龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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探検

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「殿下!

又逃げ出しましね!

殿下! 直ぐに戻って来なければ、
字のお稽古10ページですよ!」

小さくなる家庭教師であるルイーダの声を聞きながら、
僕は中庭に出てその端の茂みに隠れた。

この中庭は割と使用人が行き来し、
隠れるには不適格な場所だが、
なぜか僕は一番にこの中庭に隠れるのが癖になっていた。

茂みの中から人を観察するのは面白い。

いつものように茂みの間から覗き見ると、
ルイーダがもう既に中庭にやって来て茂みを分けたり、
中をのぞき込んだりしていた。

「ウシシ、まだ僕に気付いてないな」

シメシメと葉と葉の間に掌を入れ、
出来た隙間から少し顔を出して目を左右に動かし、
ギョッとして素早く顔をひっこめた。

”マギーだ!”

いつものように少し遅れてマギーが僕を探しに来た。

”ヤバッ!”

僕の事を見つけるのは何時もマギーだ。

僕は息を潜めて更に縮こまって彼女らが過ぎ去るのを待った。

マギーの足音は小さい時から聞いていれば、
自然と癖がわかってくる。

それも僕を探している足音は。

”ヒー”

と思っても、その足音は

”僕の居場所が分かっているぞ”

とでも言うようにコツコツと近づいてくる。

足音のする方をいつもよりも慎重にを茂みから覗いてみると、
そこでその足音は止まった。

マギーの紺のブーツはもう既に僕の目の前にあった。

ドキドキとするけど、
そのスリルが面白い。

僕は深呼吸をすると不意を突いて、

「ワーッ」

と驚かせて茂みから出ると、
案の定マギーはビックリして一歩退いた。

マギーは僕がそこに隠れているのは分かっていたけど、
まさか飛び出して来るとは思って居なかったようだ。

いつもは大人しく捕まるからだ。

でも今日はもうちょっと逃げてやろうと思って飛び出してみたら、
案の定マギーはビックリして一歩下がって一瞬固まった。

僕はその隙に茂みを飛び出して、
更に城の奥の方へと走って行った。

向こうの方ではマギーの、

「誰か殿下を捕まえて!」

と言う叫び声がこだまして居た。

”何事だろう?”

と立ち止まって行方を見守る使用人達の間を掻い潜って
城の裏手の方に回った。

城の裏手には父のテラスから続く庭園があり、
そこでは季節の花々が育てられていた。

この庭園は母が生前に愛した場所らしかった。

父はいつも母の大好きだったこの庭園を美しく保って居る。

幸いな事に父は今は此処に居ない。

政務室で缶詰だ。

”どうしよう…… どうしよう……”

辺りを見回すと庭師のボノが居た。

父が小さい時から庭師をしているお爺ちゃんだ。

ボノはいつもブルーの繋ぎを履いて麦わら帽子をかぶり、
首の周りに汗用のタオルを巻いて長靴をはき、
手には軍手をはめて庭園用のスコップを持っていた。

「ボノ!」

僕はかがみ込んで土をいじっているボノの背中に飛びついた。

「オーッと、殿下!」

前倒れになりそうになりながらボノが土の上に手をついた。

「いきなり飛びついたら危ないですよ。

今はお勉強の時間では無いのですか?」

「もーう! ボノまでみんなと同じ事言わないでよ!」

そう言うと、ヒゲいっぱいの顔を皺くちゃにして

「フォッ、フォッ、フォッ、陛下も小さい時は良くお勉強を抜け出して
先生に追いかけられて居ましたよ」

と懐かしそうな目をした。

「そうなの?! 父上もお勉強が嫌いだったの?!」

初めて聞く父の小さい頃の話だ。

ボノは

「フォッ、フォッ、フォッ」

と声高らかに笑うと、

「陛下も今の殿下のように何度も此処に逃げ込んできましたよ。

その度にレオに引っ張っていかれてましたよ~」

そう言って、又

「フォッ、フォッ、フォッ」

と笑った。

「え~ レオが父上を探して回ってたんですか?!」

「そうじゃとも、そうじゃとも、

陛下は殿下よりもヤンチャでしたぞ。

その度にジューク殿下……今はアーレンハイム公爵じゃったかのぅ?

二人してリオに首根っこを掴まれて引っ張って行かれてたぞい」

「えー叔父上もですか?!」

「いや、いや、アーレンハイム公は真面目な子供でのぅ、
陛下がいつも無理やり引っ張りまわしていたのさぁ~

陛下はかくれんぼが上手でのぅ、
すばしっこかったから、
捕まえるのが難しかったんじゃ。

いつも公が先につかまって
怒られて泣いていたのぅ」

「えー! 叔父上ってそんな過去があったんだ!

今の叔父上を見てると考えられませんね!」

急に叔父がもっと身近に感じられるようになった。

「あ、でも父上はそのまんまかなぁ」

「フォッ、フォッ、フォッ! 

じゃが、いつの間にか公も陛下と見間違うほどに素早くなってなぁ、

だからいつもリオが二人と追いかけっこしてたんだぁ~

あれもきっと訓練の一環だったんだろうなぁ~

あれ以来お二人に駆けっこやすばしっこさで勝てるものは
誰も居なくなりましたぞぃ」

そう言うと、ボノは又土をいじり始めた。

「ねえ、ボノ……」

そう言いかけた時、遠くから

「殿下~」

というマギーの声が小さく聞こえた。

「おや、おや、殿下。

ここで足止めを食らっていては、
マギーに見つかってしまいますよ。

さて殿下は陛下よりも早く逃げられますかいのぅ?

