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翠
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「もう! もう! もう!
デューデューったらいつになったら帰ってくるのかしら?!
赤ちゃんが産まれるまでには帰って来るって言ったくせに!!」
そう言ってマグノリアはベッドから起き上がると、
ベッドのヘッドボードに寄りかかった。
「仕方ないよ。
少し早く産まれちゃったからね」
そう言いながらアーウィンはキッチンから入れたばかりの
ホットミルクを持って来てマグノリアに渡した。
マグノリアは
「ありがとう……」
そう言ってホットミルクを受け取ると、
”フ~ッ、フ~ッ”
と息を吹きかけ、少し冷めるのを待った後、
コクリと一口、口に含んだ。
「あ~ おいしい!」
マグノリアがそう一言いうと、
「フウェ~ ヒィエ…… ビエ~ン」
と赤ちゃんが泣き出した。
「ほら、ほら、マグノリアが大きな声で怒るから!」
アーウィンはテーブルから立ち上がると、
手製のベビーベッドまで歩いて行きその中で愚図る赤ちゃんを手に取った。
「もう起っきちたんでちゅか~?
ママは大っきな声だちてダメでちゅね~
ほ~ら、パパが抱っこちてあげまちゅね~」
と、それはそれは目に入れても痛くないような様で赤ちゃんを抱きあげた。
「もうミルクの時間?」
マグノリアが自分のホットミルクをサイドテーブルに置くと、
「うん、時間から行くとそうだろうね」
アーウィンはそう言って赤ちゃんをマグノリアの腕の中に置いた。
赤ちゃんはマグノリアの腕の中に心地よさそうに収まると、
又スースーと眠り出した。
「あら、あら、また寝ちゃったわね。
きっとママの腕の中が良かったんだよね~」
そう言ってマグノリアは赤ちゃんのプニプニとした頬を指でつつくと、
赤ちゃんは口端を上げて笑った様にした。
「ウン、やっぱりマグノリアは凄いママだね」
アーウィンはそう言ってマグノリアの頬にキスをすると、
「君も相変わらずにママが大好きだね。
僕も、ママも君が今でも大好きでとても大事だよ。
今度こそは絶対君の事、命がけで守るからね」
アーウィンはそう言うと、マグノリアの腕の中で
幸せそうに眠る赤ちゃんの頬をそっとなぞった。
その時窓をコツンコツンと小石がぶつかる様な音がした。
マグノリアとアーウィンは窓を覗き込むと、
「デューデュー!」
と大声を上げた。
二人にデューデューの姿が見えたわけではない。
それでも二人にはそれがデューデューだと分かった。
何故なら、窓が閉まって居るとデューデューはいつも爪で窓をタップした。
小石がコツンコツンとぶつかる様なその音は、
デューデューが爪で窓を叩いている証拠だ。
アーウィンは急いで窓へと駆け寄ると、
バンッと勢いよく窓を開けた。
アーウィンはその頬にファサ~っと懐かしい風を感じると、
「矢張り産まれていたな。
すまない。
ちょっとばかり帝国に寄ってショウに会って来たのだ」
デューデューがそう言いながらス~っと姿を現し窓から入って来た。
「デューデュー、お帰り!
何? 帝国に寄って来たの?
自分ばかりずるいわね!
それよりも、スーやショウ達は如何だった?
彼の龍達には会ったの?」
マグノリアが急ぎ早にそう尋ねると、
デューデューはマグノリアの足元に降り立ち、
翼を繕いながら、
「ああ、ショウの奴は相変わらずだ」
そう言った後少し考えた様な顔をして、
「それに……アイツの龍達はアホばかりだった」
と言った後、彼らの会話を思い出したのか、
段々と怒りが湧いてきた。
「あいつら、思っていた通り私の事を灰色の龍だとバカにしやがった!
一体何様だ!
ショウもショウだ!
龍達には言い聞かせていると言って、
あいつらの会話はちぐはぐだ!
