龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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それから

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アーウィンの突然の告白に、
一瞬その場が凍った。

僕は慌ててマグノリアの方を見た。

彼女も、そこでアーウィンの告白を聞くとは思っていなかったのだろう。

その時の僕達の言い合いは、
半分冗談の様な感じだったから。

これまでもそんな言い合いは何度となくしているし、
アーウィンもその場に居合わせている。

それなのに、告白のこの字だって一度も出たことが無い。

マグノリアの表情は、嬉しいと言うよりは、顔面蒼白で、
ショックと言ったような感じだった。

”これはどうとればいいのだろう?

もしかしてマグノリアは揶揄われてると思ったのだろうか?”

ハラハラ、ドキドキとしてきた。

これまでの僕達の冗談めいた言い合いのように、

”もしかしてアーウィンも冗談のようにして言ったのか?”

一瞬そう思ったけど、
アーウィンの顔は真剣そのものだった。

もしかしたら、アーウィンも、
僕とダリルの新展開に感化されてしまったのかもしれない。

僕は息も吐けずにその行方を見守った。

アーウィンの告白にマグノリアが何と答えるのか……

これまでも何度も何度も考えては打ち消してきたシーンだ。

僕は少し祈るような気持だった。

そこにはしばらく沈黙が広がった。

ダリルもデューデューも沈黙を守っている。

きっとこれまでの中で、
一番長い沈黙の時間だっただろう。

”やっぱりダメか”

とそう思った時、
マグノリアが泣きながらアーウィンに抱き着いた。

僕はその行動にびっくりして岩から転げ落ちるような衝撃を受けた。

マグノリアはアーウィンに抱き着いた後、

「アーウィン、好き、大好き!」

そう言ってこれまでの沈黙が嘘のように
アーウィンにチュッチュしている。

僕はその光景に開いた口が塞がらず、

”ヒ~ 何をかますんだこの女は!”

と、腰を向かすような思いでそのシーンを見ていた。

アーウィン自身も、
そんな言葉が返ってくるとは思っていなかったようだ。

きっとアーウィンもマグノリアの気持ちは知っていたはず。

でも受け入れてくれるとは99%思っていなかったはず。

彼も僕と同じように、
その思いを墓場まで持っていこうとしていたはずだ。

本当であればこの状況は夢のように嬉しいことなのに、
いざ現実に戻ってしまうとそれだけでは済まされない。

僕は真剣に考えていたのに、横ではデューデューが

「なんだ、人でも公然で交尾をするではないか」

と又訳の分からないことを言い出した。

「デューデュー、これ交尾じゃないから!

只のキスだから!」

僕が慌てて訂正すると、

「分かっている。

だが、ここから交尾に発展するだろう?!

私は人のキスは交尾の前戯だと理解していたが……

私は間違っているか?!

そうだとすると、キスは交尾だ!」

デューデューの真剣な顔に僕は頭が痛くなってきた。

「もうデューデューは黙って!

話がこんがらがるから交尾からは離れて!」

”全く、デューデューこそ番が必要なのでは?

口を開けば交尾、交尾って今は龍の繁殖期か?!”

そう思いながら
デューデューに向かってそう言うと、
マグノリアが僕達の間に割って入って来た。

「ちょっと、デューデューのこと悪く言わないで!

デューデューは龍なんだから
人の性体活動なんて分かるわけないじゃない!

それにジェイドも詳しくは知らないでしょ!」

そんなマグノリアに、

「そーだ、そーだ」

とデューデューも同意していた。

「いや、交尾の事はもう良いから、マグノリア!

君、これがどう言う意味かわかってる?」

急に現実に戻ると、
僕はそれだけが気になった。

「これがって、何が?」

”いーやー! 此処にも世間知らずがいる……”

僕は頭をガクッと垂れた。

「君、一国の王女だよ?

その事分かってる?!

アーウィンを好きな気持ちはわかったけど、
それを告白することが、どういう意味か分かってるの?!

はい、告白をしました、受け入れてめでたし、めでたしで終わりとは思ってないよね?!」

僕がそう言って攻めると、

「じゃあ、ジェイドが初めの予定通りに
私と結婚してくれるっていうの?!」

マグノリアのその答えにグッと言葉を詰まらせた。

「お前たち、予定通りに結婚して裏で付き合うとかは出来ないのか?」

デューデューの提案に、

「ダメだよ!」

とマグノリアと同時にそう言って顔を見合わせ、

「絶対バレる!」

また同時に同じ言葉を発した。

「お前たち息が合ってるな。

本当はお似合いじゃないのか?」

デューデューのそのセリフに
お互いがダリルとアーウィンに抱き着いて、

「そんな訳ないでしょ!」

と文句の矛先がデューデューへと変わった。

デューデューは呆れたような顔をすると、

「分かった、お前たちの言い分は分かった。

じゃあ、これからお前たちはどうするのだ」

そのセリフに僕達4人はそれぞれに顔を見合わせた。

「分かんない……これから考える!」

それが僕の答えだった。

「いざという時は逃げちゃえ!」

そう言ったのはマグノリア。

さすがマグノリアと言うべきか、ブレない返答だ。

「童どもよ、結果ばかりを気にして目先の事を疎かにすると、
道を見誤ってしまうぞ」

デューデューにそう言われ、
僕達はまたお互いを見回した。


「そうだよね、デューデューの言う通りだよね!

クヨクヨしてたって始まらないし!

