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伝説の炎上漫画
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待てばゼロ円で読める漫画サイト。
社会人生活五年目の小倉花純(おぐらかすみ)には、電車の待ち時間でそのサイトを利用するのがささやかな楽しみだった。
今日も今日とてサイト内を読み漁っていると、学生の頃にやたら盛り上がってた漫画がまとめて読めるセールをやっていた。
もう記憶も朧げだけど、この漫画はなんであの時あんなに荒れたんだっけ? と思っていた花純は他に読むものも無かったのでそのタイトルをクリックした。
そして読みだして思い出した。当時の記憶もまざまざと蘇る。そりゃ炎上するわ……と感慨深かった。二巻で終わったその漫画は待ち時間内であっさり読み終えてしまった。大雨の影響で電車が遅れていたというのもあるが。
やがてまもなく電車が到着するというアナウンスがあり、そこにやってくるはずの電車のドアの近くに向かって歩く花純に「ひっく。ようやく来たのかよ。おっせーってんだ! ……おっとっと」 と酔っぱらって千鳥足の男が勢いよくぶつかった。
ぶつかられるなんて思っていなかった花純の身体はバランスを崩し、そのまま線路上に落下。――最後に見えたのは迫りくる電車の姿だった。
◇
そういう訳で、花純は最後に読んでいた炎上漫画の世界に転生してしまったのだ。
しかもただの転生ではなく、当て馬女キャラの久藤桜良(くどうさくら)として――。
花純、もとい現在は久藤桜良の記憶によると、この漫画「星のダンス」 は若い子向けの雑誌に掲載された現代恋愛漫画だった。
万人向けに説明するなら、「主人公でありヒロイン――立花紫(たちばなゆかり)は幼馴染の前川亮太(まえかわりょうた)をずっと好きだったのだが、クラスメートの久藤桜良が先に告白して亮太と恋人になった。落ち込む紫にクラスメートの丸居修一(まるいしゅういち)が「立花はてっきり前川とつきあっているんだと思っていた。そうじゃないなら俺と付き合ってくれ」 と告白。亮太を忘れてたい一心で修一と付き合う紫。すると亮太がその事実に嫉妬してしまう。彼は無意識下では紫が好きだったのだ。幼馴染特権で紫に近づく亮太、現在の恋人は俺だと独占欲をむき出しにする修一。二人の間で揺れる紫。亮太くんの恋人は私なのにと荒れる桜良。そんな恋のさや当てを楽しむ漫画である」 だ。
勘の良い人はもう分かったと思うけど、この当て馬女キャラである久藤桜良の不満はもっともじゃね? と感じたことでしょう。
でもしょうがないんです。何故なら主人公達が通う学園の名前は「私立橘(たちばな)学園」です。そう、ヒロインの名字。ついでに言うなら住んでる市の名前も「村咲(むらさき)市」 です。ヒロインの名前の紫はむらさきとも読みますよね。まあそういうことです。作者が強烈なヒロイン至上主義者だったんです。
作者の方ですが、とにかく絵が綺麗な方で、彼女を嫌う人でも「絵だけは一流」 と褒めるくらい。だから読者は多かった。最初のほうはヒロインにも同情できる要素もありましたし。
でも後半に行くにつれヒロインの自己本位ぶりが目立ってアンチが湧くようになったんです。具体的なことは後で説明しますが……。
ともかく学園の名前に住んでいる場所の名前。更に携帯電話に残っていた星のダンスの登場人物の面々の名前で自分はあの世界に転生してしまったんだと思ったわけです。ついでに家の表札を見て、自分が久藤桜良に転生したのだということも。朝起きたら少女漫画の当て馬女キャラになっていました。なにこれ喜劇?
泣いても叫んでも状況が変わる訳ではありません。ともかく現状を整理すると……漫画の結末は「ヒロインは結局亮太とくっつく。修一はそうなってもずっと大切な人だとヒロインを思い続けていて読者の胸をキュンキュンさせる。ヒロインの邪魔した空気読めない桜良は転校して落ちぶれる」 なので……。
いや落ちぶれたくないよ! 好きでこうなったんじゃないし!
考えに考えた末、とにかく二人の邪魔はしないと決意した。……にしても、この当て馬女キャラって……。
あの頃のSNSでは「桜良って何も悪くなくない?」 とう声が飛び交っていた。なおそういう声には「初見さん? この作者こういうのばっかだよ。ヒロインちゃんは優しくて完璧な悲劇のヒロインで最後に幸せになって、ヒロインを肯定しない人間は不幸になりましたって話しか描かないの。新作出すたび絵柄に騙される人が出るんだよね」 と作者通な人達が説明していた。
まあただの漫画の世界なら作者の好きにしたら案件だろう。他の作品なら最後に不幸になる人は相応のことをしていたみたいだし。
でも今は私がいる。私が久藤桜良になってしまっている。
何で大人しく漫画の言う通りにしないといけないんだ! しかも非は全くないのに、だ!
倫理的にもそんな展開許せん! 当て馬役は絶対しない!
そうして私は不幸回避のために動き出した。
◇
数日は現状把握に努めた。そして分かったこと。
桜良は既に亮太に告白して付き合っている。そしてヒロインの紫はすぐ後に修一に告白されて付き合い始めたそうだ。
原作の序盤も序盤のところだった。まあ二巻しかないけど。
そして幼馴染の紫が修一と付き合ったと知った亮太だが……。
「……」
「あ、あの、亮太くん」
「……何? 俺が今考え事してるの分からない?」
「あ、ごめんなさい。じゃあ私、あっち行ってるね」
これだ。彼女が出来たと浮かれたのは実質一日だけ。本心では紫が好きな亮太は荒れまくっていた。
原作だとこの状態の亮太に『付き合いたての彼女にそんな態度は酷いよ。ねえねえ私シャンプー変えたんだけどどう?』 と付きまとって『(こいつこんな空気読めない奴だったんだ)』 と桜良は呆れられていた。ちなみにクラスメートはみんな亮太は紫を好きなんだと気づいていたから、亮太が荒れる姿に同情していたし、空気読まずに突撃する桜良に呆れていた。
……そんな呆れるような場面だろうか。付き合って一日でこうなるとは普通思わないだろうに。
まあとにかく原作でそうなっているなら、同じ轍は踏まない。少し悲し気に見せつつ、物分かりよく退散するのだ。
とにかく早めに別れたい自分としては、こういう実績を積んで「付き合ってすぐ相性が良くないと悟ったので穏便に別れました」 ということにしたい。まあ地道にこういうことやっても、強制力とかある世界だったらやばいかもしれないけど……。
その後、トイレで女子生徒数人とばったり会った。
「あのさ、久藤さん。前川亮太くんのことなんだけど……」
リーダー格の一人がそんな話を切り出す。原作ではここで「さっきのこと笑いにきたの? ほっといてよ!」 とヒステリーを起こして桜良は去っていく。そういうことが積み重なって、最後には皆に呆れられて学園に居づらくなり、転校するしかなくなったのだ。だから私は……。
「私、馬鹿だったよね」
「え?」
