龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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居なくなった人達

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僕はカチャカチャとする小さな音で目覚めた。

寝返りを打って腕を伸ばすと、
まだ生温かなシーツを掌で感じた。

”う~ん”

と唸ってまだ開かない目を薄く開けると、
ボヤッとした人物が窓の外を見下ろしながら何かをしていた。

落ちてくる瞼と戦いながら、

”あっ、ダリルだ~”

そうつぶやいて目をカッと開いた。

まだぼやけた視界は見通しが悪く、
目をこすりこすり瞬きを数回ほどもすると、少しずつ眠りから覚醒してきた。

そしてそのボヤッとした人物がダリルだという事をはっきりと認識すると、
窓から下を見下ろす彼の姿に見入った。

ダリルはまだ僕が目を覚ました事に気付いて無さそうだ。

スラリとしたまっすぐな姿勢で立つダリルを見ていると、
段々と昨夜の記憶が呼び覚まされていった。

”そうだ、昨夜はダリルと……”

僕は起き上がりベッドの上に座り込むと、
寝ぐせの着いた髪を手で撫でながら、

「ダリル……もしかして、もう行くの?」

と窓を見下ろしていたダリルに声をかけた。

ダリルは僕の声に気付きクルッと振り返るとほほ笑み、

「殿下、おはようございます。

昨夜は良くお休みになられましたか?」

その問いに、少しギクシャクとしながら、

「あ、うん、ゆっくりと出来たよ。

ダリルは?」

そう尋ねると、

「お体の方はどうですか?

痛いところはございませんか?

昨夜はその……無理をさせてしまいましたので……」

ダリルが少し恥ずかしそうに尋ねた。

ダリルが恥ずかしそうにするので、
僕にもそれが移って顔がカーッと赤く染まった。

昨夜はとても良かった。

久しぶりに会ったから燃え上がったのもあったのかもしれないけど、
初めての時のようなぎこちなさと痛みは無かった。

初めての時は急激に運動をしたように
ガクガクとして力が入らず足腰が立たなくなったけど、
今日は久しぶりだというのに、
足腰が立たなくなると言う事は無かった。

激しさの中でも、ダリルは丁寧に優しく僕を抱いてくれた。

ダリルが未だ僕の中にいるような感覚で、
今でも彼に抱きしめられているような感じがした。

僕はダリルを見つめると、

「僕は大丈夫だよ……」

そう言った後言葉に詰まって、

「本当に行っちゃうんだね……」

既に着替えられたダリルの制服を見ると、
その一言しか言えなくなってしまった。

ほんの数週間の別れなのに、その事を考えると泣きそうになった。

「殿下、数週間なんて直ぐですよ。

別れは惜しいのですが、もう行かなければなりません。

恐らく儀の数日前には戻ってこられると思います。

その時はまた殿下をお尋ね致します」

そう言う彼に、僕はうん、うん、と頷く事しかできなかった。

泣かない様に唇をかんでギュッと握りこぶしを握り絞めると、
ダリルはそっと僕の手を取って、

「殿下、そんなに強く握り絞められると、
爪で掌に傷がついてしまいますよ」

そう言うと彼は床に跪き優しく握り絞めた僕の手の甲にキスをした。

そしてまだ俯いて涙を我慢する僕の頬にそっと手を添えると、
未だベッドに座ったままだった僕にキスをして、

「アーウィンやマグノリア殿下にも宜しくお伝えください」

そう言うと、ダリルは数週間の遠征へと出掛けて行った。

ダリルが遠征に出発して数日後、
早朝からマギーに叩き起こされた。

いつもであれば、まだ寝ている時間だ。

部屋をノックする音に気付き、
僕は一緒に寝ていたデューデューをブランケットで被せると、
ドアを開けた。

そこにはマギーがもう使用人の制服をキリッと着込んでそこに立っていた。

「マギー? こんなに朝早くからどうしたのですか?」

いつも早く起きろと騒ぎ立てるマギーでさえも
こんなに朝早くから僕を起こしに来たりしない。

怪訝に思ったけど、マギーは少し慌てているようだった。

「ジェイド殿下、陛下が呼んでおられます。

寝室におられるそうですので、急いでそちらへいらっしゃるようにとの事です」

僕はまだ半分眠ったようにしていたけど、取り敢えず着替え父の寝室へと向かった。

”何かわかったのだろうか?

もしかして悪い知らせ何だろうか?”

