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第4章(最終章)
【4-10】満場一致の招待
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ジェイデンが唇を閉ざしてしまうと、再び沈黙が訪れた。皆一様に何かを考え込んでいる。キリエもまた、今聞いた内容を脳内で反芻した。
この手紙を届けてきたのは魔族であり、現在の三国が共通の敵と睨んでいるカインの弟妹らしい。彼らは何やら重大な事実を伝えてくれるようで、マデリンは彼らを信頼している。そして、どうやら思っていた以上に、世界は悪い状況に陥ろうとしているらしい。──もっとも、これが本当にマデリンからの手紙であり、尚且つ彼女が自らの意思でしたためたものであれば、の話ではあるが。
「エド」
「はいっ、キリエ様!」
キリエが呼ぶと、エドワードは姿勢を正してすぐに返答する。どこか緊張している彼を見つめ、キリエは質問を投げ掛けた。
「ジェイデンが読み上げてくれた内容を聞く限り、この手紙を持ってきたお客様たちは魔族の方で、お名前はイヴさんアベルさんと仰るようですが、そのように名乗られてましたか?」
「はい! イヴさんとアベルさんって名乗っておられました。イヴさんがお姉さん、アベルさんが弟さんだそうで、えーっと……、他にもお兄さんがいるんだとか」
「カインのことですね」
一般国民へは襲来予定の魔族の存在を伝えてはあるが、その名がカインとまでは公にしていない。エドワードの反応はごく自然なものだろう。
キリエとエドワードのやり取りに耳を傾けていたジャスミンが、ジェイデンが持つ手紙へおもむろに手を伸ばす。ジェイデンは不審がることもなく、普通に手渡した。受け取った紙面を熟読する水色の姫君は、隣に立つダリオにも手紙を見せる。褐色肌の騎士は文面へ目を通して目を瞠り、主へ向かって深く頷いた。ダリオへ頷き返したジャスミンは、一同をぐるりと見渡しながら真剣に言う。
「手紙の内容は、ジェイデンが読み上げていたもので正しいと思うわ。そして、これはマデリンの筆跡と同じように見える。わたし、だいぶ前のことだけど、ライアンのことで悩んでいた時期にマデリンと手紙のやり取りをしていたことがあるの。そのとき、お互いにこの文字を使って手紙を書いていたわ。そして、この手紙はそのときのマデリンの字と同じように見える。ダリオも、そう感じているみたい」
ジャスミンの言葉を受け、その通りだと言わんばかりにダリオは何度も頷いた。姫君たちの手紙のやり取りには、事前に検閲する役目を持つ側近騎士も深く関わっている。だから、ダリオの記憶にもマデリンの筆跡が残っていたのだろう。
「不自然な震えや滲みもないし、脅されて書いた手紙だとは思えないのだよ。筆跡もマデリン自身のものとなれば、ここに書かれているのは彼女の意志ということになるな。……さて、キリエ。どうする?」
ジェイデンの促しに呼応したように、再びキリエへ視線が集まる。この場で最も権限があるのはジェイデンだろうが、マデリンの手紙はキリエとリアムに宛てられたものだからこそ、彼はキリエの意見を求めているのだろう。
キリエは暫し考えた後、落ち着くよう心掛けながらも、どこかたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。
「そうですね……、僕としては、魔族と思われる御客人たちを此処へお招きして、話を聞いてみたいかな……、と、思うのですが」
そこで一度口を閉ざしチラリとジェイデンを窺い見ると、穏やかな金色の視線が先を続けるようにと伝えてくる。キリエは頷き、また語り始めた。
