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第3章
【3-85】赤薔薇の騎士と白百合の騎士
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キリエには聞き覚えの無い声だ。
そもそも、一応は国王の兄という立場上、キリエは城の者と直接会話を交わす機会は殆ど無い。マクシミリアンやレオンなどキリエと顔見知りの名誉称号持ち騎士であれば話は別だが、大抵の者との伝達はリアムが間に入っている。
とはいえ、リアムの傍でキリエも話を聞いてはいるので、相手の声音はある程度は把握しているのだ。そのうえで、今の訪問者の声は記憶に無いものだった。
首を傾げるキリエとは反対に、リアムは来訪者がすぐに分かったらしい。警戒している様子も無いことから、彼がそれなりに信頼している相手だろうと思われる。
「ローザとリリーだな」
「……ローザと、リリー?」
「ああ。どちらも名誉称号持ちの騎士だ。紹介するから、中に入れてもいいか?」
「ええ、お願いします」
リアムがそう言うのであれば、キリエとしてもぜひ挨拶を交わしてみたい。即答したキリエへ頷いて立ち上がってから、リアムは声を張って部屋の外へと呼び掛けた。
「キリエ様から御許しをいただいた! 中へ!」
失礼いたします、と二人の女性の礼儀正しい声が重なり、静かに扉が開かれる。首が動く範囲でそちらを見るキリエの視界には、対照的な女性たちの姿があった。
一人は、失礼ながら、一見すると男性に見える女騎士である。エレノアは男装して短めの髪ではあるものの基本的には女性的な空気を纏っているが、この女騎士は男性的な雰囲気を醸し出していた。桃色がかった金髪と、宝石のような紅い瞳が印象的で、その長身も相まって美男子と称したくなるような美丈夫である。
もう一人は、少し青みがかった明るめの茶髪を緩く編み込んでいる可憐な女性で、本当に騎士なのかと目を疑いたくなるほど色白で小柄で儚い印象だ。ジャスミンのように少女めいているわけではなく、キャサリンやルーナのように大人の女の空気が前面に出ているというわけでもなく、不思議な女騎士だった。
彼女たちはキリエの寝台の傍へ寄り、綺麗な所作で跪く。つい身を起こそうとして身体に力を入れてしまったキリエだが、それは叶わず腕が少し動いただけだ。リアムは腰を屈め、優しく諭してきた。
「キリエ様、どうぞそのままで。楽になさっていてください」
「でも……、ご挨拶するのでしたら寝ているままだと失礼ではないかと」
そのキリエの言葉に反応したのは、紅い瞳の女騎士だ。
「滅相も無いことでございます。キリエ様が御療養の最中と存じておりながら、こうして押し掛けて御目通り願っているのは我々の身勝手ですので。どうぞ、御身体に御負担が掛からないようにしていただきたく」
次いで、色白の女騎士も深々と頭を下げてから発言する。
「お優しい御気遣いを賜り、幸甚に存じます。また、こうして御目通りの許可をいただけましたことに、深く感謝いたします。ありがとうございます、キリエ様」
きっちりとした挨拶をされ、キリエは少々たじろいだ。マクシミリアンやレオンも丁寧に話してくれるが、ここまで堅苦しくはない。リアムも、従者としての態度のときには礼儀正しい振る舞いで接してくるが、ここまで硬くはないのだ。
主君の困惑を感じ取ったのか、リアムは二人の女騎士へ声を掛ける。
「ローザ、リリー。キリエ様が戸惑っておられる。もう少し、普段のお前たちらしさを出して接したほうが喜んでいただけると思うぞ」
「……そう? いや、でも、陛下の兄上でいらっしゃるし。陛下もキリエ様をたいそう大事にしておられると云うじゃないか」
「そうよねぇ……、最大限の敬意をお見せしたいわぁ」
リアムに対して言葉を返す彼女たちの口調がガラリと変わり、二人の印象も変化したように感じられたキリエは、瞳を輝かせながら、思わず口を挟んでいた。
「僕、そうやっておはなししていただけるほうが嬉しいです。……あっ、えっと、完全に同じようにというのは難しい立場だというのは理解しているのですが、恥ずかしながら敬われる話し方というのに不慣れで頭が追い付かないことがあるので、もう少し楽におはなししていただけると僕も助かるというか……、すみません……」
王兄という立場上、敬われることに慣れないなど禁句だろうと気づいたキリエは若干青ざめたが、流石にリアムもこの場で苦言を呈したりはせず、苦笑するに留まる。
二人の女騎士は微笑ましそうにキリエを見つめ、それぞれが「御意」と了承した。
「それでは、キリエ様。御言葉に甘え、多少は崩した話し方をさせていただきます。ですが、御不快に思われた場合にはすぐに教えてくださいね」
「キリエ様がおはなししやすい感じを掴めるよう、頑張りますので」
「はい、ありがとうございます」
場が和やかになったところで、仕切り直すようにリアムが咳払いをする。
「では、改めまして、キリエ様に御紹介いたします。こちらは、赤薔薇の騎士の称号を持つローザ=グリフィス。こちらは、白百合の騎士の称号を持つリリー=オーウェン。どちらも私と同時期に入団した者です」