それにあの龍達は私が人と会話ができる事を信じなければ、
私の事を何も出来ぬ出来損ないだと思っていやがる!」
そう言って地団駄を踏んだ。
マグノリアはそんなデューデューをクスッと笑うと、
「あら、そん事、気にしないんじゃなかったの?」
そう言ってデューデューを揶揄った。
デューデューはマグノリアをジトーっと見て
”あ~コホン”
と一つ咳ばらいをすると、
「あ~ だがナナは少し違ったな。
矢張り人間に育てられたせいか?」
そう言って翼を広げた。
「あら、そんなに素敵なお嬢様だったの?
どう? お嫁さんにする気になった?」
マグノリアがそう言ってまた揶揄った様にクスッと笑うと、
「いや、それよりも…」
そう言ってデューデューはマグノリアの腕の中を覗き込んだ。
「おー、矢張りお前か! 暫く振りだな!」
そう言ってデューデューは赤ちゃんの頬を翼で優しく撫でた。
マグノリアが、
「デューデュー! 優しく、優しくね!
間違っても、翼の爪で傷をつけたりしないでよね!」
そう言うと、
「お前、私がこの子に傷をつけるのと思うのか?
全く、早くも親バカになりおって。
私はお前達よりも早くからこの子が帰ってくるのを待ってたんだぞ」
そう言ってデューデューがスンスンと赤ちゃんの匂いを嗅ぐと、
「なに? デューデューはもうずいぶん前から知ってたって事なの?!
それだったら最初から教えてよ!
そうしたら私達だってそんなに悲しまなくてもよかったのに!」
そう言ってマグノリアはデューデューの胸に拳を入れた。
ーーー1週間前ーーー
「アーウィーンー!!!
痛い! 痛い! 痛い! なんで回復魔法が効かないのよ!」
「それ、効いてないんじゃなくて、
治す端から繰り返すからだよ~
それで、痛いのは? 何処? ここ?」
アーウィンが恐る恐るマグノリアの腰に手を当てた
「もっと下! 下!
もっと力入れて! 弱い!」
マグノリアがそう叫ぶと、アーウィンは渾身の力を込めて彼女の腰をグーで押した。
「違~う! そうじゃなくて!
あ~! もう触らないで!」
ヒステリックにベッドの上で叫びながら、
のたうつマグノリアの腰を摩りながらアーウィンが困った顔をした。
「ハハハもう暫くはこの調子が続きますよ」
そう言って産婆が水の入った桶をベッドの横のテーブルに置いた。
「じゃあ、旦那さんは絞った冷たいタオルで奥さんの汗を拭いてあげて下さい」
そう言って固く絞ったタオルをアーウィンに渡すと、
アーウィンは又恐る恐る、チョンチョンとマグノリの額をタオルで拭き始めた。
「マグノリア、もう直ぐだからね、
もう直ぐ僕達の赤ちゃんに会えるからね」
そう言うと、もう既にぐったりとしたマグノリアの手を握った。
マグノリアは肩で浅く息を数回繰り返すと、
ハアハアとした声で
「どなっちゃってごめんなさいね」
そう言って疲れたように微笑んだ。
「マグノリア、良いんだよ!
君が大変なのは分かってるから!
それよりも全然役に立たない僕を許してね」
そう言ってアーウィンがマグノリアの手をギュッと握りしめると、
「フフ、早く会いたいわね。
一体どんな顔をしてるのかしら?
何度も言うけど、貴方に似ていたらきっと可愛いわね」
マグノリアはそう言って微笑んだ。
「ううん、ううん、きっと君に似て優しくて強い子が生まれるよ」
アーウィンがそう言うと、
「ううん、私はアーウィンに似た赤毛の子がいいわ。
きっと…… と……と……ア~ッ、 グググ……
い…… 痛~い!」
そう言って又回って来た陣痛に
マグノリアは手を握っていたアーウィンの手をギュッと握り締めた。
「痛い、痛い、痛い!」
そう言ってマグノリは又苦痛に顔を歪めた。
「あの……マグノリアは大丈夫なのでしょうか?」
段々と強くなる痛みの中息遣いが激しくなったマグノリアに
違った意味で又アーウィンがオロオロとし始めた。
「大丈夫、大丈夫!
