龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ダリルの決意

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「鼻と口を襟もとで隠していろ。

スピードを落とさずに行くから風で息が出来なくなるぞ」

デューデューがそう言うと、
僕は鼻と口を襟もとに入れ、
直接風が顔に当たらないように、
デューデューの首に顔を伏せた。

準備ができると、デューデューの首筋を叩いて、

「行って!」

そう言うと、デューデューは素早く空高く舞い上がった。

そして空中で一呼吸置くと、
矢を射るような速さで素早く駆け抜けていった。

「デューデュー、場所は分かるの?」

そう尋ねると、
デューデューは首をウェーブさせた。

どうやらデューデューには
方角がちゃんとわかっているようだ。

微塵も迷いもせずに一方向へと向かった。

ある地点まで来ると、
デューデューは上空をぐるぐると
周り始めた。

「ダリルはこの下にいるの?」

僕がそう尋ねると、
デューデューは風を薙ぎって
下降始めた。

スピードが少し緩んだところで、

「ダリルはこの辺にいるはずだ。

お前だったら見えるはずだ」

そう言って、その上空をゆっくりと旋回し始めた。

「デューデュー、もっとゆっくり下降して」

僕がそうお願いすると、
デューデューは少しづつ高度を下げ、
スピードを落としてくれた。

僕は目を凝らして下を覗き込んだ。

数回瞬きをして目に集中すると、
だんだんと地面が近くに見え始めた。

”僕には遠くからでもちゃんと地面が見えるんだ……”

デューデューの言葉通り、
僕は目を凝らしてダリルを探した。

暗くても空中高くても、
地面がよく見える。

デューデューの言う通り、
僕には鷹の目も備わっているらしい。

そんな中僕はダリルを見つけた。

「あ、あそこだ!

ダリルが戦っている!」

彼の戦っている周りが、
光に包まれていた。



「デューデュー、
このまま真っ直ぐに降りて!」

そう言うと、デューデューは
降下し始めた。

「ダリル!」

僕はダリルに向かって叫んだ。

ダリルも僕達が来たことは分かっているはずだ。

でもダリル自身は自分の周りから目が離せない。

彼はかなりのアンデッドに囲まれていた。

「ダリル、今からそこに降り立つから、
僕達が降り立ったら、デューデューの鼻に捕まって!」

そう叫ぶと、ダリルは手を挙げて
襲い掛かって来たアンデッドを蹴散らし始めた。

僕はダリルが実際に戦っている所を初めて見た。

正装服のまま空気を切るように戦う姿は、
まるで鳥が舞う姿のようだった。

剣の訓練場で見た姿とは全く違う。

一指舞う毎に風に揺れる黒髪が
夜の闇に吸い込まれて行くような感覚に
僕の胸が高まった。

”何てきれいなんだろう”

彼はまるで森の王者のような戦いをしていた。

でも分が悪い。

余りにも相手の数が多すぎる。

僕はデューデューの首を掴むと、

「デューデュー、下に降りて!

早く、早く!」

僕は焦った。

余りにも彼の戦い方が凄すぎて
一瞬彼を助けに来たことを忘れてしまった。

「焦るな。

ダリルの方が優勢だ。

しっかり捕まってろ。

ダリルを確保してこの場を去る。

この数の敵を全て倒すのは面倒だ」

そう言うと、デューデューはアンデッドに威嚇しながら
ダリルの戦う真ん中に降り立つと、
僕を自分の背に乗せたようにダリルを鼻で救うと、
ポーンと自分の背にダリルを放り投げた。

