龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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アーレンハイムの意図

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急に召されたアーウィンの最高大神官という職は、
彼自身に取っても、凄く違和感があるようだった。

アーウィンもその事に対して、
しきりに何かを主張しようとしていた。

でも焦れば焦るだけ、
言葉が先走りしてしまう。

でも、アーウィンの言わんとしている事は何だかわかるような気がした。

「アーウィンの言ってる事はよく分からないけど、
実は僕も少し変だと思う事があったんだ。

取り敢えずは僕の部屋へ行こう」

取り敢えず取り乱すアーウィンを落ち着かせようとそう言うと、アーウィンは頷いた。

部屋へアーウィンを通すと、
マギーに紅茶とお菓子を持って来てもらった。

アーウィンはお茶を一口啜ると、少しホッとしたのか、

「今日はダリル様は?」

開口一番にそう尋ねた。

「ダリルは今は訓練場だけど、
ダリルに用があるの?」

そう尋ねるとアーウィンは首を振った。

彼は少しソワソワしたようにすると、

「ダリル様は未だジェイドの護衛だよね?」

とおかしな事を尋ね始めた。

「勿論だよ! どうしてそんな事を尋ねるの?」

僕には何故アーウィンが急にそう言うことを尋ねるのか分からなかった。

すると、

「多分僕を最高大神官に勧めたのはアーレンハイム公だ…」

アーウィンが俯いて、真っ青な顔をしてそう言った。

「叔父上が? どうして? 彼は神殿とは関係ないでしょう?」

今まで叔父が神殿の組織に関与した話を聞いた事がない。

いや、もしかしたら僕が知らないだけかも知れない……

「僕、アーレンハイム公が神殿でマリオン様と話してるのを偶然聞いたんだ」

その言葉に心臓がドクンと弾いた。

叔父とマリオンは裏で繋がってる?!

何かが頭に中でひかかった。

僕は唾をゴクリと飲み込むと、

「え? 何を?」

と尋ねた。

「あの日神殿に戻って来て神殿長に挨拶した後廊下を歩いてたら、
アーレンハイム公が見えたから挨拶をしようと思って追いかけたんだ。

丁度柱のところで追いついたから声を掛けようと思ったら誰かと話してたから、
諦めて戻ろうと思ったら、僕の名前が聞こえたから立ち聞きするつもりは無かったけど、
ついつい盗み聞きしてしまって……

ボソボソと内緒話のように話してたからうまく聞き取れなかったけど、
でも僕にはわかる。

公は僕を最高大神官に任命して神殿に閉じ込めておくようにって……

絶対そう言っていた!」

アーウィンは確信のようにしてそう言い切った。

「まさか!」

僕はアーウィンの言ってる事が俄かには信じられなかった。

だってそれが本当だとすると、
叔父は僕たちが思ってるよりも、
僕達の事を知っているという事だ。

「間違いないよ!

だって、僕の魔力を測ってみろって言ってたもん。

その後直ぐだよ?

僕の魔力測定があったのは!

僕を神殿に閉じ込める理由が必要だったんだよ!」

「でも……何故そこまでして…?」

「決まってるよ! 僕をジェイドから引き離すためだよ!

ジェイド、きっともう公にバレてるんだよ!

公はジェイドを孤立させようとしてると思う!

それにマリオンは変だよ!」

アーウィンのそのセリフに更に僕の心臓が早鐘のように鳴り響いた。

「マリオンが変って……どう言う事?」

僕もマリオンには違和感を感じた。

でも何処をどう言うふうに感じたのか言葉で説明出来なかった。

「マリオンはきっと公がつれて来たんだよ。

マリオンが中央管理局の局長になったのは僕達が城を開けてる間だよ?!

それも、公に任命されたって話だよ?」

「ちょっと待って!

何故叔父に神殿の役員を任命する事ができるの?」

「だって王都は公の公爵としての管轄だよ?

彼の一声で何でも決まる場所なんだよ?」

僕はそれを聞いて頭の中が真っ白になった。

「ねえ、マリオンと話していて変だと思わなかった?」

アーウィンのその問いに僕は頷いた。

「でしょう? 彼は絶対聖職者じゃ無いよ!

どちらかと言うと、彼は暗殺者だよ!」

ドキドキとした心臓が止まる思いだった。

アーウィンは僕が感じていた違和感を物の見事に言い当てた。

それでも何処かに否定する気持ちは残っていた。

「暗殺者? アーウィン、そんな滅多な事は言うもんじゃ無いよ!」

僕も変だと思ったけどどう考えても信じ難い事だった。

「だって彼、気配も足音も消して後ろから近づくんだよ?

