龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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ダリルの過去

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僕は肩を震わせて泣くダリルの背に手をおくと、
彼は少しビクッとしたようにして強張った。

「君は男性しか好きになれない人だったんだね。

大丈夫だよ。

それ、絶対変な事じゃ無いから。

だって、僕もそうだし、
この世の中には絶対僕たち以外にもそう言う人はいるはずだよ」

ダリルは暫く猫に追われたネズミのようにしていたけど、
僕がそう言うと彼は子供の様な目をして僕を見上げた。

“彼はかつてどんな仕打ちを受けて来たのだろう……

きっと何気なく放った一言で彼の性癖が明るみに出たはずだ。

あの時の僕の様に男性は男性に恋をしないとは知らずに…“

「大丈夫だよ。

僕、絶対誰にも言わないから。

約束する!

絶対、絶対、誰にも言わないから!

ほら、僕も同じだし!

ほら、指切り!」

そう言って小指を差し出すと、
彼は僕の小指をじっと見た。

「これね、ずーっと昔にあった東の大陸で
子供たちがやってた約束の印なんだって!

これは僕とダリルの秘密。

だから指切り! まあ、ダリルは子供じゃないんだけど……」

そう言うとダリルは壁に背を向けて
小さくなって座り込んだ。

”もしかしてダリルにとってこの事がバレるのは
命を落とす事と同じだったのかもしれない……“

ダリルの憔悴しきった顔を見れば、
簡単にその事が推測出来る。

僕は自分がそうだって自覚してからも、
あまり気にする事はなかった。

まあ、アーウィンやマグノリアが
そばに居てくれたせいもあるとは思うけど、
きっとダリルには誰も居なかったはずだ。

「あのさ、そのままでいいから聞いてね。

ダリルの耳に入って来るかは分からないけど……」

そう言ってもダリルは一点を見つめるばかりだった。

僕はダリルの前に座り込み、
むりやりダリルの小指に自分の小指を絡めると、

「あのさ、マグノリアがやって来て、
婚約者だ~とか、結婚だ~って言われても
正直、あまりピンと来なかったんだよね。

まあ、僕が8歳だったって言うのもあるかもしれないけど、
それは年月を掛けても同じだった。

それで思ったのが、
きっと対象をマグノリアとして
見てるからじゃ無いかな?って思い始めたんだ。

それでさ、色んな女の子を想像して当てはめて見たけど
全然しっくり来なくって……

それどころか、女の子には悪いけど、
ちょっと気持ち悪いって思っちゃって。

最初は僕がまだ成長しきってないからかな?って
思ってたんだけど、アーウィンにさ、
10歳にもなれば好きな人の1人や2人って言われて
世間ではそう言うものかな?って感じだったんだけど、
男の子が相手って思って想像したらツボにハマっちゃって。

あ~僕ってそうだったんだって…」

僕は8歳の頃からダリルに恋をしていたけど、
それが愛に変わったのは僕が女の子を愛せないと自覚してからだ。

「僕ね、女の子は愛せないってアーウィンには話しちゃったんだ。

それでねマグノリアには正直に結婚出来無いって言っちゃった…

だってさ、僕子供ができるような事、女の子と出来ないもん。

そしたらマグノリアも同じで僕とは結婚出来ないって。

本当の恋を知ったら他の人とは結婚出来なくなったって。

まあ、彼女は自分に正直で真っ直ぐな人だから
いくら国の為って言っても本当の恋を知ったら無理だったって。

僕も同意見だったから彼女と話し合って
時が来たら婚約破棄を申し入れようっていう事で合意して…

国同士の問題だから多分無理かもしれないけど、
どうにかやって道を切り開こうって約束して…

もし、必要だったら僕は王位継承の位を降りてもいいんだ。

未だジューク叔父上もいらっしゃるし… 

銀の髪は僕でなくても、
王家の血を引く人間からだったら生まれるから!

だからそれまでは僕が何とか継いで……

だから、指切り!

これは僕達二人だけの秘密!

僕が王位継承権を降りる覚悟でマグノリアと婚約破棄すること、
理由は、僕が女の子を愛せないこと。

その時が来るまで、ダリルは静かに見守って。

絶対ダリルに迷惑は掛けないようにするから!

それで僕は絶対ダリルの秘密は誰にも言いません!」

そう言うと、ダリルは縋るような眼で僕を見た。

「東の大陸ではね、こうやって指切りする時にこう言ったんだって!

指切り拳万、嘘ついたら針千本飲~ます! 指切った!」

そして僕はダリルからその小指を離した。

「これで守らなかったら、ダリルは僕の事一万回殴っても良いから!

僕が嘘ついたら針千本飲ませても良いから!」

そう言い終わると、
ダリルは少しほほ笑んだ。

「ねえ、ダリルっていつ自分が男の人しか愛せないって気付いたの?