逆に奥方は元気な方ですよ。
それだけ叫べれば立派なものです」
そう言って産婆はワハハと笑った。
「そう言えば、デューデューの奴、
赤ちゃん生まれる前に戻って来るって言ったのに来なかったわね!」
マグノリアが苦痛の顔でアーウィンに言うと、
「仕方ないよ、赤ちゃん来るの、予定より少し早くなっちゃったから。
そんなのデューデューに分かるわけないし……でも直ぐに帰って来るよ!」
そう言ってマグノリアを慰めた。
痛みが少し落ち着いて来たマグノリアが思い出したようにして、
「そう言えば陛下について何か分かったのかしら?
元々は彼を探しに行くって家を飛び出したのよね」
そう言うと、
「そうだね……そうだったね……
陛下の居場所は分かったのかな?
せめて少しの手がかりでも見つかってれば……」
アーウィンがそう言って俯くと、
「どれどれ、もうそろそろじゃ無いかね?」
そう言って産婆がマグノリアのお腹をチェックしに来た。
「どれどれ」
産婆がそう言いながらマグノリアの大きなお腹を押し、
赤ちゃんの位置を確認すると、
「おー もうだいぶ降りてきてますね!
それじゃ私は桶いっぱいのお湯を持って来るから押しだしたくなったら遠慮なく押してくださいね!」
そう言うと、部屋を出ていった。
アーウィンはマグノリアを見つめると、
「押してくださいって……え?
それってトイレのように?」
そう言ってプッと笑った。
「もう、私は笑いどころじゃないんだからね!」
マグノリアがそう言って頬を膨らますと、
「ハハハ、でも、もう直ぐ、本当にもうすぐだからね」
アーウィンはそう言って彼女の額の汗を拭った。
マグノリアは顔を歪ませながらも微笑んで、うんうんと頷いた。
産婆が大きな桶をオッチラ、オッチラと抱えて来ると、
マグノリアが息み出した。
「アヒィッ、フ~ッ、ハ~ッ」
シーツを握りしめて顔を真っ赤に息むマグノリアの額を献身的に拭くアーウィンに、
「ほら、頭が見え始めたよ。
パパ、覗いてみるかい?」
そう言って産婆が声をかけた。
頭をフルフルとしてタジタジとしていたアーウィンにマグノリアが、
「アーウィン、ちゃんと見て!
私達の赤ちゃんよ!
今赤ちゃんも頑張ってるの!
アーウィンも笑顔でこの世に迎えてあげて!」
そう言うと、アーウィンは恐る恐る中を覗き込んだ。
「ハァ、ハァ、どう? 赤ちゃん、赤毛?
頭だけでも可愛いでしょう?」
それを覗き込んだアーウィンが言葉を無くし、床にひれ伏して泣き出した。
マグノリアはハアハアと浅く早い息を吐きながら、
「如何? 赤ちゃん、貴方みたいな赤毛? そんなに泣くほど感動しちゃった?」
そう言って微笑むと、アーウィンがマグノリアを見上げた。
「マグノリア…… この子は……」
アーウィンは言葉にすることが出来なかった。
ただ息を詰まらせながら嗚咽した様にマグノリアの隣で泣きまくった。
「何? そんなに感動…… うっ……」
マグノリアが又息み出した。
隣で泣きじゃくるアーウィンを横に、
「頭が出たよ、次の息みで産まれるよ」
産婆がそう叫んだのと同時に赤ちゃんがツルッと滑り出て
「ホエッ……フエッ……フギャ~ ホギャ~」
と産声を上げた。
「オ~ 元気な男の子だ」
産婆はそう言って取り上げた赤ちゃんを清潔な布で丁寧に拭きあげマグノリアの胸に置くと、
赤ちゃんを受け取ろうとして差し出したマグノリアの手が震えはじめた。
マグノリアはワナワナと震える手で赤ちゃんを抱き上げ抱きしめた。
「おめでとう!
