龍の寵愛を受けし者達

樹木緑

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此処は夢の中

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ダリルの唇が近付いた瞬間、

“ひゃー”

と小さく叫んで彼を突き飛ばした。

「あ、ごめん! 突き飛ばすつもりじゃ無かったんだ」

慌てて返すと、

「ほら! ジェイドがダリルを突き飛ばすなんて、
やっぱり変よ」

そう言ってマグノリアが僕の顔に近づいて
目線を合わせると、
僕の目をじっと見つめた。

「う~ん、変なのは変なんだけど、
やっぱりジェイドなのよね~

一体どうしちゃったのかしら?」

そう言って肩を窄めた。

「殿下、申し訳ありません。

殿下がどう言った反応を示すのか試してみようと言うことになって……」

ダリルが申し訳なさそうにそう言うと、
僕に向かって一礼した。

「僕に事を試すって……」

眉間に皺を寄せて皆を見ると、

「えーだってジェイド変なんだもん。

貴方ダリルが自分の恋人だってちゃんと覚えてる?」

マグノリアの唐突な返答に、

「えっ? えっ?  えーーー!!!」

と僕は驚いて思わず叫んでしまった。

皆んなが僕に視線を向けると、
マグノリアが

「う~ん、やっぱりジェイドの記憶が少しおかしくなったみたいだけど、
皆んなはどう思う?」

そう言って僕の顔を覗き込んだ。

“ヒ~ マグノリアってもしかすると
僕の母さんかも知れないんだよな?!”

そう思うと、自然と体を後ろに逸らした。

マグノリアは僕の頬を両手で掴むと、
グイッと自分の方へ引き寄せた。

「ねえ、あなたそう言えば、
自分の事を翠って言ってたわよね?!

それってどう言う意味?

何かが違うのよね~

貴方、一体私達に何を隠してるの?!

さあ、隠し事なんてしないで、全て曝け出しなさい!」

そう言って僕の頬をグニュグニュと揉んだ。

「ちょ、やめて!

僕だって状況を把握してないんだから説明のしようがないよ!」

そう言ってチラッとダリルの方を見た。

彼は控えめにマグノリアの後ろから
静かに僕の事を見つめていた。

「マグノリア殿下、ジェイド殿下のお顔が……」

ダリルがマグノリアの声を掛けると、

「あら嫌だ、ジェイドのほっぺが真っ赤になっちゃたわね」

そう言って僕の頬を今度は撫で始めた。

「ちょっとやめてよ、
もう子供じゃないんだから!」

そう言ってマグノリアの手を払うと、

「あら、可愛くないわね!

反抗期かしら?!」

そう言って僕の頭をポンと叩いた後、
やっとその手を離してくれた。

“可愛くない?

ほんと、どの口が言ってるのやら、
君が本当に僕の母さんだったら、
僕はあなたにそっくりだと思うんだけど?!”

心の中でそう言ってやった。

マグノリアは一呼吸置くと、

「で? 翠君だっけ? 貴方は一体誰なの?

何故ジェイドの体の中にいるの?

ジェイドを何処へやったの?!」

そう言って僕を見つめた。

僕はチラッとダリルを見ると、

「その前に尋ねたいことがあるんだけど」

そう言うと、マグノリアは

「ハア~ 分かったわ」

そう言ってため息をついた。

「さっきダリルとジェイドは恋人同士だって言ったよね?

それは本当の事?

それともそれも僕を試すために言った事?」

僕が尋ねると、

「それは本当の事よ。

貴方達は紆余曲折を乗り越えてここまで来たのよ。

それなのに…… ねえ、ジェイドはどこ?!」

そう言ってマグノリアが僕を睨んだ様な気がしたけど、
僕はそっちのけでダリルを見ていた。

“うわ~~っ!!!

この人が僕の恋人?! 

いや、違うか?! このジェイドって子の恋人だよな?!

こんなカッコいい恋人が居るなんて羨ましいな……

よく見れば父さんよりカッコ良いし、
何たって父さんより若い!“

そう思って今度は父さんを見た。

”………

この父さんって別人みたいだな……

さっきからクッキー食べてばかりだし、威厳無しだし、
なんか小汚くない?

それにしても何故父さんはこんなに小さいんだろう?“

未だテーブルの上でバリバリとクッキーを食べている姿を見ると、
今の父さんとは到底結び付かなかった。

でも、これは間違いなく父さんだ。

息子の僕が間違うはずがない。

”そう言えば父さん、僕には女の子と結婚って……

如何にも僕には女の子しか選択技がない様な感じで言ってたくせに!