「亮太くんに告白した時、絶対断られるって思ってた。でも受け入れてもらったから、立花さんとは付き合ってなかったんだって思ったの。でも立花さんが丸居修一くんと付き合ったんだって分かった朝から亮太くんの機嫌が悪くて……。これって、本人が気づいていなかったってだけで、亮太くんは立花さんのことが好きだってことだよね。よく考えればそうだって分かっただろうに、私ったらかっこいい亮太くんと付き合いたいってことしか考えてなくて……」
場合にもよるけど、人は注意する時に反発されたら「なんだこいつ。もういいよ」 と思ってしまいがちだけど、素直に非を認めたら「まあこれ以上責めるのは酷だよな」 となりがちらしい。まあ実際は認めても溺れる犬は叩けとばかりに叩く人間もSNSには多かったから相手を見てやらなきゃいけないけど。でもただの女子学生なら……。
「ま、まあ、分かってるならいいんじゃない?」
「ともかく、立花さんが可哀想だから早めに別れてあげなよ」
ヒロイン至上主義の世界だな、と桜良はぼんやり思った。他人の交際に第三者がここまで口を挟んで許されるのか。でも当て馬女キャラにやったらアドバイスでもヒロインにやったら姑ムーブって言われるんだろうなとも。ともかく、心証が悪くなかったならここで言質も取って起きたい。
「それなんだけど……こういうのってどれくらいで別れるのが適切なんだと思う? あんまり早くに分かれると前川くんが問題あるやつみたいに言われそうで」
女子生徒達は確かにそうだと頷きあったあと、ああでもないこうでもないとしばらく話して最後に桜良にこう言った。
「ひと月くらいが妥当じゃない? 相性が良くなかったって周りに納得させるには充分な時間でしょ。短くてもアレだけど、あんまり長くても立花さんが可哀想になるし」
「そう……。じゃあひと月後には交際を終了しようって言ってみる! 他の人にも心配かけたと思うからそう話しておいてくれない?」
「分かった! これで皆も安心するね!」
そう言って女子生徒達はトイレを出て行った。
その背中を見送りながら、桜良はぼそっと言った。
「告白してもいないヒロインが同情されまくるのに、告白した桜良が邪険に扱われてるのは何とも思われないなんて……」
とはいえそうなる心理は分からなくもない。というのも久藤桜良は半年前にこの市に転校してきたばかりで周りからすれば馴染みが薄いのだ。正真正銘地元で生まれ育った紫が優遇されるのも納得といえば納得。
でもだからって悪役になってやるつもりはない。
◇
別れるのはひと月後と宣言したものの、その前に原作のあるイベントが控えていた。
その回のサブタイトルは「ドキドキダブルデート!」
ヒロインの紫は自分と付き合っても亮太を気にしてばかりで、亮太もチラチラと紫のほうを見ていると気づいた修一は、親戚の伝手で遊園地のチケットを手に入れる。そして紫と亮太に言うのだ。「折角だからダブルデートしない? この機会に友好を深め合おうよ」
人気の遊園地だから紫には断る理由がない。紫が行きたいなら亮太も断る理由がない。唯一桜良だけが「亮太くんと普通のデートもしてないのにいきなりダブルデート? でも亮太くんが行きたいっていうなら……」 と嫌々ながら受諾している。
結論から言うと桜良は断るべきだった。ここまでは原作への反応も「なんか桜良可哀想じゃない?」 「いやいやお邪魔虫キャラならこんなものでしょ」 と炎上するところまでは行かなかった。炎上したのはまさにこの回からだった。
原作と同じように誘われたけど、自分はこの先起きることは知っているし、引導を渡すにはちょうどいいと思って受諾することにした。そして当日。
「俺達幼馴染だからさ、アトラクション乗るのも一緒が楽でいいんだよね~。友好を深めるために誘ったんだろ? そっちもクラスメートと友好深めてれば?」
亮太は遊園地に入るなりそう言って、自分の彼女を放って紫の手を繋ぎ猛ダッシュ。以降原作ではヒロインとヒーローが昔話をしながら自分達の絆がいかに強いか確認しつつ、間接キスするなどしたりしてドキドキイベントも交え、いまだ亮太を忘れられない紫の心を大いにぐらつかせる。帰る頃にはヒロインもヒーローも大満足。
なお去られた修一と桜良。
『貴方の恋人なんだろう? 何でちゃんと繋ぎ止めておかないんだ! というか何で貴方みたいな女と一緒にいなきゃならないんだ!』
『それはそっちもでしょ! 何で彼女攫われてるのよ! みっともないったら!』
原作ではそう大喧嘩して、遊園地を楽しむどころじゃなくお互い相手を探して別々の行動に終始。帰る頃やっと見つかって、アトラクションを一つも乗ることなくただただ徒労の一日を過ごしましたとさ。
SNSでは「ヒーロー人としてやばくね?」 「ヒロインお前誰の彼女のつもりなんだw恋人にいるのに別の男と一日いるってただの尻軽やんw」 「彼氏に置いて行かれた挙句、いきなり同じ立場の人から罵られる当て馬女ちゃん……」 と展開に対する批判が殺到する事態に。一応擁護すると好意的な感想が無かった訳でもない。若年層から。「ドキドキした」「ヒーローの強引さが素敵」「修一も桜良も好きじゃないからこれでいい」 うーんこの。
「貴方の恋人なんだろう? 何でちゃんと繋ぎ止めておかないんだ! というか何で貴方みたいな女と一緒にいなきゃならないんだ!」
当時を回想する自分に横からそんな声がした。本当に原作どおりだなあ。
「……ごめんなさい」
「……!」
「彼女ってことになってるけど、多分亮太くんは物珍しさから付き合っただけで、私のこと好きじゃないと思う。本当に好きなのはきっと……。でもまさかこんなことするなんて」
悪者にはなりたくないからここは素直に謝る。でもどんだけ久藤桜良に非があったんだよって話だけど。
「分かってるなら何で別れないんだよ」
「あと二週間したら別れるつもりなの。それくらいあれば周りも納得してくれるでしょう?」
「はあ? すぐ別れてればこんなことになってないのに。未練でもあるのかよ、惨めだな。自分が紫より可愛くないのは鏡見てれば分かるはずだろ?」
……正直言うと亮太よりマシって感じで修一のことは嫌いじゃかったんだけど、彼もヒロイン至上主義話にありがちな「ヒロイン以外の女キャラには冷たい人間」 だった。実際そういう立場になると「ねーよ」 という気分でいっぱいだ。
「とにかく、お前と深める友好なんてない。俺は紫を探す。お前は勝手にしてろ。じゃあな」
そう言って修一くんは走っていった。正直、友好的に接してくれたら「今あの二人はここにいるよ」 って原作情報教えても良かったんだけど……。ああまで言われて教える気になれないわ。
その後、桜良は一人でアトラクションに乗って雑誌に載っていたお勧めアイスを食べたりして遊園地を満喫した。
桜良は思う。あ~他人の金で入園した遊園地最高~。
そして閉園の頃に遊園地入り口でヒーローヒロインの二人に遭遇。しっぽりとした空気の二人に比べて、探し回ったのか汗ぐっしょりの修一くん。そんな修一くんの様子を見て今頃「彼に心配かけた!」 と気づくヒロイン。の、後ろで勝ち誇る亮太。正直このシーン編集仕事しろって思っちゃった。何故これでヒロインの心証が良くなると思った?