「マデリンはもう、僕たちを貶めるようなことはしないはず。脅迫されているのなら話は別かもしれませんが、この筆跡が彼女のものである可能性が高いのであれば、堂々と書き綴られているように見えますし、この内容は真実だと思うのです。……となれば、せっかく来てくれた方々から貴重な話を伺えるかもしれません。此処には、リツとチェットもいます。世界の危機だというのなら、アルスとモンスも巻き込まれているのでしょうし、改めて伝達するよりも、一緒に聞いていただいたほうがよいのではないかと」
「なるほど。ただ、此処には側近ではない騎士もいるし、一般国民もいる。彼らについては、どうする? 部屋の外に出てもらうか?」
そう問い掛けてくるジェイデンの金眼には、悪戯な色が見え隠れしている。キリエがどう答えるか分かっていて、そして彼自身もこうすべきと定めている答えがあって、その上であえて訊いているのだ。
それを理解しているキリエは、微苦笑を浮かべてから答えた。
「彼らにも、此処にいてもらいましょう。魔族と思われる客人の訪問を把握されているのには変わりないですし、立ち入った内容だったとしても彼らは決して口外しないでしょうから。僕は、此処にいる皆を信じています」
キリエの言葉に、一同は首肯する。機密を耳にしたとしても、皆は決して情報を漏らしたりしないだろう。それに、万が一、相手に敵意があったとして途中で戦闘が始まってしまった場合、下手に分散していたがばかりに統制が取りづらいのはよくないはずだ。
「リツ、チェット、いかがですか? お付き合い頂けますか?」
「ええ、勿論。是非とも、このままおはなしを伺っておきたいです」
「オレもだ。後から聞くってのも二度手間だしな」
「お二人とも、ありがとうございます。……というわけで、以上が僕の見解ですが、いかがいたしますか、ジェイデン陛下?」
両隣国の賓客の同意を得た上で話題を返したキリエが「陛下」と呼んだのは、先程の意趣返しだ。ジェイデンは柔らかい苦笑を口元に浮かべつつ、明朗な声音で結論を出した。
「陛下呼ばわりはやめてほしいのだよ、兄上。──僕もおおむね同意だ。満場一致ということで、皆で客人を迎えよう」
ジェイデンの指示の元、テーブルや椅子が並べ替えられ、盛られていた菓子や料理は一度下げられ、新たな茶が淹れ直される。そうして客を迎える支度をしている間、エドワードが再び玄関へ戻り、茶会への招待の旨を伝えに行ったのだった。
この手紙を届けてきたのは魔族であり、現在の三国が共通の敵と睨んでいるカインの弟妹らしい。彼らは何やら重大な事実を伝えてくれるようで、マデリンは彼らを信頼している。そして、どうやら思っていた以上に、世界は悪い状況に陥ろうとしているらしい。──もっとも、これが本当にマデリンからの手紙であり、尚且つ彼女が自らの意思でしたためたものであれば、の話ではあるが。
「エド」
「はいっ、キリエ様!」
キリエが呼ぶと、エドワードは姿勢を正してすぐに返答する。どこか緊張している彼を見つめ、キリエは質問を投げ掛けた。
「ジェイデンが読み上げてくれた内容を聞く限り、この手紙を持ってきたお客様たちは魔族の方で、お名前はイヴさんアベルさんと仰るようですが、そのように名乗られてましたか?」
「はい! イヴさんとアベルさんって名乗っておられました。イヴさんがお姉さん、アベルさんが弟さんだそうで、えーっと……、他にもお兄さんがいるんだとか」
「カインのことですね」
一般国民へは襲来予定の魔族の存在を伝えてはあるが、その名がカインとまでは公にしていない。エドワードの反応はごく自然なものだろう。
キリエとエドワードのやり取りに耳を傾けていたジャスミンが、ジェイデンが持つ手紙へおもむろに手を伸ばす。ジェイデンは不審がることもなく、普通に手渡した。受け取った紙面を熟読する水色の姫君は、隣に立つダリオにも手紙を見せる。褐色肌の騎士は文面へ目を通して目を瞠り、主へ向かって深く頷いた。ダリオへ頷き返したジャスミンは、一同をぐるりと見渡しながら真剣に言う。
