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第2章
【2-112】ショコラフェスタ
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◆◆◆
──冬の第二月第一週、四日目。
明日はリアムの誕生日なので、キリエは自室で彼に贈るためのカードを作っていた。
ウィスタリア王国では、新年を迎えた際には三日三晩に渡り盛大に祝うが、それ以外の──特に国民それぞれ個別の祝祭行事は殆ど無い。大きな祝いごとは結婚式くらいだろうか。あとは地域ごとに特有の祭や催事がある程度だ。
誕生日に関しても、親しい人間が祝福の言葉とともにカードや手紙を贈るくらいの祝い方である。
リアムは現在、隣の私室でジョセフと話し合いをしている。リアムへ贈る誕生日カードを作るなら、彼が不在のときがいい。今のうちにとせっせと手を動かし続けるキリエの傍で給仕をしてくれているのは、エドワードだ。
「うーん……、ちょっと字が汚かったでしょうか」
「そんなことないっすよ! ていうか、キリエ様、字を書かれるのめっちゃお上手になったっすよねぇ」
「えっ、そ、そんな、お世辞はいらないですよ、エド」
「お世辞じゃないっす! 今のキリエ様は上位文字もスラスラお読みになられるし、字も本当にお上手に書かれるようになったっす! それに、とっても心のこもったカードです。リアム様がお喜びになられるの、間違いないっす!」
彼自身のことを喜んでいるかのように満面の笑みを浮かべていたエドワードだが、ふと何かを思いついたかのように手を叩いた。
「あっ、そういえば、明日はショコラフェスタっすね。リアム様のお誕生日のほうが印象強いんで、ついつい忘れがちになっちゃうんすよねー」
「ショコラフェスタ、って何ですか……?」
「へっ? あ、そっか。王都だけの祭事なんでしたっけ」
首を傾げるキリエに合わせて、エドワードも不思議そうに首を傾げていたが、すぐに元の姿勢に戻り、笑顔でショコラフェスタについて教えてくれる。
「王都には、冬の第二月第一週の五日目にショコラフェスタっていう伝統行事があるんすよ。家族とか恋人とか友達とか、自分の大事な人にショコラを手渡して感謝の気持ちを伝えるっていう日です」
「とても素敵ですが、ショコラを使うというのが豪勢というか王都らしい祭事ですね……」
王都では砂糖を使った甘い菓子は日常的な食べ物であるが、田舎では滅多にお目にかかることはない。王都へ来るまで飴玉すら縁が無かったキリエにとって、甘い菓子はとても美味しく心惹かれるものであるのと同時に、まだまだ不慣れな存在でもあった。
「サリバン邸では、毎年キャシーさんが美味しいショコラ菓子を作ってくれて、それをみんなで食べてお茶をしていたんです。オレたち使用人も小さいショコラをお互いに渡したり、リアム様にもお渡ししたりして。いつもはリアム様と一緒にテーブルを囲むなんて絶対にしないんすけど、ショコラフェスタだけは特別っす」
「わぁ、それはとても素敵ですね! 今年も同じようにするのでしょうか」
「うーん……、キリエ様と同じテーブルに着くのは流石に畏れ多いっすねぇ……」
「そ、そんな……、僕も、みんなと一緒にお茶をしたいです」
「わっ、わわわっ、じゃ、じゃあ、リアム様にお願いしてみましょう! ほら、キリエ様がここに初めていらっしゃったときだって、一緒にお茶をさせていただきましたし! だから、そ、そんな、悲しそうなお顔をなさらないでください~!」
「大丈夫ですよ、エド。僕、そんな深刻に悲しんでいるわけではないので! だから、声を抑えてください。リアムが来ちゃいます……!」
キリエの指摘を受け、エドワードは己の口元を両手で覆う。隣室のリアムは、ジョセフと込み入った話をしながらもキリエの様子を気にしているはずである。もしキリエに異変を感じて彼が此処に駆けつけてしまうと、エドワードが無駄に叱られてしまう可能性があるうえに、作成途中の誕生日祝いカードを見られてしまうかもしれない恐れもあった。
一呼吸おいて落ち着いたところで、キリエはとあることを考える。それに伴って湧き出た疑問を、隣で深呼吸しているエドワードへ投げかけてみた。
「あの……、ショコラフェスタって、僕からお屋敷のみんなにショコラをお渡ししても大丈夫なのですよね?」
「えっ……、それは、まぁ……、大丈夫っすけど、でも、キリエ様はみんなからショコラを貰うだけでいいと思うっすよ。もちろん、オレからもお渡しするっす!」
「ありがとうございます、エド。──でも、僕もちょっとやってみたいことができたので、後でこっそりキャシーに相談してみようと思います」
そう言って楽しそうに笑うキリエを、エドワードはきょとんと見つめるのだった。