僕、そんなに気配読むのうまくは無いけど、
少なくとも数ヶ月ダリル様に訓練場されてデューデューに教えを受けて来たんだよ?!

僕だって普通の人か、そうで無いかくらいその人の動きを見ればわかるよ!」

アーウィンは真剣な顔をして僕を説得した。

「アーウィン、もしそれが本当だったらどうしよう……

僕、ヤバいって事だよね?」

急に現実が押し寄せて来たようだった。

「直ぐ直ぐどうこうとかは無いと思うけど、
でも僕、神殿から出られなくなるかも知れない!

僕はジェイドと一緒に居てジェイドを守りたかったのに!」

僕はアーウィンの肩に手を置くと、

「アーウィンの気持ちはすごく嬉しい。

でもアーウィンは神殿から何かできる事があるかも知れない……

だから少し様子を見てみよう。

僕も何か策があるか考えてみる……」

そう言って宥めようとしたけど、

「でも、時間が無かったらどうしたら……」

アーウィンが泣きそうな顔をしてそう言った。

もし全てが急にやって来て、何の策も取る事ができなくても、
何か……何か……そう考えている時に、
一つの事を思い出した。

出来ればこれは使わないほうがいいけど、
もしもの時は、最後の砦になるはずだ。

「そうだ! 僕、アーウィンに教えたかった事がある!」

僕が閃いたようにしてそう言うと、
アーウィンは目を見開いて

「え? 何?」

と尋ねてきた。

僕は呼吸を整えるとゆっくりと息を吐き出し、

「あのね、時巡りをしてる時に大賢者に教えて貰った呪文があるんだ」

そう伝えた。

「呪文?」

「うん、あの時は時間がなくて詳しい説明はしてもらえなかったんだけど、
これはきっと禁断の書にあった、あの時戻しの術だよ!

大賢者が書いたって事だったし、
この呪文はその大賢者直々に教えて貰ったんだ。

だから、もしもの時のためにアーウィンにも教えておく!

あの時の魔力の流れは覚えてるから、
忘れないようにアーウィンの魂に刻むから手を貸して」

そう言うと僕はアーウィンの手を取った。

「いい? 集中してね」

そう言うと、アーウィンはコクリと頷いた。

僕も気を集中させると、
あの時大賢者がしてくれたようにアーウィンに向かって魔力を流し始め
時戻しの術を唱え始めた。

僕はその術が僕の魔力に乗ってアーウィンに流れていくのを感じた。

僕の魂に刻まれたその術は驚くほどすんなりとアーウィンに移行できた。

全てが終わった後、

「ジェイド、これ凄いよ!

頭の中でこの呪文が広がって僕の中に浸透していくのがハッキリ分かったよ!

僕、今だったらこの呪文唱えられるよ!」

アーウィンが興奮したようにしてそう叫んだ。

「今唱えても役に立たないよ。

大賢者も言っていたけど、必要になる時が来たら使うんだよ?

もし僕達が前の時間軸の事を覚えていたら
絶対僕達の運命を変えるように働くんだよ。

もし僕達の誰かがそれを忘れていたら、
誠心誠意を持って何が起きてるのかを説明して!」

そこまで言って、

「あーダメだ、ダメだ!

ダリルとマグノリアもこの話し合いに入らないと!

きっとこの呪文はもしも今世で叔父上に負けた時、
僕達の強い味方になってくれるから!

もし時戻しが起きたらその時は絶対間違えたらダメだから!」

そう言っていると、僕の寝室のドアが勢いよくバーンと開いてマグノリアが泣きながら入って来た。

「ちょっと、ちょっと、マグノリア!

いきなり部屋へ入ってくるのもアレだけど、
何故泣いてるの?!」

泣くと言う事をほとんどしないマグノリアが大泣きで部屋に突撃して来たので
僕とアーウィンは呆気に取られたようにしてマグノリアを見ていた。

マグノリは質問している僕を素通りして勿論アーウィンに抱きつくと、

「たった今告げられたんだけど、
ジェイドと婚約破棄して国に帰されることになったの!」

そう言ってアーウィンに縋り付いて泣き叫んだ。

“ちょっと待ってよ……

それってもう残るは一つしかないよね?”

そう思うと僕はアーウィンを見つめた。

アーウィンも同じ事を思っているみたいで、
お互いに頷き合うと、

「もしかしてダリルも……」

そう言うと、居ても立っても居られなくなった。

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