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第3章
【3-70】座標とハンカチ
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男は舌打ちをしつつルーナの攻撃を避けようとするが、挟み込むようにしてレオンも剣を振り下ろしたため逃げ場を失い、結局は二人からの斬撃を受ける羽目になってしまう。──しかし、男は少々よろけただけで、その身にはやはり何の傷も付いていなかった。
わけがわからず内心で動揺するレオンだったが、ルーナはハッとしたように目を見開く。
「そうか……、この気配、王都への帰還中に襲って来た奴と同じ。そうか……、貴様があのときの……!」
「あ、あの、あのとき……?」
「貴方の御仲間とそこの王兄殿下を襲った輩が、そこのそいつだと言っているんだよ。まさか、今度は王城内で出くわすとはねぇ……!」
殺気を放って双剣を握り直すルーナを恨めしげに睨みながら、侵入者は苛立たしげに己の爪を噛んだ。
「あぁ、もう、何なのさ……! 僕の計画が台無しじゃないか! 僕はさー、本当にちょっとした偵察と届け物をしに来ただけだったわけ! 短時間でスマートに成功させて、それで終わりにしたかったのに! ついこの間、あんなでっかい術を使ったんだから、しばらくは攻勢に出ないってなんで分かんないかなー!? 分からないか! 分かるはずないよねー! 人間なんかに! 人間なんか大っっ嫌いだよ! 身の程を弁えずにでかい顔して群れるしか脳が無い下等生物め!」
男が苛々と喚き散らしている間、レオンとルーナは示し合わせたわけではないが互いに双方向からキリエを守れる位置へとじわじわ移動する。それがまた癪に障ったのか、男は二人を交互に鋭い視線で射貫き、最終的にルーナへ向けて呪うように言った。
「どきなよ。邪魔だよ。僕はその子に届け物に来たんだから」
「断る」
「邪魔だっつってんだろ! どけよ! お前なんかに用は無いんだよ!」
「どうしても届け物がしたいって言うなら、代わりに預かる。それがキリエ殿下の手に渡るかっていう保証は出来ないけどねぇ」
「どけよ……! 人間ごときが僕に話しかけるな! 僕を怒らせるな! 座標が、ズレちゃうじゃないか……!」
「ははっ、どうでもいいけど、その顔でその声とその喋り方だと、妙に笑えて仕方がないねぇ。真似っこが上手いんだか下手なんだか……、まぁ、上手ってことにしておいてあげようかねぇ、はい、拍手拍手~!」
ルーナは小馬鹿にしたように笑いながら、わざとらしく手を叩く。あえて男を煽っているのだ。敵の注意を己に引き付け、怒りに駆られた男がルーナへ攻撃を集中させている隙に、レオンがキリエを抱えて部屋を出ることを期待しているのだろう。
室内の二人でどうにかしようとするよりも、表へ飛び出して他の者の助けを借りたほうがいい。この男が何者で、どんな技を駆使しているのかは不明だが、彼一人で多勢を相手にすることが可能であれば、王城へ侵入した勢いで制圧できるはずなのだ。しかし、リアムの姿を装ってまで密かに動いていたのだから、この男ひとりでは多くの人間を相手に出来ないのだろう。そして、彼の仲間はいないか、いたとしても、少なくともこの状況を救える範囲内には存在しないはずだ。
それは、レオンも理解している。──だが、
「座標が……ッ、座標がズレちゃうじゃないかァァァ!」
怨嗟じみた叫びを上げた男がルーナへ手をかざし、その指先に赤黒い光が宿った瞬間、レオンは彼女へ飛びつくように肩を掴んで寝台の方へと押し退け、代わりに自身が立ちはだかった。
