龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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今日を生きる

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「殿下、此処にいらしたのですね」

僕はガゼボに腰掛けて向こう側に見える噴水を眺めていた。

「ダリル… 君も散歩?」

不意にやって来たダリルにドキッとした。

「いえ、何だか眠れなくてちょっと夜風に当たろうと思いまして…

殿下は何故此処に?」

ダリルが僕の顔を覗き込んだ。

「座ったら?」

そう言って横へ座る様誘うと、

「失礼致します」

そう言ってダリルが横に座った。

「静かな夜ですよね」

そのセリフに夜空を見上げた。

月が蒼く光って周りからは普段は余り気にならない虫の声が聞こえた。

「アーウィン様はもう王都に戻られたのですか?」

「うん、今朝父上にお会いした後、
直ぐにラルフが神殿へ連れて行った。

何だか慌てていたんだけど、
大丈夫だったかな?

大目玉を食らって無ければ良いんだけど…」

そう言って僕は又月を見上げた。



今朝城に戻って来た僕達は、その足で父王の元を訪ねた。

まだ寝ていた父を叩き起こす事になり、
余りにも早く戻って来た僕たちに父はビックリしていたけど、
僕たちの顔色を見て非常事態が起きているのだと悟った。

暫く寝室へは誰も来ないよう命令すると、
僕たちはソファーに腰を下ろした。

そして僕は時巡りで経験し、見聞きした事を洗いざらい父に報告した。

叔父が敵の後ろにいることを父が信じてくれるか最初は心配したけれども、
父は僕の言葉を信じてくれ、また父も叔父の事を随分前から怪しく思っていた。

父が言うには、僕がデューデューに初めて会った少し前から、
不穏な動きがあったという事だ。

僕は知らなかったが、父には隠密という影で仕事をする者たちがいた。
彼等は空気に溶け込み、多方面の情報収集や情報操作員のような活動を得意としていた。

彼等によって得た情報が、叔父が諸外国の裏の人間と繋がって居ると言う事だった。

「分かっているのであれば、何故今の内に手を打たないのですか?!」

僕はそう言って父を責めた。

でも父は

「証拠が無いのだ」

そう言って歯軋りをした。

幸か不幸か叔父は僕達が叔父の事に気付いている事に気付いていない。

だけど今はその事対して、僕達は何もなす統べが無く、対策もない。

色々と話し合った結果、その事を利用して裏を掻くのが今一番いい方法だという結論になった。

実際にはどこをどうすれば良いのまだ分からないけど、
近いうちに対策を考えなくてはいけない。

でもこの事は今の時点は誰にも言えない。

全ては秘密裏に動かなければならなかった。

僕達は多いとは言えない数の人間で、
どれ程の力を持った叔父と対抗しなければいけないのか全くわからなかった。

今の時点で言えることといえば、
叔父は少なくとも50人程のレイドメンバーを従えている。

それも最強の軍隊並みの。

極めつけが大賢者。

恐らく城の騎士たちが1万人いても全く勝てる気がしない。

何と言っても、一匹で千人の兵と戦えると言われる龍のデューデューがコテンパに破られたのだから。

それに今の時点で僕達は何の策も無い。



僕は深く息を吸い込むと大きなため息を吐いた。

「お疲れになられましたか?」

ダリルのその問に首を振ると、

「ううん、違うんだ、何だろう?

ずっと感じてたんだけど、たった3ヶ月ほどしか城から離れて無いのに全然違う所に来たみたいだなって……

僕が帰ろうって言ったのに、もうデューデューの所に帰りたい…

デューデューの側にいたい」

泣くとは思って無かったけど、
自然と涙が溢れてきた。

 「殿下はデューデュー様が心配なのですね」

ダリルにそう言われ、ダリルの顔をみた。

青白い月の光がダリルの髪に反射し、
黒髪だというのに果てし無い夜空のようにキラキラとして吸い込まれそうになるほどだった。

まるで夜の帝王がそこに舞い降りたようなダリルの肢体は
服の上から見ても分かるくらいに鍛え上げられていた。

毎日デューデューのところで野生のような生活をしていたせいだろう。

無駄な贅肉など無く、太過ぎも痩せすぎもせず、
まるで靱やかなジャングルの真っ黒な大ヒョウのようだった。

僕は急に恥ずかしくなってダリルから顔を背けると、

「デューデューの事は心配だけど……

でもそう言うんじゃなくて……」

そう言って恥ずかしさを誤魔化そうとしたけど、
ダリルに

「殿下、こちらを見ていただけませんか?」

そう言われ、僕はゆっくりとダリルの方を向いた。

「殿下、お顔が少し赤いようですがもう中に入られてはいかがですか?

