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第1章
【1-5】紅眼と疾風
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「いや、まさか、そんな……」
信じがたいことを言われたキリエは、苦笑しながら首を振り、思わず後ずさる。だが、そんな青年の両肩をさらに強く握りながら、役人は言葉を絞り出すように言った。
「俺だって信じがたい。でも、この金ボタンがそれを証明している。兄ちゃん、あんたはこの王国を導いていく存在かもしれないってな」
「でも、僕は教会育ちの孤児です。そんなはずがないと思うのですが」
「だが、孤児だからこそ、ありえなくもないんだ。前国王陛下が何らかのご事情で、あんたの母親を城にお迎えできなかったのかもしれない。……そうなると、兄ちゃんの存在が国家機密という恐れもあるが、その割には教会で普通に孤児扱いだしなぁ。髪も目も特殊な色をしている要人を野放しにしておくってのも変な話だ」
キリエの肩から手を離し、難しい表情で考え込む役人。そんな彼を見上げながら、キリエも不安げに溜息をつく。
前国王──オズワルド=フォン=ウィスタリアが崩御してから半年以上が経っていた。今年の新年祭のあと、急死したという。持病があったというわけではなく、まだ四十歳にもなっていない若さだったことから、暗殺されたのではないかという噂もあるが、真偽のほどは定かではない。
そして現在、四名の王子・王女の誰が王座に就くべきかを決める次期国王選抜が行われている。次の新年祭で次期国王が発表されることになっており、現在はその選出に発言力を持っている各々が争いを繰り広げている頃だろう。
キリエが次期国王候補の一人かもしれないという仮定も非現実的だが、もう秋になっているこの時期に発覚したということも拍車をかけてそう思わせた。
ちなみに、ウィスタリア王国の一年は春の第一月・春の第二月・春の第三月・夏の第一月……という形で春夏秋冬各三月ずつ、計十二の月で成り立っている。現在は秋の第二月第二週だ。春の月第一月初日が新年の幕開けであり、あと四ヶ月半ほどしか時間が無い。
「兄ちゃんが次期国王候補だとしても、もう秋だしな……、どういう判断が下されるか分からん。酷だとは思うが、腹を括っておく必要もあるだろうな」
「腹を括る、と仰いますと……?」
「消される──つまり、殺される可能性もあるということだ。次期国王選抜もだいぶ進んでいるだろうし、そんな中で突然現れた不穏分子だと見なされれば、そういうことだって考えられる。だからといって、役場としては今回の件を報告しないわけにもいかない。……俺だけならまだ目を瞑ってやることも出来たかもしれんが、おかげさまでそれなりに目撃者もいるしな」
「なるほど……、確かに、そう……ですね」
キリエは歯切れ悪く答え、俯く。受付室にいる役人の数は先ほどよりも増えていて、様々な年齢層の視線に晒されてしまっていた。国家機密と同等かもしれないとまで言われている事柄を秘密裏に共有するには、少々人数が多い気がする。
「だがまぁ、どうなるかは分からん。とりあえず、今日のところは教会に帰りな。そして、何か動きがあるまで、このことは誰にも言わないように。俺たち地方役人は、王都へのしかるべき報告を怠った奴に関する密告は積極的にするが、国側へ報告の上がった情報の管理もきちんとしている。要は、そんなに口が軽い人間は役人になれないってことだ。ここにいる連中も、王国側が何か動かない限り情報を漏らしたりはしない」
「……はい」
「口が軽いわけじゃないが、だからといって見逃してやることは出来ない。すまんな」
「いいえ、とんでもない。お役人さんは、きちんとお仕事をされているだけですから。むしろ、ご親切にいろいろと教えてくださって、ありがとうございます」
金ボタンを包んでいたハンカチを畳んでポケットに入れ、キリエは丁寧に一礼する。頭の中は混乱していてグチャグチャな状態ではあるが、とりあえずこの場を立ち去らなくてはと思ったのだ。安心できる場所に帰って脳内を整理したいという思いもある。