「あ! 修一くん……と久藤さん。ごめんね? 私達ばっかり楽しんじゃって……」
「……紫が楽しかったんなら、いいよ」
「そうそう、紫はお・れ・と楽しく過ごしてたんだよな~」
ヒロインの当て馬女キャラこと私にはついでのように謝る姿にはここまでくると突き抜けてて感心すらしてしまう。原作だと久藤桜良は「亮太くんの彼女は私でしょ! 酷いわ私を置いて行くなんて!」 とギャーギャー騒いで男二人から「お前のせいで雰囲気/余韻がぶち壊しだ!」 と怒られる。理不尽すぎない? なので同じことは言わない。
「私も私で楽しんでたよー。立花さん達も楽しそうで何より。……やっぱり前川くんには立花さんだね」
あっけらかんと言いつつ、『二人を悪く言ったりはしません。二人の仲を認めています。絶対邪魔にはなりません』 と言外に匂わせておく。修一くんには凄い睨まれたけど、お互いの恋人放って一日よろしくやったこの二人には「お似合い」 以外あるの?
内心「ケッ」 と思いながら帰途についていた時、不意に原作ヒロインである紫が言った。
「久藤さん、これ」
手に持っているのは遊園地のマスコットキャラの可愛らしいぬいぐるみ。それを桜良に差し出している。
一瞬「アラサーの女に何のつもりだ?」 と考えてしまったが、それは転生前の話で、現在は女子高生。しかもよく考えれば転生前だってぬいママをエンジョイしている方が大勢いらっしゃった。ぬいぐるみを差し出したままきょとんとする紫を見て、この件に関してはヒロインは何も悪くないと反省した。
「……くれるの?」
「うん! 今日迷惑かけちゃったから。貰ってくれると嬉しいな!」
桜良は紫に原作ままの可愛らしい容姿で微笑まれると、何とも複雑な気持ちになった。
この世界は桜良に冷たい。そしてそんな桜良に唯一優しくしてくれるのが設定上は「優しい」 ヒロインの紫だけだった。なお原作では桜良は「こいつにだけは優しくされたくない」 と突っぱねたけど。元凶でしかない相手だし、その気持ちは理解できる。できるけど……。
学生の頃、確かにこの話の続きはどうなるんだろう、ヒロインはどうなるんだろうと思っていた。
面食いだったからメインヒーローもヒロインも絵柄が綺麗というだけで好きだった。少しでも良い未来になりますようにって応援してた。
今、そのヒロインから優しくされている。
「ありがとう。大事にするね」
「うん! これね、私とおそろいなんだ!」
◇
さて、この遊園地回から原作は加速する。
遊園地回で気持ちを抑えきれないことを自覚した二人は、何と身体の関係に!
その翌日、桜良が亮太に近づくと紫と同じシャンプーの匂いがしたことで激昂。
『あの女狐と寝たの!? 浮気よ!!』
『……すまない。でも俺には紫しかいないんだ』
ショックを受けた桜良は友人に愚痴を言ったのだが、その友人いわく『ぶっちゃけ桜良って空気読めないなって思ってた。クラスの全員が前川くんと立花さんが両片思いなのは分かってたんだよ? 前川くんと話している時、立花さんが後ろでつらそうにしてたの見えなかったの? 自分だけが被害者なんて思わないほうがいいよ』 と忠告する。
こいつ友人じゃないだろって当時も今も思いました。浮気されて傷つく友人にかける言葉か? これ。あと人間には後ろに目がついてる人はまずいないから、後ろでそんなんやられても分からないと思います。と思ってたら単行本では「後ろで」 の部分が無くなってたの笑った。何でそんなの知ってるのかって? 作者と作品は別物だと思ってるので、単行本はイラスト集だと思って買ってたから。実家にまだあるかな? しかし死ぬ前は現物を所持してるのに手元にないからって電子で買っちゃうの多かったな。
とにかく、そういうことがあったから、転生して以降はその友人とは距離を置いている。そのことで「男が出来て友人をないがしろにする最低女」 みたいに言っていたらしいけれど、ひと月で別れる宣言してから「友人の環境を考えもせずに平気で罵る人」 みたいに今は言われてるらしい。悪いけど庇う気にもなれない。だって事実だし。原作ではクラス全員から嫌われる子は桜良しかいなかったから友人はぼっちになるようなことはない。が、彼女はもう誰かから何を相談されるようなことはない。もう「言ったが最後、曲解してあることないことばらまきそう」 ってイメージ定着しちゃったからね。
ともかく、原作の桜良はおそらくこの友人の最後の一打で壊れた。
『亮太くんが浮気したなら私もするの。そうしたら亮太くんと一緒なの』 ととち狂ったことを考え、亮太が修一の彼女である紫と寝たなら、自分は紫の彼氏である修一と寝るべきだと筋が通っているのかいないのかよく分からん思考回路から考え、修一の家に「紫のことで大事な相談がある」 と訪ね、どこから仕入れたのか分からないドラッグを使って修一を襲うも、こんな時ばかり「私が付き合ってる人は修一くんなんだから彼を大事にしなきゃ」 と思った紫が訪ねて来て未遂に終わる。
この件で修一は「やっぱり紫こそ最上の女性、他はクソ」 と考えを深め、亮太は他の男と寝ようとする女とかクソ、ドラッグ使おうとしたのも犯罪、よって桜良と別れることは問題ないとあっさり捨てた。桜良はもちろんこの件で学校に居られなくなり転校するも、このSNS時代では前の学校のことも隠しようがなくそこでも居づらくなって落ちぶれて……。この漫画のヒロインたる紫は「他の女性に付け入らせる隙をつくる人とかヤダ。やっぱり私には亮太しかいないわ」 と亮太を選んで幸せになる。
炎上した理由がお分かりいただけただろうか。ヒーローもヒロインもお前が言うなとしか言えないのだ。
クレームがよほどついたのか、単行本では本誌掲載時と変わっている点が多々あった。一応言っておくけれど、ヒロインヒーローの行動が改善してたとかではない。
本誌では比較的落ち着いた行動だった当て馬女キャラこと久藤桜良の言動が悪い意味でパワーアップしてた。本誌では遊園地で修一に罵られた時だって「そんなこと言われても……」 だったのに単行本では『それはそっちもでしょ! 何で彼女攫われてるのよ! みっともないったら!』 と改良……ここまでくると改悪? されていた。当て馬女がこんなヒステリックなんだからヒロイン悪くないよね、ということなんだろうか。
最後に修一を襲いに行く時だって、錯乱してて簡単に破れそうな縄しか持ってなかったのに(だから紫でも助けられた)、単行本では謎のドラッグを持っていたことになっていた。お、おう……。
物語の都合でひたすら負の部分を押し付けられたキャラ、穿った見方をすれば、ヒロイン様が綺麗でいるために全ての汚れ役を押し付けられたキャラ、それが久藤桜良だと思っている。が、それが事前に解っているなら同じことなんてしない。
「別れましょう」
ひと月。私はひと月待ってやっと亮太と別れを告げられた。場所は学園の生徒がよく使う喫茶店。近くには万が一に備えてトイレでひと月で別れる宣言した女子生徒達も控えている。
何せ彼は紫第一の男。あっさり別れられるだろうと思っていたのだが……。
「え……急に何。そっちから告ってきたのに、そっちから別れるとか勝手じゃない?」
そういう考え方もあるのか。いやでもあったところでだから何って話だここまでくると。
「でも私、このひと月で前川くんと一度もデートしたことない」
