龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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旅立ち

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”デューデュー……“

アーウィンはマーケットの中央上空を見上げた。

少し離れたところからでもハッキリとデューデューが空中を舞っている姿が見える。

パニックになり始めたマーケットからは
そこに居た人々が津波の様に流れ出して来た。

“此処にいれば人の波に巻き込まれる!”

そう思ったアーウィンは手綱を引き、
その場から馬車を走らせた。

振り返り上空を見ると、
デューデューはまるで兵達と遊んでいるかの様に
そこをグルグルと舞っていた。

別に街を襲う風でもなく、
高度を変えるわけでもなく、
同じ場所をただグルグルと舞っていた。

“デューデューにはマーケットの状況が分かったのだろうか?

だけど間一髪だった……

あの時デューデューが現れてくれなければ今頃僕は……”

そう思うとアーウィンは、
デューデューを危険な目に合わせてしまった事を済まなく思った。

“そうだ! マグノリアと翠は!

彼らは無事なのだろうか?!

デューデューが此処にいるという事は安全なのだろうけど、
きっとそう長くは続かないはずだ!

早く彼らに元へ戻らなくては!”

アーウィンはそう思うと、
握っていた手綱を緩め鞭打った。

だんだんと速度を上げて行く馬車を他所に、
アーウィンは街の方を振り返り振り返り、

”デューデュー、捕まるなよ“

心の中で何度も何度もそう祈りながら森への道を急いだ。

一方町中では、兵達がデューデューを討伐する為に、
ドンドンデューデューを中心に円陣を組み始めていた。

「弓部隊は弓の用意!

歩兵部隊は民の安全を確保しろ!」

声が掛けられ始めると、
どんどんデューデューの事を認識する者達がで始めた。

「隊長! あれは陛下がおっしゃって居た灰色の龍ではないのですか?!

何故灰色の龍がこんな所に?!

陛下は灰色の龍については何も仰られませんでした!」

「今はそんな事を言っている場合ではない!

龍を前にして我々は殺か殺れるかのどちらかだ!」

「ですが隊長、我々だけであの龍を討つのは無理です!」

そう言った声が隊の中から出始めた。

「グウ……なぜ魔法部隊を連れて来なかったのだ!」

「仕方ありません! 人探しに龍が出るなど規格外です!」

「だが、あれは陛下が探していた龍だ!

あの龍を必ず確保するんだ!」

「ですが隊長、あの龍は同じところをグルグル回るだけで
一向に攻撃をしなければ、降りてくることもしていません!

いったいどうすれば!」

隊員達も、デューデューに戦闘意思が無いことが分かり始めた。

「分からない……

何故あの龍はあんな行動をとっているのか……

これでは矢が届かない!」

「ですが隊長、この龍が此処に居ると言う事は、
探し人もこの辺りに居るのでは?!」

手が届かないデューデューを眺めながら、
隊員達がそういう疑問を投げかけ始めた。

「そうだ、我々は大切な事を見落としていた!

この龍は囮かもしれない!

此処は小さな島だ!

彼らはどこへも逃げ隠れ出来ない!

急いで島全体隅々まで隈なく探すんだ!

この先にある森に中も怠らず探せ!」

ドンドン状況を飲み込み始めた隊員達は、
そも目をアーウィンとマグノリアにも向け始めた。


街中が大騒ぎになって居る中アーウィンは森の隠れ家に辿り着き、
ドアを急いでバーンと開けた。

「マグノリア! 翠! 居るのか?! 二人とも無事か?!

デューデューが! デューデューが!」

アーウィンが大声で呼ぶと、

「アーウィン、分かってるわ!

デューデューがいち早く気付いて転機をきかせてくれたわ。

取り敢えず持てるものだけだけど、もう荷物は全て揃えてあるわ。

これだけあれば十分でしょう。

私達は急いで此処を出なければ!」

そう言ってマグノリアが翠を抱いて寝室から出て来た。

アーウィンはコクリと頷くと、

「それじゃ僕は荷物を馬車に詰めるから、
マグノリアは先に乗り込んでおいて!」

アーウィンがそう言うと、
マグノリアはブランケットで翠を包み御者席の隣に乗り込んだ。

アーウィンは準備された荷物を荷台に詰め込むと、
急いで御者席に着いた。

アーウィンの準備ができると、

「デューデューとは初めて此処へ来た時の浜辺で落ち合う予定よ。

森の反対側から海辺へ出て海岸沿いを行けば人目につかないってデューデューが言ってたわ。

デューデューが兵達を惹きつけて居る間に急ぎましょう」

マグノリアがそう言うや否やアーウィンは馬車を
いつも行くマーケットとは反対方向へ向けて走り出させた。

「こっちは全然来た事無かったから知らなかったけど、
割と鬱蒼としてるわね。

昼間でも薄暗い位ね……

何だかデューデューの隠れ家に住んでた時の密林を思い出すわね」

マグノリアはそう言うと辺りを見回した。

道もかろうじて馬車が一台通れるくらいの幅しかない。

「きっとこっちの方へ来る人っていないんでしょうね……

この道筋もショウが付けたものかも知れないわね」

マグノリアはそう言うと、腕の中で眠る翠に目を落とした。

「デューデュー大丈夫かしら?」

スウスウ眠る翠の顔を見て居ると、
ドンドンデューデューの事が心配になって来た。

アーウィンはマグノリアの方をチラッとみると、

「デューデューだったらきっと大丈夫だよ。

マーケットでも余裕な顔をして悠々と飛んでたから」

そう言って先を見つめた。

馬の蹄の音が響いて、
幌に当たるカサカサと言うハズレの音だけがあたりに響いた。

暫くそのままで進んで行くと、

「波の音がする!」

アーウィンがそう言うと、マグノリアも耳を澄ました。

先の方からザザーン、バシャーンと言う波が岩に打ち付ける様な音がして来た。

「本当だ……波の音がするわ……

じゃあ、海岸は近いのね。

気をつけてね、デューデューの話だと、
先は絶壁になってるらしいわよ」

そう言って居るうちに海岸沿いの崖っぷちに出会した。

「此処で間違いないわね。

この崖っぷちに沿って行くと下へ降りる小道があるはずよ。

マグノリアがデューデューに言われた事を説明して居ると、
直ぐに目の前がひらけて下へと緩やかに降りる小道が見えて来た。

その小道を見て二人は絶句した。

「細い……これ……馬車の通るのかな?