「手紙の内容は、ジェイデンが読み上げていたもので正しいと思うわ。そして、これはマデリンの筆跡と同じように見える。わたし、だいぶ前のことだけど、ライアンのことで悩んでいた時期にマデリンと手紙のやり取りをしていたことがあるの。そのとき、お互いにこの文字を使って手紙を書いていたわ。そして、この手紙はそのときのマデリンの字と同じように見える。ダリオも、そう感じているみたい」
ジャスミンの言葉を受け、その通りだと言わんばかりにダリオは何度も頷いた。姫君たちの手紙のやり取りには、事前に検閲する役目を持つ側近騎士も深く関わっている。だから、ダリオの記憶にもマデリンの筆跡が残っていたのだろう。
「不自然な震えや滲みもないし、脅されて書いた手紙だとは思えないのだよ。筆跡もマデリン自身のものとなれば、ここに書かれているのは彼女の意志ということになるな。……さて、キリエ。どうする?」
ジェイデンの促しに呼応したように、再びキリエへ視線が集まる。この場で最も権限があるのはジェイデンだろうが、マデリンの手紙はキリエとリアムに宛てられたものだからこそ、彼はキリエの意見を求めているのだろう。
キリエは暫し考えた後、落ち着くよう心掛けながらも、どこかたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。
「そうですね……、僕としては、魔族と思われる御客人たちを此処へお招きして、話を聞いてみたいかな……、と、思うのですが」
そこで一度口を閉ざしチラリとジェイデンを窺い見ると、穏やかな金色の視線が先を続けるようにと伝えてくる。キリエは頷き、また語り始めた。
「マデリンはもう、僕たちを貶めるようなことはしないはず。脅迫されているのなら話は別かもしれませんが、この筆跡が彼女のものである可能性が高いのであれば、堂々と書き綴られているように見えますし、この内容は真実だと思うのです。……となれば、せっかく来てくれた方々から貴重な話を伺えるかもしれません。此処には、リツとチェットもいます。世界の危機だというのなら、アルスとモンスも巻き込まれているのでしょうし、改めて伝達するよりも、一緒に聞いていただいたほうがよいのではないかと」
「なるほど。ただ、此処には側近ではない騎士もいるし、一般国民もいる。彼らについては、どうする? 部屋の外に出てもらうか?」
そう問い掛けてくるジェイデンの金眼には、悪戯な色が見え隠れしている。キリエがどう答えるか分かっていて、そして彼自身もこうすべきと定めている答えがあって、その上であえて訊いているのだ。
それを理解しているキリエは、微苦笑を浮かべてから答えた。
「彼らにも、此処にいてもらいましょう。魔族と思われる客人の訪問を把握されているのには変わりないですし、立ち入った内容だったとしても彼らは決して口外しないでしょうから。僕は、此処にいる皆を信じています」
キリエの言葉に、一同は首肯する。機密を耳にしたとしても、皆は決して情報を漏らしたりしないだろう。それに、万が一、相手に敵意があったとして途中で戦闘が始まってしまった場合、下手に分散していたがばかりに統制が取りづらいのはよくないはずだ。
「リツ、チェット、いかがですか? お付き合い頂けますか?」
「ええ、勿論。是非とも、このままおはなしを伺っておきたいです」
「オレもだ。後から聞くってのも二度手間だしな」
「お二人とも、ありがとうございます。……というわけで、以上が僕の見解ですが、いかがいたしますか、ジェイデン陛下?」
両隣国の賓客の同意を得た上で話題を返したキリエが「陛下」と呼んだのは、先程の意趣返しだ。ジェイデンは柔らかい苦笑を口元に浮かべつつ、明朗な声音で結論を出した。
「陛下呼ばわりはやめてほしいのだよ、兄上。──僕もおおむね同意だ。満場一致ということで、皆で客人を迎えよう」
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