「しただろ、遊園地……」
「前川くんずっと立花さんといたじゃない。あれがデートになるなら同じ空間にいる人みんなデートしてることになるよ」
「……」
「そもそも遊園地以降ろくに喋れてないし。最後に会話したのいつだったか覚えてる?」
「それは……」
「何より立花さんとお揃いのシャンプーの匂いする人とこれからも付き合えなんて無理でしょ。私そこまで空気読めない人間じゃないよ」
「でも……」
「でも? でも何?」
「お前から振るって……なんか俺に非があったみたいで紫に恰好つかないじゃん……」
みみっちい理由で苦笑しか出来なかった。遠目で見たらクラスメートも「うわぁ……」 みたいな目で見てる。
原作じゃ桜良は暴走列車状態だったからね。そんな話しなくても良かったからね。でも少女漫画のヒーローっていうなら少しはケジメつけろや。
「本命とそういう関係になってるにも関わらず別な女と交際関係にある男のほうがかっこ悪いと思うけど」
「……」
「とにかく、私はもう貴方とは別れたつもりでいるから。この先自分から話しかけることは一切ない。……そもそもろくに会話なんてなかったから、今までと変わらないよね。私達、最初から恋人でもなんでもなかった」
「桜良……」
「あ、初めて名前呼ばれたね。でも別れたあとにそういうことされてもキモいだけだから」
飲んだお茶ぶんの代金を置いて颯爽と去る。間を置いてクラスメートも追ってきた。
強制力とかあったら「あんな言い方ないでしょ」 と言われるかもと覚悟していたのだが、元が現実世界モチーフだからなのか、流石に常識的な対応を続けていれば周りもこっちの味方になってくれた。
「久藤さん、頑張ったね」
「……うん」
「なんか前川くん、今まではかっこよくて素敵だと思ってたけど、今日のあれ、何かだっさいよね。立花さん一筋ならみっともなかろうがなんだろうが別れなよって思った」
「こう言っちゃなんだけど、一発やってから別れたかったんじゃないの? 男の人ってそういうの多いよね」
「うわっ最低! そういうのホント許せない! 付き合った翌日から冷たかった男にそんな権利ないから!」
◇
クラスの陽キャグループの拡散力を侮っていた。喫茶店の話が学年中に拡散していたのだ。
今までは「空気の読めない久藤桜良うざい。立花さん前川くん可哀想」 という空気だったのに「桜良さん可哀想。立花さん前川くんは被害者ぶるのもほどほどにしとけ」 という空気になった。
丸居修一とは廊下ですれ違いざまに「使えない女」 とボソッと言われて鳥肌が立った。いや何様なんだ。
ともかく前川くんと立花さんはお邪魔虫がいなくなって幼馴染として堂々と合うようになった。が、原作みたいに暴れに暴れてドラマチックにしてくれる引き立て役がいなかったからか、周りも「そうなんだー」「良かったねー」 くらい冷めた反応だった。原作だと「やったね!」「自分のことみたいに嬉しいよ!」 と周りから祝福されまくってたけれど。
私の不幸フラグにならないなら二人の交際が順調でも気にしなかった。むしろ順調のほうがやっぱり運命の二人だったんだなと感心できた。
が、原作からして露骨な踏み台役前提の関係だったからか、一緒に居て言い合いは多いし、丸居修一が紫に構い紫も満更ではない反応を示すことが何回もあったからか、原作では何も言わなかったのについに「尻軽女!」 と亮太は言ってしまったらしい。桜良が暴れるから曖昧になっていた部分ですよ。
悪い意味でヒロイン気質の紫は「だって一番つらい時に傍にいてくれたのは修一くんだもの! 亮ちゃんだって私が好きならなんで一度でも久藤さんと付き合ったりしたの!」 と悲劇のヒロインぶった。
そういう事が何回か続いたからか、最近前川くんから「もう新しい彼氏はできた?」 とか社会人ならセクハラになるようなことを聞かれる。鬱陶しい。
関係ないでしょと言うとニヤニヤするのでいけるなと思われてるのが嫌で事実を言う。
「恋人ならいるから、もう付きまとってこないで」
流石に少女漫画のヒーローよりも上のスペック、ということはないが、あのひと月で別れる宣言をした時に居た女性生徒のお兄さんだ。家に遊びに言った時に挨拶し、将来は弁護士を目指していると聞いた。
第一に惹かれたのがその目標だったんだろと言われれば否定できない。何かあっても弁護士だったら守ってくれそうだし。でもそういう始まりがあったっていいじゃないか。
前川くんはショックを受けたような顔で去っていった。原作の桜良だって付き合っていた頃は毎日ショック受けてたと思うよ。ともかくこれで前川くんは私の周りをうろつかなくなってホッとした。
その日、前川くんは憔悴した顔で授業を受け、その様子が心配で紫は結局亮太に戻り、でも修一に熱心にアプローチされると満更でもないという駄目なヒロインムーブをしている。ただそのムーブも分からなくもない。
だって紫と修一は正式に別れた訳じゃないから。
桜良が暴れてないから別れる理由がないのだ。かといって亮太に向かう決定打もない。
だから卒業するまで教室内でこの昼ドラは続くんだろなと思う。まあ関係なくなった身からすれば面白いよ。タダで見られるんだもん。
桜はそんな感じで昼ドラを眺めていて、ふと思い出した。この漫画、「星のダンス」 のタイトルの由来を。ヒーローとヒロインを輝く星に例えてるのだろうとは一般的なファンの見解だけど、深読みする考察好きな読者の間では「天文学者の中にはブラックホールと近くにある星が強い引力で飲み込まれるか踏みとどまるか危険な駆け引きしてるのを、星同士の危険なダンスと表現する人もいるらしい。遠くから見たら光が発散されて綺麗かもしれないけど、近くにあったら嫌すぎるって意味だったりしてw」 と草生やしながら語っていたことを。……さもありなん。まあこの作者だからないだろうけど。
◇
ある日、桜良が年上の彼氏とデート中、カバンにつけていたぬいぐるみの糸が切れて地面に落ちた。
「桜良、落としたよ」
「え? ……! ありがとう、大切な物なの」
「あの遊園地のマスコットだよね。桜良も可愛い趣味があるんだね」
「趣味っていうか、友達がくれたものだから」
「へー、義理堅いんだね。でもそんな風に落ちちゃったら無くしちゃうから、家に置いておくだけでもいいんじゃない?」
彼氏の言葉は最もだ。ぬいぐるみ用洗剤で何回か洗ってるものの、日に焼けたことで色も褪せてくたびれてきた。それでも、まだ桜良はその気持ちになれない。
「卒業するまでは、こうやってつけておきたいんだ」
原作からして敵でしかない。気まぐれで良い顔するけど基本無神経。受け身で甘えたで悪いヒロイン要素をこれでもかと詰め込んだような人間。大っ嫌い。
なのに、良い思い出も確かにあって憎みきれない。
桜良はぬいぐるみの汚れを軽く払うと、専用ポーチに入れた。
ふとSNSを見ると、紫が「汚れたからぬいぐるみをお風呂に入れたよ。友人とお揃いなんだ。この洗剤も友人が教えてくれたの」 と呟いていた。
社会人生活五年目の小倉花純(おぐらかすみ)には、電車の待ち時間でそのサイトを利用するのがささやかな楽しみだった。
今日も今日とてサイト内を読み漁っていると、学生の頃にやたら盛り上がってた漫画がまとめて読めるセールをやっていた。
