕切り布を開けた先で挑発的な笑みを浮かべている師匠は、3年前から同じようなやり取りで僕をおちょくってくる。当初は色々な意味でドギマギしていたが3年の月日で対応にもだいぶ慣れたものだ。
超絶可愛い美少女を自称しているニナ師匠だが、僕の目から見ても確かに師匠は可愛い。人形のような整った顔つき。銀色に輝く艶のあるセミロングの髪。守ってあげたくなる少女のようなボディ。両耳の少し上あたりから生えている立派な角と、機嫌の良い時は左右に振られる腰の後ろから生えている太い尻尾。竜は長命であるが故の見た目と口調のギャップも良い。
そう、ニナ師匠の正体はファンタジー世界では定番の存在である竜であり、変化の魔法で人間の姿に変身しているのである。元が竜であるため可愛い美少女の見た目とは裏腹に、とてつもない強さを持っている。
ちなみに角と尻尾を隠すこともできるらしいのだが、この姿が一番人間受けが良いらしく気に入っているらしい。
「冗談ではないのじゃがなぁ。……いつまでもニナって呼んでくれないし……。しかたない、またを気絶させてオヌシの寝顔を楽しむとするかの!」
途中の言葉は口ごもっていてうまく聞き取れなかったが、最後に不穏な言葉を残し部屋を出ていくニナ師匠。
次こそは気絶をしないで修業を乗り越えられるように気合を入れて、僕はニナ師匠を追うように部屋を出て行った。
「……見たことがある天井だ」
気が付くと、いつも目にしているなじみのある天井が見える。どうやらまた修行中に気絶をさせられてしまったようだ。
あの後はいつものように広場で基礎的な魔力の訓練をしたあとに、師匠との組手を始めた。この組手は技と駆け引きの特訓となっているが、いつもニナ師匠の攻撃を僕がさばききれずに気絶してしまうのであった。
(最後の一撃は反応できなかったな……。師匠から一本とれるようになるのはいつになることやら)
また気絶してしまったことを嘆きつつ窓の外を見ると空は茜色に染まって来ていたため、本日の修行は終わりであると判断する。
夕食はいつも僕が準備しているため、ベッドから体を起こしキッチンに向かうため部屋の扉を開けると悩んでいる様子の師匠が部屋の前に立っていた。
「うわっ!ニナ師匠、こんなところで何してるんですか?」
「……オヌシに話さなければならないことがあるんじゃが、どう伝えればいいのかと思っての」
いつもと違ったまじめな雰囲気の師匠を前に、これからの話は大事な話であることを理解する。
もしかしたら、いまだに修業の芽が出ない僕に匙を投げてしまうのかもしれない。そう言われても取り乱さないように覚悟を決めて返事をする。
「ニナ師匠。何を言われても僕は大丈夫です」
「そ、そうかの。……うむわかった。実はの……」
しかし続く師匠の言葉は僕が予想だにしていないものだった。
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