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第67話 匂いに誘われて
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僕は矢野君に後ろから抱きつかれると、
その腕の中で呆然と立ち尽くした。
”前にもこうやってお前を抱いた事があるか?“
矢野君のそのセリフは、
間違いなく何かを思い出し始めている。
僕は矢野君から逃げられないことを悟ると、
必死に隠そうとした噛み痕からゆっくりと手を離した。
僕が噛み痕から手を離すと、
直ぐに矢野君はその痕を指でそっとなぞり始めた。
彼の指先が僕の肌に触れた途端、
彼の指から静電気が走った様になり、
僕はビクッと体を震わせた。
矢野君も同じように感じたのだろう、
彼の指先がピクッと痙攣を犯したように
僕の頸を突いた。
僕はその場に金縛りにでもあったかのように立ち尽くすと、
矢野君が後ろから僕の頭に顔を乗せて来た。
僕は彼のそんな行動に、
また体が緊張したようにピクッと反応して硬直した。
額からは冷や汗が流れるような感覚で、
ゴクリと唾を飲み込むと、
静けさが当たりを包んだ。
その光景がとても異様で、
僕は今、自分は息をしているのだろうか?
とさえも思ってしまった。
見上げた月は青白く光り、
その光がスポットライトのように僕達を照らし出した。
矢野君は頭を上げて僕を振り回すと、
「お前の匂いが……
お前に近づいた時に香る……
お前の匂いが俺の記憶を混乱させる……」
そう言って僕の肩に顔を埋めた。
「この匂いだ。
この匂いは何なんだ?
この匂いを嗅ぐと、
俺が俺でいられなくなる。
何故そんな匂いがお前からしてくるんだ?
お前には番がいるんだろう?
それに俺だって……
何故なんだ? 何故俺はお前の匂いに反応するんだ?!」
矢野君は混乱した様にして僕を見た。
僕は思わず矢野君から目を逸らした。
そして僕の肩を力強く掴むと、
「お前のこの傷は俺と何か関係があるのか?
これは俺が噛んだ傷なのか?!
お前は俺の番なのか?!
俺は何か大切な事を忘れているのか?!」
僕は直ぐに返事が出来なかった。
直ぐにでも、
”はいそうです、
僕は貴方の番です。
此処は僕達が何度も愛し合った場所です。
思い出しましたか?“
そう言えたら、どんなにか楽だっただろう?
でもそう言ったからと言って
彼があの夏の日々を思い出すわけでもない。
そして僕をまた愛してくれる訳でもない。
僕は矢野君を見上げると、
「それを僕に言わせるの?
ねえ、思い出してよ!
そんなに僕の匂いが、
僕のこの傷痕が気になるんだったら、
全部、全部、思い出してよ!
お願いだから……
僕の矢野君を返してよ!」
気が付けば、僕は矢野くんに縋り付いてそう叫んでいた。
僕のそんな姿を矢野君は呆気に取られた様にして見ていたけど、
僕は自分の言ったセリフにハッとして、
そのまま走り出した。
蔦を掴んでハアハア言いながら登って来た坂道を、
少しワクワクとしながら歩いて来た道を、
僕は頬を伝う涙を腕で払い除けながら、
ホテルに向かって思いっきり走り出していた。
途中砂利に滑って転げてしまったけど、
それでも起き上がって走り続けた。
海岸沿いまで来た時に息が切れて立ち止まり、
後ろを見たけど、
矢野君が僕を追ってくる気配は感じられなかった。
“そう言えばあのチョーカー……
何故外れたんだろう……?”
僕は手のひらに握り締めたチョーカーに目を落とすと、
誰かが横をスッと通り過ぎた。
その時、流れる空気に乗って、
良い匂いがして来た。
”あれ……? この匂いは……“
通り過ぎた人を目で追ったけど、
もうそこには誰も居なかった。
”あれ? あれ?
今誰か通りすぎたよね?“
さっきの今で見逃すはずはない。
夜だけど、月明かりで真っ暗と言うほどでもない。
でも当たりには人のいる様な気配など無かった。
”気のせい?
いや、違う……
この残り香が違うと言ってる……“
その香りは、
僕を誘う様に今来た道の方へと続いていた。
僕はその香りに誘われるがままに、
また今来た道を戻り始めた。
”何だろう?
何故か懐かしい様な匂いだ……“
知っているのに思い出せない様な匂いで、
僕はつい先ほどの矢野君とのやり取りも忘れてそ匂いを辿った。
先程の乱れた心とは変わって、
僕は割と落ち着き払っていた。
この匂いが僕の乱れた心を落ち着かせてくれた。
それはとても不思議な感覚だった。
結局は僕はまた、
匂いに誘われるがままに
坂道を辿って秘境の地へと踏み込んでしまった。
秘境の地は、
さっき矢野君と言い合いをした時とは打って変わって
シンとしている。
相変わらず月の光は煌々と湖を照らし出していて、
やっぱり違った世界にいる様なシーンを曝け出していた。
その時僕は思い出した。
”あの香りは矢野君のフェロモンだ!
間違いない!
うっすらとした香りだけど、
僕達が番になった時に矢野君からしていた香りだ!“
思い出した瞬間、
月明かりの中に倒れる矢野君を見つけた。
”え? 矢野君?“
僕は矢野君の倒れている所へ走り寄った。
「矢野君……?」
恐る恐る声をかけて見たけど、
何の反応も無かった。
体を触ってみると、
彼の体は温かかった。
胸に手を当てると、
鼓動もする。
「矢野君? ねえ、矢野君?
起きて! 僕の声が聞こえる?
