龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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マグノリアの決意

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その日はマグノリアも朝からソワソワとして居た。

昨夜は遅かったのに朝は陽が登るより早く起きて
東の窓に向かい祈りを捧げて居た。

「マグノリアもう起きたの?」

何時もだったら未だどっぷりと夢の中に居る僕でさえも起きて来た。

彼女は一瞬僕の方を見ると、ニコリと微笑んで又祈り始めた。

僕は彼女がそんなに信仰深いとは知らなかった。

いや、少なくとも僕たちがデューデューの住処で
一緒に住んでいた時はこうでは無かったはずた。

僕は邪魔をしないようそれ以上話しかける事はしなかった。

それでも暫くすると彼女は祈りを終え、
僕の方へ歩み寄ると、

「ハサミある?」

そう尋ねた。

「ハサミだったら机の引き出しにあると思うけど…」

そう言うと、彼女はツカツカと机の前まで行き引き出しを開けると、
その中からハサミを取り出した。

「ハサミなんてどうするの?」

そう言いかけた瞬間、
彼女が自分の髪を鷲掴みにし、
そのハサミでバッサリと髪を短く切った。



「マグノリア! ちょ……何してるの?!」

驚いてそう尋ねると、

「私は変わるの。

もう私は王女でも何でもないの。

私はこれからはただのマグノリアよ」

そう言った彼女の瞳には彼女の決心の色が見えた。

「事が落ち着くまで暫く明るいうちは
デューデューのお家に行くことにするわ。

此処には一日中使用人が出入りするだろうから
此処も昼間は安全じゃないし。

夜は此処に戻ってくるけど、
朝は日が昇る前に出て行こうと思うの。

でも用心の為に男の子の振りをするわ」

そう言うと彼女はクローゼットへ行き、
一番ラフな服装に着替えた。

「これでも平民には見えないわね。

今日は王都へ行って平民の男の子用の服をいくつか買ってくるわ。

そして神殿へ行ってアーウィンに会ってくる」

そう言って彼女は僕の目を見た。

「え? でもマグノリアだってバレたら?!」

「大丈夫よ。ちょっと様子を見るだけ。

アーウィンに会えたらもちろん嬉しいけれど、
もし会えても初めてあった人のように振舞うわ」

そう言うと彼女は窓の所へ行きその戸を開けた。

「そうね、ロープも買わなきゃね」

彼女はクスッと笑ってそう言うと、デューデューの方を振り返り、

「デューデュー、昨夜のシーツでまたお願い。

お昼くらいにまた湖で会いましょう。

その時はエスコートをお願い」

そう言って床に落としてあったシーツを拾った。

窓からシーツを垂らし端をデューデューに渡すと、

「しっかり持っててね」

そう言ってヒラリと窓の桟に跨った。

「マグノリア、気を付けて!」

僕にはその言葉しか掛けてあげる事は出来なかったけど、
彼女は僕を引き寄せると抱きしめて、

「色々とありがとう。

ジェイド、あなたがいなかったら、今の私は無かったわ」

そう言ってシーツをスルスルと降りて行った。

下に降りるとマグノリアは手を挙げてシーツを引き上げるようサインを送った。

そして闇に紛れるように茂みの中に身を隠すと、
何処にいるのか分からなくなってしまった。

僕はシーツを引き上げそのまま床に座り込み壁に背持たれると、
段々と訳の分らない不安が込み上げてきた。

「デューデュー、僕って甘ちゃんなのかな?」

横に立っていたデューデューにそう尋ねた。

「行き成りどうしたのだ?」

デューデューが不思議そうに尋ねた。

「マグノリアの決心と行動が凄く覚悟を持ってるようで、
彼女はこれからの事に備えてるんだって気がして……

それに僕ときたら色々と我がまま言った割には何も変わって無くて、
全然前に進めてなくて……

叔父上の事も何一つわかってないし、
メルデーナの事や、エレノアの事だってどうしたら良いか分からないし……

どこから手を付けたら良いかさえ分からなくて……

何だか、自分が今できる事さえも疎かにしてるみたいで……

マグノリアみたいに覚悟が出来てないと言うか……」

そう弱音を吐くと、

「それは仕方ないのじゃないのか?

実際にお前はまだ子供だ。

少なくともマグノリアは大人でお前よりも生きてきた時間と経験が多い」

そう言われると、ぐうの根も出ないが、
僕は実際には当事者だ。

「そう言えば、君だってこの事件の当事者じゃない!

デューデューはこれからの事、どういう風に思ってるの?」

そう尋ねると、

「私が出来る事はあまりない。

少なくとも、奴らに摑まらないようにする事だな。

摑まりさえしなければ、お前たちに迷惑をかける事はない。

それにきっと奴らは私に新しくできたスキルを知らない」

デューデューにそう言われ、

「確かにそうだよね!

