龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

文字の大きさ
165 / 167

シャムアの警戒とセシルの願い

しおりを挟む
幌の中からいきなり出て来たセシルを、
そこに固まっていた僕たちは一斉に見た。

セシルは一瞬グッとしたような表情をしたけど、
気を取り直した様な表情に戻って一通り辺りを見回して
残党が残っていない事を確認すると、
ほっと胸を撫で下ろし、

「もう危険は無くなったのでしょ?」

そう言って僕の方をチラッと見ると、

「皆んなの聞きたい事は分かるわ。
でも先を急ぎましょう。

ルーはまだ眠ったままだし、
今夜は街までたどり着いた方が安全よ。

まだ隣町までは暫くあるし、
急がないと日が暮れてしまうわ。

詳しい事は馬車の中で話すとして、
まずは皆んな中に入って。

さあ、ショウ、馬車を出して!」

そうショウに命令するセシルを横目に
僕達は何も言わずに黙ったまま急いで幌の中に入った。

ショウは

「仰せのままに」

そう言うと、御者席に戻り、
スッと軽やかに馬車を走り出させた。

馬車がカタカタと動き出す頃は、
僕達は又ルーを取り囲んで静かにそこに座り込んでいた。

セシルはルーの前髪を指でそっと掻き分けると、

「あなた達が先ほど言い争っていた灰色の龍は
この人よ」

そう言ってそこに静かに座っていた父さんを指差した。

相変わらず父さんをフーフーッと威嚇した様に睨んでいたシャムアは、

「お前は何者だ?!

人に姿を変える龍なんて……

お前は魔神の配下のものか?!

魔族なのか?!」

そう言って父さんに剣を向けた。

そんなシャムアを目の前にしても、
父さんは落ち着いた態度で目を開けると、

「私がリュシアンが幼少期より言っていた
灰色の龍のデューデューだ」

そう言ってシャムの剣をスーッと押しやった。

シャムアは

“なっ!”

と言う様な顔をすると、
もう一度父さんに剣を突きつけようとしたけど、
父さんに押し戻された剣はピクリとも動かなかった。

父さんは

“ハ~“

っと一つため息をつくと、

「お前に私は傷つけられない。

剣を下ろすんだ」

そう言ってシャムアの向けた剣を指先で摘むと、
ヒョイっとシャムアの手から取り上げた。

「リュシアンを守る心意気は良いが、
守り方を間違えると、
お前の命どころかリュシアンの命までも脅かしてしまうぞ。

もっと冷静な状況判断をする事だな」

そう言って父さんさんはシャムアから取り上げた剣を彼に戻した。

グッとした様な表情をして父さんを見上げるシャムアに

「鞘に戻しなさい」

父さんはそう言うと、
一息ついて

「リュシアンは何も間違った事は言ってはいない」

そう言ってルーの周りを囲んで座る僕達を見渡した。

「私は灰色の龍で、
かつてのリュシアンに

”世界一強いデューデュー様“

と教えたのは私だ」

そう言ってシャムアを見た。

シャムアはグッと息を呑んだ様にすると、

「かつてのリュシアンとは何の事だ?!」

そう言って父さんに突っかかってきた。

父さんはフッと笑った様にすると、

「それはリュシアンが未だ、
アーウィンと呼ばれていた時のことだ」

そう言って真っ直ぐにシャムアの目を見て言い放った。

シャムアは愕然としたようにすると、
独り言のように

“そんな……アーウィンって……”

そう言って首をブンブンと振った。

そして父さんの胸ぐらを掴むと、

「じゃあ、ルーが言っていたアーウィンって自分の事だったのか?!

転生って本当にあった事なのか?!