もう記憶も朧げだけど、この漫画はなんであの時あんなに荒れたんだっけ? と思っていた花純は他に読むものも無かったのでそのタイトルをクリックした。
そして読みだして思い出した。当時の記憶もまざまざと蘇る。そりゃ炎上するわ……と感慨深かった。二巻で終わったその漫画は待ち時間内であっさり読み終えてしまった。大雨の影響で電車が遅れていたというのもあるが。
やがてまもなく電車が到着するというアナウンスがあり、そこにやってくるはずの電車のドアの近くに向かって歩く花純に「ひっく。ようやく来たのかよ。おっせーってんだ! ……おっとっと」 と酔っぱらって千鳥足の男が勢いよくぶつかった。
ぶつかられるなんて思っていなかった花純の身体はバランスを崩し、そのまま線路上に落下。――最後に見えたのは迫りくる電車の姿だった。
◇
そういう訳で、花純は最後に読んでいた炎上漫画の世界に転生してしまったのだ。
しかもただの転生ではなく、当て馬女キャラの久藤桜良(くどうさくら)として――。
花純、もとい現在は久藤桜良の記憶によると、この漫画「星のダンス」 は若い子向けの雑誌に掲載された現代恋愛漫画だった。
万人向けに説明するなら、「主人公でありヒロイン――立花紫(たちばなゆかり)は幼馴染の前川亮太(まえかわりょうた)をずっと好きだったのだが、クラスメートの久藤桜良が先に告白して亮太と恋人になった。落ち込む紫にクラスメートの丸居修一(まるいしゅういち)が「立花はてっきり前川とつきあっているんだと思っていた。そうじゃないなら俺と付き合ってくれ」 と告白。亮太を忘れてたい一心で修一と付き合う紫。すると亮太がその事実に嫉妬してしまう。彼は無意識下では紫が好きだったのだ。幼馴染特権で紫に近づく亮太、現在の恋人は俺だと独占欲をむき出しにする修一。二人の間で揺れる紫。亮太くんの恋人は私なのにと荒れる桜良。そんな恋のさや当てを楽しむ漫画である」 だ。
勘の良い人はもう分かったと思うけど、この当て馬女キャラである久藤桜良の不満はもっともじゃね? と感じたことでしょう。
でもしょうがないんです。何故なら主人公達が通う学園の名前は「私立橘(たちばな)学園」です。そう、ヒロインの名字。ついでに言うなら住んでる市の名前も「村咲(むらさき)市」 です。ヒロインの名前の紫はむらさきとも読みますよね。まあそういうことです。作者が強烈なヒロイン至上主義者だったんです。
作者の方ですが、とにかく絵が綺麗な方で、彼女を嫌う人でも「絵だけは一流」 と褒めるくらい。だから読者は多かった。最初のほうはヒロインにも同情できる要素もありましたし。
でも後半に行くにつれヒロインの自己本位ぶりが目立ってアンチが湧くようになったんです。具体的なことは後で説明しますが……。
ともかく学園の名前に住んでいる場所の名前。更に携帯電話に残っていた星のダンスの登場人物の面々の名前で自分はあの世界に転生してしまったんだと思ったわけです。ついでに家の表札を見て、自分が久藤桜良に転生したのだということも。朝起きたら少女漫画の当て馬女キャラになっていました。なにこれ喜劇?
泣いても叫んでも状況が変わる訳ではありません。ともかく現状を整理すると……漫画の結末は「ヒロインは結局亮太とくっつく。修一はそうなってもずっと大切な人だとヒロインを思い続けていて読者の胸をキュンキュンさせる。ヒロインの邪魔した空気読めない桜良は転校して落ちぶれる」 なので……。
いや落ちぶれたくないよ! 好きでこうなったんじゃないし!
考えに考えた末、とにかく二人の邪魔はしないと決意した。……にしても、この当て馬女キャラって……。
あの頃のSNSでは「桜良って何も悪くなくない?」 とう声が飛び交っていた。なおそういう声には「初見さん? この作者こういうのばっかだよ。ヒロインちゃんは優しくて完璧な悲劇のヒロインで最後に幸せになって、ヒロインを肯定しない人間は不幸になりましたって話しか描かないの。新作出すたび絵柄に騙される人が出るんだよね」 と作者通な人達が説明していた。
まあただの漫画の世界なら作者の好きにしたら案件だろう。他の作品なら最後に不幸になる人は相応のことをしていたみたいだし。
でも今は私がいる。私が久藤桜良になってしまっている。
何で大人しく漫画の言う通りにしないといけないんだ! しかも非は全くないのに、だ!
倫理的にもそんな展開許せん! 当て馬役は絶対しない!
そうして私は不幸回避のために動き出した。
◇
数日は現状把握に努めた。そして分かったこと。
桜良は既に亮太に告白して付き合っている。そしてヒロインの紫はすぐ後に修一に告白されて付き合い始めたそうだ。
原作の序盤も序盤のところだった。まあ二巻しかないけど。
そして幼馴染の紫が修一と付き合ったと知った亮太だが……。
「……」
「あ、あの、亮太くん」
「……何? 俺が今考え事してるの分からない?」
「あ、ごめんなさい。じゃあ私、あっち行ってるね」
これだ。彼女が出来たと浮かれたのは実質一日だけ。本心では紫が好きな亮太は荒れまくっていた。
原作だとこの状態の亮太に『付き合いたての彼女にそんな態度は酷いよ。ねえねえ私シャンプー変えたんだけどどう?』 と付きまとって『(こいつこんな空気読めない奴だったんだ)』 と桜良は呆れられていた。ちなみにクラスメートはみんな亮太は紫を好きなんだと気づいていたから、亮太が荒れる姿に同情していたし、空気読まずに突撃する桜良に呆れていた。
……そんな呆れるような場面だろうか。付き合って一日でこうなるとは普通思わないだろうに。
まあとにかく原作でそうなっているなら、同じ轍は踏まない。少し悲し気に見せつつ、物分かりよく退散するのだ。
とにかく早めに別れたい自分としては、こういう実績を積んで「付き合ってすぐ相性が良くないと悟ったので穏便に別れました」 ということにしたい。まあ地道にこういうことやっても、強制力とかある世界だったらやばいかもしれないけど……。
その後、トイレで女子生徒数人とばったり会った。
「あのさ、久藤さん。前川亮太くんのことなんだけど……」
リーダー格の一人がそんな話を切り出す。原作ではここで「さっきのこと笑いにきたの? ほっといてよ!」 とヒステリーを起こして桜良は去っていく。そういうことが積み重なって、最後には皆に呆れられて学園に居づらくなり、転校するしかなくなったのだ。だから私は……。
「私、馬鹿だったよね」
「え?」
「亮太くんに告白した時、絶対断られるって思ってた。でも受け入れてもらったから、立花さんとは付き合ってなかったんだって思ったの。でも立花さんが丸居修一くんと付き合ったんだって分かった朝から亮太くんの機嫌が悪くて……。これって、本人が気づいていなかったってだけで、亮太くんは立花さんのことが好きだってことだよね。よく考えればそうだって分かっただろうに、私ったらかっこいい亮太くんと付き合いたいってことしか考えてなくて……」
場合にもよるけど、人は注意する時に反発されたら「なんだこいつ。もういいよ」 と思ってしまいがちだけど、素直に非を認めたら「まあこれ以上責めるのは酷だよな」 となりがちらしい。まあ実際は認めても溺れる犬は叩けとばかりに叩く人間もSNSには多かったから相手を見てやらなきゃいけないけど。でもただの女子学生なら……。