取り敢えずは今、私達がやれる事をやろう」

マグノリアがそう言いだした。

「そうだね、じゃあ、何処から始めようか?」

僕達は、今できる事を一つ一つ取り上げてみた。

「多分ジェイドは出来ないだろうから~」

とマグノリアは余計な事を先に言った後で、

「まず、私とアーウィンで後片付けやる!」

そう言った。

確かに僕は普通の人が出来るようなことが出来ない。

これまでは与えられてばかりだったから。

でもこれからは僕も覚えていかなければいけない。

「じゃあ僕も……」

そう言いかけると、

「ううん、ジェイドは今、あなたがやるべきことをやって!

あなたにしかできないことがあるはずよ。

出来ないところはお互いでカバーできるんだから!」

マグノリアもたまには良いことを言うじゃないか。

僕は感心しながら、

「じゃあ、僕は……ダリルと一緒に狩りをしに行く!」

そう言うと、ダリルに、

「殿下、殿下は此処に狩りをしに来られた訳ではありませんよ?」

そう言われ、又マグノリアに諭されてしまった。

「そうよ、そうよ! ジェイドは此処に鍛錬をしに来たんでしょう?

生活環境の事は私達に任せて、ジェイドは鍛錬の方に勤しんで!」

マグノリアに続いてダリルも、

「はい殿下、狩は私にお任せ下さい。

殿下はマグノリア殿下の言うよに鍛錬を…」

そう言われてしまった。

折角ダリルと思いが通じ合ったのに、
もっと一緒に居たかった。

でもそうはさせてはくれなさそうだ。

確かに僕は此処に鍛錬をしに来た。

「でも鍛錬と言っても何処から始めたら……」

そんな感じで、どこからどう始めたらいいのか、
さっぱり分からなかった。

「私にアイデアがあるぞ」

デューデューが割り込んできた。

「え? デューデュー、何?」

「私は今のお前の身体強化の限界が見たい。

先ずは此処から森へ自力で下りてみよ」

そうデューデューに提案され、
僕は腰を抜かす思いをした。

「そ、それ、ちょっと、いや、絶対無理じゃ無い?

ここ、どれくらいの高さか分かってる?

それ、もうホント、僕の身体強化の範囲を思いっきり外れてるから!」

及び腰気味にそう返答すると、

「心配するな。死なせるような事はしない」

と、又デューデューの訳の分からない発言が始まった。

「え? 死なせないって、一体どうやって?!

いや、いや、いや、それ、絶対死のフラグだから!

僕が死んでもデューデュー、僕を生き返らせることが出来ないでしょ?!」

何度何度もそう言ったのに、
デューデューが大丈夫と言うから
結局は此処に立つことになってしまった。



「いけるか?」

隣に立ったデューデューを見て、
また崖下を見た。

風が下から吹き上げて僕の髪を揺らした。

一瞬クラッと来て、失神するかと思った。

でもしなかった。

僕も案外度胸が備わっているのかもしれない。

ゴクリと唾を飲み込むと、そっと一歩踏み出した。

小石が足先に蹴られて

“カラン、カラン”

と音を立てて崖を転がり落ちていった。

”ヒ~ 何処までも続くよこの落ちてゆく音……”

僕は目を閉じて、

“よし!”

そう意気込みをつけると、目をカッと見開いて、
ピョンと一段下の岩に飛び降りた。



そして勢いをつけたまま、
斜めの出っ張りに飛び降りては、
また斜めの出っ張りへと飛び降りた。

緊張しすぎて心臓はバクバクと言っていたけど、
風邪に乗ったら割と楽しい。

”なんだ、僕もやれば出来るじゃないか!”

調子に乗ってくると、まるで足にバネがついてるかの様に
ここ、あそこへと飛び移った。

心なしか体も軽い。

僕は調子に似せてピョンピョン飛び降りた。

一歩間違うと落ちてしまう。

そう思った時、そう言ったタイミングはやってくる。

僕は小石の上に着陸し、
運悪くその小石が滑って僕はバランスを崩した。

“ヒッ、落ちる!”

そう思っても後の祭り。

僕は案の定、崖からトントントンと躓いた様に飛び降りて、
斜面が直面になった途端そこから真っ逆様に落ち始めた。

「ギャー! 死ぬ死ぬ死ぬ!」

そう叫んだ時、
ゴーッという風の音と共にデューデューがやって来た。



そして僕は正確に落下位置に滑り込んだデューデューの背中にポスっと落ちた。

僕はデューデューの首に腕を回すと、

「ヒー、怖かったよ~ 死ぬかと思ったよ~」

そう叫びながら涙目になった。

「お前は筋肉のバランスが悪い!

だから着地をしたときに足がしっかりと地に着かないんだ。

もっと筋力を鍛えろ。

身体強化がうまく使えてないぞ」

そう言われ、掴んだデューデューの首に項垂れた。

そこから僕の猛特訓が始まった。

毎朝早く起きて、緩やかな坂道を
身体強化を使わずに走り込まされた。

兎跳びや亀歩き、腹筋にスクワット、
有りとあらゆる下半身強化をさせられた。

数日ごとに僕はあの崖から飛び降りさせられた。

そして落ちるごとにデューデューが飛んできて僕をその背に受けた。

そのせいもあってか、一か月もすると、
僕は楽にこの崖を飛んで降りたり、
登ったりすることが出来るようになった。

それが出来るようになると、
平地での移動は瞬間移動をするようなものだ。

大きな岩を抱えてても走れるようになった。

でも腕力にはまだ限界があった。

「上半身は鍛えなくていいの?」

そう尋ねると、

「上半身は今はいいだろう。

それよりも下半身の鍛錬を続けながら
禁断の書の読破を目指すんだ。

そこには多くの魔法について記されているはずだ。

これからは魔法の鍛錬に入るぞ」

そう言われ、僕は禁断の書をまた始めから読み始めた。

かなり読み進めた時、そこである呪文のページを見つけた。

そこには

”時戻しの術“

と書いてあった。
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