「なぁ、兄ちゃん」
踵を返そうとするキリエを呼び止めるように、役人が声を掛けてくる。
「はい?」
「もし、話が上手いこと進んでいったのなら、俺たちは兄ちゃんを兄ちゃんだなんて気安く呼べなくなるし、同時に期待もすると思う」
「期待……ですか?」
「ああ。孤児から国王までのし上がった人間なんていう夢のような存在が現れたら、伝説級だ。そんな伝説上の人物と同じ時代に生まれたなんて、俺たちにとっても喜ばしい話だからな」
「……僕は、国王にはもちろん、伝説的存在になんてなれませんよ」
曖昧な苦笑と共に再度頭を下げたキリエは、今度こそ多くの視線を振り切るように背中を向け、重い足取りで街役場を後にした。
◆◆◆
「おい、いい加減に放せよ……ッ」
街役場から三十歩ほど歩いたところで、よく知る声が聞こえたキリエは足を止める。声の主──エステルを探すと、木の陰になっている場所で三人の男に囲まれている彼女を発見した。その中で一番ガタイのいい男に腕を掴まれており、エステルは必死に振りほどこうとしている。彼女が嫌がっている声は行き交う人々の耳にも届いているはずだが、皆はチラリと一瞥するだけで救いの手を差し伸べようとはしない。困っているのが良家の娘であれば助けるのだろうが、見るからにみすぼらしい姿の娘に関しては知らぬ存ぜぬで通り過ぎていくのが普通だった。
しかし、キリエはエステルを助けるためにそちらへ駆け寄って行く。その足音を聞いて鋭い睨みをきかせてきた男たちだが、キリエの姿を見ると殺気を収め、興味深そうに眺めてくる。ちなみに、この男たちとキリエの間に面識は無く、完全に初対面だ。
「嫌がっているじゃないですか。放してあげてください」
「キリエ!? こっちに来ちゃダメだッ」
「おいおい、こりゃあまた随分と細っこい助っ人がきたもんだなぁ! この嬢ちゃんと変わらねぇ背丈じゃねぇか!」
「むしろコイツの方が小っこいんじゃねぇっすかね、兄貴!」
「そんな細腕で俺たちをぶっ倒そうとしてるのかぁ? ハッ、やめとけやめとけ!」
男たちにエステルの腕を放す様子は無く、馬鹿にしたように声を上げて笑った。小馬鹿にしてはいるものの、だからといってキリエに殴り掛かる気配は無い。おそらくそれを心配していたであろうエステルはわずかに安堵の表情を見せたが、彼女の顔は強張ってしまっている。
確かに、キリエはかなり小柄だ。身長も年下の少女であるエステルよりも低い。それでも物怖じせず、キリエは男たちに対して言葉を重ねた。
「僕は暴力が嫌いです。だから、お願いしています。彼女は嫌がっているのだから、放してあげてください」
「お願いって言われてもなぁ、かわいい兄ちゃん。オレたちだって、こっちの嬢ちゃんにお願いしていただけなんだぜ? ちょーっと一緒に遊んでくれ、ってなぁ?」
「そうそう、しかも、お遊びの内容によっちゃあお小遣いもあげるっていう、美味しいお願いなんだぜぇ?」
「ちょっ、どこ触ってんだよ変態! あっ、コラ、やめろって……!」
親玉と思われる大男が分厚い手で不躾にエステルの胸を揉みしだき、連れの男の一人もスカートの布地の上から彼女の下腹部をいやらしい手つきで撫で回す。
エステルは羞恥よりも不快感を露わにしながら、嫌がる声を上げ、身を捩じらせた。
「やめてください!」
公衆の面前で、妹のように思っている家族を辱められ、温厚なキリエでも流石に頭に血が上ってくる。
「あー? なぁんか小さい声が聞こえた気もすんだけどよぉ、聞き取れねぇなぁ」
男たちは相変わらずキリエに手出しをするつもりはないらしいが、エステルを解放するつもりもないらしい。不埒な手が少女のワンピースの中へ滑り込んでいくのを見た瞬間、キリエの脳内のどこかで何かが小さく弾けるような感覚がした。
「やめてくださいって……言っているじゃないですか!!」