「ま、まあ、分かってるならいいんじゃない?」
「ともかく、立花さんが可哀想だから早めに別れてあげなよ」
ヒロイン至上主義の世界だな、と桜良はぼんやり思った。他人の交際に第三者がここまで口を挟んで許されるのか。でも当て馬女キャラにやったらアドバイスでもヒロインにやったら姑ムーブって言われるんだろうなとも。ともかく、心証が悪くなかったならここで言質も取って起きたい。
「それなんだけど……こういうのってどれくらいで別れるのが適切なんだと思う? あんまり早くに分かれると前川くんが問題あるやつみたいに言われそうで」
女子生徒達は確かにそうだと頷きあったあと、ああでもないこうでもないとしばらく話して最後に桜良にこう言った。
「ひと月くらいが妥当じゃない? 相性が良くなかったって周りに納得させるには充分な時間でしょ。短くてもアレだけど、あんまり長くても立花さんが可哀想になるし」
「そう……。じゃあひと月後には交際を終了しようって言ってみる! 他の人にも心配かけたと思うからそう話しておいてくれない?」
「分かった! これで皆も安心するね!」
そう言って女子生徒達はトイレを出て行った。
その背中を見送りながら、桜良はぼそっと言った。
「告白してもいないヒロインが同情されまくるのに、告白した桜良が邪険に扱われてるのは何とも思われないなんて……」
とはいえそうなる心理は分からなくもない。というのも久藤桜良は半年前にこの市に転校してきたばかりで周りからすれば馴染みが薄いのだ。正真正銘地元で生まれ育った紫が優遇されるのも納得といえば納得。
でもだからって悪役になってやるつもりはない。
◇
別れるのはひと月後と宣言したものの、その前に原作のあるイベントが控えていた。
その回のサブタイトルは「ドキドキダブルデート!」
ヒロインの紫は自分と付き合っても亮太を気にしてばかりで、亮太もチラチラと紫のほうを見ていると気づいた修一は、親戚の伝手で遊園地のチケットを手に入れる。そして紫と亮太に言うのだ。「折角だからダブルデートしない? この機会に友好を深め合おうよ」
人気の遊園地だから紫には断る理由がない。紫が行きたいなら亮太も断る理由がない。唯一桜良だけが「亮太くんと普通のデートもしてないのにいきなりダブルデート? でも亮太くんが行きたいっていうなら……」 と嫌々ながら受諾している。
結論から言うと桜良は断るべきだった。ここまでは原作への反応も「なんか桜良可哀想じゃない?」 「いやいやお邪魔虫キャラならこんなものでしょ」 と炎上するところまでは行かなかった。炎上したのはまさにこの回からだった。
原作と同じように誘われたけど、自分はこの先起きることは知っているし、引導を渡すにはちょうどいいと思って受諾することにした。そして当日。
「俺達幼馴染だからさ、アトラクション乗るのも一緒が楽でいいんだよね~。友好を深めるために誘ったんだろ? そっちもクラスメートと友好深めてれば?」
亮太は遊園地に入るなりそう言って、自分の彼女を放って紫の手を繋ぎ猛ダッシュ。以降原作ではヒロインとヒーローが昔話をしながら自分達の絆がいかに強いか確認しつつ、間接キスするなどしたりしてドキドキイベントも交え、いまだ亮太を忘れられない紫の心を大いにぐらつかせる。帰る頃にはヒロインもヒーローも大満足。
なお去られた修一と桜良。
『貴方の恋人なんだろう? 何でちゃんと繋ぎ止めておかないんだ! というか何で貴方みたいな女と一緒にいなきゃならないんだ!』
『それはそっちもでしょ! 何で彼女攫われてるのよ! みっともないったら!』
原作ではそう大喧嘩して、遊園地を楽しむどころじゃなくお互い相手を探して別々の行動に終始。帰る頃やっと見つかって、アトラクションを一つも乗ることなくただただ徒労の一日を過ごしましたとさ。
SNSでは「ヒーロー人としてやばくね?」 「ヒロインお前誰の彼女のつもりなんだw恋人にいるのに別の男と一日いるってただの尻軽やんw」 「彼氏に置いて行かれた挙句、いきなり同じ立場の人から罵られる当て馬女ちゃん……」 と展開に対する批判が殺到する事態に。一応擁護すると好意的な感想が無かった訳でもない。若年層から。「ドキドキした」「ヒーローの強引さが素敵」「修一も桜良も好きじゃないからこれでいい」 うーんこの。
「貴方の恋人なんだろう? 何でちゃんと繋ぎ止めておかないんだ! というか何で貴方みたいな女と一緒にいなきゃならないんだ!」
当時を回想する自分に横からそんな声がした。本当に原作どおりだなあ。
「……ごめんなさい」
「……!」
「彼女ってことになってるけど、多分亮太くんは物珍しさから付き合っただけで、私のこと好きじゃないと思う。本当に好きなのはきっと……。でもまさかこんなことするなんて」
悪者にはなりたくないからここは素直に謝る。でもどんだけ久藤桜良に非があったんだよって話だけど。
「分かってるなら何で別れないんだよ」
「あと二週間したら別れるつもりなの。それくらいあれば周りも納得してくれるでしょう?」
「はあ? すぐ別れてればこんなことになってないのに。未練でもあるのかよ、惨めだな。自分が紫より可愛くないのは鏡見てれば分かるはずだろ?」
……正直言うと亮太よりマシって感じで修一のことは嫌いじゃかったんだけど、彼もヒロイン至上主義話にありがちな「ヒロイン以外の女キャラには冷たい人間」 だった。実際そういう立場になると「ねーよ」 という気分でいっぱいだ。
「とにかく、お前と深める友好なんてない。俺は紫を探す。お前は勝手にしてろ。じゃあな」
そう言って修一くんは走っていった。正直、友好的に接してくれたら「今あの二人はここにいるよ」 って原作情報教えても良かったんだけど……。ああまで言われて教える気になれないわ。
その後、桜良は一人でアトラクションに乗って雑誌に載っていたお勧めアイスを食べたりして遊園地を満喫した。
桜良は思う。あ~他人の金で入園した遊園地最高~。
そして閉園の頃に遊園地入り口でヒーローヒロインの二人に遭遇。しっぽりとした空気の二人に比べて、探し回ったのか汗ぐっしょりの修一くん。そんな修一くんの様子を見て今頃「彼に心配かけた!」 と気づくヒロイン。の、後ろで勝ち誇る亮太。正直このシーン編集仕事しろって思っちゃった。何故これでヒロインの心証が良くなると思った?
「あ! 修一くん……と久藤さん。ごめんね? 私達ばっかり楽しんじゃって……」
「……紫が楽しかったんなら、いいよ」
「そうそう、紫はお・れ・と楽しく過ごしてたんだよな~」
ヒロインの当て馬女キャラこと私にはついでのように謝る姿にはここまでくると突き抜けてて感心すらしてしまう。原作だと久藤桜良は「亮太くんの彼女は私でしょ! 酷いわ私を置いて行くなんて!」 とギャーギャー騒いで男二人から「お前のせいで雰囲気/余韻がぶち壊しだ!」 と怒られる。理不尽すぎない? なので同じことは言わない。
「私も私で楽しんでたよー。立花さん達も楽しそうで何より。……やっぱり前川くんには立花さんだね」
あっけらかんと言いつつ、『二人を悪く言ったりはしません。二人の仲を認めています。絶対邪魔にはなりません』 と言外に匂わせておく。修一くんには凄い睨まれたけど、お互いの恋人放って一日よろしくやったこの二人には「お似合い」 以外あるの?