僕は少しドキドキとしながら
部屋のドアをノックすると、父が寝室のドアを開けた。

「父上! 如何されたのですか?!」

彼は憔悴しきったような顔をして、
昨夜は一睡もしていないような成り立ちだった。

父はドア越しに廊下を確認すると、

「入りなさい」

そう言って僕を中へ通した。

「父上、どこかお悪いのですか?

それとも何かあったのですか?」

僕が不安げに尋ねると、

「まあ、ソファーに腰掛けなさい」

そう言われ、ソファーに腰掛けた。

父は少し考えたようにすると、

「実は数日前から隠密たちと連絡が取れない」

そう言い始めた。

「隠密とですか?」

僕にはまだ隠密がどのような習性を持っているのか良く分かっていない。

だから彼らがどれくらいの強さを持ってるのか、
何を得意としているのか、魔法などは使えるのか?
そんな事も全く分かっていなかった。

それで連絡が取れないと聞くと真っ先に思った事があったけど、
それを口に出してストレートに聞くことが出来なかった。

最初は当たり障りなく質問をしていった。

「それって叔父上に囚われた可能性があるという意味ですか?」

そう尋ねると、父は首を振りながら、

「全く分からない」

そう答えた。

あの大賢者でさえも叔父上によって囚われの身だ。

隠密でもそれは十分にあり得る事だった。

でも、父の弟である叔父はあれだけ父上の事を慕っているとみせかせ、
物の見事に裏切ってしまった。

もしかしたら、隠密たちにもそれはあり得るかもしれない。

「その……隠密たちが裏切ったという事は無いのですか?」

そう尋ねると、父は確信したようにして、

「それはあり得ない。 彼らの掟は我々の国が持つ掟よりも厳しいものだ。

彼らの部族は王室に忠誠を誓っている。

もし、その部族を裏切ることになれば、彼らの仲裁は死だ」

そう言い切った。

「それではその部族ごと裏切ったという事は無いのですか?」

「それもあるが可能性は低い」

と、やはり彼らが裏切るという事はまず考えて無さそうだ。

「叔父上の動向も分かりませんし、それは心配ですね」

ぼくも段々と質問する手の内がなくなって来た。

少し沈黙した後、

「私は少し彼らの里について調べに行ってこようと思う」

父が行き成りそう言い始めた。

「彼らの里? ですか?」

「ああ、彼らの部族には隠された地に里がある。

誰も知らなければ誰も入る事が許されない。

恐らくそこへ行けば生きて出てくることもできないだろう」

父のその言葉に僕は言葉を失った。

なんて厳しい掟だろう!

「父上、そのような所へ行くなど、いけません!」

慌ててそう言うと、

「幼い頃に私は一度行った事があるのだ。

お前に紹介した隠密……タキは私にとって、お前で言うところのアーウィンなのだ。

彼故に彼らの里へゆき、暫くそこで生活した事がある。

彼は言わば、私の唯一無二の幼馴染なのだ」

父の気持ちは理解できた。

もしアーウィンが行方不明になったら、
きっと僕も同じことをするだろう。

「それではそのタキ様が行方不明なのですね」

そう言うと父は苦しそうに頭をもたげた。

「騎士達に捜索していただく事は出来ないのですね?」

父は首を振ると、

「誰も隠密の存在を知らない。

それに恐らく私以外は彼らの里を見つける事は出来ない」

父はそう言い切ったので、僕は父を信頼しようと思った。

「分かりました」

そう頷くと、

「私は秘密裏に動かなければならない。

その間城は不在になってしまう」

そう言う父に、

「分かりました。

お城の事はお任せください。

私の儀までは戻って来られるのですよね?」

そう尋ねると、父は

「ああ、心配するな。

儀の執り行われる3日前までには必ず戻ってくる」

そう約束してくれた。

だから僕は安心した。

「それでは何時発たれるのですか?」

「これから準備をして発とうと思う。

宰相のランカスにはもう話は付けてある。

私が留守の間は彼が何時ものように城を回してくれる。

何かあれば彼を頼るのだ」

「ランカス様は信頼できるのですか?」

今の僕には誰を信頼すればいいのか全く区別がつかない。

「心配するな。 あれもまた私の幼馴染だ。

信頼するに当たる」

父のその言葉を信頼することにし、

「分かりました。

お気をつけて行ってください。

無事のお帰りをお待ちして居ます」

そう言って秘密裏に父は隠密達の里を探しに出た。

でも儀の行われる3日前になっても父は帰って来なかった。
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