なんて立派な銀色の髪に……
綺麗な緑色の瞳をした赤ちゃんなんだ。
これまで何人も赤ちゃんを取り上げてきたが、
こんなに綺麗な赤ちゃんは初めてだ!」
そう言って祝いの言葉を述べる産婆を見上げると、
マグノリアはポロっと大粒の涙をこぼした。
そして抱いた赤ちゃんを覗き込むと、
赤ちゃんはマグノリアの肌に吸い付くように口をモグモグと動かしていた。
マグノリアはその頬を指でそっとなぞると、
赤ちゃんは綺麗な緑色の瞳を大きく開けて、
しっかりとマグノリアの方を見た。
“ジェイド……ジェイド……お帰り……
ずっと待ってた…… ずっと待ってたの!
又、あなたに会える日をずっと待ってた!
戻ってきてくれてありがとう!
私とアーウィンの元へ戻ってきてくれてありがとう!”
そう呟くと、赤ちゃんの頬にポロポロと大粒の涙が滴り落ちた。
「それで? デューデューはいつ、この子がジェイドだって分かったの?」
マグノリアが尋ねると、
「最初からだ。
最初からその子はジェイドの気を持って居た」
デューデューがそう答えると、マグノリアは目を見開いて、
「もう! だったら最初から教えてくれたっていいじゃ無い!
如何して教えてくれなかったのよ!」
マグノリアがそう言ってツンツンすると、
「自分で知った方が百倍嬉しいだろう?」
そう言ってデューデューはニヤッとした。
「そりゃそうだけど……
でもこれって時戻しの術じゃ無いわよね?」
マグノリアが疑問に思って尋ねた。
「違うな。 これは転生の術だ」
デューデューはきっぱりとそう言い切った。
マグノリアは眉間にしわを寄せると、
「それって生まれ変わるって事?」
そう尋ねた。
「早く言えばそうだな」
デューデューがそう言うとマグノリアは考えたようにして、
「じゃあ、普通に考えると、
ダリルも術が発動された時にあそこに居たってことは、
ジェイドみたいに何処かで生まれ変わってるって事よね?」
そう尋ねた。
「まあ、そうなるな」
「それって探し出せるのかしら?
それに私達のことを覚えて居てくれるかしら?」
そう言って赤ちゃんを見下ろすと、
「この子も私達の事を覚えているのかは分からないけど……」
そう言って眉間に皺を寄せた。
「そればかりは後になってみないと分からないな」
デューデューがそう言うと、
「ねえ、私達、絶対、絶対ダリルを見つけてあげましょうね!」
デューデューやアーウィンに向かってそう言った後、
「何があっても、絶対ダリルを見つけてあげるから心配しないでね!」
マグノリアは力強くそう言って赤ちゃんの顔を見た。
「お前達、名はもう決めたのか?」
デューデューが尋ねると、
「翠よ!」
そう言ってマグノリアが答えた。
「翠……?」
「そうよ! 東の言葉でジェイドって意味なの。
ジェイドが前にすごく好きな言葉って教えてくれたの。
だから翠にしようって……
この子はジェイドだけどジェイドじゃない。
ジェイドじゃないけど、ジェイド……
だから翠しかないって……ね? アーウィン?」
マグノリアがアーウィンに微笑むと、
アーウィンが袖で涙を拭いた。
「もう! 又泣いてるの?!」
マグノリアもアーウィンにつられて涙ぐむと、
「だって、ジェイドが僕達を選んで産まれて来てくれたんだよ。
こんな嬉しい事って……」
そう言って又涙を拭いた。
デューデューったらいつになったら帰ってくるのかしら?!