内心「ケッ」 と思いながら帰途についていた時、不意に原作ヒロインである紫が言った。
「久藤さん、これ」
手に持っているのは遊園地のマスコットキャラの可愛らしいぬいぐるみ。それを桜良に差し出している。
一瞬「アラサーの女に何のつもりだ?」 と考えてしまったが、それは転生前の話で、現在は女子高生。しかもよく考えれば転生前だってぬいママをエンジョイしている方が大勢いらっしゃった。ぬいぐるみを差し出したままきょとんとする紫を見て、この件に関してはヒロインは何も悪くないと反省した。
「……くれるの?」
「うん! 今日迷惑かけちゃったから。貰ってくれると嬉しいな!」
桜良は紫に原作ままの可愛らしい容姿で微笑まれると、何とも複雑な気持ちになった。
この世界は桜良に冷たい。そしてそんな桜良に唯一優しくしてくれるのが設定上は「優しい」 ヒロインの紫だけだった。なお原作では桜良は「こいつにだけは優しくされたくない」 と突っぱねたけど。元凶でしかない相手だし、その気持ちは理解できる。できるけど……。
学生の頃、確かにこの話の続きはどうなるんだろう、ヒロインはどうなるんだろうと思っていた。
面食いだったからメインヒーローもヒロインも絵柄が綺麗というだけで好きだった。少しでも良い未来になりますようにって応援してた。
今、そのヒロインから優しくされている。
「ありがとう。大事にするね」
「うん! これね、私とおそろいなんだ!」
◇
さて、この遊園地回から原作は加速する。
遊園地回で気持ちを抑えきれないことを自覚した二人は、何と身体の関係に!
その翌日、桜良が亮太に近づくと紫と同じシャンプーの匂いがしたことで激昂。
『あの女狐と寝たの!? 浮気よ!!』
『……すまない。でも俺には紫しかいないんだ』
ショックを受けた桜良は友人に愚痴を言ったのだが、その友人いわく『ぶっちゃけ桜良って空気読めないなって思ってた。クラスの全員が前川くんと立花さんが両片思いなのは分かってたんだよ? 前川くんと話している時、立花さんが後ろでつらそうにしてたの見えなかったの? 自分だけが被害者なんて思わないほうがいいよ』 と忠告する。
こいつ友人じゃないだろって当時も今も思いました。浮気されて傷つく友人にかける言葉か? これ。あと人間には後ろに目がついてる人はまずいないから、後ろでそんなんやられても分からないと思います。と思ってたら単行本では「後ろで」 の部分が無くなってたの笑った。何でそんなの知ってるのかって? 作者と作品は別物だと思ってるので、単行本はイラスト集だと思って買ってたから。実家にまだあるかな? しかし死ぬ前は現物を所持してるのに手元にないからって電子で買っちゃうの多かったな。
とにかく、そういうことがあったから、転生して以降はその友人とは距離を置いている。そのことで「男が出来て友人をないがしろにする最低女」 みたいに言っていたらしいけれど、ひと月で別れる宣言してから「友人の環境を考えもせずに平気で罵る人」 みたいに今は言われてるらしい。悪いけど庇う気にもなれない。だって事実だし。原作ではクラス全員から嫌われる子は桜良しかいなかったから友人はぼっちになるようなことはない。が、彼女はもう誰かから何を相談されるようなことはない。もう「言ったが最後、曲解してあることないことばらまきそう」 ってイメージ定着しちゃったからね。
ともかく、原作の桜良はおそらくこの友人の最後の一打で壊れた。
『亮太くんが浮気したなら私もするの。そうしたら亮太くんと一緒なの』 ととち狂ったことを考え、亮太が修一の彼女である紫と寝たなら、自分は紫の彼氏である修一と寝るべきだと筋が通っているのかいないのかよく分からん思考回路から考え、修一の家に「紫のことで大事な相談がある」 と訪ね、どこから仕入れたのか分からないドラッグを使って修一を襲うも、こんな時ばかり「私が付き合ってる人は修一くんなんだから彼を大事にしなきゃ」 と思った紫が訪ねて来て未遂に終わる。
この件で修一は「やっぱり紫こそ最上の女性、他はクソ」 と考えを深め、亮太は他の男と寝ようとする女とかクソ、ドラッグ使おうとしたのも犯罪、よって桜良と別れることは問題ないとあっさり捨てた。桜良はもちろんこの件で学校に居られなくなり転校するも、このSNS時代では前の学校のことも隠しようがなくそこでも居づらくなって落ちぶれて……。この漫画のヒロインたる紫は「他の女性に付け入らせる隙をつくる人とかヤダ。やっぱり私には亮太しかいないわ」 と亮太を選んで幸せになる。
炎上した理由がお分かりいただけただろうか。ヒーローもヒロインもお前が言うなとしか言えないのだ。
クレームがよほどついたのか、単行本では本誌掲載時と変わっている点が多々あった。一応言っておくけれど、ヒロインヒーローの行動が改善してたとかではない。
本誌では比較的落ち着いた行動だった当て馬女キャラこと久藤桜良の言動が悪い意味でパワーアップしてた。本誌では遊園地で修一に罵られた時だって「そんなこと言われても……」 だったのに単行本では『それはそっちもでしょ! 何で彼女攫われてるのよ! みっともないったら!』 と改良……ここまでくると改悪? されていた。当て馬女がこんなヒステリックなんだからヒロイン悪くないよね、ということなんだろうか。
最後に修一を襲いに行く時だって、錯乱してて簡単に破れそうな縄しか持ってなかったのに(だから紫でも助けられた)、単行本では謎のドラッグを持っていたことになっていた。お、おう……。
物語の都合でひたすら負の部分を押し付けられたキャラ、穿った見方をすれば、ヒロイン様が綺麗でいるために全ての汚れ役を押し付けられたキャラ、それが久藤桜良だと思っている。が、それが事前に解っているなら同じことなんてしない。
「別れましょう」
ひと月。私はひと月待ってやっと亮太と別れを告げられた。場所は学園の生徒がよく使う喫茶店。近くには万が一に備えてトイレでひと月で別れる宣言した女子生徒達も控えている。
何せ彼は紫第一の男。あっさり別れられるだろうと思っていたのだが……。
「え……急に何。そっちから告ってきたのに、そっちから別れるとか勝手じゃない?」
そういう考え方もあるのか。いやでもあったところでだから何って話だここまでくると。
「でも私、このひと月で前川くんと一度もデートしたことない」
「しただろ、遊園地……」
「前川くんずっと立花さんといたじゃない。あれがデートになるなら同じ空間にいる人みんなデートしてることになるよ」
「……」
「そもそも遊園地以降ろくに喋れてないし。最後に会話したのいつだったか覚えてる?」
「それは……」
「何より立花さんとお揃いのシャンプーの匂いする人とこれからも付き合えなんて無理でしょ。私そこまで空気読めない人間じゃないよ」
「でも……」
「でも? でも何?」
「お前から振るって……なんか俺に非があったみたいで紫に恰好つかないじゃん……」
みみっちい理由で苦笑しか出来なかった。遠目で見たらクラスメートも「うわぁ……」 みたいな目で見てる。
原作じゃ桜良は暴走列車状態だったからね。そんな話しなくても良かったからね。でも少女漫画のヒーローっていうなら少しはケジメつけろや。
「本命とそういう関係になってるにも関わらず別な女と交際関係にある男のほうがかっこ悪いと思うけど」
「……」