ダリルはうまく僕の目の前に着地した。

デューデューの雑な背負い方に目を丸くするダリルに、

「ダリル、説明は後にするから、
今は鼻と口を襟もとで隠して!」

そう説明するのと同時にデューデューが飛び立った。

数人のアンデッドがデューデューの足に食らいついていたけど、
僕が魔法を打って撃ち落としてやった。

何とか僕達はアンデッドの手が届かない空中まで
無事に舞い上がった。

「ねえ、アンデッドにかまれたからって、
デューデューがアンデッドになるわけじゃないよね?!」

僕がそう言うと、

「それはどこの情報だ」

と言ってデューデューは笑っていた。

どうやらアンデッドにかまれたからと言っても、
アンデッドになるわけではないらしい。

とりあえず安堵はしたものの、
少し心配になってダリルの背に顔を寄せた。

きっとダリルは龍に乗るのは初めてだ。

僕の頭がダリルの背にこつんと当たった時、
彼は少しピクリとしたけど、
とりあえずは振り落とされたりとかは無さそうだ。

デューデューは岩山の谷をゆっくりと旋回すると、
さっきまで僕達がいた自分の住処に舞い降りた。

僕はデューデューの背中から飛び降りると、
ダリルが下りてくるのを待った。

「ダリル?」

一向に降りてこないので呼んでみたけど、
ダリルの反応はなかった。

「ダリル?」

もう一度そう呼ぶと、
彼は頭を上げた。

そしてデューデューのわき腹を滑り降りると、
真っ青な顔をしてそこに座り込んだ。

きっと怖かったのだろう。

僕も初めてデューデューに乗った時は怖かった。

僕はダリルに

「ちょっと待ってて」

そう言うと、デューデューの耳元まで来て、

”デューデュー、ダリルを助けに行ってくれてありがとう”

そう囁くと、僕はダリルの前に正座して座った。

デューデューは

”さあ、これから存分に話し合え!

私が証人になってやろう!”

とでも言うように、
その場に伏せて僕達の事をじっと見つめた。

僕はダリルに何と言って話しかけていいか
言葉が見つからなかった。

ダリルも怒ったようにして俯いている。

暫く気まずい雰囲気が続いたけど、
良く見ると、ダリルはあちこちに噛み傷が付いて
服もボロボロだ。

きっと一斉に襲われた時にできた傷だろう。

僕達があの場に到着した時ダリルは、
かなりの数のアンデッドを相手にしていた。

「ダリル、君が強いのは知っているけど、
あちこちに傷が……

あんなに一杯アンデッド達に襲われてたら
やっぱりボロボロになっちゃうね。

鎧を着てたわけでもないのに……

素敵な正装、ダメにしちゃったね。

ごめん……もう困らせないから傷の手当だけでもさせて」

そう言って謝ると、
僕はダリルに手を翳して、完全回復魔法をかけた。

ダリルは暫くそのままの姿勢で静止していたけど、
急に膝に手をついて項垂れると、
震えたような声で、

「私は一体殿下の何なのですか?!」

と話し始めた。

でも僕は何も言えずに、ただ黙って俯いていた。

答えが分からなかったわけではない。

ただその時はダリルが怖くて声が口から出てこなかった。

僕は少しビクビクとしていた。

ダリルはため息を吐くと、覚悟を決めたようにして、

「平民の、ましてや孤児院出身の私が
なれるはずもない陛下……王の騎士になる事は、
すっと小さい頃からの私のたった一つの夢でした。

視察で来られた王を初めて近くで見た時は、
夜も眠れないくらい嬉しかった。

王は私に声をかけて下さいました。

この平民の私に……

私はそれからこっそりと剣の練習を始めました。

そのかいもあって、
奇跡的に私は王に召し抱えていただくことが出来ました。

私は夢見ていた王の騎士に一歩近づいたのです。

城に来てからはがむしゃらに騎士として頑張りました。

そしてやっと王の護衛騎士までたどり着いたのです。

でもその任もわずかの期間……

私は夢見ていた陛下の護衛の任を解かれ、
殿下の護衛騎士として新しく任命を受けました。

私は何度も王に辞令を取り下げるようお願い致しました。

確かに最初は……何故私がこんな子供の為に
陛下の護衛の任を解かれなければならないのかと
恨めしく思う心もありました」

そう言われた時、
僕はグッと唇をかんで泣きたい気持ちを我慢した。

でも握りしめた手の甲にはポツリ、ポツリと涙の粒が落ちてくる。

僕は此処までダリルに嫌われいたとは思いもしなかった。


「でも殿下……」

そう言ってダリルは僕の手を取った。

「私はこの新しい任命を受け入れた時、
自分自身に殿下を命がけで守ると誓いました。

最初は色々な葛藤がありましたが、
この時の私の誓いは本気でした!

本気で命を賭して殿下を守る思いで居ました!」

僕は垂れた頭を上げることが出来なかった。

今日の自分がとった行動がすごく子供じみて
凄く恥ずかしくなった。

ダリルは言葉に力を入れると、

「私は殿下を命を懸けて守ると誓ったのに、
殿下が守らせて下さらなかったら、
私の誓いは、私の本気はどうすればいいのですか?!