長く夜風に当たっていると、風邪を召されてしまいます」

僕はダリルの顔を見て又月を見ると、

「そうだね、今夜は、もう休もう」

そう言って立上がると、ガゼボを出て城に向かって歩きだした。

「殿下、寝室までお供いたします」

ダリルはそう言うと、僕の後ろから付いて来た。

城の渡り廊下へ差し掛かった時、向かい側からくる人物を見て血が沸騰した。

「殿下、落ち着いて下さい。

まだ公に知られる分けにはいきません」

そうダリルに後ろから囁かれ僕は唇を噛んで両掌をギュッと握りしめた。

「叔父上!

今日は遅いお帰りですね!

何時もご苦労さまです!」

笑顔でそう言うと、

「お~ ジェイド!

今日は抱きしめてはくれないのか?!」

そう言って両腕を広げる叔父に吐き気がした。

「もちろんですよ!

準備は良いですか?!」

そう言うと、僕はいつものように走っていって叔父に飛びついた。

叔父の背中をギュッと握りしめると、
もしここにナイフがあればこのまま背中を刺してやろうかとさえ思えた。

「アーレンハイム公、ご無沙汰いたしております」

そう言ってダリルは深くお辞儀をした。

ダリルの挨拶にハッと我に返り叔父から離れた。

「隣国への留学はどうだ?

将来に役立つことを色々と学んでいるか?」

「え?」

と小さく声が漏れて叔父が僕を見下ろした。

「どうしたのか?

もう忘れたのか?

短期で隣国に留学していたのではないのか?」

叔父のその問にハッとして、

「はい、そうです。

とても勉強になりました!」

そう言うと、

「それはいい経験をしたな。

留学先では何を学んだのかね?」

叔父の問に言葉が詰まった。

「え~っと…… あの……」

まさか自分が隣国に留学していた事になっていたなんて
ちっとも知らなかった。

僕が言葉を濁していると、

「公、申し訳ありませんが失礼しても宜しいでしょうか?

殿下は昨夜から馬車を走らせ、
今朝早く此方にお着きになりましたので、大変疲れていらっしゃいます」

ダリルがそう言う風に助け舟を出してくれた。

「おー、それは済まなかったな。

今日はゆっくりと休んで疲れをいやしなさい。

引き止めて悪かったな」

「いえ、此方こそ無礼を承知で申し上げました。

ご理解頂き真に有難うございます」

ダリルが深々とお辞儀をしそう言い終わると、
叔父はすれ違い間際ダリルの肩に手を置き、

「君も子守で大変だな。

折角護衛騎士団長という地位に居たのにな」

そう言って去って行った。

僕は叔父が去りゆく姿を見届けると、
急に体中が震えだし歯がガチガチと音を立てて鳴り出した。

「ダリルごめん、もしかしたらバレたかもしれない……

僕が上手く説明できなかったからきっと叔父上は変に思ったはずだ」

そう言って唇がブルブルと震えた。

ダリルは僕の肩を抱きしめると、

「殿下、大丈夫ですよ。

そんな事でばれる訳有りません。

さあ、今日はもう遅いので寝室にもどりましょう」

そう言ってダリルは僕を寝室まで誘導した。

寝室のドアの前まで来たときに僕は立ち止まった。

「? 殿下?

早くお入りください」

後ろからそう言うダリルの方を振り向くと、

「ねえ、今日はダリルの部屋で一緒に寝ていい?」

そう訪ねた。

「え?」

とダリルは一瞬びっくりしたような顔をしていたけど、
すぐに笑顔になると、

「狭いのですが」

そう言って僕を自分の部屋へと誘った。

「殿下、お休み前に気持ちを静める効果のあるお茶は如何ですか?

良く眠れると思いますよ?