キリエの怒りが頂点に達した、その瞬間。どこからか吹き抜けてきた凄まじい勢いの風が男たちの体へ叩きつけられ、彼らの浅黒い皮膚に無数の切り傷を刻んだ。どれも深い傷ではないが、うっすらと血が滲んでおり、三人の腕や脚に無数の赤い線が浮かび上がる。風は不思議なことに男たちだけに当たったようで、エステルは無傷だ。
何が起きたか分からない男たちは咄嗟にキリエを見て、なぜか途端に顔面蒼白になり、悲痛かつ無様な声を上げる。その場を目撃した通行人たちも、驚愕と畏怖を顔に張り付けて足早に駆け去った。
「な、なんなんだよテメェ!」
「化け物だ! 兄貴、あいつ、化け物だぁ!」
「ずらかるぞお前ら! こんなボロ女に手を出して呪われるなんて割に合わねぇ!」
口々に喚いて三人組は全力で走り去って行き、雑な動作で解放されたエステルは呆然と棒立ちになっていた。怒りの感情が鎮まったキリエは彼女の元へ寄り、気遣う。
「エステル、大丈夫ですか? すみません、僕がもっと上手く助けてあげられたなら、嫌な触られ方をしなかったかもしれないのに」
「……」
「変な風が吹いていましたが、大丈夫ですか? あの人たちは怪我をしてしまったようですが……、エステル?」
話しかけても何の返答もなく、エステルは琥珀色の瞳でキリエを凝視してくるばかりだ。よほどショックを受けたのだろうと胸を痛めるキリエだったが、エステルの表情はそういったものではなく、ただただ驚いているようだった。彼女は半開きになっていた唇を閉じ、ゴクリと唾を飲み込んでから、どこかふわふわとした口調で呟く。
「目が……」
「えっ? 目? 目に不調があるのですか?」
「違う。あたしじゃない。……あんたの目だよ」
「僕の、目?」
エステルは強い眼差しでキリエを射抜き、今度はしっかりとした口調で言い放った。
「さっき、──あの変な風が吹いたとき、あんたの目が赤く光っていたんだ」
「僕の目が、赤く、……光っていた?」
「そうだよ。キリエ、あんた一体どうしちまったんだ?」
「……それ、僕が聞きたいくらいです」
次期国王候補の一人かもしれないと言われて混乱していたというのに、今度は目が赤く光っていたときた。うぅ…と情けないうめき声と共に、キリエは頭を抱えた。
信じがたいことを言われたキリエは、苦笑しながら首を振り、思わず後ずさる。だが、そんな青年の両肩をさらに強く握りながら、役人は言葉を絞り出すように言った。
「俺だって信じがたい。でも、この金ボタンがそれを証明している。兄ちゃん、あんたはこの王国を導いていく存在かもしれないってな」
「でも、僕は教会育ちの孤児です。そんなはずがないと思うのですが」
「だが、孤児だからこそ、ありえなくもないんだ。前国王陛下が何らかのご事情で、あんたの母親を城にお迎えできなかったのかもしれない。……そうなると、兄ちゃんの存在が国家機密という恐れもあるが、その割には教会で普通に孤児扱いだしなぁ。髪も目も特殊な色をしている要人を野放しにしておくってのも変な話だ」
キリエの肩から手を離し、難しい表情で考え込む役人。そんな彼を見上げながら、キリエも不安げに溜息をつく。
前国王──オズワルド=フォン=ウィスタリアが崩御してから半年以上が経っていた。今年の新年祭のあと、急死したという。持病があったというわけではなく、まだ四十歳にもなっていない若さだったことから、暗殺されたのではないかという噂もあるが、真偽のほどは定かではない。
そして現在、四名の王子・王女の誰が王座に就くべきかを決める次期国王選抜が行われている。次の新年祭で次期国王が発表されることになっており、現在はその選出に発言力を持っている各々が争いを繰り広げている頃だろう。
キリエが次期国王候補の一人かもしれないという仮定も非現実的だが、もう秋になっているこの時期に発覚したということも拍車をかけてそう思わせた。
ちなみに、ウィスタリア王国の一年は春の第一月・春の第二月・春の第三月・夏の第一月……という形で春夏秋冬各三月ずつ、計十二の月で成り立っている。現在は秋の第二月第二週だ。春の月第一月初日が新年の幕開けであり、あと四ヶ月半ほどしか時間が無い。
