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第4章(最終章)
【4-55】仕立て屋の参上
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二人の間に漂っていた緊迫感がやや和らいだところで、リアムは不意に視線を部屋の入口へと向ける。
「あいつ……、なぜ……」
「えっ?」
首を傾げるキリエの手をリアムが離したとき、扉がノックされた。キリエの頷きを見たリアムによる「入れ」の声に続いてジョセフが入室し、綺麗な角度で一礼する。
「キリエ様、リアム様、仕立て屋のマリウスが参りました。なんでも、国王陛下の命により訪れたとのこと。お通ししてもよろしいですか?」
「……いいか、キリエ?」
「えっ、ええ、僕は構いませんが……、どうしてマリーが……」
「通さずに帰らせても構わないが」
「えっ!? いえいえ、せっかくですから僕もお会いしたいです、が……」
来客を拒む気は無いが、なぜ此処にマリウスがいるのかという疑問が湧き上がったことにより、キリエの返答はいささか歯切れが悪くなった。王都内の一般国民たちは、各避難地へ向けて出発済のはずだ。職業柄、ごく一部の王都民がまだ残留しているが、仕立て屋は既に王都を出ているべき対象である。
「ご了承いただけましたので玄関まで呼びに行……く、予定でございましたが、既に勝手に此処まで来ております」
呆れ顔のジョセフを押し退けるようにして、そして、困惑しているキリエの眼差しも冷ややかなリアムの視線も全く意に介さず、相変わらず派手な出で立ちの大男が勢いよく入室してきた。
「ドーモ、ドーモ! 御機嫌うるわシュウ! 失礼いたしますワ、キリエ様。あと、ついでにリアム坊ちゃんも」
「マ、マリー……、こ、こんばんは」
「こんばんは! んマァ、相変わらず可愛らしい子ネ、食べちゃいたくなるほっぺたダワ!」
「マリウス、不敬だぞ。こちらにおわすのは、」
「王様のお兄様であられるキリエ様でショ、知ってるわヨ、知ってマス~! でもネェ、偉くたって可愛いモンは可愛いのヨ。褒めてるんダカラ問題ないでショ」
「問題大ありだ。大体、お前は昔から、」
「あー、はいはい。まったくモウ、夜霧の騎士様がこんなに口うるさいだナンテ! 小姑みたいヨ! 黙ってりゃ普通にイイ男なんだから、チョット黙っててチョーダイ!」
リアムから鋭く睨まれても一向に気にしないマリウスは「あらヨっと」と不思議な掛け声と共に、抱えていた大きな箱を騎士へ押し付ける。
「お夕飯前の時間帯に悪いナァとは思ったんだケド、陛下から直々のお願いで、なるべく早く渡してって言われたカラ、こうして来たのヨ。お届け物デース!」
「ジェイデンからの届け物、ですか……?」
「そ! 陛下から殿下への贈り物デス!」
キリエがおずおずと目で合図すると、リアムは軽く頭を下げてから箱を開ける。そこには、一着の衣装が綺麗に畳まれて入っていた。リアムが広げたそれは、見るからにキリエに合わせて作られたと思われる大きさである。
白を基調とした布地が数種類使われており、どれも高級なものだろうと思われた。銀糸で繊細な柄が刺繍されており、二色使いの飾り紐も派手ではなく品良くあしらわれている。その二色の片方は銀で、もうひとつはリアムの瞳の色に近いような深い紫色だった。
「この服が、ジェイデンからの……?」
「そーなんデス! 素敵デショ? 勿論、キリエ様用の新作御衣装ヨ! 陛下から直々に、決戦の日に着用する衣装の御注文を賜ってましてネ。んふふ、キリエ様には内緒って仰ってたのでェ、今日まで秘密にしてたんですけどォ、アタシの中でェ、今年一番の会心の出来なんデスよぉ、んマァ、んふふッ、興奮しちゃうワ!」
「するな!」
「するワヨ!」
遠巻き気味のキリエとジョセフの様子も、明らかに苛立ちを募らせているリアムの存在すら一切気にせず、マリウスは大仰な仕草と共に更に熱く語り始める。
「陛下ったらネェ、キリエ様とお揃いの衣装で出陣されたかったんですって! んマァ、美しい兄弟愛! アタシそーゆーの大好物ッ! んふッ! ダカタ、とっておきのデザインを考えて超特急で仕立てたんデス! どぉカシラ、殿下?」
「とても綺麗な衣装ですね。とても丁寧で、でも豪奢というわけではなくて……、お高そうな布地なのが気掛かりですが、とても美しいと思います。流石はマリーです」
たじろぎながらも素直な称賛を送るキリエに対し、マリウスは手を叩いて喜びの声を上げた。
「ありがとうございマス! とっても嬉しいですワ。生地は確かに良いものですケド、陛下も御召しになるのダカラ、多少はネ? ──そ・れ・でェ! この御衣装のこだわりについてなんですけどォ」
「いい加減に黙れマリウス」
「坊ちゃんこそ黙ってて。今、イイところなの。でネ、この御衣装なんですケド、陛下と殿下で色違いにしているんデス。キリエ様のはァ、見ての通りのお色デス。陛下のは、金糸での刺繍、そして金色と橙色を組み合わせた飾り紐で仕上げてマス。んふふッ、これって、どういう意味合いのデザインか、キリエ様はお分かりになられるカシラ~?」
