Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑

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第97話 恥ずかしい勘違い

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“え? ちょっと待って……

今ドクター、何て言ったの?

少し遅かった?

まさか! まさか!”

僕は目の前で話をしていたドクターと佐々木君を、
ドンっと押しやると、
ダッと矢野君の所に駆け寄った。

そしてベッドの上に静かに横たわる矢野君の顔を見下ろした。

彼は綺麗な顔で澄ましたようにして、
まるで眠っている人の様だった。

“嘘! 嘘! 嘘!

君はまだこんなに綺麗な顔をしているのに、
まるで生きている人の様に眠っているだけの様なのに……

嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!”

僕は矢野君に抱き着くと、
ウワ―ッと大声を出して泣き出した。

「嫌だ! 矢野君、死なないで!

僕、番を解消したいなんてもう言わないから、
お願い、目を開けて!

僕を置いて行かないでよー!」

そう言って矢野君の上に泣き崩れると、
肩をトントンと叩かれた。

僕はその手を払って矢野君に抱き着いていると、

「あー、陽向?」

と佐々木君の声がした。

僕は矢野君にしがみ付いたままで
触らないでと言う様に体を大きく揺らした。

“触らないで!

僕は矢野君と一緒に居る!

そうだ僕も矢野君の後を……”

そう思った時、

「陽向…… あのさ、

一人で盛り上がってる所悪いんだが……

光…… 眠っているだけだから」

と佐々木君が後ろから僕に声を掛けた。

「え?」

そう言って後ろを振り向くと、
ドクターは佐々木君の後ろで笑いをこらえているような素振りで、
佐々木君は気まずそうに指で頬を搔きながら僕を見下ろしていた。

「矢野君、死んでないの?

でもドクターが一足遅かったって……」

「あ~ それで勘違いしたんだな……

何だ? 光が死んだとでも思ったのか?」

「いや、矢野君暗い過去があるし……

僕、てっきり……」

そう言った途端、急に現状を把握して、
カーっと恥ずかしくなった。

良く見ると、バイタルがピッピと音を立てて、
ちゃんと心拍があるのが確認できる。

「ちょっと! それだったらそうだとハッキリと言っておいてよ!

僕、要らない恥掻いたじゃない!」

そう言って涙をぬぐうと、

「お前、凄い泣き方だったな、
携帯で録画しておけば良かったよ、プププ」

と佐々木君も笑い出した。

「ちょっと、僕にも分かるように説明してくれる?」

そう言うと、ドクターが佐々木君の前に出て来て、

「矢野君は今深い眠りに入ったところだったんだ。

これから1週間は起きないから、
眠りにつく前にここに来るのが
間に合わなかったねって意味で行ったんだけど、
ごめんね?」

そう言って僕の顔を見ると、
顔を後ろにそらして肩で笑っているのが分かった。

“全く失礼な医者だな!”

そう思ったけど、どうやらこのドクターは
矢野家や佐々木家と知り合いの様だ。

“でも深い眠り?……”

そう思い、

「え? 深い眠りって…… どういう意味?」

そう尋ねると佐々木君が、

「お前、少し前に話した研究中の記憶喪失の電気治療の話した事、
覚えてるか?」

と尋ねた。

「あ…… そう言えば前にそんなこと言ってたよね?

これがそうなの?」

そう尋ねると、佐々木君がこくりと頷いた。

「そうか……

矢野君、ずっと試したいことがあるって言ってたもんな……

この事だったんだね……」

「ずっと迷ってはいたんだけどな……

何故急に俺達にも言わずにやろうって思い立ったんだろうな……」

そう言って佐々木君が矢野君の顔を見た。

僕が遠慮がちに

「きっと僕が番を解消してってお願いしたから……」

そうボソッと言うと、

「何? お前、そんな事を言ったのか?

何故また……」

と佐々木君が驚いたようにして僕の顔を覗き込んだ。

「だって咲耶さんが……」

「何?! また咲耶か?!」

佐々木君が急に怒り出したので、

「違う、違う、
これは僕が考えて、考えて出した答えなんだ!」

そう慌てて言い直した。

「一体どういう会見で臨めばそう言った答えにたどり着くんだ?!」

そう言って佐々木君がじりじりと僕に詰め寄って来た。

それで矢野君とひと悶着あった時の状況を佐々木君に話して聞かせた。

「お前な~ そりゃ、光も怒るだろうよ?

まあ、光に思い出してもらえないお前の気持ちも分からなくも無いけどさ、
それって光に対してあんまりじゃないか?」

どうやら佐々木君は矢野君の味方の様だ。

「だって、怖いよ!

僕、根性無いから、もう一度矢野君に

“お前誰?”

って言われたら、もう立ち直れないよ!

だから、もう一度始めからやり直した方が良いと思って……
心を無にしておかないと……とても耐えきれないよ!」

そう言って泣き出すと、佐々木君が僕の肩を抱き寄せてくれた。

グスグスとグズッていると、
廊下の方からバタバタと足音が聞こえた。

ドアを開けて入って来たのは茉莉花さんと、
矢野君のお父さんだった。

僕は立って頭を深々と下げた後、
茉莉花さんの顔をまっすぐに見た。

「陽向君、ごめんね、光が勝手に一人で馬鹿な事……

あ、こっちは光の父親のたっくんよ。
前に一度会ったから覚えてるわよね?」

「はい、ご無沙汰しています」

そう言ってお辞儀をすると、
矢野君のお父さんは一つ咳ばらいをして、

「あ~ 私はたっ君ではなく、龍也です」

と言い直して僕にお辞儀をした。

茉莉花さんは、テヘッとしたような顔をしていたけど、
その後矢野君の方を見て、

「でもなぜ急にこんな……
本当に家族にも言わずに……」

そう言う茉莉花さんに、心がズキっときて、
罪悪感にさいなまれた。

「まあ、成人してるし、
意識があれば自分の意志で出来るからな」

お父さんはそうぽつりと言った。

「まったく光ったら、
今日のこの時を待ってラインを送るなんて計画犯よね!

私たちが反対できないように手をまわして、
ホントずる賢いわね!」

そう言って茉莉花さんがプンプンしていると、

「お前にそっくりだけどな」

とお父さんがまたぽつりと言っていた。

僕はそのやり取りが可笑しくて、
気が付けばクスっと小さく笑っていた。

僕はいつも茉莉花さんのあっけらかんとした性格に助けられる。

「あの……」

僕が事情を説明すようとすると、
佐々木君が手で止めて、

“言わなくても良い”

というようなかをしたので、
僕はグッと言葉を飲み込んだ。

その夜病院から戻ると、
僕は鏡の前に立った。

鏡に映った姿を見ると、ひどい顔をしていた。

僕はのど元に手を置くと、
涙がポロポロと流れてきた。

嫌だ…… これだけは外したくない……

あの番を解消しようと言った日からずっと悩んでいた。

でも、矢野君の決心を見て僕も決めた。

僕は鏡の前に立つと、
僕の首に輝く青い宝石に目を細めた。

“一花叔母さん、色々と有難う……
もう一度これを嵌める日が来るか分からないけど、
これは一度封印しますね。

僕にとっては願掛けなんです。

どうか分かってくださいね。

そして今、深い眠りの中にいる矢野君をお願いしますね。

どうか、彼が無事に目覚めてくれますように……

そして出来れば……”

そう呟いてあの日矢野君が再度はめてくれた
一花叔母さんのチョーカーを僕はまた外した。


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