「兄ちゃんが次期国王候補だとしても、もう秋だしな……、どういう判断が下されるか分からん。酷だとは思うが、腹を括っておく必要もあるだろうな」
「腹を括る、と仰いますと……?」
「消される──つまり、殺される可能性もあるということだ。次期国王選抜もだいぶ進んでいるだろうし、そんな中で突然現れた不穏分子だと見なされれば、そういうことだって考えられる。だからといって、役場としては今回の件を報告しないわけにもいかない。……俺だけならまだ目を瞑ってやることも出来たかもしれんが、おかげさまでそれなりに目撃者もいるしな」
「なるほど……、確かに、そう……ですね」
キリエは歯切れ悪く答え、俯く。受付室にいる役人の数は先ほどよりも増えていて、様々な年齢層の視線に晒されてしまっていた。国家機密と同等かもしれないとまで言われている事柄を秘密裏に共有するには、少々人数が多い気がする。
「だがまぁ、どうなるかは分からん。とりあえず、今日のところは教会に帰りな。そして、何か動きがあるまで、このことは誰にも言わないように。俺たち地方役人は、王都へのしかるべき報告を怠った奴に関する密告は積極的にするが、国側へ報告の上がった情報の管理もきちんとしている。要は、そんなに口が軽い人間は役人になれないってことだ。ここにいる連中も、王国側が何か動かない限り情報を漏らしたりはしない」
「……はい」
「口が軽いわけじゃないが、だからといって見逃してやることは出来ない。すまんな」
「いいえ、とんでもない。お役人さんは、きちんとお仕事をされているだけですから。むしろ、ご親切にいろいろと教えてくださって、ありがとうございます」
金ボタンを包んでいたハンカチを畳んでポケットに入れ、キリエは丁寧に一礼する。頭の中は混乱していてグチャグチャな状態ではあるが、とりあえずこの場を立ち去らなくてはと思ったのだ。安心できる場所に帰って脳内を整理したいという思いもある。
「なぁ、兄ちゃん」
踵を返そうとするキリエを呼び止めるように、役人が声を掛けてくる。
「はい?」
「もし、話が上手いこと進んでいったのなら、俺たちは兄ちゃんを兄ちゃんだなんて気安く呼べなくなるし、同時に期待もすると思う」
「期待……ですか?」
「ああ。孤児から国王までのし上がった人間なんていう夢のような存在が現れたら、伝説級だ。そんな伝説上の人物と同じ時代に生まれたなんて、俺たちにとっても喜ばしい話だからな」
「……僕は、国王にはもちろん、伝説的存在になんてなれませんよ」
曖昧な苦笑と共に再度頭を下げたキリエは、今度こそ多くの視線を振り切るように背中を向け、重い足取りで街役場を後にした。
◆◆◆
「おい、いい加減に放せよ……ッ」
街役場から三十歩ほど歩いたところで、よく知る声が聞こえたキリエは足を止める。声の主──エステルを探すと、木の陰になっている場所で三人の男に囲まれている彼女を発見した。その中で一番ガタイのいい男に腕を掴まれており、エステルは必死に振りほどこうとしている。彼女が嫌がっている声は行き交う人々の耳にも届いているはずだが、皆はチラリと一瞥するだけで救いの手を差し伸べようとはしない。困っているのが良家の娘であれば助けるのだろうが、見るからにみすぼらしい姿の娘に関しては知らぬ存ぜぬで通り過ぎていくのが普通だった。
しかし、キリエはエステルを助けるためにそちらへ駆け寄って行く。その足音を聞いて鋭い睨みをきかせてきた男たちだが、キリエの姿を見ると殺気を収め、興味深そうに眺めてくる。ちなみに、この男たちとキリエの間に面識は無く、完全に初対面だ。
「嫌がっているじゃないですか。放してあげてください」
「キリエ!? こっちに来ちゃダメだッ」
「おいおい、こりゃあまた随分と細っこい助っ人がきたもんだなぁ! この嬢ちゃんと変わらねぇ背丈じゃねぇか!」
「むしろコイツの方が小っこいんじゃねぇっすかね、兄貴!」
「そんな細腕で俺たちをぶっ倒そうとしてるのかぁ? ハッ、やめとけやめとけ!」
