夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら

文字の大きさ
223 / 335
第3章

【3-70】座標とハンカチ

しおりを挟む
 男は舌打ちをしつつルーナの攻撃を避けようとするが、挟み込むようにしてレオンも剣を振り下ろしたため逃げ場を失い、結局は二人からの斬撃を受ける羽目になってしまう。──しかし、男は少々よろけただけで、その身にはやはり何の傷も付いていなかった。

 わけがわからず内心で動揺するレオンだったが、ルーナはハッとしたように目を見開く。

「そうか……、この気配、王都への帰還中に襲って来た奴と同じ。そうか……、貴様があのときの……!」
「あ、あの、あのとき……?」
「貴方の御仲間とそこの王兄殿下を襲った輩が、そこのそいつだと言っているんだよ。まさか、今度は王城内で出くわすとはねぇ……!」

 殺気を放って双剣を握り直すルーナを恨めしげに睨みながら、侵入者は苛立たしげに己の爪を噛んだ。

「あぁ、もう、何なのさ……! 僕の計画が台無しじゃないか! 僕はさー、本当にちょっとした偵察と届け物をしに来ただけだったわけ! 短時間でスマートに成功させて、それで終わりにしたかったのに! ついこの間、あんなでっかい術を使ったんだから、しばらくは攻勢に出ないってなんで分かんないかなー!? 分からないか! 分かるはずないよねー! 人間なんかに! 人間なんか大っっ嫌いだよ! 身の程を弁えずにでかい顔して群れるしか脳が無い下等生物め!」

 男が苛々と喚き散らしている間、レオンとルーナは示し合わせたわけではないが互いに双方向からキリエを守れる位置へとじわじわ移動する。それがまた癪に障ったのか、男は二人を交互に鋭い視線で射貫き、最終的にルーナへ向けて呪うように言った。

「どきなよ。邪魔だよ。僕はその子に届け物に来たんだから」
「断る」
「邪魔だっつってんだろ! どけよ! お前なんかに用は無いんだよ!」
「どうしても届け物がしたいって言うなら、代わりに預かる。それがキリエ殿下の手に渡るかっていう保証は出来ないけどねぇ」
「どけよ……! 人間ごときが僕に話しかけるな! 僕を怒らせるな! 座標が、ズレちゃうじゃないか……!」
「ははっ、どうでもいいけど、その顔でその声とその喋り方だと、妙に笑えて仕方がないねぇ。真似っこが上手いんだか下手なんだか……、まぁ、上手ってことにしておいてあげようかねぇ、はい、拍手拍手~!」

 ルーナは小馬鹿にしたように笑いながら、わざとらしく手を叩く。あえて男を煽っているのだ。敵の注意を己に引き付け、怒りに駆られた男がルーナへ攻撃を集中させている隙に、レオンがキリエを抱えて部屋を出ることを期待しているのだろう。

 室内の二人でどうにかしようとするよりも、表へ飛び出して他の者の助けを借りたほうがいい。この男が何者で、どんな技を駆使しているのかは不明だが、彼一人で多勢を相手にすることが可能であれば、王城へ侵入した勢いで制圧できるはずなのだ。しかし、リアムの姿を装ってまで密かに動いていたのだから、この男ひとりでは多くの人間を相手に出来ないのだろう。そして、彼の仲間はいないか、いたとしても、少なくともこの状況を救える範囲内には存在しないはずだ。
 それは、レオンも理解している。──だが、

「座標が……ッ、座標がズレちゃうじゃないかァァァ!」

 怨嗟じみた叫びを上げた男がルーナへ手をかざし、その指先に赤黒い光が宿った瞬間、レオンは彼女へ飛びつくように肩を掴んで寝台の方へと押し退け、代わりに自身が立ちはだかった。
 ルーナは予想外の行動をとられて混乱しつつも、咄嗟にキリエを庇うように覆い被さる。それと同時に、男の指先から黒炎が噴き出し、レオンへと襲い掛かってゆく。

「グッ、……ぅ、っ、ああああああ!」

 顔半分を炎に焼かれながらも、霧雨の騎士は咆哮と共に男へと剣を投げ、自身も前へと駆け出した。そして、途中で投げ捨てていた槍を蹴り上げて拾い、リアムとよく似た姿の心臓を目掛けて刺し貫く。──しかし、どう考えても致命傷を与えたはずが、やはり男には傷ひとつ無く、レオンとしても肉体を貫いた感覚は無かった。

「座標が……ズレる……!」

 男が苦しげにそう呟いた瞬間、その姿は煙のように消え去る。彼が居た足元に、一枚のハンカチがひらりと落ちた。
 敵が消えても、レオンの顔面を焼いている黒炎はそのままだ。ルーナは飛び起き、近くに飾られていた花瓶を抱えて苦悶の声を上げるレオンへと駆け寄る。活けられていた花を投げ捨て、中にたっぷりと溜められていた水を思いきりレオンの顔へ掛けると、炎は消えた。

「ぅ……、す、すま、ない……」
「何を言ってんだい! ああ、もう、酷い火傷だ……! なんで私を庇ったりしたんだ! 私がわざとああしていたのは分かっていただろう?」
「ぁ、う……、そ、それは、分かって、いた、た、けれど、も、……き、騎士、として、じょ、女性、は、ま、まも、守らなければ、と」

 レオンの火傷の程度を確認していたルーナは、相手の言葉を受けて手を止め、呆れたように見つめ返す。

「貴方は、私が普通の女だと思うのかい? こんな腕章をつけて、剣を握ってる女だよ? 少ないとはいえ、女騎士だっているだろうに」
「そ、それ、でも……、ま、まも、守りた、くて、か、か、身体が、か、勝手に、……う、うご、いて」
「はぁ……、どこぞの夜霧の騎士様とは大違いだねぇ。彼は私の横っ腹を容赦なく蹴っ飛ばしたけど」
「え……っ?」
「いいや、何でもない。……貴方、いい男だねぇ」

 霧雨の騎士の焼け爛れた顔を見つめ、ルーナは小さく微笑んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣

織部
ファンタジー
 ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。  背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。  母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。  セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。  彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。  セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。 「セラ、ウミ」 「ええ、そうよ。海」 ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します! カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理

SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。  低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。 恋愛×料理×調合

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...