必要であればすぐに持って参ります」

そういうダリルの手を取ると、

「ううん、大丈夫だから側にいて」

そう言って引き止めた。

ダリルは辺りを見回すと、

「それでは殿下は私のベッドをお使い下さい。

シーツは新しい物です。

私はこちらの椅子で今夜は眠りますので」

そう言ってテーブルの横にあった椅子に手を掛けた。

「ダメ! ここで一緒に寝て」

そう言うとダリルはキョトンとしたようにして僕を見ると、

「殿下、そのベッドでしたら男二人だと狭すぎます」

そう言うので、

「じゃあ、僕のベッドへ行こう!

僕のベッドだったら、男3人でも眠れるから!」

そう言うと、ダリルは僕の寝室では絶対に眠れないと言いはった。

僕はそれが分かっていたので、

「じゃあ僕が椅子で寝る。

それがダメだったら床で寝る」

そう駄々を捏ねたので、
ダリルは仕方なくベッドに入ってきた。

「ほら、僕が詰めたら大丈夫でしょ?!」

そう言うと、ダリルは僕の唇をじっと見つめた。

「ん? 僕の唇がどうかしたの?」

そう言って指で触れたとき、初めてそこが切れている事に気付いた。

「イタッ!」

小さく呻いて指を離すと、

「公にお会いした時に強く噛まれたのですね」

そう言って自分の指で軽く僕の傷をなぞった。

「いっっ」

もう一度小さく呻くと、ダリルはハッとしてその指を離そうとした。

「ううん、離さないで」

そう言ってダリルの腕を掴み指を自分の唇に持ってくると、
そっと唇の上を這わせた。

そんな僕を固まった様にしてダリルは見ていたけど、
僕がダリルの指を甘噛し始めると、
サーッと青くなってその指を引いた。

「申し訳ありません!」

そう言ってダリルが謝ると、

「どうしてダリルが謝るの?

僕がしたい事をやっているだけなのに」

そう言ってもう一度ダリルの手を取った。

そして1つ1つの指にキスをすると、
その掌を僕の頬に当てた。

そしてダリルの事をジッと見つめると、

「怖い……平気なふりしてるけど、
本当はすごく怖いんだ」

そう言ってダリルの掌にキスをすると、

「殿下、自分の命が狙われるとなると、
誰でも恐怖を覚えるものです」

ダリルがそう言って僕の手を握り返すと、
その掌にキスをした。

僕はダリルの頬を両手でしっかりと掴むと、

「違うんだ、確かに生命を狙われるのは怖い。

でも僕は、ダリルが僕を庇って命を落とすかもしれないことがもっと怖いんだ。

それにアーウィンやマグノリアだって!

デューデューでさえも僕は失くしたくないんだ!」

そう言うと、僕はポロポロと涙を流し始めた。

ダリルも僕の頬を両手で掴むと、

「殿下、それは私も同じです。

私は自分の命よりも殿下を失くす事が怖い。

もし殿下の生命が危険に晒されれば、私はどんな命令も無視して殿下の生命を助けます」

そう言うと彼は僕の目を見つめた。

「ダリル……

生きたい!

僕はダリルとずっと一緒に生きたい!」

そう言うと、彼は僕を

「ジェイド…」

そう呼んでキスをした。

「ジェイド、私も貴方と共に生きたい!

ジェイド、私の可愛いジェイド」

そう言いながらダリルは貪る様なキスをしてきた。

それからギュッと拳に力を入れると、
何かを我満するように横を向いた。

「ダリル。 良いよ。我慢しないで…

僕を君に上げる……

だからダリルを僕に頂戴?」

僕がそう言うとダリルは僕の目を見て

「でも…」

そう言って躊躇した。

「僕ね、分かったんだ。

その日というのは突然にやってくるって。

今はこうしてダリルの腕の中にいて幸せだって思っても、
明日ダリルはもう居ないかもしれないって……

だから僕は今を大切にしたいって。

今僕達が居るところはそう言う世界なんだ。

だから僕は今ダリルが欲しい!」

そう言うと、ダリルは少し考えたようにすると、恥ずかしそうに

「あの……ジェイドは男同士でどうやるか知っているのですか?」

そう訪ねた。

「ダリルは知ってるの?」

そう尋ねると、首を左右に振って

「分かりませんが、恐らく私の本能が言っているようにすれば……」

そう言って僕の後ろを触った。

「ヒャッ」

と変な声を出すと、

「恐らく男同士はここを使うと思います。

今すごくジェイドのここに入れたいと思いますので……」

ダリルが更に真っ赤になってそう言うと、
僕は小さく頷いた。





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