「とにかく、私はもう貴方とは別れたつもりでいるから。この先自分から話しかけることは一切ない。……そもそもろくに会話なんてなかったから、今までと変わらないよね。私達、最初から恋人でもなんでもなかった」
「桜良……」
「あ、初めて名前呼ばれたね。でも別れたあとにそういうことされてもキモいだけだから」
飲んだお茶ぶんの代金を置いて颯爽と去る。間を置いてクラスメートも追ってきた。
強制力とかあったら「あんな言い方ないでしょ」 と言われるかもと覚悟していたのだが、元が現実世界モチーフだからなのか、流石に常識的な対応を続けていれば周りもこっちの味方になってくれた。
「久藤さん、頑張ったね」
「……うん」
「なんか前川くん、今まではかっこよくて素敵だと思ってたけど、今日のあれ、何かだっさいよね。立花さん一筋ならみっともなかろうがなんだろうが別れなよって思った」
「こう言っちゃなんだけど、一発やってから別れたかったんじゃないの? 男の人ってそういうの多いよね」
「うわっ最低! そういうのホント許せない! 付き合った翌日から冷たかった男にそんな権利ないから!」
◇
クラスの陽キャグループの拡散力を侮っていた。喫茶店の話が学年中に拡散していたのだ。
今までは「空気の読めない久藤桜良うざい。立花さん前川くん可哀想」 という空気だったのに「桜良さん可哀想。立花さん前川くんは被害者ぶるのもほどほどにしとけ」 という空気になった。
丸居修一とは廊下ですれ違いざまに「使えない女」 とボソッと言われて鳥肌が立った。いや何様なんだ。
ともかく前川くんと立花さんはお邪魔虫がいなくなって幼馴染として堂々と合うようになった。が、原作みたいに暴れに暴れてドラマチックにしてくれる引き立て役がいなかったからか、周りも「そうなんだー」「良かったねー」 くらい冷めた反応だった。原作だと「やったね!」「自分のことみたいに嬉しいよ!」 と周りから祝福されまくってたけれど。
私の不幸フラグにならないなら二人の交際が順調でも気にしなかった。むしろ順調のほうがやっぱり運命の二人だったんだなと感心できた。
が、原作からして露骨な踏み台役前提の関係だったからか、一緒に居て言い合いは多いし、丸居修一が紫に構い紫も満更ではない反応を示すことが何回もあったからか、原作では何も言わなかったのについに「尻軽女!」 と亮太は言ってしまったらしい。桜良が暴れるから曖昧になっていた部分ですよ。
悪い意味でヒロイン気質の紫は「だって一番つらい時に傍にいてくれたのは修一くんだもの! 亮ちゃんだって私が好きならなんで一度でも久藤さんと付き合ったりしたの!」 と悲劇のヒロインぶった。
そういう事が何回か続いたからか、最近前川くんから「もう新しい彼氏はできた?」 とか社会人ならセクハラになるようなことを聞かれる。鬱陶しい。
関係ないでしょと言うとニヤニヤするのでいけるなと思われてるのが嫌で事実を言う。
「恋人ならいるから、もう付きまとってこないで」
流石に少女漫画のヒーローよりも上のスペック、ということはないが、あのひと月で別れる宣言をした時に居た女性生徒のお兄さんだ。家に遊びに言った時に挨拶し、将来は弁護士を目指していると聞いた。
第一に惹かれたのがその目標だったんだろと言われれば否定できない。何かあっても弁護士だったら守ってくれそうだし。でもそういう始まりがあったっていいじゃないか。
前川くんはショックを受けたような顔で去っていった。原作の桜良だって付き合っていた頃は毎日ショック受けてたと思うよ。ともかくこれで前川くんは私の周りをうろつかなくなってホッとした。
その日、前川くんは憔悴した顔で授業を受け、その様子が心配で紫は結局亮太に戻り、でも修一に熱心にアプローチされると満更でもないという駄目なヒロインムーブをしている。ただそのムーブも分からなくもない。
だって紫と修一は正式に別れた訳じゃないから。
桜良が暴れてないから別れる理由がないのだ。かといって亮太に向かう決定打もない。
だから卒業するまで教室内でこの昼ドラは続くんだろなと思う。まあ関係なくなった身からすれば面白いよ。タダで見られるんだもん。
桜はそんな感じで昼ドラを眺めていて、ふと思い出した。この漫画、「星のダンス」 のタイトルの由来を。ヒーローとヒロインを輝く星に例えてるのだろうとは一般的なファンの見解だけど、深読みする考察好きな読者の間では「天文学者の中にはブラックホールと近くにある星が強い引力で飲み込まれるか踏みとどまるか危険な駆け引きしてるのを、星同士の危険なダンスと表現する人もいるらしい。遠くから見たら光が発散されて綺麗かもしれないけど、近くにあったら嫌すぎるって意味だったりしてw」 と草生やしながら語っていたことを。……さもありなん。まあこの作者だからないだろうけど。
◇
ある日、桜良が年上の彼氏とデート中、カバンにつけていたぬいぐるみの糸が切れて地面に落ちた。
「桜良、落としたよ」
「え? ……! ありがとう、大切な物なの」
「あの遊園地のマスコットだよね。桜良も可愛い趣味があるんだね」
「趣味っていうか、友達がくれたものだから」
「へー、義理堅いんだね。でもそんな風に落ちちゃったら無くしちゃうから、家に置いておくだけでもいいんじゃない?」
彼氏の言葉は最もだ。ぬいぐるみ用洗剤で何回か洗ってるものの、日に焼けたことで色も褪せてくたびれてきた。それでも、まだ桜良はその気持ちになれない。
「卒業するまでは、こうやってつけておきたいんだ」
原作からして敵でしかない。気まぐれで良い顔するけど基本無神経。受け身で甘えたで悪いヒロイン要素をこれでもかと詰め込んだような人間。大っ嫌い。
なのに、良い思い出も確かにあって憎みきれない。
桜良はぬいぐるみの汚れを軽く払うと、専用ポーチに入れた。
ふとSNSを見ると、紫が「汚れたからぬいぐるみをお風呂に入れたよ。友人とお揃いなんだ。この洗剤も友人が教えてくれたの」 と呟いていた。
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思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
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そうなんですよね、漫画を表紙買いしてると「なんかこのヒロイン……あれ?おかしくね?」というのに当たりがちで。
ヒーローのほうもヒロインへの対応だけ見てればキャー素敵って思えたけど、他の女キャラへの対応が信じられないくらい問題あると、読み返した時に百年の恋も冷める気持ちになりますよね……。
少女漫画のヒロインでありヒドインなキャラだったけど、作者としては書いてるぶんにはちょっと楽しかったです(笑)こういう話じゃないと何しても上手くいくキャラって書けないので。
おわあ……すごいですね!
場所は取るかもだけど感想欄がめっちゃ華やぎます!
これからも感想と応援AAよろしくです!今は仕事が忙しくて中々話が書けませんで……。
明けましておめでとうございます!ハッピーニューイヤーが一瞬絵に見えました……こんな手の込んだあけおめ初めて(喜)。
ヒドインちゃんは、まああれです。
少女漫画のヒドイン(ヒロインではない)にふさわしくどっちもキープで。
ただあんまり調子に乗ってると社会人になったあたりで男どもが「俺は一体なにをやってるんだ?」と我に返って一斉に捨てられるかも。