矢野君!」
何度も何度も彼を呼んだけど、
彼は何の反応もしなかった。
僕は震える手で携帯を取り出すと、
佐々木くんの携帯を呼び出していた。
その腕の中で呆然と立ち尽くした。
”前にもこうやってお前を抱いた事があるか?“
矢野君のそのセリフは、
間違いなく何かを思い出し始めている。
僕は矢野君から逃げられないことを悟ると、
必死に隠そうとした噛み痕からゆっくりと手を離した。
僕が噛み痕から手を離すと、
直ぐに矢野君はその痕を指でそっとなぞり始めた。
彼の指先が僕の肌に触れた途端、
彼の指から静電気が走った様になり、
僕はビクッと体を震わせた。
矢野君も同じように感じたのだろう、
彼の指先がピクッと痙攣を犯したように
僕の頸を突いた。
僕はその場に金縛りにでもあったかのように立ち尽くすと、
矢野君が後ろから僕の頭に顔を乗せて来た。
僕は彼のそんな行動に、
また体が緊張したようにピクッと反応して硬直した。
額からは冷や汗が流れるような感覚で、
ゴクリと唾を飲み込むと、
静けさが当たりを包んだ。
その光景がとても異様で、
僕は今、自分は息をしているのだろうか?
とさえも思ってしまった。
見上げた月は青白く光り、
その光がスポットライトのように僕達を照らし出した。
矢野君は頭を上げて僕を振り回すと、
「お前の匂いが……
お前に近づいた時に香る……
お前の匂いが俺の記憶を混乱させる……」
そう言って僕の肩に顔を埋めた。
「この匂いだ。
この匂いは何なんだ?
この匂いを嗅ぐと、
俺が俺でいられなくなる。
何故そんな匂いがお前からしてくるんだ?
お前には番がいるんだろう?
それに俺だって……
何故なんだ? 何故俺はお前の匂いに反応するんだ?!」
矢野君は混乱した様にして僕を見た。
僕は思わず矢野君から目を逸らした。
そして僕の肩を力強く掴むと、
「お前のこの傷は俺と何か関係があるのか?
これは俺が噛んだ傷なのか?!
お前は俺の番なのか?!
俺は何か大切な事を忘れているのか?!」
僕は直ぐに返事が出来なかった。
直ぐにでも、
”はいそうです、
僕は貴方の番です。
此処は僕達が何度も愛し合った場所です。
思い出しましたか?“
そう言えたら、どんなにか楽だっただろう?
でもそう言ったからと言って
彼があの夏の日々を思い出すわけでもない。
そして僕をまた愛してくれる訳でもない。
僕は矢野君を見上げると、
「それを僕に言わせるの?
ねえ、思い出してよ!
そんなに僕の匂いが、
僕のこの傷痕が気になるんだったら、
全部、全部、思い出してよ!
お願いだから……
僕の矢野君を返してよ!」
気が付けば、僕は矢野くんに縋り付いてそう叫んでいた。
僕のそんな姿を矢野君は呆気に取られた様にして見ていたけど、
僕は自分の言ったセリフにハッとして、
そのまま走り出した。
蔦を掴んでハアハア言いながら登って来た坂道を、
少しワクワクとしながら歩いて来た道を、
僕は頬を伝う涙を腕で払い除けながら、
ホテルに向かって思いっきり走り出していた。
途中砂利に滑って転げてしまったけど、
それでも起き上がって走り続けた。
海岸沿いまで来た時に息が切れて立ち止まり、
後ろを見たけど、
矢野君が僕を追ってくる気配は感じられなかった。
“そう言えばあのチョーカー……
何故外れたんだろう……?”
僕は手のひらに握り締めたチョーカーに目を落とすと、
誰かが横をスッと通り過ぎた。
その時、流れる空気に乗って、
良い匂いがして来た。
”あれ……? この匂いは……“
通り過ぎた人を目で追ったけど、
もうそこには誰も居なかった。
”あれ? あれ?
今誰か通りすぎたよね?“
さっきの今で見逃すはずはない。
夜だけど、月明かりで真っ暗と言うほどでもない。
でも当たりには人のいる様な気配など無かった。
”気のせい?
いや、違う……
この残り香が違うと言ってる……“
その香りは、
僕を誘う様に今来た道の方へと続いていた。
僕はその香りに誘われるがままに、
また今来た道を戻り始めた。
”何だろう?
何故か懐かしい様な匂いだ……“
知っているのに思い出せない様な匂いで、
僕はつい先ほどの矢野君とのやり取りも忘れてそ匂いを辿った。
先程の乱れた心とは変わって、
僕は割と落ち着き払っていた。
この匂いが僕の乱れた心を落ち着かせてくれた。
それはとても不思議な感覚だった。
結局は僕はまた、
匂いに誘われるがままに
坂道を辿って秘境の地へと踏み込んでしまった。
秘境の地は、
さっき矢野君と言い合いをした時とは打って変わって
シンとしている。
相変わらず月の光は煌々と湖を照らし出していて、
やっぱり違った世界にいる様なシーンを曝け出していた。
その時僕は思い出した。
”あの香りは矢野君のフェロモンだ!
間違いない!
うっすらとした香りだけど、
僕達が番になった時に矢野君からしていた香りだ!“
思い出した瞬間、
月明かりの中に倒れる矢野君を見つけた。
”え? 矢野君?“
僕は矢野君の倒れている所へ走り寄った。
「矢野君……?」
恐る恐る声をかけて見たけど、
何の反応も無かった。
体を触ってみると、
彼の体は温かかった。
胸に手を当てると、
鼓動もする。
「矢野君? ねえ、矢野君?
起きて! 僕の声が聞こえる?
矢野君!」
何度も何度も彼を呼んだけど、
彼は何の反応もしなかった。
僕は震える手で携帯を取り出すと、
佐々木くんの携帯を呼び出していた。
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