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第3章
【3-80】報告
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◆◆◆
──翌日。
キリエが目覚めたと知ったジェイデンは、マクシミリアンを伴って、朝から様子を見に来た。体を動かせないことを心配しつつも、金髪の主従はキリエの目覚めを喜んでくれる。キリエはリアムの手を借りて体を起こそうとしたのだが、寝たままでいいと二人から止められ、その言葉に甘えることにした。
ジェイデンへは王城で世話になっていることを、マクシミリアンには魂結びを見守ってくれたことを、それぞれに礼を述べたキリエは、彼らに心配を掛けてしまった謝罪も重ねて口にした。その言葉を受けた二人は、気にするなと言うように首を振る。
「キリエ。君が何を代償に何を救ったのか、話を聞いて把握しているのだよ。頑張ったな」
「キリエ様の御体に相当な御負担があられたことは、傍で見ておりましたので分かっております。暫くは安静になさって、御休みいただいたほうがよろしいかと」
「二人とも、ありがとうございます。……でも、今は休んでいられるような状況ではないと、リアムから聞いた話で理解しています」
キリエは昨夜プシュケを呼び出して話したことを、ジェイデンたちへ素直に伝えた。妖精人の長老が提示した条件を聞き、ジェイデンは渋い面持ちにはなったものの、異を唱えようとはせずに首肯する。
「なるほど……、やはり彼らは僕たちとの共存は望まないということか。……いや、致し方ないことだろう。むしろ、かなり譲歩してもらっているはずだ」
「長命の妖精人にとって、千年前の出来事というのは、過去といっても僕たちよりも近いものに感じているはずです。まだ風化させるには程遠い状況なのかと思うと、それ以上を望むことは僕には出来なくて……、すみません」
「いや、とんでもない。むしろ、キリエがいるからこそ、妖精人の長老はここまで歩み寄ってくれているのだと思う。目覚めたばかりで身体もままならないというときに、急いで話をしてくれて、ありがとう」
両隣国の代表者は明日の日中に王城へ到着する予定であり、出来ればそれまでに妖精人の実在を公表する許可を得たいと考えていたジェイデンにとっては、良い展開になってきたのは事実だ。とはいえ、懸念事項もある。
「シーラの妖精人研究会にも活動を止めていただかなければなりませんが、大丈夫でしょうか……?」
妖精人研究の権威だというプリシラは、その役割に誇りを持っており、生き甲斐に感じているようにも見えた。そんな彼女や仲間の研究者たちがこれまで積み上げてきたものが無に帰するのではないかと、キリエは気掛かりだったのだ。
しかし、ジェイデンは微笑を浮かべて首を振る。
「いや、その心配には及ばないのだよ。そりゃあ、研究員は多少は気落ちするかもしれないが、事情が事情なのだから納得してくれるだろう。ユージーンの血筋の者を除けば、人間は妖精人を悪いようにはしないという性質もあるのだし、存在を公表しても、キリエの祖父君たちの生活を脅かすような展開にはならないはずなのだよ」
「それはそうだと思いますが……、シーラはとても親身になってくださいましたし……」
「彼女なら、なおさら大丈夫だ。シーラは確かに妖精人研究に熱を上げているが、今一番の関心事はキリエのようだからな」
「それは僕が半妖精人だから……」
「それはきっかけに過ぎないようだ。今のシーラの感覚はは、僕のキリエに対する気持ちとよく似ているんだと思う」
ジェイデンは柔らかな口調で言葉を紡ぎながら、キリエの銀髪を優しく撫でた。
「僕もシーラも、生まれや立場のせいもあり、人間の醜さを色々と目の当たりにしている。そんな僕たちにとって、キリエはとても純粋で、愛らしくて、美しくて、眩しい存在なのだよ」
「いえ、そんな……、僕はそんなこと、」
「そんなことあるんだ。キリエだって、嫌な目に遭ったことは沢山あるだろうし、決して綺麗なものだけを見て生きてきたわけじゃないだろう? それでも、君の心は汚れていない。まっすぐなままのキリエの姿は、とても尊いのだよ。シーラの言葉を借りるなら、キリエは僕たちの『最推し』だ」
「いくらなんでも買い被りすぎです……」
我を通してリアムとの魂結びを強行したばかりのキリエとしては、自身がそのように言ってもらえるような存在だとは思えず、困惑する。
だが、ジェイデンには、キリエの否定を受け入れてくれる素振りは全く無かった。
「まぁ、とにかく。妖精人の長老殿からの条件は呑んだうえで彼らの実在を公表するし、妖精人研究会の解散にも取り立てて問題は無いのだよ。シーラに関しても、君が生きていてくれれば全く問題無い。……今回の件で大きな問題なのは、」
そこまでジェイデンが話したところで、ノックの音が響く。次いで、ドアの外から騎士の声が聞こえてきた。どうやら、急ぎの報告事項があるらしい。
マクシミリアンが入口へ近寄ってドアを開けると、伝令役の騎士が入室し、深々と頭を下げた。
「御歓談中、陛下ならびに王兄殿下の御前を失礼いたします。モンス国境付近の幽閉塔へ出していた調査兵の後発部隊が只今帰還いたしまして、急ぎ御報告さしあげたい事柄がございます。申し上げてもよろしいでしょうか」
「構わない。……どうした?」
国王としての威厳を持った表情をしつつも、ジェイデンの顔には緊張が走っている。キリエの胸中もざわついているが、リアムもマクシミリアンもどこか顔色が悪い。
嫌な予感をおぼえている面々に対し、伝令役は重々しい口調で言った。