何だよ、ジェイドとダリルが恋人同士なの知ってるじゃないか!

何故僕には男の人と結婚するって選択技を教えてくれなかったんだ?!“

そう思って父さんを睨んだ。

彼はクッキーのカスをボロボロと落としながら、

”???“

とした様な目で僕を見た。

僕は

”ハ~“

っとため息を吐くと、

”何でコレが人になると僕はときめくんだろう?!

それにしても父さん汚いな~

僕にはあれだけ綺麗に食べろって言ってたくせに!“

そう思った瞬間、

”あれ?“

っと思った。

”そう言えば、
此処って僕の夢の中だよな?

夢って結構僕が作り出した光景が多いよな?

そうしたらこの人達って僕の夢の中にだけ存在する人達?

何らかの形で僕が作り上げてしまった?

でも、何故この人達だったんだろう?

それにこの父さんも僕が作った幻?“

段々と此処での出来事があやふやになって来た。

僕が悶々と考え事をしていると、

「ウヲッホン!」

と隣でマグノリアが咳払いをした。

僕が

”へっ?“

とした様に彼女を見ると、

「で? 貴方の事はいつ話してくれるの?」

そう言いながら、また僕の顔を覗き込んだ。

僕はマグノリアを押しやると、

「心配しなくても大丈夫さ。

君達は実際には此処に存在してないんだから!

これはね、僕が作り出した夢なの!

早く言えば、此処は僕の夢の中なの!」

そう言うとマグノリは呆れた様な顔をして僕を見た。

そして後ろを振り返ると、
後ろで静かに立っていたダリルとアーウィンを見て、

「貴方達、ちょっとこっちに来て!」

そう言って二人の手を引いてドアの外へ連れて行った。

”変なの。

何しに出て行ったんだろう?

マグノリアが言えって言ったから正直に話したのに、
何故何も言わずに出て行ったんだろう?“

そう思ってただ一人残された父さんに目をやった。

彼は相変わらずクッキーを頬張っていて、
彼の前にはこぼれ落ちたクッキーのカスが山の様に盛り上がっていて、
寄せ集めて固めればもう一箱分のクッキーが出来そうだった。

僕が

「ねえ、父さん?」

と声を掛けると彼は上目遣いに僕を見て、

「もしかして私の事を呼んでるのか?」

とそう尋ねた。

「当たり前だよ。 此処には父さんしかいないでしょ?!」

そう言うと、

「何故お前は私を父さんと呼ぶのだ?」

そう尋ねるので、

「じゃあ、僕も尋ねるけど、
何故父さんは人間の姿でクッキーを食べないの?

調理をしたものは人の姿になった時の方が上手いって言ってたじゃない!」

そう言うと、彼は眉を寄せた。

そんな彼の様子を見ていた時、
ハッと閃いた。

「そっか、分かった!

父さんは僕の夢の中では人の姿になれないんだ!

うん、きっとそうだ。

だってこれ、夢だもんね」

そう言って納得していると、

「ちょっと待った!

私が人の姿になるってそれはどう言う意味だ?

私はこれまで人の姿になった事は無いのだが、
何故お前は私が人の姿になれると言うのだ?!」

そう言って取ったばかりのクッキーを又テーブルに戻した。

彼はバサっと飛んで来て僕のベッドの上に着地すると、
トコトコと僕の所まで歩いて来て膝の上に乗った。

そして僕をじっと見ると、

「お前は、此処はお前の夢の中だと言ったが、
目が覚めると、そこに私は居るのか?

そこで私は一体どう言った人物になっているのだ?」

そう尋ねながらそこに座り込んだ。

「え? 僕と居る父さんがどう言う人物かって?」

僕はそう繰り返してうーんと唸ると、

「父さんはね、大きな灰色の龍なんだよ。

そうだね、今の父さんが大きくなったって感じかな?

それでね、父さんは人間の姿になれるけど、
人の姿になるのは疲れるからと言って大抵は龍の姿をしてるんだ。

でも料理をしたり、ご飯を食べるときは人の姿なんだ。

生肉よりも、火を通した料理が父さんは好きなんだって。

でも、人の姿の時に食べられる量は少なすぎるから、
結局は狩りに行って沢山生肉を食べてるみたいだけどね」

そう言うと、

「そうか、お前の世界では私は人になれるのだな。

確かに肉よりはクッキーのほうが美味いな……

だが、何故私はお前の父親なのだ?」

そう尋ねて来た。

「それはね、父さんが僕に話してくれた事だけど、
僕がまだ赤ちゃんだった時に、
僕の両親から僕を育ててくれって頼まれたみたい。

だからずっと僕を育ててくれたのは父さんなんだ」

「お前の両親は何故私にお前を育てる様言ったのだ?」

「え~ 父さんが言ったんでしょう?