赤ちゃんが産まれるまでには帰って来るって言ったくせに!!」
そう言ってマグノリアはベッドから起き上がると、
ベッドのヘッドボードに寄りかかった。
「仕方ないよ。
少し早く産まれちゃったからね」
そう言いながらアーウィンはキッチンから入れたばかりの
ホットミルクを持って来てマグノリアに渡した。
マグノリアは
「ありがとう……」
そう言ってホットミルクを受け取ると、
”フ~ッ、フ~ッ”
と息を吹きかけ、少し冷めるのを待った後、
コクリと一口、口に含んだ。
「あ~ おいしい!」
マグノリアがそう一言いうと、
「フウェ~ ヒィエ…… ビエ~ン」
と赤ちゃんが泣き出した。
「ほら、ほら、マグノリアが大きな声で怒るから!」
アーウィンはテーブルから立ち上がると、
手製のベビーベッドまで歩いて行きその中で愚図る赤ちゃんを手に取った。
「もう起っきちたんでちゅか~?
ママは大っきな声だちてダメでちゅね~
ほ~ら、パパが抱っこちてあげまちゅね~」
と、それはそれは目に入れても痛くないような様で赤ちゃんを抱きあげた。
「もうミルクの時間?」
マグノリアが自分のホットミルクをサイドテーブルに置くと、
「うん、時間から行くとそうだろうね」
アーウィンはそう言って赤ちゃんをマグノリアの腕の中に置いた。
赤ちゃんはマグノリアの腕の中に心地よさそうに収まると、
又スースーと眠り出した。
「あら、あら、また寝ちゃったわね。
きっとママの腕の中が良かったんだよね~」
そう言ってマグノリアは赤ちゃんのプニプニとした頬を指でつつくと、
赤ちゃんは口端を上げて笑った様にした。
「ウン、やっぱりマグノリアは凄いママだね」
アーウィンはそう言ってマグノリアの頬にキスをすると、
「君も相変わらずにママが大好きだね。
僕も、ママも君が今でも大好きでとても大事だよ。
今度こそは絶対君の事、命がけで守るからね」
アーウィンはそう言うと、マグノリアの腕の中で
幸せそうに眠る赤ちゃんの頬をそっとなぞった。
その時窓をコツンコツンと小石がぶつかる様な音がした。
マグノリアとアーウィンは窓を覗き込むと、
「デューデュー!」
と大声を上げた。
二人にデューデューの姿が見えたわけではない。
それでも二人にはそれがデューデューだと分かった。
何故なら、窓が閉まって居るとデューデューはいつも爪で窓をタップした。
小石がコツンコツンとぶつかる様なその音は、
デューデューが爪で窓を叩いている証拠だ。
アーウィンは急いで窓へと駆け寄ると、
バンッと勢いよく窓を開けた。
アーウィンはその頬にファサ~っと懐かしい風を感じると、
「矢張り産まれていたな。
すまない。
ちょっとばかり帝国に寄ってショウに会って来たのだ」
デューデューがそう言いながらス~っと姿を現し窓から入って来た。
「デューデュー、お帰り!
何? 帝国に寄って来たの?
自分ばかりずるいわね!
それよりも、スーやショウ達は如何だった?
彼の龍達には会ったの?」
マグノリアが急ぎ早にそう尋ねると、
デューデューはマグノリアの足元に降り立ち、
翼を繕いながら、
「ああ、ショウの奴は相変わらずだ」
そう言った後少し考えた様な顔をして、
「それに……アイツの龍達はアホばかりだった」
と言った後、彼らの会話を思い出したのか、
段々と怒りが湧いてきた。
「あいつら、思っていた通り私の事を灰色の龍だとバカにしやがった!
一体何様だ!
ショウもショウだ!
龍達には言い聞かせていると言って、
あいつらの会話はちぐはぐだ!
それにあの龍達は私が人と会話ができる事を信じなければ、
私の事を何も出来ぬ出来損ないだと思っていやがる!」
そう言って地団駄を踏んだ。
マグノリアはそんなデューデューをクスッと笑うと、
「あら、そん事、気にしないんじゃなかったの?」
そう言ってデューデューを揶揄った。
デューデューはマグノリアをジトーっと見て
”あ~コホン”
と一つ咳ばらいをすると、
「あ~ だがナナは少し違ったな。
矢張り人間に育てられたせいか?」
そう言って翼を広げた。
「あら、そんなに素敵なお嬢様だったの?