男たちにエステルの腕を放す様子は無く、馬鹿にしたように声を上げて笑った。小馬鹿にしてはいるものの、だからといってキリエに殴り掛かる気配は無い。おそらくそれを心配していたであろうエステルはわずかに安堵の表情を見せたが、彼女の顔は強張ってしまっている。
確かに、キリエはかなり小柄だ。身長も年下の少女であるエステルよりも低い。それでも物怖じせず、キリエは男たちに対して言葉を重ねた。
「僕は暴力が嫌いです。だから、お願いしています。彼女は嫌がっているのだから、放してあげてください」
「お願いって言われてもなぁ、かわいい兄ちゃん。オレたちだって、こっちの嬢ちゃんにお願いしていただけなんだぜ? ちょーっと一緒に遊んでくれ、ってなぁ?」
「そうそう、しかも、お遊びの内容によっちゃあお小遣いもあげるっていう、美味しいお願いなんだぜぇ?」
「ちょっ、どこ触ってんだよ変態! あっ、コラ、やめろって……!」
親玉と思われる大男が分厚い手で不躾にエステルの胸を揉みしだき、連れの男の一人もスカートの布地の上から彼女の下腹部をいやらしい手つきで撫で回す。
エステルは羞恥よりも不快感を露わにしながら、嫌がる声を上げ、身を捩じらせた。
「やめてください!」
公衆の面前で、妹のように思っている家族を辱められ、温厚なキリエでも流石に頭に血が上ってくる。
「あー? なぁんか小さい声が聞こえた気もすんだけどよぉ、聞き取れねぇなぁ」
男たちは相変わらずキリエに手出しをするつもりはないらしいが、エステルを解放するつもりもないらしい。不埒な手が少女のワンピースの中へ滑り込んでいくのを見た瞬間、キリエの脳内のどこかで何かが小さく弾けるような感覚がした。
「やめてくださいって……言っているじゃないですか!!」
キリエの怒りが頂点に達した、その瞬間。どこからか吹き抜けてきた凄まじい勢いの風が男たちの体へ叩きつけられ、彼らの浅黒い皮膚に無数の切り傷を刻んだ。どれも深い傷ではないが、うっすらと血が滲んでおり、三人の腕や脚に無数の赤い線が浮かび上がる。風は不思議なことに男たちだけに当たったようで、エステルは無傷だ。
何が起きたか分からない男たちは咄嗟にキリエを見て、なぜか途端に顔面蒼白になり、悲痛かつ無様な声を上げる。その場を目撃した通行人たちも、驚愕と畏怖を顔に張り付けて足早に駆け去った。
「な、なんなんだよテメェ!」
「化け物だ! 兄貴、あいつ、化け物だぁ!」
「ずらかるぞお前ら! こんなボロ女に手を出して呪われるなんて割に合わねぇ!」
口々に喚いて三人組は全力で走り去って行き、雑な動作で解放されたエステルは呆然と棒立ちになっていた。怒りの感情が鎮まったキリエは彼女の元へ寄り、気遣う。
「エステル、大丈夫ですか? すみません、僕がもっと上手く助けてあげられたなら、嫌な触られ方をしなかったかもしれないのに」
「……」
「変な風が吹いていましたが、大丈夫ですか? あの人たちは怪我をしてしまったようですが……、エステル?」
話しかけても何の返答もなく、エステルは琥珀色の瞳でキリエを凝視してくるばかりだ。よほどショックを受けたのだろうと胸を痛めるキリエだったが、エステルの表情はそういったものではなく、ただただ驚いているようだった。彼女は半開きになっていた唇を閉じ、ゴクリと唾を飲み込んでから、どこかふわふわとした口調で呟く。
「目が……」
「えっ? 目? 目に不調があるのですか?」
「違う。あたしじゃない。……あんたの目だよ」
「僕の、目?」
エステルは強い眼差しでキリエを射抜き、今度はしっかりとした口調で言い放った。
「さっき、──あの変な風が吹いたとき、あんたの目が赤く光っていたんだ」
「僕の目が、赤く、……光っていた?」
「そうだよ。キリエ、あんた一体どうしちまったんだ?」
「……それ、僕が聞きたいくらいです」
次期国王候補の一人かもしれないと言われて混乱していたというのに、今度は目が赤く光っていたときた。うぅ…と情けないうめき声と共に、キリエは頭を抱えた。
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