僕の両親は殺されたって」

そう言うと、

「お前の両親の名は何とう言う?」

そう尋ねて来た。

「え~ 知らな~い~

父さん、教えてくれなかったでしょう。

まあ、僕も聞いてないんだけど、
でも僕の母さんは何処かの小国の姫で、
本当の父さんはサンクホルムって国の最高大神官だって言ってたよ?

それよりもさ、ジェイドって誰なの?

何故僕はジェイドになってるの?

僕は本当にジェイドじゃなく、翠って言うんだよ。

本当にみんなの事知らないし、
父さんも僕の知ってる父さんとは少し違うんだけど?

これが夢だから?」

そう言うと父さんは少し黙り込んだ。

「父さん?」

そう呼ぶと、

「ああ、すまない。

少し考え事をしていたのだが、
お前はこれはお前の夢の中だと言ってたよな?」

父さんがそう言うと、僕はコクンと頷いた。

「実を言うとな、これはお前の夢では無いのだ。

まあ、夢の中かもしれないが、私達は実在する人物だ」

父さんがそう言うので、僕は目を見開いた。

「え? 実在する人物ってどう言う事?

此れは僕の夢の中では無いって事?!

あの人達は僕が夢の中で作り出した人たちでは無いの?」

そう尋ねると、

「いや、違うな。

お前……いや、まずジェイドだが、
ジェイドはこのサンクホルムの王子で、
ダリルはジェイドの護衛騎士だ。

マグノリアはジェイドの婚約者でソレル王国という此処よりは小さな国の姫だ。

アーウィンは神官でジェイド付きの浄化師兼回復師だ。

お前がサンクホルムという国を調べると、
その事実が出てくるはずだ。

それにもし私が本当にお前の目が覚めた時の父であると言うのであれば、
恐らくお前が見ているこの夢はお前が産まれる前の出来事だ。

不思議な事だが、私達はお前の夢に呼ばれたのだろう……

何故お前がジェイドになっているのかは分からないがな」

「え? 僕の夢に呼ばれたって……そんな事が可能なの?!」

「まあ、そんなことが起きても不思議では無いな。

だがお前が此処へ来る理由は何だ?

私達をお前の夢に呼ぶ理由は何だ?

何か理由があるのか?」

そう言って父さんは一人でブツブツと言い始めた。

「そう言えばお前の母親は小国の姫で
父親はサンクホルムの最高神官だと言っていたな」

そう言うのでコクコクと頷いた。

“と言う事はこれからアーウィンの奴が最高神官になると言うことか?

とすると……翠にとっては私達は過去の者となるのか?!”

父さんはそう呟くと、

「お前の両親は殺されたと言ってたな」

そう言うので又コクコクと頷いた。

「誰に殺されたか知ってるのか?」

僕は首を振りながら、

「父さんは奴らって言ってたけど、
僕には誰の事だかさっぱり……」

そう言うと、

「目が覚めたお前の所にはダリルは居ないんだよな」

そう尋ねるので、

コクコクと頷いた。

「会ったこともないし、
その名前を父さんから聞いたこともないよ!

でも……あれ? その名前には聞き覚えがあった様な……

いつそう思ったんだったっけ?」

そう言っていると、父さんは

「分かった。

この事はアイツらには言うんじゃ無いぞ」

そう言って僕の膝の上から飛び立つと、
又テーブルの上に飛び乗りクッキーを食べ始めた。

「ねえ、アイツらってマグノリア達の事?」

そう尋ねると、

「お前は自分の事を翠だと言っていたが、
恐らくお前は翠であってジェイドだ」

そう言うので、

「それどう言う意味?」

そう尋ねると、

「そうだな…

夢から覚めて此処での出来事を覚えていれば、
直ぐに理解する時が来るだろう」

そう返ってきた。

「え? それじゃ全然意味わかんないんだけど?

もし覚えていなかったらどうなるの?!」

そう尋ねると、

「此処での事を覚えて居なくても、いつかは分かる時が来るだろう。

まあ、慌てずに自分のペースで行くんだ」

そう言ってクッキーを口に放り投げた。


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