そもそも、一応は国王の兄という立場上、キリエは城の者と直接会話を交わす機会は殆ど無い。マクシミリアンやレオンなどキリエと顔見知りの名誉称号持ち騎士であれば話は別だが、大抵の者との伝達はリアムが間に入っている。
とはいえ、リアムの傍でキリエも話を聞いてはいるので、相手の声音はある程度は把握しているのだ。そのうえで、今の訪問者の声は記憶に無いものだった。
首を傾げるキリエとは反対に、リアムは来訪者がすぐに分かったらしい。警戒している様子も無いことから、彼がそれなりに信頼している相手だろうと思われる。
「ローザとリリーだな」
「……ローザと、リリー?」
「ああ。どちらも名誉称号持ちの騎士だ。紹介するから、中に入れてもいいか?」
「ええ、お願いします」
リアムがそう言うのであれば、キリエとしてもぜひ挨拶を交わしてみたい。即答したキリエへ頷いて立ち上がってから、リアムは声を張って部屋の外へと呼び掛けた。
「キリエ様から御許しをいただいた! 中へ!」
失礼いたします、と二人の女性の礼儀正しい声が重なり、静かに扉が開かれる。首が動く範囲でそちらを見るキリエの視界には、対照的な女性たちの姿があった。
一人は、失礼ながら、一見すると男性に見える女騎士である。エレノアは男装して短めの髪ではあるものの基本的には女性的な空気を纏っているが、この女騎士は男性的な雰囲気を醸し出していた。桃色がかった金髪と、宝石のような紅い瞳が印象的で、その長身も相まって美男子と称したくなるような美丈夫である。
もう一人は、少し青みがかった明るめの茶髪を緩く編み込んでいる可憐な女性で、本当に騎士なのかと目を疑いたくなるほど色白で小柄で儚い印象だ。ジャスミンのように少女めいているわけではなく、キャサリンやルーナのように大人の女の空気が前面に出ているというわけでもなく、不思議な女騎士だった。
彼女たちはキリエの寝台の傍へ寄り、綺麗な所作で跪く。つい身を起こそうとして身体に力を入れてしまったキリエだが、それは叶わず腕が少し動いただけだ。リアムは腰を屈め、優しく諭してきた。
「キリエ様、どうぞそのままで。楽になさっていてください」
「でも……、ご挨拶するのでしたら寝ているままだと失礼ではないかと」
そのキリエの言葉に反応したのは、紅い瞳の女騎士だ。
「滅相も無いことでございます。キリエ様が御療養の最中と存じておりながら、こうして押し掛けて御目通り願っているのは我々の身勝手ですので。どうぞ、御身体に御負担が掛からないようにしていただきたく」
次いで、色白の女騎士も深々と頭を下げてから発言する。
「お優しい御気遣いを賜り、幸甚に存じます。また、こうして御目通りの許可をいただけましたことに、深く感謝いたします。ありがとうございます、キリエ様」
きっちりとした挨拶をされ、キリエは少々たじろいだ。マクシミリアンやレオンも丁寧に話してくれるが、ここまで堅苦しくはない。リアムも、従者としての態度のときには礼儀正しい振る舞いで接してくるが、ここまで硬くはないのだ。
主君の困惑を感じ取ったのか、リアムは二人の女騎士へ声を掛ける。
「ローザ、リリー。キリエ様が戸惑っておられる。もう少し、普段のお前たちらしさを出して接したほうが喜んでいただけると思うぞ」
「……そう? いや、でも、陛下の兄上でいらっしゃるし。陛下もキリエ様をたいそう大事にしておられると云うじゃないか」
「そうよねぇ……、最大限の敬意をお見せしたいわぁ」
リアムに対して言葉を返す彼女たちの口調がガラリと変わり、二人の印象も変化したように感じられたキリエは、瞳を輝かせながら、思わず口を挟んでいた。
「僕、そうやっておはなししていただけるほうが嬉しいです。……あっ、えっと、完全に同じようにというのは難しい立場だというのは理解しているのですが、恥ずかしながら敬われる話し方というのに不慣れで頭が追い付かないことがあるので、もう少し楽におはなししていただけると僕も助かるというか……、すみません……」
王兄という立場上、敬われることに慣れないなど禁句だろうと気づいたキリエは若干青ざめたが、流石にリアムもこの場で苦言を呈したりはせず、苦笑するに留まる。
二人の女騎士は微笑ましそうにキリエを見つめ、それぞれが「御意」と了承した。
「それでは、キリエ様。御言葉に甘え、多少は崩した話し方をさせていただきます。ですが、御不快に思われた場合にはすぐに教えてくださいね」
「キリエ様がおはなししやすい感じを掴めるよう、頑張りますので」
「はい、ありがとうございます」
場が和やかになったところで、仕切り直すようにリアムが咳払いをする。
「では、改めまして、キリエ様に御紹介いたします。こちらは、赤薔薇の騎士の称号を持つローザ=グリフィス。こちらは、白百合の騎士の称号を持つリリー=オーウェン。どちらも私と同時期に入団した者です」
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