ルーがずっと言っていた探さないといけない人とは、
お前達のことなのか?!」

そう言って捲し立てた。

父さんはシャムアに胸ぐらを掴まれたまま、

「お前はリュシアンが幼い時から、
その事はずっと聞いていたんだろう?」

そう言ってシャムアを真っ直ぐに見ると、

「なっ! 私のせいだとでも言うのか?!」

そう言ってシャムアも反抗した。

「“自分は転生者かもしれない。

もしかしたらアーウィンって呼ばれてたかもしれない。

アーウィンには大切な人たちがいたような気がする。

私は彼らを見つけに行きたい!”

そう言われて、

“はい、分かりました”

と言えると思うのか?!

彼は皇子だぞ。

いつかは兄皇太子を支え、
国を率いていく身分なんだぞ!

それを転生者などと世迷いごとを……」

そう言って掴んでいた父さんの胸ぐらから手を離した。

あまりにも落胆したように項垂れるシャムアを見て、

「あの……大丈夫?」

そう言って声をかけると、
彼は僕を見上げて

「貴方もアーウィンを知る人か?」

そう言って僕に話しかけた。

僕がたじろいだように

「あ、いや、僕は……」

そう言い淀んでいると、
セシルが横から

「彼はアーウィンの息子よ」

と単調な声でシャムアに告げた。

セシルのそんな声にシャムアがバッとセシルの方を見ると、
セシルはそんなシャムアの目を真っ直ぐに見てまた淡々と、

「私の前世の名前はマグノリア。

アーウィンの妻で翠の母親よ」

そう言ってゆっくりと瞬きをした。

シャムアは信じられないと言うような顔をすると、
周りを見回した。

「お前達は皆この事を知っていたのか?!」

そう言って拳を握りしめた。

セシルはすっと立ち上がると、
シャムアの隣に来てそこに座った。

そして彼の背をポンポンと叩くと、

「貴方が信じられないのも無理は無いわ。

こういう事って今まで聞いたこと無かったもの。

でも私達は確かに存在していたの。

今の貴方の様に笑って、泣いて、喧嘩して、悩んで、
そして出会ったの。

彼に」

そう言って眠るルーを見て彼の頬を撫でた。

セシルはまたシャムアの方を見ると、

「ずっと探してたの。

アーウィンの魂を持つこの人をずっと探してたの。

気が遠くなるくらい、ずっと……」

そう言って眠るルーの頬に自分の頬を擦り寄せた。

「それから貴方もね」

セシルは涙ながらに微笑んでそういうと、
僕の手を取って握りしめた。

その頃にはシャムアも観念したのか、

「それでは彼との関係は…?」

そう言って父さんの方を見た。

セシルも父さんの方を見ると、

「そうね、彼との事を話すと長くなるわ。

何と言っても私達の転生を見届けてくれた人だからね」

そう言って父さんに向かって微笑んだ。

父さんもセシルを見て少し口角を上げると、
次はシャムアの方を向いてゆっくりと、

「私がアーウィン、リュシアンの前世である人物に会ったのは、
彼が未だ13歳だった時だ」

と話し始めた。

シャムアはグッと堪えた様にすると、
落ち着いた声で、

「貴方には何故リュシアンがアーウィンだと分かるのか?」

と父さんに尋ねた。

父さんは静かに微笑むと、

「私はあの子らと生死を共にしてきた。

間違えるはずが無かろう」

そう言い切った。

シャムアは少し身を乗り出した様にすると、

「それは答えになっていない!」

そう言って反論してきた。

父さんはそんなシャムアに小さく微笑むと、

「アーウィンはリュシアンと同じ回復師だった。

そしてアーウィンもリュシアンと同じように見事な赤い髪をしていた」

そう言ってリュシアンを見下ろした。

でもシャムアも負けずに、

「だが、それは偶然の一致ということも!」

そう言って食い下がって来た。

二人の言い合いを見守って来たけど、
シャムアは一向にそれが受け入れられなさそうだ。

父さんがああ言えば、
こう言うみたいに、
平行線続きだ。

でも父さんの次の一声でシャムアは見事黙らせられてしまった。

「私が他の龍とは違うせいか分からぬが、
私には、その人の魂が見えるのだ。

リュシアンは間違いなく、
アーウィンと同じ魂を持っている。

リュシアンとアーウィンは同一人物だ」

そのセリフには僕も驚かされてしまった。

僕は父さんの方を見ると、

「じゃあ、父さんはダリルを見つける事ができるの?!」

そう聞いた時、
龍輝が横で

”えっ?!“

としたように僕を見た。

僕も

”え?“

として龍輝を見ると、

「あの…ダリルとは?」

そう言って龍輝が尋ねた。

「ダリルはね、サンクホルムの王子だったジェイドの護衛騎士だった人だよ。

彼も亡くなっているらしいんだけど、
彼だけが未だ候補が現れてないし、
行方がわからないんだ。

話した事なかったっけ?」

そう説明すると、