──その日の夜。リアムが入浴中、キリエはジョセフを伴って厨房へ行き、キャサリンと共に秘密の作業をこなした。
──冬の第二月第一週、四日目。
明日はリアムの誕生日なので、キリエは自室で彼に贈るためのカードを作っていた。
ウィスタリア王国では、新年を迎えた際には三日三晩に渡り盛大に祝うが、それ以外の──特に国民それぞれ個別の祝祭行事は殆ど無い。大きな祝いごとは結婚式くらいだろうか。あとは地域ごとに特有の祭や催事がある程度だ。
誕生日に関しても、親しい人間が祝福の言葉とともにカードや手紙を贈るくらいの祝い方である。
リアムは現在、隣の私室でジョセフと話し合いをしている。リアムへ贈る誕生日カードを作るなら、彼が不在のときがいい。今のうちにとせっせと手を動かし続けるキリエの傍で給仕をしてくれているのは、エドワードだ。
「うーん……、ちょっと字が汚かったでしょうか」
「そんなことないっすよ! ていうか、キリエ様、字を書かれるのめっちゃお上手になったっすよねぇ」
「えっ、そ、そんな、お世辞はいらないですよ、エド」
「お世辞じゃないっす! 今のキリエ様は上位文字もスラスラお読みになられるし、字も本当にお上手に書かれるようになったっす! それに、とっても心のこもったカードです。リアム様がお喜びになられるの、間違いないっす!」
彼自身のことを喜んでいるかのように満面の笑みを浮かべていたエドワードだが、ふと何かを思いついたかのように手を叩いた。
「あっ、そういえば、明日はショコラフェスタっすね。リアム様のお誕生日のほうが印象強いんで、ついつい忘れがちになっちゃうんすよねー」
「ショコラフェスタ、って何ですか……?」
「へっ? あ、そっか。王都だけの祭事なんでしたっけ」
首を傾げるキリエに合わせて、エドワードも不思議そうに首を傾げていたが、すぐに元の姿勢に戻り、笑顔でショコラフェスタについて教えてくれる。
「王都には、冬の第二月第一週の五日目にショコラフェスタっていう伝統行事があるんすよ。家族とか恋人とか友達とか、自分の大事な人にショコラを手渡して感謝の気持ちを伝えるっていう日です」
「とても素敵ですが、ショコラを使うというのが豪勢というか王都らしい祭事ですね……」
王都では砂糖を使った甘い菓子は日常的な食べ物であるが、田舎では滅多にお目にかかることはない。王都へ来るまで飴玉すら縁が無かったキリエにとって、甘い菓子はとても美味しく心惹かれるものであるのと同時に、まだまだ不慣れな存在でもあった。
「サリバン邸では、毎年キャシーさんが美味しいショコラ菓子を作ってくれて、それをみんなで食べてお茶をしていたんです。オレたち使用人も小さいショコラをお互いに渡したり、リアム様にもお渡ししたりして。いつもはリアム様と一緒にテーブルを囲むなんて絶対にしないんすけど、ショコラフェスタだけは特別っす」
「わぁ、それはとても素敵ですね! 今年も同じようにするのでしょうか」
「うーん……、キリエ様と同じテーブルに着くのは流石に畏れ多いっすねぇ……」
「そ、そんな……、僕も、みんなと一緒にお茶をしたいです」
「わっ、わわわっ、じゃ、じゃあ、リアム様にお願いしてみましょう! ほら、キリエ様がここに初めていらっしゃったときだって、一緒にお茶をさせていただきましたし! だから、そ、そんな、悲しそうなお顔をなさらないでください~!」
「大丈夫ですよ、エド。僕、そんな深刻に悲しんでいるわけではないので! だから、声を抑えてください。リアムが来ちゃいます……!」
キリエの指摘を受け、エドワードは己の口元を両手で覆う。隣室のリアムは、ジョセフと込み入った話をしながらもキリエの様子を気にしているはずである。もしキリエに異変を感じて彼が此処に駆けつけてしまうと、エドワードが無駄に叱られてしまう可能性があるうえに、作成途中の誕生日祝いカードを見られてしまうかもしれない恐れもあった。
一呼吸おいて落ち着いたところで、キリエはとあることを考える。それに伴って湧き出た疑問を、隣で深呼吸しているエドワードへ投げかけてみた。
「あの……、ショコラフェスタって、僕からお屋敷のみんなにショコラをお渡ししても大丈夫なのですよね?」
「えっ……、それは、まぁ……、大丈夫っすけど、でも、キリエ様はみんなからショコラを貰うだけでいいと思うっすよ。もちろん、オレからもお渡しするっす!」
「ありがとうございます、エド。──でも、僕もちょっとやってみたいことができたので、後でこっそりキャシーに相談してみようと思います」
そう言って楽しそうに笑うキリエを、エドワードはきょとんと見つめるのだった。
──その日の夜。リアムが入浴中、キリエはジョセフを伴って厨房へ行き、キャサリンと共に秘密の作業をこなした。
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