フォッ、フォッ、フォッ」

と僕に振り向くと、
僕の目の前におっきなクネクネと踊るミミズを差し出した。

僕は

「ギャッ!!」

と飛び上がると、一目散に駆け出していた。

実を言うと、この逃走には訳があった。

アーウィンから魔法やギルドの話を聞いて以来、
お城から忍びだす方法を探していたのだ。

僕はどうにかして王都にあるギルドに行きたかった。

みんなに反対されるのは分かっている。

アーウィンでさえも反対した。

でも僕は次の王になる前に、
冒険者として登録し、
冒険者として活動したい。

父は未だ未だ若くて健康だ。

僕には未だ時間が残っている。

わがままなのはわかっている。

でも、少しの間でもいいから、
冒険者というものを経験してみたかった。

僕はボノのところから抜け出すと、
あたりをきょろきょろと見回すと、
そのまま突き進むことに決めた。

そうしないと、反対周りに行くしかないからだ。

そうすると、マギー達に捕まってしまう。

僕はそのまま進み、庭園を回って反対側へ渡った。

そこには剣の訓練場がある。

”騎士様たちの邪魔になってはいけない……”

そう思うと、僕は訓練場をよけて手前を横切り
又中庭へ出ようと思った。

基本的には城の中をグルグルと回った
鬼ごっこのような形になった。

城を回っている内に、
城から抜け出せるキッカケが見つかるかもと期待していた。

後ろから駆けてくる僕を探す小さな掛け声に追い付かれないよう、
後ろをチラチラと見ながら走った。

ちょうど訓練場に差し当たった時に、
急に目の前に現れた騎士にぶつかって、
ものの見事に転げてしまった。

“ヤッバ”

その騎士は僕に手を差し伸べて
起こし上げてくれた。

僕は埃をかぶったシャツをはたきながら、

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!

僕、急いでて前を見ていなくて!」

そう言って頭を上げたら、
そこに立っていたのは父の護衛騎士団長であるダリルだった。

「ヒッィ!」

マギーに捕まった時よりもびっくりした。

「ご、ご、ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

僕は怖くてペコペコとダリルに頭を下げて謝っていた。

向こうからは、

「殿下ー!」

という声がだんだんと近付いて来る。

ダリルは僕を見下ろして
睨んだようにしている。

僕はまさに、蛇に睨まれたカエル状態だった。

”どうしよう……

今捕まってしまったら、
せっかくここまで来た甲斐が……

でもダリルの目が~”

彼の目は僕の方を見て、

”何をしてるのだ?

次期王としての学びの時間ではないのか?”

と言うような顔をしている。

何も言わずその場を去っていいのかも分からず
オロオロとしていると、
サッとダリルが僕の前に立ちはだかり、
僕を彼のマントの後ろに隠してくれた。

僕は自分の目を疑った。

”これは……? 僕を隠してくれている……?”

そうこうしているうちにマギーが僕に追いついた。

マギーは僕がダリルを苦手だと言う事を知っている。

以前マギーにそのことを話したことがある。

マギーも言っていた。

”ダリルは仏頂面ですからね。

ちょっと気難しそうですよね。

何を考えてるのかもわからないですし、
無口ですよね”

って……

まさか僕が彼の後ろにいるとは思いもしないだろう。

マギーは息せき切ったようハアハアとして、

「ダリル様、殿下を見ませんでしたか?」

と尋ねた。

”万事休す!”

僕はぎゅっと目をつぶった。

ダリルが本当に僕を隠してくれているのか
疑問に思ったから。

でもダリルは片手を僕を隠したマントにあて、
マントが動かないようにすると、
もう一つの手で一方を指さした。

ダリルの手がマントを触ったとき、
僕はマギーに差し出されるとばかり思っていた。

思わずダリルの足にギュッとしがみついた。

果たしてマギーはダリルの事を信じるのか?!

ドキドキとしてその行方を見守った。

するとマギーはダリルに一礼し、

「お騒がせ致しました」

そう言って、
ダリルの指さした方に向けて速足で走って行った。

凄くあっけなかったけど、
僕は金縛りにあった様にしばらくダリルの足にしがみついたまま、
マントの後ろに硬直して立っていた。

なぜか僕に合わせてダリルもそこに立ったままで居た。

きっと物の数秒だったに違いないけど、
何分もそうしていたように感じた。

しばらくすると、訓練場の方から

「団長! バレット団長!」

と声が聞こえた。

”バレット……ダリルの家名?”

僕はその時まだダリルの家名を知らなかった。

「すぐに行く!」

ダリルはそう答えたけど、
僕が動き出すまで待っていてくれた。

僕は恐る恐るそっとマントから顔を出し、
ダリルの顔を見上げた。

彼は相変わらず無表情で、
何を考えているのか分からなかった。

彼は何時ものようにその眼だけで僕を見下ろした。

僕は又蛇に睨まれたカエルのように委縮した。

そんな僕にダリルは跪き深く一礼すると、
何も言わずマントをヒラリと風になびかせ
訓練場の方へと消えていった。

僕の掌には今まで抱き着いていたダリルの
腿のたくましさだけがのこり、
なんだか不思議な気持ちになった。

これが僕がダリルに興味を示す事になる最初の
出来事となった。



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