デューデュー、幅を間違って覚えたりしてないよね?!

外したら下へ真っ逆さまだよ」

アーウィンが自信無さそうに崖から下を見下ろした。

マグノリアはゴクリと唾を飲み込むと身震いをして、

「大丈夫よ、この子はショウの馬よ。

きっとそこらの馬とは違うわよ!」

気を奮い立たせてそう言うと、
馬の尻を手のひらでペチペチと叩いて、

「貴方、ショウの自慢の馬でしょう? 

ちょっと道は狭いけど頼むわよ!」

そう言うと、馬車は“任せろ”とでも言うよに、

「ヒヒーン!」

と嘶くと、緩やかなスロープへと入って行った。

小岩がカランカランと音を立てて崖を落ちて行く様は
聞いて居て生きた心地がしなかったが、
その崖は割と素早くおり切ることが出来た。

「なんだ、割と簡単だったわね。

さすがショウの馬ね!

貴方、良くやったわよ!

今夜の宿に着いたら奮発して人参丸ごとよ!」

そうマグノリアが言うと、馬は

「ブヒヒーン」

と言って首をクルクルと回した。

「ほら! 立派な馬よね!

私が言う様に大丈夫だったでしょ!」

そう言ってアーウィンの方を見ると、
アーウィンは手綱を持ったまま引き攣った様に固まっていた。

「アーウィン、アーウィンってば!」

マグノリアに何度も呼ばれて、
ようやくアーウィンはマグノリアの方を見た。

「怖かった~、怖かったよ~」

「うん、怖かったよね、でも此処まで来ればもう大丈夫でしょ?

私達が初めて来た時の海岸は少し向こうだけど、
此処でデューデューを待って居ましょう。

此処だと人目につかずに待って居られるわ」

マグノリア達がそう言っている頃、
町中では急に姿が消えたデューデューに大騒ぎになって居た。

島での出来事をいち早く察知したアーレンハイムの魔法使いにより、
アーレンハイムは一足遅くデューデューが姿を消したのと同時に、
魔法陣を通して島入りをした。



「何故龍が現れたというのに誰もその行方を掴めなかったのだ!

あの灰色の龍が出たという事は奴らが近くにいたという証拠だ!

兵達は一体何をしていたのだ! 私のこれまで説明を聞いていなかったのか?!」

当たり散らすアーレンハイムに、

「それが陛下、龍を捉えようと兵隊が弓を射ていました所、
龍の姿がプッツリと消えていなくなったのです!

それはもう最初からそこにはいなくてまるで幻を見ていた様に……

実際にあの龍はそに場に現れただけで街を破壊もしなければ、
街の住民を襲うということすらしませんでした。

それどころか私達兵にも襲ってくる事はありませんでした」

兵がそう報告をすると、

「龍が消えたなどと何を夢見事を言っているのだ!

あれだけ大きな身体をした龍が
忽然と消えるはずはないだろう!

お前達の目は節穴か?!

お前達は周りもよく観察したのか?!

龍と一緒に怪しい者はいなかったのか?!

そばに魔法使いがいたという事はなかったのか?!

全く、お前達は揃いも揃って幻覚術にでも罹ったのか!」

そう怒鳴り散らしてさらに機嫌が悪くなった。

「いえ、その様な情報はどこからも……」

「では何故龍の姿が忽然と消えたのだ!

誰もその龍が飛び去った姿を見た者は居らぬのか!」

「いえ、本当に煙の様にその場から消えてのです!」

”消えた……一体どういう事だ……

まさかあの龍は姿が消せるのか?!

姿を消す龍など今まで聞いたこともないぞ……

もしかしてあの龍は魔術が使えるのか?!

もしかしてあの時に逃げ切れたのはそれが原因か?!“

アーレンハイムはぶつぶつと独り言の様に繰り返した。



「そういえば、アーウィンとマグノリアはどうした?

あの龍の近くでそれらしき人物を見た者は居らんのか!」


「陛下、島の住民達からの情報によりますと、
神官とマグノリア殿下は帝国より来て居た
ショウと呼ばれて居た者と懇意にして居た様です。

そのショウという人物も島の民を娶った後帝国へ帰った様ですが、
その後神官とマグノリア殿下の姿もプッツリと島から消えた模様です。

島の者は帝国出身のショウと呼ばれたも者と親しくしていた為、
恐らく共に帝国へ渡ったのではないかと……」

アーレンハイムはその報告にワナワナと震えると、

「帝国に入られると厄介だ!

あの国へ入られると介入が出来ない。

それにあの龍も必ず奴らと共にいるはずだ!

何が何としても帝国へ入られる前に龍共々捉えるのだ!

それが分かったら地図をもってこい!

奴らが通りそうな道を割り出す!」

アーレンハイムはそう怒鳴ると、
ドカッと椅子に座り込んだ。

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