どう? お嫁さんにする気になった?」
マグノリアがそう言ってまた揶揄った様にクスッと笑うと、
「いや、それよりも…」
そう言ってデューデューはマグノリアの腕の中を覗き込んだ。
「おー、矢張りお前か! 暫く振りだな!」
そう言ってデューデューは赤ちゃんの頬を翼で優しく撫でた。
マグノリアが、
「デューデュー! 優しく、優しくね!
間違っても、翼の爪で傷をつけたりしないでよね!」
そう言うと、
「お前、私がこの子に傷をつけるのと思うのか?
全く、早くも親バカになりおって。
私はお前達よりも早くからこの子が帰ってくるのを待ってたんだぞ」
そう言ってデューデューがスンスンと赤ちゃんの匂いを嗅ぐと、
「なに? デューデューはもうずいぶん前から知ってたって事なの?!
それだったら最初から教えてよ!
そうしたら私達だってそんなに悲しまなくてもよかったのに!」
そう言ってマグノリアはデューデューの胸に拳を入れた。
ーーー1週間前ーーー
「アーウィーンー!!!
痛い! 痛い! 痛い! なんで回復魔法が効かないのよ!」
「それ、効いてないんじゃなくて、
治す端から繰り返すからだよ~
それで、痛いのは? 何処? ここ?」
アーウィンが恐る恐るマグノリアの腰に手を当てた
「もっと下! 下!
もっと力入れて! 弱い!」
マグノリアがそう叫ぶと、アーウィンは渾身の力を込めて彼女の腰をグーで押した。
「違~う! そうじゃなくて!
あ~! もう触らないで!」
ヒステリックにベッドの上で叫びながら、
のたうつマグノリアの腰を摩りながらアーウィンが困った顔をした。
「ハハハもう暫くはこの調子が続きますよ」
そう言って産婆が水の入った桶をベッドの横のテーブルに置いた。
「じゃあ、旦那さんは絞った冷たいタオルで奥さんの汗を拭いてあげて下さい」
そう言って固く絞ったタオルをアーウィンに渡すと、
アーウィンは又恐る恐る、チョンチョンとマグノリの額をタオルで拭き始めた。
「マグノリア、もう直ぐだからね、
もう直ぐ僕達の赤ちゃんに会えるからね」
そう言うと、もう既にぐったりとしたマグノリアの手を握った。
マグノリアは肩で浅く息を数回繰り返すと、
ハアハアとした声で
「どなっちゃってごめんなさいね」
そう言って疲れたように微笑んだ。
「マグノリア、良いんだよ!
君が大変なのは分かってるから!
それよりも全然役に立たない僕を許してね」
そう言ってアーウィンがマグノリアの手をギュッと握りしめると、
「フフ、早く会いたいわね。
一体どんな顔をしてるのかしら?
何度も言うけど、貴方に似ていたらきっと可愛いわね」
マグノリアはそう言って微笑んだ。
「ううん、ううん、きっと君に似て優しくて強い子が生まれるよ」
アーウィンがそう言うと、
「ううん、私はアーウィンに似た赤毛の子がいいわ。
きっと…… と……と……ア~ッ、 グググ……
い…… 痛~い!」
そう言って又回って来た陣痛に
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「痛い、痛い、痛い!」
そう言ってマグノリは又苦痛に顔を歪めた。
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「大丈夫、大丈夫!
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「そう言えば、デューデューの奴、
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マグノリアが苦痛の顔でアーウィンに言うと、
「仕方ないよ、赤ちゃん来るの、予定より少し早くなっちゃったから。
そんなのデューデューに分かるわけないし……でも直ぐに帰って来るよ!」
そう言ってマグノリアを慰めた。
痛みが少し落ち着いて来たマグノリアが思い出したようにして、
「そう言えば陛下について何か分かったのかしら?
元々は彼を探しに行くって家を飛び出したのよね」
そう言うと、
「そうだね……そうだったね……
陛下の居場所は分かったのかな?