ルーナは予想外の行動をとられて混乱しつつも、咄嗟にキリエを庇うように覆い被さる。それと同時に、男の指先から黒炎が噴き出し、レオンへと襲い掛かってゆく。
「グッ、……ぅ、っ、ああああああ!」
顔半分を炎に焼かれながらも、霧雨の騎士は咆哮と共に男へと剣を投げ、自身も前へと駆け出した。そして、途中で投げ捨てていた槍を蹴り上げて拾い、リアムとよく似た姿の心臓を目掛けて刺し貫く。──しかし、どう考えても致命傷を与えたはずが、やはり男には傷ひとつ無く、レオンとしても肉体を貫いた感覚は無かった。
「座標が……ズレる……!」
男が苦しげにそう呟いた瞬間、その姿は煙のように消え去る。彼が居た足元に、一枚のハンカチがひらりと落ちた。
敵が消えても、レオンの顔面を焼いている黒炎はそのままだ。ルーナは飛び起き、近くに飾られていた花瓶を抱えて苦悶の声を上げるレオンへと駆け寄る。活けられていた花を投げ捨て、中にたっぷりと溜められていた水を思いきりレオンの顔へ掛けると、炎は消えた。
「ぅ……、す、すま、ない……」
「何を言ってんだい! ああ、もう、酷い火傷だ……! なんで私を庇ったりしたんだ! 私がわざとああしていたのは分かっていただろう?」
「ぁ、う……、そ、それは、分かって、いた、た、けれど、も、……き、騎士、として、じょ、女性、は、ま、まも、守らなければ、と」
レオンの火傷の程度を確認していたルーナは、相手の言葉を受けて手を止め、呆れたように見つめ返す。
「貴方は、私が普通の女だと思うのかい? こんな腕章をつけて、剣を握ってる女だよ? 少ないとはいえ、女騎士だっているだろうに」
「そ、それ、でも……、ま、まも、守りた、くて、か、か、身体が、か、勝手に、……う、うご、いて」
「はぁ……、どこぞの夜霧の騎士様とは大違いだねぇ。彼は私の横っ腹を容赦なく蹴っ飛ばしたけど」
「え……っ?」
「いいや、何でもない。……貴方、いい男だねぇ」
霧雨の騎士の焼け爛れた顔を見つめ、ルーナは小さく微笑んだ。
わけがわからず内心で動揺するレオンだったが、ルーナはハッとしたように目を見開く。
「そうか……、この気配、王都への帰還中に襲って来た奴と同じ。そうか……、貴様があのときの……!」
「あ、あの、あのとき……?」
「貴方の御仲間とそこの王兄殿下を襲った輩が、そこのそいつだと言っているんだよ。まさか、今度は王城内で出くわすとはねぇ……!」
殺気を放って双剣を握り直すルーナを恨めしげに睨みながら、侵入者は苛立たしげに己の爪を噛んだ。
「あぁ、もう、何なのさ……! 僕の計画が台無しじゃないか! 僕はさー、本当にちょっとした偵察と届け物をしに来ただけだったわけ! 短時間でスマートに成功させて、それで終わりにしたかったのに! ついこの間、あんなでっかい術を使ったんだから、しばらくは攻勢に出ないってなんで分かんないかなー!? 分からないか! 分かるはずないよねー! 人間なんかに! 人間なんか大っっ嫌いだよ! 身の程を弁えずにでかい顔して群れるしか脳が無い下等生物め!」
男が苛々と喚き散らしている間、レオンとルーナは示し合わせたわけではないが互いに双方向からキリエを守れる位置へとじわじわ移動する。それがまた癪に障ったのか、男は二人を交互に鋭い視線で射貫き、最終的にルーナへ向けて呪うように言った。
「どきなよ。邪魔だよ。僕はその子に届け物に来たんだから」
「断る」
「邪魔だっつってんだろ! どけよ! お前なんかに用は無いんだよ!」
「どうしても届け物がしたいって言うなら、代わりに預かる。それがキリエ殿下の手に渡るかっていう保証は出来ないけどねぇ」