龍輝は少し変な感じで、

「あ、いえ、えーっと」

と落ち着きをなくしたように父さんの方をチラッと見た。

僕もつられて父さんの方を見ると、
父さんはため息をついたようにして、

「奴が私の前に現れれば分かるだろう」

そう言って目を閉じた。

それに少しホッとしたような表情をした龍輝に少し変だと思ったけど、
ことの詳細をずっと聞き流していたシャムアが、

「お前達はアーウィンだのマグノリアだのジェイドだのダリルだの、
一体何人がこの転生に関わっているんだ?!

それに、お前達が死んだのは何故だ?

転生なんて聞いたことも、見たこともないのに、
何故お前達は転生をする事ができたのだ?!」

と切り返して来たので、
すぐにそちらに気を取られてしまった。

その質問にはセシルがすぐに反応した。

「私達は転生ができたんじゃ無いの!

転生しなければいけなかったの!

大賢者に託されたから…」

そう言って俯いた。

「大賢者って……

今は賢者自体居なくなってしまったはずだ!

大賢者は生きているのか?!

もうとうの昔に絶滅したはずでは!」

そうシャムアが切り返すと
セシルは首を振って、

「ううん、彼は生きているわ。

ずっと奴らの計画が実行されないよう、
今もなおただ一人であの中で戦っているはずよ!

ずっとこの世界を守っているはずよ!

だから私達は……

彼を救い出して、
私達を葬った奴らを、
奴らがやろうとしてる事を、
止めなくちゃいけないの!

それは私たちしか知らないから!

詳しいことは今は言えないけど、
とても恐ろしい事が起きようとしてるの!

奴らが私達を葬ったのは、
理由ははっきりとは分からないけど、
きっと私達がそれを止める力を持っているから!

でも奴らは私達が転生した事を知らない……

きっと油断しているはずよ!

だから、私達は奴らにバレないように、
秘密裏に動かなければいけないの!

でも、奴らの脅威は大きすぎて、
今の私達だけではやり遂げられないの……

お願い、こんな所で言い争ってないで、
どうか力を貸して!」

そう言ってセシルが頭を下げると、
シャムアも何か感じたのか少し引き気味なった。

「そんな……

急にそんな信じられないような事を話されて
力を貸してくれと言われても……」

そう言って語尾を弱めた。

「あの時命を落としたのは
サンクホルムの王子だったジェイド。

その専属騎士だったダリル。

そして私、ジェイドの婚約者であり
後にアーウィンの妻となったマグノリア。

そしてジェイドの専属神官であり後に大神官となったアーウィン。

この四人は灰色の龍と共にこの戦いに巻き込まれたの。

恐らくこの戦いの鍵となるのが……」

そう言ってセシルが僕を見た。



しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る

桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。

悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!

はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。 本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる…… そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。 いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか? そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。 ……いや、違う! そうじゃない!! 悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!! 

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました

彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。 姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

龍は精霊の愛し子を愛でる

林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。 その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。 王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。

処理中です...