「えっ……、えぇと……」
楽しそうな大男から笑顔の圧を受けたキリエは、銀眼を瞬かせた。
「あいつ……、なぜ……」
「えっ?」
首を傾げるキリエの手をリアムが離したとき、扉がノックされた。キリエの頷きを見たリアムによる「入れ」の声に続いてジョセフが入室し、綺麗な角度で一礼する。
「キリエ様、リアム様、仕立て屋のマリウスが参りました。なんでも、国王陛下の命により訪れたとのこと。お通ししてもよろしいですか?」
「……いいか、キリエ?」
「えっ、ええ、僕は構いませんが……、どうしてマリーが……」
「通さずに帰らせても構わないが」
「えっ!? いえいえ、せっかくですから僕もお会いしたいです、が……」
来客を拒む気は無いが、なぜ此処にマリウスがいるのかという疑問が湧き上がったことにより、キリエの返答はいささか歯切れが悪くなった。王都内の一般国民たちは、各避難地へ向けて出発済のはずだ。職業柄、ごく一部の王都民がまだ残留しているが、仕立て屋は既に王都を出ているべき対象である。
「ご了承いただけましたので玄関まで呼びに行……く、予定でございましたが、既に勝手に此処まで来ております」
呆れ顔のジョセフを押し退けるようにして、そして、困惑しているキリエの眼差しも冷ややかなリアムの視線も全く意に介さず、相変わらず派手な出で立ちの大男が勢いよく入室してきた。
「ドーモ、ドーモ! 御機嫌うるわシュウ! 失礼いたしますワ、キリエ様。あと、ついでにリアム坊ちゃんも」
「マ、マリー……、こ、こんばんは」
「こんばんは! んマァ、相変わらず可愛らしい子ネ、食べちゃいたくなるほっぺたダワ!」
「マリウス、不敬だぞ。こちらにおわすのは、」
「王様のお兄様であられるキリエ様でショ、知ってるわヨ、知ってマス~! でもネェ、偉くたって可愛いモンは可愛いのヨ。褒めてるんダカラ問題ないでショ」
「問題大ありだ。大体、お前は昔から、」
「あー、はいはい。まったくモウ、夜霧の騎士様がこんなに口うるさいだナンテ! 小姑みたいヨ! 黙ってりゃ普通にイイ男なんだから、チョット黙っててチョーダイ!」
リアムから鋭く睨まれても一向に気にしないマリウスは「あらヨっと」と不思議な掛け声と共に、抱えていた大きな箱を騎士へ押し付ける。
「お夕飯前の時間帯に悪いナァとは思ったんだケド、陛下から直々のお願いで、なるべく早く渡してって言われたカラ、こうして来たのヨ。お届け物デース!」
「ジェイデンからの届け物、ですか……?」
「そ! 陛下から殿下への贈り物デス!」
キリエがおずおずと目で合図すると、リアムは軽く頭を下げてから箱を開ける。そこには、一着の衣装が綺麗に畳まれて入っていた。リアムが広げたそれは、見るからにキリエに合わせて作られたと思われる大きさである。
白を基調とした布地が数種類使われており、どれも高級なものだろうと思われた。銀糸で繊細な柄が刺繍されており、二色使いの飾り紐も派手ではなく品良くあしらわれている。その二色の片方は銀で、もうひとつはリアムの瞳の色に近いような深い紫色だった。
「この服が、ジェイデンからの……?」
「そーなんデス! 素敵デショ? 勿論、キリエ様用の新作御衣装ヨ! 陛下から直々に、決戦の日に着用する衣装の御注文を賜ってましてネ。んふふ、キリエ様には内緒って仰ってたのでェ、今日まで秘密にしてたんですけどォ、アタシの中でェ、今年一番の会心の出来なんデスよぉ、んマァ、んふふッ、興奮しちゃうワ!」
「するな!」
「するワヨ!」
遠巻き気味のキリエとジョセフの様子も、明らかに苛立ちを募らせているリアムの存在すら一切気にせず、マリウスは大仰な仕草と共に更に熱く語り始める。
「陛下ったらネェ、キリエ様とお揃いの衣装で出陣されたかったんですって! んマァ、美しい兄弟愛! アタシそーゆーの大好物ッ! んふッ! ダカタ、とっておきのデザインを考えて超特急で仕立てたんデス! どぉカシラ、殿下?」
「とても綺麗な衣装ですね。とても丁寧で、でも豪奢というわけではなくて……、お高そうな布地なのが気掛かりですが、とても美しいと思います。流石はマリーです」
たじろぎながらも素直な称賛を送るキリエに対し、マリウスは手を叩いて喜びの声を上げた。
「ありがとうございマス! とっても嬉しいですワ。生地は確かに良いものですケド、陛下も御召しになるのダカラ、多少はネ? ──そ・れ・でェ! この御衣装のこだわりについてなんですけどォ」
「いい加減に黙れマリウス」
「坊ちゃんこそ黙ってて。今、イイところなの。でネ、この御衣装なんですケド、陛下と殿下で色違いにしているんデス。キリエ様のはァ、見ての通りのお色デス。陛下のは、金糸での刺繍、そして金色と橙色を組み合わせた飾り紐で仕上げてマス。んふふッ、これって、どういう意味合いのデザインか、キリエ様はお分かりになられるカシラ~?」
「えっ……、えぇと……」
楽しそうな大男から笑顔の圧を受けたキリエは、銀眼を瞬かせた。
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