叔父上はデューデューの新しいスキルを知らないよね。

そうか、デューデューは摑まりさえしなければ、
叔父上からの脅威は無いよね。

今は小さくなれるし、透明にもなれるし、
もし叔父上の狙いがデューデューであって龍ではないのであれば、
そのスキルは強い味方だよね!」

僕は自分をなだめた用にその事を自分に向かって言い聞かせた。

でも実際にデューデューの新しいスキルは思ってもいなかった強い味方だ。

僕は床に散らばったマグノリアの髪を見ると、

「そうだ、マグノリアの髪は分からない様にちゃんと処理しておかないといけないね。

そうだね、今僕が出来るのは、マグノリアが見つからないように守って、
そして、もう一度禁断の書を読んでみる事にする。

もしかしたら何か違った事が見つかるかもしれないし。

そして無事に成人の儀を終える事だね。

成人するともっと自分で出来る事が増えるから!」

そう言って立ち上がると、
マグノリアの髪を拾い集め一先ずは分からない様に袋に入れると、
クローゼットの奥に隠した。

窓の外を見ると、もう明るくなり始めていた。

「じゃあ私は森へ行きいつものようにメルデーナの痕跡を探すことにする。

その後はマグノリアと落ち合ってとりあえずは私の隠れ家へ連れて行く事としよう。

また暗くなったら戻ってきて今夜アーウィンを此処へ呼ぼう」

そう言って姿を消すと、
デューデューはバサッと言う羽音を残して窓から飛び去って行った。

それと同時にマギーが何時ものように僕の寝室のドアをノックした。

「殿下、今日は儀式のお衣装の仮縫いが終わったようですので、
試着にいらっしゃます。

朝食が終わりましたら寝室へお戻りくださりますようお願い致します。

朝食はどちらで?」

「これから朝食は少なくとも成人の儀が終わるまでは
父のテラスに運ぶようにしてください」

そう言うと、

「かしこまりました」

そう言ってお辞儀をすると、マギーは部屋を出て行った。

僕は着替え終わると、父のテラスへと向かった。

「父上、おはようございます」

「おージェイド、座りなさい」

何時ものように父は僕を歓迎した。

でも座るなり、

「ジェイド、私には正直に話しなさい。

お前を咎めるつもりはない」

そう言われ、ドキッとした。

「昨夜遅く、お前の部屋には窓からお客人が来たようだな。

誰とは言わないが、きちんと正門から入ってくるように伝えなさい。

城に自由に出入りできるように許可証を出してあげよう。

それで、名前は何としたらいいかな?」

「父上……ご存じでしたか……?」

そう言うと、父はフッと小さく微笑んで朝食に手を付けた。

父が何も言わなかったので、僕もそれ以上は何も聞かず、

「それではモクレンと……」

そう言うと、

「モクレンか……東の大陸ではマグノリアの花をそう呼んでいたようだな」

父は僕を見ずにそう言った。

「良くご存じで……父上も東の大陸のあれこれはご存じでしたか」

「まあ、私も王族の端くれだからな。

禁断の書は隅々まで読んだつもりだ。

あの書には実に興味深い東の大陸について記してある」

すまし顔でそう言った。

「お心遣い感謝いたします。

もしかすると、赤毛の狸もしばらくは窓から出入りすると思いますが、
どうかお見過ごしを」

そう言うと、

「フフ、赤毛か……

分かった。 

赤毛の狸を見かけたら知らんふりをする様伝えておこう」

そう言ってほほ笑んだ。

「それはそうと、何か新しい情報は入りましたか?」

昨日の今日では新しい情報はまだないだろう。

でもこの朝食は僕と父上が
二人だけで此の事にについて話せる貴重な時間だ。

父は首を横に振ると、フ~っと深いため息を吐いた。

「敵もなかなか尻尾を現しませんね。

父上は何か対策はされているのでしょうか?」

今の所、叔父上は父には手を出して無いが、
僕は父上の身の上も心配している。

「あいつの意図が分からないからな。

この国の王になりたいのであれば、
恐らく私を一番に狙うのだろうに、
あいつの狙いはお前とあの龍だからな……

最終目的は魔神の召喚だろうが、
魔神にしても詳しいことは分かってないからな。

恐らくお前たちは魔神の召喚について障害になる
何らかの関与をしているのだろう……

だがあいつは魔神を召喚して一体何をしようとしているのか……

それに召喚しても魔神を従わせることが出来るのか……

果たして魔神は人の言葉を聞くのだろうか……」

そう言って父は目を閉じた。

「まあ、許可証は発行しておくので、
後で取りに来なさい。

モクレンはお前の隣の部屋……アーウィンが使っていた部屋を使うといいだろう。

マギーには騎士見習いが来たとでも言っておこう」

僕は父の気遣いに、

「父上のお気づかいありがとうございます。

それでは私は儀の為の衣装合わせに行ってまいります」

そう言い立ち上がると、

「ジェイド……」

そう言って呼び止められた。

「はい、何でしょうか?」

そう尋ねると、

「いいか? 私は何も見なかった、聞かなかった。

お前達も色々と考えはあるのだろう。

これからの事はちゃんと自分達で責任を持ち行動しなさい。

もし、モクレンの国から何か通達が来たら私は知らぬ存ぜぬで通そう」

僕は深くお辞儀をしてテラスを去ろうとしたけど足を止め、
去り掛けもう一つ父に尋ねた。

「父上……

あの……第3騎士団が帰還の日などはもうわかっているのでしょうか?

僕の成人の儀への参加の可否は……」

そう尋ねると、父は何でも分かっているようにフッと微笑むと、

「ダリルだろう。

心配するな。聖騎士団はすべての騎士の参加が決まっていると聞いた。

少なくともお前の成人の儀までには帰還するはずだ」

そう言われたので僕は又深くお辞儀をして足取り軽くテラスを後にした。



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