せめて少しの手がかりでも見つかってれば……」
アーウィンがそう言って俯くと、
「どれどれ、もうそろそろじゃ無いかね?」
そう言って産婆がマグノリアのお腹をチェックしに来た。
「どれどれ」
産婆がそう言いながらマグノリアの大きなお腹を押し、
赤ちゃんの位置を確認すると、
「おー もうだいぶ降りてきてますね!
それじゃ私は桶いっぱいのお湯を持って来るから押しだしたくなったら遠慮なく押してくださいね!」
そう言うと、部屋を出ていった。
アーウィンはマグノリアを見つめると、
「押してくださいって……え?
それってトイレのように?」
そう言ってプッと笑った。
「もう、私は笑いどころじゃないんだからね!」
マグノリアがそう言って頬を膨らますと、
「ハハハ、でも、もう直ぐ、本当にもうすぐだからね」
アーウィンはそう言って彼女の額の汗を拭った。
マグノリアは顔を歪ませながらも微笑んで、うんうんと頷いた。
産婆が大きな桶をオッチラ、オッチラと抱えて来ると、
マグノリアが息み出した。
「アヒィッ、フ~ッ、ハ~ッ」
シーツを握りしめて顔を真っ赤に息むマグノリアの額を献身的に拭くアーウィンに、
「ほら、頭が見え始めたよ。
パパ、覗いてみるかい?」
そう言って産婆が声をかけた。
頭をフルフルとしてタジタジとしていたアーウィンにマグノリアが、
「アーウィン、ちゃんと見て!
私達の赤ちゃんよ!
今赤ちゃんも頑張ってるの!
アーウィンも笑顔でこの世に迎えてあげて!」
そう言うと、アーウィンは恐る恐る中を覗き込んだ。
「ハァ、ハァ、どう? 赤ちゃん、赤毛?
頭だけでも可愛いでしょう?」
それを覗き込んだアーウィンが言葉を無くし、床にひれ伏して泣き出した。
マグノリアはハアハアと浅く早い息を吐きながら、
「如何? 赤ちゃん、貴方みたいな赤毛? そんなに泣くほど感動しちゃった?」
そう言って微笑むと、アーウィンがマグノリアを見上げた。
「マグノリア…… この子は……」
アーウィンは言葉にすることが出来なかった。
ただ息を詰まらせながら嗚咽した様にマグノリアの隣で泣きまくった。
「何? そんなに感動…… うっ……」
マグノリアが又息み出した。
隣で泣きじゃくるアーウィンを横に、
「頭が出たよ、次の息みで産まれるよ」
産婆がそう叫んだのと同時に赤ちゃんがツルッと滑り出て
「ホエッ……フエッ……フギャ~ ホギャ~」
と産声を上げた。
「オ~ 元気な男の子だ」
産婆はそう言って取り上げた赤ちゃんを清潔な布で丁寧に拭きあげマグノリアの胸に置くと、
赤ちゃんを受け取ろうとして差し出したマグノリアの手が震えはじめた。
マグノリアはワナワナと震える手で赤ちゃんを抱き上げ抱きしめた。
「おめでとう!
なんて立派な銀色の髪に……
綺麗な緑色の瞳をした赤ちゃんなんだ。
これまで何人も赤ちゃんを取り上げてきたが、
こんなに綺麗な赤ちゃんは初めてだ!」
そう言って祝いの言葉を述べる産婆を見上げると、
マグノリアはポロっと大粒の涙をこぼした。
そして抱いた赤ちゃんを覗き込むと、
赤ちゃんはマグノリアの肌に吸い付くように口をモグモグと動かしていた。
マグノリアはその頬を指でそっとなぞると、
赤ちゃんは綺麗な緑色の瞳を大きく開けて、
しっかりとマグノリアの方を見た。
“ジェイド……ジェイド……お帰り……
ずっと待ってた…… ずっと待ってたの!
又、あなたに会える日をずっと待ってた!
戻ってきてくれてありがとう!