私と殿下が交わした誓いは上辺だけのものだったのですか?!

殿下は本気で私に守られたいと思っているのですか?!

私の変わりは腐るほどいますが、
殿下という人はお一人だけなんですよ。

誰も殿下の代わりにはなれないんですよ。

分かってますか?

そんな殿下を守るために、
私は殿下に私の命を捧げたんですよ!」

と心を切り裂くような声でそう叫んだ。

僕は鼻をすすりながら、

「ダリル……

ダリルが僕の事を疎ましく思っていたのは知ってた……

父王の護衛をやめたくないのも知っていた。

その時は自棄でダリルの事なんかいらないと思った。

僕には護衛騎士なんかいらないと思った。

でもダリルが僕の護衛騎士になってくれると言ったときは、
僕は本当にうれしかった。

今では僕の護衛騎士はダリル以外にあり得ない。

僕の事を守ってくれるのはダリル以外にあり得ない!

だから……僕の騎士を辞めるなんて言わないで!」

そう言うと、ダリルは僕の手をギュッと力を入れて握って、

「ではどうして今夜のような行動をとったのですか!

私が夜の森で魔物たちに囲まれた時、
もし殿下が私と同じような目にあっていたら……
もしかしたらもう殿下は既に……と思った時の
私がどういう気持ちだったか殿下には分かりますか?!

これでは私は殿下の事を守るどころか、
何もできないまま死なせてしまう事だってあり得るのです!

そうなった場合の私の気持ちが殿下には理解できますか!

私の覚悟が、殿下には理解できますか?!

お願いです。

もう今日のような勝手な行動はしないでください。

私の視界から離れる事はもう二度としないでください。

どうか私にあなたを守らせて下さい」

そう言ってダリルは泣き伏した。

僕はダリルが泣くのを初めてみた。

きっと本当に心から心配していたんだ。

僕はうつ伏せて肩を震わせ泣いているダリルの肩にそっと手を置いた。

「もうダリルは僕の事嫌になった?

まだ僕の騎士でいてくれる?

もうわがまま言わないから、
一人で城を抜けたりもしないから、
これからもずっと僕の騎士でいてくれる?」

そう言って僕もダリルの上にうつ伏せて泣き始めた。

暫く言泣いた後、

「子供たちよ、痴話げんかはもう終わりか?」

デューデューが口をはさんできた。

少し落ち着いた僕が、

「へ? 痴話げんか?」

と涙を拭きながら顔を上げた。

「殿下、デューデュー様が言っている痴話げんかっていうのは。
仲の良い二人のケンカの事です」

ダリルも鼻をすすりながら顔を上げると、

「いらぬお世話をお掛け致しました」

そう言ってデューデューに深々と頭を下げた。

「もうすぐ夜も明ける。

居心地の良いベッドではないが今夜は此処で眠っていけ。

明日の朝一番で城の近くまで送ろう。

お主の事だから、城の方は大丈夫なのだろう?」

デューデューがそうダリルに言うと、
ダリルは頷いた。

僕はお城の近くまで送っていくという
デューデューの方が心配だった。

「でもお城の近くまでくるとデューデューが危なくない?」

でもデューデューはもう前のような小さな幼体ではない。

「私はもう成体近い。

よほどの事でなければ捕らえられたりしない」

デューデューはそう言ったけど、
幾ら龍が強くても不死身じゃない。

「分かった、でも、お城の近くでなくてもいい。

デューデューの安全の方が大切だから」

そう言うと、デューデューは又僕の事を子ども扱いした。

「ジェイドはもう寝ろ。

幼体に夜更かしは答えるだろ」

「失礼な。僕はみんながいう程子供じゃない!」

そう言ってはみたけど、
ダリルがいてくれて安心したのか、
結局その後僕はすぐに眠りに落ちてしまった。

僕が寝入った後、
デューデューとダリルはなんだかの内緒話をしていた。

彼らの話を僕は夢うつつに聞いていたけど、
それも朝起きるのと同時に忘れてしまった。

確かに彼らはとても大切な話をしているようだったのに。

でも後に僕は彼らの会話の内容を思い出す事となる。


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