「どけよ……! 人間ごときが僕に話しかけるな! 僕を怒らせるな! 座標が、ズレちゃうじゃないか……!」
「ははっ、どうでもいいけど、その顔でその声とその喋り方だと、妙に笑えて仕方がないねぇ。真似っこが上手いんだか下手なんだか……、まぁ、上手ってことにしておいてあげようかねぇ、はい、拍手拍手~!」
ルーナは小馬鹿にしたように笑いながら、わざとらしく手を叩く。あえて男を煽っているのだ。敵の注意を己に引き付け、怒りに駆られた男がルーナへ攻撃を集中させている隙に、レオンがキリエを抱えて部屋を出ることを期待しているのだろう。
室内の二人でどうにかしようとするよりも、表へ飛び出して他の者の助けを借りたほうがいい。この男が何者で、どんな技を駆使しているのかは不明だが、彼一人で多勢を相手にすることが可能であれば、王城へ侵入した勢いで制圧できるはずなのだ。しかし、リアムの姿を装ってまで密かに動いていたのだから、この男ひとりでは多くの人間を相手に出来ないのだろう。そして、彼の仲間はいないか、いたとしても、少なくともこの状況を救える範囲内には存在しないはずだ。
それは、レオンも理解している。──だが、
「座標が……ッ、座標がズレちゃうじゃないかァァァ!」
怨嗟じみた叫びを上げた男がルーナへ手をかざし、その指先に赤黒い光が宿った瞬間、レオンは彼女へ飛びつくように肩を掴んで寝台の方へと押し退け、代わりに自身が立ちはだかった。
ルーナは予想外の行動をとられて混乱しつつも、咄嗟にキリエを庇うように覆い被さる。それと同時に、男の指先から黒炎が噴き出し、レオンへと襲い掛かってゆく。
「グッ、……ぅ、っ、ああああああ!」
顔半分を炎に焼かれながらも、霧雨の騎士は咆哮と共に男へと剣を投げ、自身も前へと駆け出した。そして、途中で投げ捨てていた槍を蹴り上げて拾い、リアムとよく似た姿の心臓を目掛けて刺し貫く。──しかし、どう考えても致命傷を与えたはずが、やはり男には傷ひとつ無く、レオンとしても肉体を貫いた感覚は無かった。
「座標が……ズレる……!」
男が苦しげにそう呟いた瞬間、その姿は煙のように消え去る。彼が居た足元に、一枚のハンカチがひらりと落ちた。
敵が消えても、レオンの顔面を焼いている黒炎はそのままだ。ルーナは飛び起き、近くに飾られていた花瓶を抱えて苦悶の声を上げるレオンへと駆け寄る。活けられていた花を投げ捨て、中にたっぷりと溜められていた水を思いきりレオンの顔へ掛けると、炎は消えた。
「ぅ……、す、すま、ない……」
「何を言ってんだい! ああ、もう、酷い火傷だ……! なんで私を庇ったりしたんだ! 私がわざとああしていたのは分かっていただろう?」
「ぁ、う……、そ、それは、分かって、いた、た、けれど、も、……き、騎士、として、じょ、女性、は、ま、まも、守らなければ、と」
レオンの火傷の程度を確認していたルーナは、相手の言葉を受けて手を止め、呆れたように見つめ返す。
「貴方は、私が普通の女だと思うのかい? こんな腕章をつけて、剣を握ってる女だよ? 少ないとはいえ、女騎士だっているだろうに」
「そ、それ、でも……、ま、まも、守りた、くて、か、か、身体が、か、勝手に、……う、うご、いて」
「はぁ……、どこぞの夜霧の騎士様とは大違いだねぇ。彼は私の横っ腹を容赦なく蹴っ飛ばしたけど」
「え……っ?」
「いいや、何でもない。……貴方、いい男だねぇ」
霧雨の騎士の焼け爛れた顔を見つめ、ルーナは小さく微笑んだ。
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