私とアーウィンの元へ戻ってきてくれてありがとう!”
そう呟くと、赤ちゃんの頬にポロポロと大粒の涙が滴り落ちた。
「それで? デューデューはいつ、この子がジェイドだって分かったの?」
マグノリアが尋ねると、
「最初からだ。
最初からその子はジェイドの気を持って居た」
デューデューがそう答えると、マグノリアは目を見開いて、
「もう! だったら最初から教えてくれたっていいじゃ無い!
如何して教えてくれなかったのよ!」
マグノリアがそう言ってツンツンすると、
「自分で知った方が百倍嬉しいだろう?」
そう言ってデューデューはニヤッとした。
「そりゃそうだけど……
でもこれって時戻しの術じゃ無いわよね?」
マグノリアが疑問に思って尋ねた。
「違うな。 これは転生の術だ」
デューデューはきっぱりとそう言い切った。
マグノリアは眉間にしわを寄せると、
「それって生まれ変わるって事?」
そう尋ねた。
「早く言えばそうだな」
デューデューがそう言うとマグノリアは考えたようにして、
「じゃあ、普通に考えると、
ダリルも術が発動された時にあそこに居たってことは、
ジェイドみたいに何処かで生まれ変わってるって事よね?」
そう尋ねた。
「まあ、そうなるな」
「それって探し出せるのかしら?
それに私達のことを覚えて居てくれるかしら?」
そう言って赤ちゃんを見下ろすと、
「この子も私達の事を覚えているのかは分からないけど……」
そう言って眉間に皺を寄せた。
「そればかりは後になってみないと分からないな」
デューデューがそう言うと、
「ねえ、私達、絶対、絶対ダリルを見つけてあげましょうね!」
デューデューやアーウィンに向かってそう言った後、
「何があっても、絶対ダリルを見つけてあげるから心配しないでね!」
マグノリアは力強くそう言って赤ちゃんの顔を見た。
「お前達、名はもう決めたのか?」
デューデューが尋ねると、
「翠よ!」
そう言ってマグノリアが答えた。
「翠……?」
「そうよ! 東の言葉でジェイドって意味なの。
ジェイドが前にすごく好きな言葉って教えてくれたの。
だから翠にしようって……
この子はジェイドだけどジェイドじゃない。
ジェイドじゃないけど、ジェイド……
だから翠しかないって……ね? アーウィン?」
マグノリアがアーウィンに微笑むと、
アーウィンが袖で涙を拭いた。
「もう! 又泣いてるの?!」
マグノリアもアーウィンにつられて涙ぐむと、
「だって、ジェイドが僕達を選んで産まれて来てくれたんだよ。
こんな嬉しい事って……」
そう言って又涙を拭いた。
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中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
悪役会計様に転生した俺は、生徒会長に媚び売って生き残る
桜城 寧
BL
処刑された記憶とともに、BLゲームに登場する悪役会計に転生したことに気付く。処刑されないために、チャラ男としての仮面を被り、生徒会長に媚び売ったり、どうにか能力を駆使したりして生きてたら、色々な人に構われる話。
悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
姉の聖女召喚に巻き込まれた無能で不要な弟ですが、ほんものの聖女はどうやら僕らしいです。気付いた時には二人の皇子に完全包囲されていました
彩矢
BL
20年ほど昔に書いたお話しです。いろいろと拙いですが、あたたかく見守っていただければ幸いです。
姉の聖女召喚に巻き込まれたサク。無実の罪を着せられ処刑される寸前第4王子、アルドリック殿下に助け出さる。臣籍降下したアルドリック殿下とともに不毛の辺境の地へと旅立つサク。奇跡をおこし、隣国の第2皇子、セドリック殿下から突然プロポーズされる。
不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
龍は精霊の愛し子を愛でる
林 業
BL
竜人族の騎士団団長サンムーンは人の子を嫁にしている。
その子は精霊に愛されているが、人族からは嫌われた子供だった。
王族の養子として、騎士団長の嫁として今日も楽しく自由に生きていく。
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