嫌だったらもうこの話はしないけど……」

僕はダリルの隣に場所を変えると、
膝を抱えて座り込んだ。

ダリルは暫く黙ったままだったけど、
ポツポツと自分の事を話し始めた。

「私の初恋は8歳の時でした……

お相手は施設でずっと私の世話をしてくれていた
5歳年上の人で……

私は彼を兄のように慕っていました。

彼が13歳になった時、
外の仕事が決まり施設を出ていく事になった時、
彼への思いを自覚し、告白しました。

8歳だった私は、男性が男性に恋をしないと、
その時は知らなかったのです。

本の子供心でした。

でも彼にとってはそうでは無かったのです。

彼は私を変態扱いし、
院のみんなにそのことを言いふらし、
私と関わらないように言いました。

そうしないと私の病気が皆にも移ってしまうって……

それから皆に変態扱いされ、ハブられて、
食事に虫を入れられたり、
使用物を隠されたり破壊されたり……

結局は施設の養母にも伝わり
多くの医者や薬師に連れていかれ、
実験台としていろいろな薬を飲まされました。

私はそれに耐えられず、
良く施設を抜け出しました。

だんだん施設の手に負えないとわかると、
私は色々な施設をたらいまわしにされました。

そんな中、私が最後に行きついた施設の館長が、
少児性愛者だったんです。

その時で私は10歳でした。

そこで襲われそうになり私は施設を逃げ出しました。

それからは大人から隠れるように裏路地で生活するようになり、
私は盗みをしながらその日その日を生きていました。

ある日裏社会の奴隷市場へ連れていかれようとしたところを
丁度視察に来ていた陛下に助けられたのです。

私はその時助けられた幾人かの子供たちと
王都にある施設に連れていかれそこで新しい生活を始めました。

誰も私の事は知らない。

誰も何があったのか知らない。

誰も私が男性しか愛せない人だと知らない。

私はそこで隠れるように、
誰にもバレない様に静かに、慎重に生活しました。

そして私は何時か陛下に仕えるためにと、
剣の練習を始めたのです。

そして13歳になった時、
城の警備隊として配属が決まり、
それからは鍛錬に鍛錬を加えてやっと陛下の護衛騎士まで上り詰めました。

私はどうにかして陛下に救っていただいた恩返しがしたかった。

その後は殿下の知っている通りです……」

そう言ってダリルは俯いた。

「そうか……そんな事があったのか……

僕って凄く無謀だったんだね。

そこまで世間に受け入れられてないって思いもしなかったよ。

ごめんね、つらい事を思い出させちゃって……」

そう言って僕も俯いた。

その後は、どういってダリルに声をかけていいか分からなかった。

暫く沈黙が続いた後、不意にダリルが、

「重い話をしてすみません……」

そうぽつんと言った。

「ううん、僕は全然かまわないよ。

むしろ、それでダリルの気持ちが少しでも楽になってくれるんだったら……

ねえ、そう言えば、デューデューってその事を知ってるよね?

デューデューには話したの?」

少し落ち着いてきたような表情をしたダリルに尋ねた。

「デューデュー様はとても賢い方で……

それに以前そのような話を耳にしたことがあるっておっしゃって……

それが私の事だったと直ぐにお分かりになりました……」

「そっか、デューデューって体は小さくても
やっぱり大人だったんだね。

初めて会った時のデューデューから考えると、
全然想像つかなかったけど、
デューデューも年相応に大きくなったよね」

そう言うと、僕は立てた膝の間に顔を埋めた。

「そうだ、今からデューデュー様に会いに行きませんか?」

急にダリルが提案してきた。

「もう気分は大丈夫なの?」

「はい、まだ不安はありますが、
だいぶ落ち着きました。

でも……殿下はその……

本当にそれでよろしいのですか?」

ダリルがまだ少し青い顔をして尋ねた。

「う~ん、良いのかって……言われても……

どうにもできないことはダリルが一番よく知ってるでしょう?

僕、女の子を好きになれって言われても絶対無理!

無理無理! だからマグノリアとの結婚も絶対無理!

そりゃあ、偽装は出来るだろうけど、
僕の私情にマグノリアを巻き込むことは出来ないよ!

それに……彼女が好きなのはアーウィンだし!

きっとアーウィンもマグノリアが好きだよ!

そんな二人の邪魔はしたくないし。

今は一番いい方法で婚約を解消して、
どうしたらマグノリアとアーウィンが幸せになれるか考えてるとこ!

だから、その日が来るまで、絶対、絶対、誰にも言わないでね!

約束したんだから、破ったらデューデューに頭からバリバリ食べてもらうから!」

そう言うと、ダリルは少し吹っ切れたようにして、

「仰せのままに」

そう言って立ち上がった。

ダリルが僕に手を差し出し起き上がるのを助けてくれると、
僕は勢い余ってダリルの胸に飛び込んだ。

「おっと、気を付けて下さい、殿下」

そう言ってダリルが抱き留めてくれると、
ダリルの心臓の音を感じた。

ダリルの生きている音が心地よくて
少しの間我を忘れてダリルの胸に顔を埋め、
その規則正しい心地よい音を聞いていた。

「殿下?」

ダリルの呼びかけに、
僕は真っ赤になって慌ててダリルから離れた。

「ご…ごめん、ちょっと勢い着いちゃった」

慌てて繕いだけど、
火照った顔を隠すことは難しかった。

僕の心臓は落ち着いたダリルの心臓とは違い、
体から飛び出してきそうなほどに脈打っていた。

体中が血管になったようで、
頭の中でドクン、ドクンという音が響いた。

「殿下、お顔が少し……」

そう言いながら伸びて来たダリルの手を
ビクッとしてピシッと払うと、

「だ、大丈夫! ちょっ、ちょっとびっくりしただけ!」

そう言うと、顔のほてりを悟られないように、
急いで壁の方を向いた。

今までとは違う緊張感と高揚に
僕は戸惑うばかりだった。

そして僕はその夜、初めての精通を経験した。










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