「御報告いたします。──マデリン殿下の御世話役を務めていた王国騎士ランドルフ=ランドルフ、ならびに、その妻・ソフィア=ランドルフの、……死亡が確認できた、とのことでございます」
──翌日。
キリエが目覚めたと知ったジェイデンは、マクシミリアンを伴って、朝から様子を見に来た。体を動かせないことを心配しつつも、金髪の主従はキリエの目覚めを喜んでくれる。キリエはリアムの手を借りて体を起こそうとしたのだが、寝たままでいいと二人から止められ、その言葉に甘えることにした。
ジェイデンへは王城で世話になっていることを、マクシミリアンには魂結びを見守ってくれたことを、それぞれに礼を述べたキリエは、彼らに心配を掛けてしまった謝罪も重ねて口にした。その言葉を受けた二人は、気にするなと言うように首を振る。
「キリエ。君が何を代償に何を救ったのか、話を聞いて把握しているのだよ。頑張ったな」
「キリエ様の御体に相当な御負担があられたことは、傍で見ておりましたので分かっております。暫くは安静になさって、御休みいただいたほうがよろしいかと」
「二人とも、ありがとうございます。……でも、今は休んでいられるような状況ではないと、リアムから聞いた話で理解しています」
キリエは昨夜プシュケを呼び出して話したことを、ジェイデンたちへ素直に伝えた。妖精人の長老が提示した条件を聞き、ジェイデンは渋い面持ちにはなったものの、異を唱えようとはせずに首肯する。
「なるほど……、やはり彼らは僕たちとの共存は望まないということか。……いや、致し方ないことだろう。むしろ、かなり譲歩してもらっているはずだ」
「長命の妖精人にとって、千年前の出来事というのは、過去といっても僕たちよりも近いものに感じているはずです。まだ風化させるには程遠い状況なのかと思うと、それ以上を望むことは僕には出来なくて……、すみません」
「いや、とんでもない。むしろ、キリエがいるからこそ、妖精人の長老はここまで歩み寄ってくれているのだと思う。目覚めたばかりで身体もままならないというときに、急いで話をしてくれて、ありがとう」
両隣国の代表者は明日の日中に王城へ到着する予定であり、出来ればそれまでに妖精人の実在を公表する許可を得たいと考えていたジェイデンにとっては、良い展開になってきたのは事実だ。とはいえ、懸念事項もある。
「シーラの妖精人研究会にも活動を止めていただかなければなりませんが、大丈夫でしょうか……?」
妖精人研究の権威だというプリシラは、その役割に誇りを持っており、生き甲斐に感じているようにも見えた。そんな彼女や仲間の研究者たちがこれまで積み上げてきたものが無に帰するのではないかと、キリエは気掛かりだったのだ。
しかし、ジェイデンは微笑を浮かべて首を振る。
「いや、その心配には及ばないのだよ。そりゃあ、研究員は多少は気落ちするかもしれないが、事情が事情なのだから納得してくれるだろう。ユージーンの血筋の者を除けば、人間は妖精人を悪いようにはしないという性質もあるのだし、存在を公表しても、キリエの祖父君たちの生活を脅かすような展開にはならないはずなのだよ」
「それはそうだと思いますが……、シーラはとても親身になってくださいましたし……」
「彼女なら、なおさら大丈夫だ。シーラは確かに妖精人研究に熱を上げているが、今一番の関心事はキリエのようだからな」
「それは僕が半妖精人だから……」
「それはきっかけに過ぎないようだ。今のシーラの感覚はは、僕のキリエに対する気持ちとよく似ているんだと思う」
ジェイデンは柔らかな口調で言葉を紡ぎながら、キリエの銀髪を優しく撫でた。
「僕もシーラも、生まれや立場のせいもあり、人間の醜さを色々と目の当たりにしている。そんな僕たちにとって、キリエはとても純粋で、愛らしくて、美しくて、眩しい存在なのだよ」
「いえ、そんな……、僕はそんなこと、」
「そんなことあるんだ。キリエだって、嫌な目に遭ったことは沢山あるだろうし、決して綺麗なものだけを見て生きてきたわけじゃないだろう? それでも、君の心は汚れていない。まっすぐなままのキリエの姿は、とても尊いのだよ。シーラの言葉を借りるなら、キリエは僕たちの『最推し』だ」
「いくらなんでも買い被りすぎです……」
我を通してリアムとの魂結びを強行したばかりのキリエとしては、自身がそのように言ってもらえるような存在だとは思えず、困惑する。
だが、ジェイデンには、キリエの否定を受け入れてくれる素振りは全く無かった。
「まぁ、とにかく。妖精人の長老殿からの条件は呑んだうえで彼らの実在を公表するし、妖精人研究会の解散にも取り立てて問題は無いのだよ。シーラに関しても、君が生きていてくれれば全く問題無い。……今回の件で大きな問題なのは、」
そこまでジェイデンが話したところで、ノックの音が響く。次いで、ドアの外から騎士の声が聞こえてきた。どうやら、急ぎの報告事項があるらしい。
マクシミリアンが入口へ近寄ってドアを開けると、伝令役の騎士が入室し、深々と頭を下げた。
「御歓談中、陛下ならびに王兄殿下の御前を失礼いたします。モンス国境付近の幽閉塔へ出していた調査兵の後発部隊が只今帰還いたしまして、急ぎ御報告さしあげたい事柄がございます。申し上げてもよろしいでしょうか」
「構わない。……どうした?」
国王としての威厳を持った表情をしつつも、ジェイデンの顔には緊張が走っている。キリエの胸中もざわついているが、リアムもマクシミリアンもどこか顔色が悪い。
嫌な予感をおぼえている面々に対し、伝令役は重々しい口調で言った。
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